徒然好きなもの

ドラマの感想など

【ネタバレ】岸壁の母 第二十六章「生きて帰って!」その一

TBS 1977年12月12日

 

あらすじ

新二(大和田獏)はいせ(市原悦子)の知らぬ間に満州の軍需工場で働く手続きをとっていた。昭和十九年のサイパン島陥落後は空襲がいっそう激しくなり、いせの生きがいは新二の手紙だけとなる。

岸壁の母

岸壁の母

2024.7.29 BS松竹東急録画。

peachredrum.hateblo.jp

冒頭はお決まりのシーン。青白画像。船が港に帰ってくる。

いせ「石頭(せきとう)教育、13981(いちさんきゅうはちいち)部隊、荒木連隊、第1大隊、第6中隊の端野新二(はしのしんじ)を知りませんか? 端野新二知りませんか? 端野新二を知りませんか? 端野…新二~!」

 

端野いせ:市原悦子…字幕黄色。

*

端野新二:大和田獏…字幕緑。

*

水野のぶ子:小畑あや

*

新二(少年時代):中野健

新二(幼年時代):渡辺康司

*

栄次:市原清彦

松江:三戸部スエ

*

音楽:木下忠司

*

脚本:高岡尚平

   秋田佐知子

*

監督:高橋繁男

 

<後にも先にもあんなに驚いたことはありませんでした。私になんの相談もなしに大学をやめる。その上に…>

 

新二「ちょっと待ってくれよ。俺、満州行くから」

いせ「だって今、分かったって…」

新二「決心は変わらないから」2階へ。

いせ「新二! 満州…」

 

2階へ上がったいせに封筒を突きつける新二。「これ。満州へ渡る手続きの申請書類だ。向こうの開拓会社に先輩が勤めてる。その会社に入れてもらおうと思うんだ」

 

これってやっぱり満蒙開拓青少年義勇軍なのかな? ただ、wiki等見ると、実際の新二さんは満州へ渡ったのは本当だけど、予備士官学校へ行ったらしい。

 

いせ「なんのために?」

新二「どっちみちあと半年もしないうちに徴兵検査を受けて軍隊に行かなきゃならない。今、満州へ行けば向こうで現地召集を受けられる」

いせ「だから、なんのためにそんな…」

新二「大陸で働きたいんだよ、俺は。満州は日本の生命線だ。俺たち若者の力を必要としてる。徴兵まで精いっぱい満州建設のために働いて兵隊になったら満州の守りのために」

いせ「母さんは、お前が必要じゃないっていうの?」

 

新二「どうせあと半年しか…」

いせ「半年しかないから、一緒に暮らせるのが半年しかないから、その一日一日が大事なんだよ」

新二「分かってくれよ、母さん。もう一日だって、ぼんやり徴兵検査まで待ってるなんて耐えられないんだ」

いせ「新二」

新二「満州、行かしてくれよ」

いせ「私はイヤだよ」

 

新二「ホント言うと、母さんたちの気持ちを考えて軍隊を志願するのだけは、やめたんだ。でも、もし俺の気持ちが分かってくれないんだったら志願する」

いせ「母さんを脅迫するの?」

新二「脅迫なんかじゃないよ」

いせ「そうじゃないか。そんなに母さんを独りぼっちにしたいの? お前って子は」

新二「違うよ」

いせ「違わない、違わない」

 

のぶ子「新二さん、考え直して。ねっ?」

背を向けたままの新二。

 

いせと1階へ降りてきたのぶ子。

いせ「あんまり遅くなると、おうちで心配するから」

のぶ子「はい」

いせ「私がもう一度話してみるから大丈夫」

のぶ子「はい」

いせ「必ず考え直させる」

のぶ子「はい」

いせ「気をつけてね」

のぶ子「はい」頭を下げて帰っていった。

 

新二の部屋

いせ「のぶ子さん、心配して帰ったよ。かわいそうに。お前の気持ちは分かるけど、若いんだよ、焦ってるんだよ。こんな大きくなって…2人で東京へ出てきたときのことを考えると夢みたいだよ。お前は6つで。苦しかった。よくあのとき死なずに…」

新二「やめてくれよ! ひきょうだよ、母さん。言われなくたって忘れたことなんてないさ。母さんが俺のために再婚もしないで苦労してきたこと、いつだって俺は…」

いせ「そんなこと言ってるんじゃないよ、ごめん。だったら、お前…」

 

新二「それとこれとは違うんだよ! 今の俺のじっとしていられない気持ちとは別のことだろ? 誰だって、肉親や好きな人と別れたいヤツなんていないさ。でもね、石田さんだって…あの石田さんが特攻を志願して死んでったじゃないか」

いせ「とんでもない。私はイヤだよ。石田さんはどんなに立派か知らないけど、もし、お前がそんな…」

新二「だから、分からないっつうんだよ、女には」

いせ「男、男って偉そうに言わないでおくれ。その男は、みんな誰から生まれてきたの!」

 

新二「父さんがいてくれたらな。父さんなら分かってくれたろうよ」

いせ「なんてことを言うの? 母さんに。お前、父さんのことをどれほど知ってるの? そりゃ、お前の知ってる父さんはいい父さんだろ。一度、お前に話しておきたいと思ってたけど、母さんがどんな思いしてきたか」

 

回想シーン

栄次<<飲ませろ!>>ちゃぶ台返し

いせは割れた食器を片づける。

栄次<<こら!>>いせに馬乗りになって殴りつける。

いせ<<イヤだ…ああっ>>

 

カメラから見えないふすまの陰に移動したいせと栄次

<<物が倒れる音>>

<<殴る音>>

 

再びカメラの前に引っ張り出されて殴られるいせ。寝ている新二の布団へ逃げ、新二を抱く。新二が泣き、いせは新二を抱っこして、雪の降る外へ。

 

家の中で再び酒を飲んでいる栄次。

peachredrum.hateblo.jp

今回で二度目の登場の栄次。たまたま市原悦子さんと名字が同じで同い年の市原清彦さんは俳優座11期で市原悦子さんのほうが先輩。

 

<お酒が入ると、父さんは人が変わった。おばあちゃんがいないとき、特にひどかった。父さん、新二だけは、よくかわいがったよ。だから、あんたのために母さん、辛抱した。どんなに殴られても蹴られても…おばあちゃんは母さんのホントの母親じゃないし、泣き言一つ言えなくて…父さんと結婚したのも、おばあちゃんから無理やり一緒にさせられたんだよ>

 

おばあちゃんとは、いせの姑ではなく、血のつながらない母…父の再婚相手??

 

戸が開く音がして、松江が入ってきた。<<ああ、寒い寒い>>

 

雪を払いながら家に入ってきた松江。<<お土産買ってきたよ。はい。おとなしくしてた?>>お菓子を渡す。せんべいかクッキーか丸い物。

いせ<<よかったね、新ちゃん>>

 

いせの顔の左目の周りは痛々しいアザになっていた。いせを見てギョッとする松江。<<どうしたの? その顔は。栄次さんね? 話してごらん、黙ってないで>>

いせ<<酒の肴が気に入らないって…いつものかんしゃく起こして>>

松江<<あきれた。そんなことする人とは思わなかった。寒いときだからもうよそへ手伝いに行くのは、よすよ。心配で新二と2人にしておけないもんね。ねっ、新ちゃん。まったく女ばっかりだと思って>>

いせ<<お母さん、あの人には黙っててください。ホントにお願いします。お母さんのいないとき、何をされるか分かりませんから、黙っててもらったほうがいいんです>>

松江<<だって、お前…>>

いせ<<いいえ、ホントに。お願いします>>

 

しかし、栄次のいるとき…

松江<<栄次さん、話があります。何が不足があって、あんた…いせの顔、見てごらん。ひどいじゃないの。いせはどこも行かず、一生懸命、仕立物してるじゃない。なんのため? あんたの酒代がかさむからでしょ>>

うつむく栄次。

松江<<このごろは月給も全部渡したこともないようだし、少しひどすぎやしない? 私は死んだ主人からこんなことされたことありませんでしたよ。栄次さん、これからは、お酒を控えてください。お酒を飲みすぎるから、こんなことになるんですよ。他人にこんなことが知れてごらん。物笑いの種ですよ。今後、こんなことのないようにお願いしますよ>>

 

台所にいたいせはがっくりと肩を落とす。

peachredrum.hateblo.jp

三戸部スエさんは「あしたからの恋」では、和枝を一方的に気に入った鈴木の母。

 

結局、端野という苗字は、旧姓なのか結婚後の苗字なのか…?

 

タツに寝かされている新二。コタツに足を乗っけてたのね。

いせ<<まあ、なんて格好>>

 

<おばあちゃんが親戚のうちへ用事で出かけた夜…>

 

ほっかむりをした栄次が酔っ払って帰宅し、いせと目が合う。逃げようとしたいせの足を引っ張る栄次。<<待て…来い。新二が起きる!>>

いせ<<イヤ!>>

 

今度は雪がちらつく家の前の路地で殴られるいせ。栄次は番傘で殴りつける。

 

暗い表情で話を聞いている新二。

いせ「殺されるんじゃないかと思った。お酒だけじゃない。そのうち、父さんが帰ってこない日が幾晩も続いて…おばあちゃんが調べたら、深い仲になってる女の人まで…いつか、母さん言ったことがあるだろう? いろんなことがあったって。父さんと母さん。父さんと母さん、一度離婚したことがあるんだよ。あんまり乱暴がひどいもんで、おばあちゃんとおじさんが見るに見かねてね。乱暴されることはなくなったものの何年も一緒にいた人が急にいなくなると歯が抜けたようで…」

 

またしても回想。小さな新二と寝ているいせ。戸が揺れる音がし、風の音も強い。栄次が家の中を覗き、いせに声をかける。

 

いせ<<帰ってください>>

栄次<<新二は、お前だけの子供じゃねえ。戸を開けろ!>>

いせ<<今、寝てますから起きてるときに来てください>>

 

栄次は玄関のガラスを割り、鍵を開けて家に入ってきた。新二に覆いかぶさって守るいせ。酔っ払ってフラフラの栄次はタバコを取り出す。<<灰皿は?>>

いせは、そっと灰皿を渡す。

栄次<<お前も随分強くなったな。俺と離婚してうれしいんだろ? 逃げなくていい…帰る>>立ち上がると、新二に近付き、新二に抱きついてほおずり。<<時々でいい。新二の顔を見に来るだけならいいだろ? そうか。新二を大事にしてやってくれよ>>

 

路地で新二をおんぶして子守りしているいせ。

 

<大事を取って、おじさんの家にしばらく身を寄せていたんだけど…父さんが何度もおじさんのうちへやって来て、女の人とも別れたし、お酒もやめるから、母さんやお前ともう一度一緒に暮らしたいって頭を下げてね>

 

新二と笑顔で遊ぶ栄次。

 

<おじさんが中に入ってね、父さんとまた一緒に暮らしたの。あの人は、お酒さえ飲まなければ、おとなしい人だったし、お前のためには片親より両親そろってるほうがいいに決まってるからね>

 

栄次<<お母ちゃん、お仕事だ。おい、ちょっとここで待ってろ。よっ>>今まで新二の滑り台代わりにして遊んでいた裁ち台をいせの前に運ぶ。<<いせ、よく、よりを戻してくれた。もうダメじゃないかと思ってたよ。もうこれからは苦労させない。今年中にな、機関士の試験に通れるように頑張る。そうすりゃ給料も上がるし、お前も楽になるだろう。俺だって、まだ勉強すりゃできると思うんだ>>

いせ<<うれしい。お正月が来たみたい>>

栄次<<ハハッ。よし! 今度は飛行機だぞ。よ~う、いいか? いくぞ~。ほれ、いいか? おっ、それ。お~、手開いて>>寝転がって新二を両足に乗せる。<<うわ~、ばあ~、アハハハッ>>

いせ<<フフフフッ>>

栄次<<ブーン>>

 

<お前の覚えてる父さんは、こういう父さんなんだよ>

 

ある夜、寝ていて苦しみだした栄次は起き上がり、うつ伏せになった。

いせ<<あんた、どうしたの?>>栄次の背中をさすると、大量吐血した。

 

<やっと親子3人、幸せに暮らせるようになったかと思うのもつかの間、父さんは突然、死んでしまった>

 

親戚と話し合う松江。

 

<人間ってあんなにあっけなく死ぬものなのかね>

 

祭壇の栄次の遺影の前にいるいせと新二。

 

数年経過し、初回から出ていた新二再登場。ちょっと髪が伸びたね。

新二<<ねえ、なあに?>>お見合い写真を見ていたいせの背中に抱きつく。

松江<<新ちゃん、向こうで遊んでな。いい子だから>>

新二<<うん>>

 

松江<<ねえ、どう? 栄次と違って、お酒も飲まないし、真面目ないい人だよ>>

いせ<<お母さん、私…>>

松江<<こういうことは時機があるのよ。いい話じゃないの>>

いせ<<そういう気持ちには…仕立物して新二を育てていきますから>>

松江<<新二は私が育てます。新二は端野家の跡取りだから置いてってもらいますよ。先方ともそういう話になってるんだから>>

 

端野家の跡取り…? 松江も”端野”? やっぱり旧姓なんだろうか?

 

いせ<<お母さん、私、新二と離れたら暮らしていけません>>

松江<<いせ、わがまま言うんじゃないの。そうそう、いい再婚話なんて…もう話は決めてきたんだから、そのつもりでいなさい>>

peachredrum.hateblo.jp

松江は神尾のおばあちゃんと同じだね。片親にするより、おばあちゃんが育てるってのもちょっと分からないね。けど、神尾は都内で裕福に育ち、テレビ局勤務から俳優へ転身。お金持ちのお嬢さんと結婚も決まっている。

 

遠くで汽車の汽笛が聞こえる。

いせは新二を連れて雪の中を歩いていた。

新二<<お母ちゃん、どこ行くの? おうちへ帰ろうよ。おばあちゃんとこへ帰ろうよ>>

いせ<<新ちゃん。お母ちゃんと一緒に暮らせなくなってもいいの? ええ? お母ちゃんがどっか行っちゃって会えなくなってもいい?>>

新二<<やだ。そんなの>>

いせ<<おばあちゃんの所へ帰ったら、そうなるのよ。お母ちゃんと一緒に行くね?>>

うなずく新二。<<どこへ行くの?>>

いせ<<東京>>

新二<<東京?>>

いせ<<そう。東京行って、新ちゃんとお母ちゃんと一緒に暮らそう>>

新二<<うん>>

いせ<<おいで、おいで>>

北海道の人ならまず札幌に行くんじゃないのかな?と思ってたけど、函館だと北上するより連絡船に乗って、本州へ行き、東京行っちゃえって感じなのかな?

 

<東京へ行って、どうにかなるなんて当ては、なんにもなかった。でも、お前がいれば、母さん、どんな苦労してもやっていく。そう思って…>

 

雪の中を歩いているいせと新二。

 

新二の部屋

いせ「東京へ出てきてからのことは、お前、よく覚えてるだろ? ハァ~、一度は母さん、お前と一緒に海へ飛び込んで死んでしまおうかと思った。あんまりつらくって…どしゃ降りの雨ん中で、お前、言ったね。『僕、どこも痛くないから死ぬのイヤだ』って」

peachredrum.hateblo.jp

いせ「フフフ…あ~あ、これだけしゃべったら、ここん所にモヤモヤつかえてたものがスッと下りたような気がするよ。でも、母さん、決して、今、父さんを恨んじゃいないよ。間違わないで。死なれてしまうといいことばっかりが残って、時々、夢に見ることもあるよ。夢に父さん出てきて『お前も大変だなあ。新二をよろしく頼むぞ』なんて」

新二「母さん…」

いせ「お前、笑うかもしれないけど、母さん、自分のことより、お前のことのほうが大事なんだよ。兵隊検査まで母さんと一緒にいて。もう満州へ行くなんて言わないで」新二の頭に抱きつく。「ご飯にしようね。随分遅くまでしゃべっちゃった。おなか、すいたろう? すぐ支度するからね」新二から離れて、階下へ。

思い悩んだ表情のままの新二。(つづく)

 

今週もエンディングの歌詞は3番でした。

 

いせはまあ、すっきりしたかもしれないけど、優しいと思っていた父親の本当の姿を語られた息子の気持ちって…