TBS 1977年11月9日
あらすじ
夫と死別した端野いせ(市原悦子)は息子・新二(中野健)を連れ上京した。しかし仕事に就くことが出来ず死を覚悟したが、新二の担任教師・三浦(山本耕一)に救われ、ある工場の寮の下働きとして働き始める。
2024.6.26 BS松竹東急録画。
冒頭はお決まりのシーン。青白画像。船が港に帰ってくる。
いせ「石頭(いしとう)教育、13981(いちさんきゅうはちいち)部隊、荒木連隊、第1大隊、第6中隊の端野新二(はしのしんじ)を知りませんか? 端野新二知りませんか? 端野新二を知りませんか? 端野…新二~!」
端野いせ:市原悦子…字幕黄色。
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端野新二:中野健…字幕緑。
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三浦とよ子:生田くみ子
小島(こじま):後藤哲夫
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呉服屋の店主:飯田和平
端野栄次:市原清彦
篠原靖夫
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三浦:山本耕一
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音楽:木下忠司
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脚本:高岡尚平
秋田佐知子
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監督:高橋繁男
役名は出る人と出ない人がいるのね。
岸壁に座り、海を見ているいせと新二。
<私はようやく仕事をもらえました。それは親子2人が食べていくのがやっと、という程度の仕事で住まいをどうするかという心配が残ってましたが、苦労の末、得た仕事だけに何よりの喜びでした。この子と離れては生きていけない。この子のためには、これからもどんな苦労も怖くない>
追いかけっこしながら帰る親子。
三浦家
とよ子「そう、よかったわね。全国で失業者が100万にもいるっていうご時世ですもの。とにかく仕事があるだけでもホントによかったわね」
いせ「はい。ご心配かけてホントにすいませんでした」
とよ子「あとは住まいだけね」
いせ「はい」
三浦が帰ってきたので、みんなで迎えたが元気がない。新二たちももらってすぐ紙飛行機にした号外を胸ポケットにしまっていて、広げる。「大陸で戦争が始まったんだ」と言い、とよ子に新聞を取ってもらう。「この新聞にも出ていたんだが、こんなに激戦になってるとは思わなかったなあ」
とよ子「どうなるの?」
三浦「急に国内がどうなるってことはないだろう。大陸では日支関係が一触即発の状態だったからなあ。向こうの軍隊が満鉄を爆破したことによってこんなことになったんだ。人によってはこの不景気を回復する手段を外国に求める動きがあったとも言ってるんだが…」
新聞の文字が大写しになる。
日支←日本と支那のことらしいけど、”支那”って一発変換できないのね。
滿鐵線
柳条溝
我鐵道守備隊應戰
当時の世界地図
満州国がアップになる。
<昭和6年9月18日に起こった満州事変でした。この満州事変が口火となって日支事変へと発展し、やがて、私から新二を奪い去る、あの太平洋戦争へとつながっていったんです>
かすかに軍歌らしきものが流れてる。
三浦「とにかく目鼻がつくまで、ここにいたらどうですか?」
いせ「でも、これ以上ご迷惑は…」
三浦「その呉服屋に住み込むことができるんならいいけど、そうじゃないんでしょう?」
いせ「はい。でも、あしたご主人に頼んでみようと思ってます」
三浦「端野、お代わりは?」
いせの顔をチラ見した新二は「ごちそうさま」と茶碗を置く。
三浦「遠慮すんなよ」
いせ「ごちそうさまでした」
ツーンとした表情のとよ子。
三浦たちの寝室
三浦「何をプリプリしてんだ?」
とよ子「あなた、私、もうイヤ。早く出てってもらって」
三浦「おい」
とよ子「あなた、端野さんをこんなに面倒見なきゃならない理由でもあるの?」
三浦「どういうことだ?」
とよ子「あなた、あの方に特別な関心があるんじゃない?」
三浦「バカなこと言うなよ」
とよ子「だってそうとしか思えないわ」
三浦「女ってものは、しょうがないことを考えるもんだな。俺はただあの親子が気の毒だから…」
とよ子「限度があるわよ」
三浦「俺は教師だよ。受け持ちの生徒が死ぬか生きるかっていうときに放っておけるか」
とよ子「端野さんだけじゃないんじゃない? 困ってるの」
三浦「俺の受け持ちでは端野君が一番、気の毒な状態にある。だから、あの親子はなんとか目鼻がつくまで俺ができるだけのことはしてやりたい。それだけのことだよ。お前、教育者の妻なんだぞ。もう少し考えて物を言ってくれ」
三浦先生も下心を悟られまいと逆ギレしたみたいに見えるな。
店主に仕立てた着物を見てもらういせ。「どうでしょうか?」
店主「いいですよ。あんた、丁寧な仕事をするね」
いせ「お願いがあるんですけど、昨日も申しましたように私、1人の息子がおります。今、息子の担任の先生のおうちにごやっかいになってるんですけど、ご無理なお願いでしょうけど、お店のどこかに置いていただけませんでしょうか」
店主「う~ん。まあ、考えてみましょう。かみさんにも相談してみないことにはね」
いせ「お願いいたします。どこでも結構です。土蔵の中でもいいんですけど」
店主「まあ、2~3日待ってくれないかね」
いせ「はい。どうぞよろしくお願いいたします」
店を出たいせは封筒を大事に財布にしまう。
<これ以上、店のご主人に無理は言えません。無理を言えば、やっともらえた縫い物の仕事まで失いそうで怖かったんです。一日も早くあのうちを出なければ。そうは思ってもこの広い東京に身を寄せる所はどこにもありません>
すっかり暗くなって帰宅したいせ。「ただいま」
とよ子「あっ、おかえんなさい。遅かったわね」
いせ「すみません」
とよ子「端野さん、いいお話があるの。さあ、早く上がって」
新二もいせを出迎える。
茶の間
とよ子は三浦に早く話すよう急かす。
三浦「帰ってきたばっかりなんだから、もう少しあとでいいじゃないか」
とよ子「だって、いいお話しなんですもの。早いほうがいいわ」
三浦「実はですね…」
<いいお話しっていうのは、私の就職のことだったんです。私は三浦先生の師範学校時代の友達の紹介で、ある工場(こうば)の寮の賄い婦として住み込みで働けるようになったんです>
廣明工業大森工場
若葉寮
<若い男子工員の食事の世話と洗濯、そして寮の掃除を1人で切り回さなければなりませんでした。でも、私たち親子にとって東京へ来て初めて与えられた安住の場所でした。貧しいながら、なんとか親子2人、食べて寝られる生活。私は感謝の気持ちでいっぱいでした>
机に向かって勉強している新二。仕立て物をしているいせ。「お母ちゃん、うんと働くからね。新ちゃんはうんと勉強してよ」
新二「偉い人になるんだろう? じゃあ、大学行かなきゃいけないね。お母ちゃん、お金ある?」
いせ「いや、今はないわ。だけど、新ちゃんが大学行くまでには大丈夫よ。お母ちゃん、うんと働くから」
新二「だから、着物の仕事もしてるの?」
いせ「そう。呉服屋さん、お仕事下さったの。さあ、早く勉強しちゃいな。お母ちゃんも早くしないと。あした、取りに来てくださるから」
新二「でもさ、勉強すれば、本当に偉い人になれるのかな?」
いせ「そうよ。なれるよ」
<いつしか秋も過ぎ、冬が深まっておりました>
食堂
工員たちは「ごちそうさま!」と部屋を出ていく。食器を片づけるいせ。
小島「ごちそうさま。おばさん、新ちゃんは?」
いせ「部屋にいるけど」
小島「そう。途中だから学校に送ってくよ」
いせ「いつも悪いわね、小島さん」
ラジオから「ちゃっきり節」が流れる。
北原白秋作詞、町田嘉章作曲。1927/昭和2年、静岡市郊外に開園された狐ヶ崎遊園地のCMソング。へえ~! 地域おこしや観光宣伝のため、旧来から民謡を紹介したり、民謡風の新曲が作られたのがこの当時の流行。1931/昭和6年に市丸がレコードに吹き込み、翌年ヒットした。
新二が階段の手すりを滑り降りながら歌う。
♪茶の香り
あ ちゃっきり ちゃっきり
ちゃっきりよ
いせのいる部屋に入ってきても歌っている。
♪あ きゃーろが鳴くんで
トンチチ チンチン
雨(あま)ずらよ
カエルが鳴くから雨だよってことか。
いせ「誰に教わったの?」
新二「小島のおにいちゃん」
いせ「勉強は済んだの?」
新二「済んだ。お父ちゃん、なぜ死んだのかな? 生きてたら一緒に遊べるのにな」
いせ「新二、あんた、お母ちゃん一人じゃイヤなの?」
新二「どうしたの?」
いせ「お父ちゃんの話はしたくない」
新二「どうして? 優しいお父ちゃんだったのに」
回想
栄次<<ハハハッ、ほら~。それ、ほら、ど~ら>>
今よりさらに幼い新二を笑顔であやしている。鴨居に紐をつるしてブランコにしてるのかな?
栄次<<いいか~、今度は、お馬だぞ。ええ? ほら、こい! ほら!>>
新二を背中に乗せて歩く。
<新二が、よい父親と思うのは無理もありません。子煩悩な人でしたから。でも…>
ちゃぶ台をひっくり返す栄次。<<この野郎!>>
<お酒を飲むと人が変わってしまいます。自分でも分かっていながら、どうしてもお酒がやめられません。たった一度のお見合いで義理の母に勧められるまま、結婚してしまったことをどんなに後悔したか知れません。赤ん坊の新二を抱いて、何度逃げ出したことか>
栄次に殴る蹴るされているいせ。酷いDV。
回想終わり
新二「どうしたの?」
いせ「なんでもない」
新二「変なの」
いせ「お父ちゃんの話は、もうやめ」
新二「どうしてよ?」
いせ「いいの。あんたが大きくなったら話してあげるから。いろいろ話があるんだから」
新二「ふ~ん。僕もいっぱい思い出すことがあるな。山に行ったり、海にも…」
いせ「もうやめなさい」
いせの顔を見る新二。
いせ「何よ?」
ふにゃっと笑いかける新二にいせは「何がおかしいのよ」と笑いながら絡み、じゃれ合う。
<おかしなもんですね。新二が父親を懐かしむのは不思議はありませんけど、あれほど苦しめられてこりごりしているはずの私が死なれてしまうと思い出されるのはイヤなことよりも…>
まず、栄次って名前が今、見ている「赤い運命」の三國連太郎さんが演じる島崎栄次と同じ字で笑ってしまった。エイジといってもいろんな字があるのに。
栄次役の市原清彦さんはたくさんの作品に出てるんだけど、「岸辺のアルバム」では謙作の親友・堀越役をやっていた。もう一人の親友の妻が原知佐子さんね。
いせは洗濯物を抱えて物干し場へ。奥の工場から煙が上がってるのに、洗濯物を干している。
父親「さあ、今日はおばあちゃんちに泊まるんだよ。ええ? おばあちゃんに何買ってもらおうか」
通りすがりの親子連れの会話を聞いたいせは寮の中へ入る。「新ちゃん、ごめんね。日曜日なのに。東京へ出てきて、まだ一度も一緒に遊びに行ったことないもんね」
新二「いいよ。お母ちゃん、お仕事があるんだもん」
小島がいせに洗濯物を頼んだ。
いせ「いいわよ。洗濯場へ置いといて」出ていこうとする小島を呼び止める。「小島さん、出かけるの?」
小島「うん。部屋ん中にいてもつまんないから新宿をブラブラしてこようと思って」
いせ「悪いけど、新二連れてってもらえないかしら?」
小島「いいですよ」
いせ「ホント? ありがとう、そう。それじゃすぐ呼んでくるから」
新二を呼びに行ったいせ。新二は物干し場にいて「小島のおにいちゃんが新宿へ連れてってくれるって」と伝えると、物干し場を降りてきた。
ひとり残ったいせはバケツを持ちながら歌う。
♪あ きゃーろが鳴くんで
トンチチ チンチン
雨ずらよ
部屋の壁には「諸事節約」の貼り紙。
♪あ きゃーろが鳴くんで
トンチチ チンチン
雨ずらよ
トンチチ チンチン
雨ずらよ
あ きゃーろが鳴くん…
三浦が様子を見に来ていたことに気付く。「先生、まあ」
三浦「やあ、入ってきましたよ。玄関で声かけたんですが、歌が聞こえたもんでいらっしゃると思って」
いせ「すいませんでした」
三浦「なかなかうまいんですね、歌が」
いせ「いえいえ…」
そうそう、市原悦子さんのあの声でこの歌、とても素敵です。
三浦「元気でやってられるようですね」
いせ「はい。みんな先生のおかげです。ありがとうございます」
三浦「お礼を言われるほどのことじゃ…新二君は?」
いせ「あの…寮の方とさっき出かけました」
三浦「そうですか」
壁の貼り紙「時間嚴守」
いせが上がるように勧める。「新二も転校しなくてよくて」
三浦「新二君、成績も上がったし、学校でも随分明るくなりましたよ」
いせ「新二はお兄ちゃんが大勢出来たようなものですわ」
三浦「大変でしょう? 10人もの人たちの世話をするのは」
いせ「いいえ。楽しくやっております」大きなやかんから急須にお湯を注ぐ。
三浦「ホントに見違えるように生き生きしていらっしゃいますね」
いせ「若い人たちと一緒ですから気が若くなりますわ」お茶を出す。「奥様、お元気ですか?」
三浦「ええ、相変わらずです」
いせ「休みが取れたら、ご挨拶に伺うつもりでおりました。でも、ここは休みがなくて…先生。先生と奥様にはホントにご恩は一生忘れません」
三浦「そんなに言われると困っちゃうな。端野さん」
いせ「はい」
三浦「私は、あなたと新二君を見てると、子供のころのことを思い出しましてね。私も小さいときに父が死んだもんですから。母が苦労して私を育ててくれました。その母ももういないんですが…まあ、そんなわけであなた方を見てると他人事には思えないんですよ」
三浦家
三浦先生にまで伝染するちゃっきり節!
♪あ きゃーろが鳴くんで
雨ずらよ
あ きゃーろが鳴くんで
雨ずらよ
じょうろで庭の植物に水をあげている。
とよ子「どうなすったの?」
三浦「何が?」
とよ子「その歌」
三浦「歌?」
とよ子「あなた、歌ってたじゃないの」
三浦「アハハッ。 ♪雨ずら…」
とよ子「変な方」廊下を歩いて行ってしまう。
三浦「♪あ きゃーろが鳴くんで
雨ずらよ」
昭和七年
元旦
羽根つきしている晴れ着の女の子たち。若い着物の女性、獅子舞…
ハツヒノデ
ハシノシンジ
新二の書初め。
いせ「上手に書けたね。あそこへお貼り」七輪で角餅を焼く。
<東京へ来て初めて迎えるお正月でした。新二は唱歌とお習字が特に上手でしたよ>
いせ「明けましておめでとうございます」
新二「はっ、おめでとうございます」
いせ「さあ、おあがり」
びよーんと伸びない堅そうな餅だね。新二に先に食べさせ、いせも頬張る。
<死のうと思って岸壁に立った夜のことが、昨日のことのように思い出されます。こうして親子2人、水入らずで静かなお正月を迎えたことが夢のようでした。生きててよかった。もっともっと働いて、この子を幸せにしなければ。働くことが全く苦になりませんでしたよ>
いせ「これ、つけてもいいよ」(つづく)
♪あ きゃーろが鳴くんで
雨ずらよ
3回目にして初めてちょっと安らげた回。
今日、キャストクレジットに名前のあった篠原靖夫さんは工員か親子連れの父親か?
「おやじ太鼓」15話にも出てたらしい。アベックの一人?