TBS 1977年12月2日
あらすじ
昭和十六年十二月、太平洋戦争が始まる。いせ(市原悦子)はいくら国のためとはいえ、新二(大和田獏)を戦争に送り出したくないと考えていたが、戦争は激しさを増し、男たちは続々と出征していた。
2024.7.19 BS松竹東急録画。
冒頭はお決まりのシーン。青白画像。船が港に帰ってくる。
いせ「石頭(せきとう)教育、13981(いちさんきゅうはちいち)部隊、荒木連隊、第1大隊、第6中隊の端野新二(はしのしんじ)を知りませんか? 端野新二知りませんか? 端野新二を知りませんか? 端野…新二~!」
端野いせ:市原悦子…字幕黄色。
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端野新二:大和田獏…字幕緑。
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石田健太郎:長澄修
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石田の母:宮内順子
のぶ子:小畑あや
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特高刑事B:小森英明
特高刑事A:城戸卓
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三浦文雄:山本耕一
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音楽:木下忠司
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脚本:高岡尚平
秋田佐知子
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監督:菱田義雄
昭和十八年
<近所の洋品店の若主人が出征していきました。見送りの奥さんは結婚して1年もたたず、おなかには7か月になる赤ちゃんがいるということでした。戦争は日に日に激しくなって、男の人たちは次々と出征していきました。新二も来年は兵隊検査の年です。このまま戦争が続けば、新二も戦争に取られるのではないか…私はそんな不安が去りませんでした>
三浦家
新二の勉強を見ている三浦。
三浦「うん。あっ、よし、これでいい。これなら今度の受験、大丈夫だろ」
新二「あっ…あっ、先生。僕、相談があるんですけど」
三浦「うん?」
端野家
電報を受け取ったいせは石田に渡した。
いせ「どなたから電報? 石田さん?」
石田「兄が…戦死したそうです」
いせ「えっ?」
電報をその場に落として、階段を上って行った石田。いせは電報を拾って読む。
<身近な人の初めての戦死。戦争の波がこのうちの中まで押し寄せてきたという思いでした>
呆然として部屋にいる石田。
新二「先、食べてればよかったのに。いただきます」
いせ「いただきます」
新二「母さん」
いせ「なあに?」
新二「僕、高等商船だけじゃなくて、今度は海軍兵学校も…」
いせ「兵学校?」
新二「うん。三浦先生にも相談したんだ。そしたら、母さんとよく相談しろって」
箸を置いたいせ。「やめてちょうだい、兵学校なんか。母さんね、高等商船だって受けてもらいたくないのよ、ホントは」
新二「母さん…」
いせ「これから戦争が続いてごらん。兵学校や高等商船の学生は真っ先に…高等商船はしかたがないと思ってる。先生も一生懸命指導してくださってるし、お前の小さいときの夢だったから」
新二「どうしたの? なんかあったの?」
いせ「石田さんのお兄さん、戦死したの」
石田の部屋
石田の耳に外から軍歌を歌う声が聞こえる。
⚟新二「石田さん、いい?」
石田「新二君か?」
新二が部屋に入ってきた。「石田さん…」
石田「兄貴のヤツ、ハハッ、やっぱり死んじまった」
新二「お兄さんは…日本のために僕たちのために死んだんだ」
石田「新二君、ありがとう。兄貴のことをそんなに…」
新二「石田さん」泣いてる。
<あのころは遠く近く出征する人の送別会のにぎわいが聞こえてきましたよ。いやに華やいで聞こえたりどうしようもなく寂しく聞こえたり>
真っ赤な夕焼けを背に軍歌を歌う人々が行進している。
石田が兄の遺影、石田の母が遺骨を持って歩いてきた。
バックに流れていたのは、お敏さんがよく歌ってた「海ゆかば」。
端野家
石田「おばさん」
いせ「あら…」
遺骨には故海軍中尉 石田勇太郎と書かれている。
お線香を供え、手を合わせるいせ。石田の母と石田に向き直る。「さぞ、お力落としでしょう」顔を覆って泣きだす。
石田の母「あの子は、お国にご奉公できて満足でしょう」泣きだす。
いせ「立派な息子さんでしたのに…」
石田の母「泣いちゃいけないと分かってんですが…」
石田「栃木にまっすぐ帰るつもりだったんですが、母が汽車ん中で気分が悪くなって」
石田の母「うう…うっ…あの子が海軍に入ったときにいつかこんなことになるんじゃないかって…お父さんも覚悟はしていたものの、やっぱり…寝込んでしまって。今日は私とこの子が…」
いせ「そうですか」
石田「母さん。もういくら泣いても兄さんは帰ってきやしないんだから」
石田の母「うん、うん」
床に就いた石田親子。
石田の母「勇太郎もここに泊まったの?」
石田「2人でいろいろ話、したよ」
石田の母「あんとき、勇太郎、私たちに別れを言いに帰ってきたんだね。いつもの休暇と思ったのに」
石田「俺には言ってたよ。今度出港したら生きて帰れないかもしれないって」
石田の母「そう。そうと分かってたら、もっと…うっ…うう…」
石田「母さん、もう泣くのはよせよ。ほら、兄さんも母さんが泣くと、気になって安らかに眠れないよ」
石田の母「うん」
いせの部屋
多分、今回は石田親子がいるから、新二が一緒の部屋で寝てるのかな?
いせ「新二が戦争に取られて石田さんのお兄さんみたいになったら、母さん生きていけない」
新二「もうすぐ終わるよ、この戦争」
いせ「ホントかねえ」
新二「母さん。俺、兵学校受けるのやめるよ」
いせ「ホントに?」小指を出して指切りしようとするが、新二が手を握る。
新二「そしたら母さん安心なんだろ?」
いせ「石田さんのお母さん、たまらないよ。いっくらお国のためだからって。母さんにだけは、あんな思いさせないでおくれ」
新二「分かってるよ」
<新二が二度目の高等商船を受験したのは昭和18年3月のことでした。そして、その業学発表の日がやって来ました。新二は夕方になっても帰ってこないんです>
土手で横になってる新二。
いせ「新ちゃん。帰ろう、風邪ひくよ」
新二「母さん、俺…」
いせ「いいから、帰ろう。さあ」
新二「ダメだ、俺」
いせ「バカだね、こんな寒いとこで」
新二「母さんのがっかりする顔見るのつらくて、帰れなかったんだ」
いせ「しょうがないだろ。三浦先生にはお知らせしたの?」
新二「いや、先生、今日、学校なんだ。落ちたのわざわざ知らせに行くのは…」
端野家
部屋に寝っ転がる新二。
<正直、新二が高等商船に落ちてがっかりしました。でも、半面、ホッとしたのもウソじゃありません。少しでも戦争と関係のない所にいてくれたほうが安心でしたから>
夏、上空を飛行機が飛ぶ。
<新二は私立(わたくしりつ)の大学に入学しました。浪人させて自分の好きな道に進ませるだけの余裕はありませんでしたから。あのころの学生は大変でした。学徒勤労動員といって軍需工場なんかに働きに行かなくてはなりません。満足に勉強もできない時代でした>
「わが子は他人」の昭和元年生まれの元さんは新二より少し下かな?(演じた杉浦直樹さんはもう少しお若いですが)。勤労動員で工場へ行き、クタクタでも夜中には本を読んでいたと語っていた。大吉と世代の差を感じる1シーン。
工場に行った新二は、のぶ子という女性に声を掛けられてニッコリ。
のぶ子「今日も暑いわね」
新二「うん、じゃ」
工場に入ってきたのぶ子は、新二がケガをしたのを目撃。
新二「うっ…あ、痛っ」
のぶ子は駆け寄り、手ぬぐいを裂いて新二の指に巻く。
新二「ありがとう」
のぶ子「大丈夫?」
新二「大したことないよ」
のぶ子「よかった。指を取られなくって。さあ、医務室に行って、ちゃんと手当てしてもらわなくっちゃ」
作業員「いいぞ、いいぞ!」
作業員「おいおい」
バカ丸出しの作業員。こういう冷やかしバカ大嫌い。
いせが帰ると、玄関の戸をたたいている男たちがいた。
刑事A「端野さんですか?」
いせ「はい」
刑事A「こちらに石田健太郎という学生が下宿していますね?」
いせ「はい」
刑事B「特高警察の者(もん)です。石田の部屋を見せてもらいます」
<あのころは、なんにも悪いことをしてなくても特高警察と聞いただけで、なんだか背筋がゾッとするような感じがしたもんでございます。皆さんの中には特高警察と言ってもお分かりにならない方が多いでしょうね>
石田の部屋を漁る特高刑事たち。
刑事B「こっちは?」
いせ「息子の部屋です」
刑事B「調べさせてもらいます」
刑事A「石田の所にいつも出入りしてる者はいますか?」
いせ「いえ、石田さん、お友達も連れてきません」
刑事A「奥さん! かばったりするとためになりませんよ」
いせ「いいえ、ホントです」
刑事B「石田が帰ったら本署へ出頭するように言ってください。息子さんはいくつですか?」
いせ「今年、大学へ入ったばかりです」
刑事B「石田の名が入ってるから、これは息子さんの本じゃないかもしれない」
いせ「いや、これは…」刑事Bが持っていた本を取り返す。
刑事B「しかし、息子さんの机の上にあった。石田に事情を聞いてみなくてはね。ダメだよ」
いせ「いや…」本を取られそうになり、引っ張る。
刑事B「何をするか!」
散らかしたまま端野家を出ていった特高刑事たち。
<あのころは本も自由に読めません。思想の取り締まりが厳しかったのです。戦争について、とやかく言う人たちは「アカ」と呼ばれて、ひどい目に遭わされたそうです>
新二が左親指に包帯を巻いて帰宅。
いせ「どうした? ケガしたの?」
新二「うん。機械に挟まれそうになっちゃった」
いせ「ええ~、大丈夫なの?」
新二「んっ、大したことないよ」
いせ「よかった。指取られなくて」
新二は噴き出す。
いせ「何がおかしい?」
新二「なんでもないよ」
いせ「変な子」
いせがのぶ子と同じこと言うんで笑ったのかな?
いせ「ねえ、ちょっと…さっき、特高の刑事が来てね」
新二「どうして?」
いせ「石田さんの本、持ってった。お前、石田さんに本借りてるだろ? あれも持ってったよ。石田さん、特高に目をつけられるようなことやってるの?」
新二「そんなことないさ」
いせ「お前は大丈夫だろうね?」
新二「ん…僕は平気だよ。それにあの本だって、そんな変なもんじゃないし、心配いらないよ」
いせ「そうかね」
<あの日の夕方、石田さんは特高警察へ出かけて行ったまま、夜遅くなっても帰ってきませんでした>
取調室
刑事A「敵性のレコードなんか聴きやがって!」
石田健太郎の名札見えた。B型。
刑事B「お前の身の回りから出てきた物をどう説明するんだ!」
刑事A「この非常時に! お前がやってることは私敵行為だぞ。お前が社会主義者の集会に参加していたことはちゃんと調べがついてるんだ。ええ? そうだろう?」
私敵行為を調べようとすると、私的行為ではありませんか?と出て調べられない。
刑事C「吐くんだ、吐け!」
石田「うっ…」
刑事C「このバカめ!」石田を投げ飛ばす。「ええい、ほら!」石田を往復ビンタ。
石田「ああっ!」鼻血が出ている。
一番暴力的で個性的なヘアスタイルの刑事Cはノンクレジットなのね。
特高刑事ABはそろって大亀建設の社員として「おやじ太鼓」33話に出演。
翌朝、いせと新二が朝食中に石田がボロボロの姿で帰ってきた。
いせ「なんてこと…石田さん。まあ、ひどい。新ちゃん、洗面器と手拭い」
新二「分かった」
いせ「なんてこと…」新二と2人で玄関に倒れ込んだ石田を運んだ。
石田を布団に寝かせた。
いせ「どうしてこんなことに…」
新二が洗面器を持ってきた。「石田さん」
石田「本のことで疑われて…でも、やっと分かってもらえました」
新二「当たり前だよ。石田さんがアカなわけないじゃないか」
石田の顔を水で濡らした手拭いで丁寧に拭くいせ。「ゆっくりお休み」
石田「すいません」
いせと新二は階下へ。
いせ「特高の取り調べ、ひどいって聞いてたけど、ひどいね、やっぱり」
新二「石田さんは帰されたからいいけど、社会主義思想の本を持ってるだけで留置場に入れられたり、もっとひどいときは一番、激しい前線に持ってかれたりするらしいよ」
いせ「怖い。ひどい世の中になったね。それもこれも戦争のせいだよ。早く終わるといいね」
新二「そのためには勝たなきゃいけないんだ。このままじゃ、大学生の徴兵猶予もなくなるんじゃないかって学校では話してるよ」
いせ「そう。もしそうなったら? ああ、イヤだイヤだ。早く戦争なんか終わればいいよ」
<日曜日の夕方でしたかしら>
巡査「ごめんください」
いせ「はい!」
巡査「端野さん」
いせ「はい!」
玄関へ出たいせ。
巡査「端野新二さんのお母さんですか?」
いせ「はい」
巡査「すぐ本署のほうへ行ってください」
いせ「あの、新二が何か?」
巡査「詳しいことは分かりません。とにかくすぐ行ってください」
いせ「はい」
<特高で痛めつけられた石田さんの姿を思い出し、新二もひどい取り調べを受けているのではないかと居てもたってもいられませんでした>
急いで準備をして出かけたいせ。(つづく)
今回で半分。いや、興味深い題材ではあるけど、正直言うと、気持ちが下がりがちな昨今、もう少し明るく楽しい木下恵介アワーが見たいというのが本音です。つらい…

