TBS 1977年12月13日
あらすじ
新二(大和田獏)はいせ(市原悦子)の知らぬ間に満州の軍需工場で働く手続きをとっていた。昭和十九年のサイパン島陥落後は空襲がいっそう激しくなり、いせの生きがいは新二の手紙だけとなる。
2024.7.30 BS松竹東急録画。
冒頭はお決まりのシーン。青白画像。船が港に帰ってくる。
いせ「石頭(せきとう)教育、13981(いちさんきゅうはちいち)部隊、荒木連隊、第1大隊、第6中隊の端野新二(はしのしんじ)を知りませんか? 端野新二知りませんか? 端野新二を知りませんか? 端野…新二~!」
端野いせ:市原悦子…字幕黄色。
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端野新二:大和田獏…字幕緑。
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水野のぶ子:小畑あや
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新二(少年時代):中野健
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音楽:木下忠司
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脚本:高岡尚平
秋田佐知子
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監督:高橋繁男
今日はまた最少人数だ。
いつもいせたちが歩いている時計屋の前で「万歳! 万歳!」と出征する人を送り出す人々。
<健康でさえあれば働き盛りの男性は、みんな戦地へ送り込まれました。兵隊に取られない男は変な目で見られたものでございます>
新二は職場の同僚?と別れ、女性たちと帰ってきたのぶ子も新二に気付いて、女性たちに「悪いけど、先、行って」と新二と合流。
のぶ子「新二さん」
ポケットから封筒を取り出して見せる新二。「満州へ渡る許可が下りたんだ。向こうの会社へ入る手続きも済んだ。分かってくれないか? 頼むよ。君には分かってもらいたいんだ。おふくろには到底分かってもらえないだろうけど。男には、こうと決めたらやらなくちゃならないときがある。僕にとって、今がそのときなんだ」
のぶ子「どうしても行くの?」
新二「行く」
のぶ子「どんなに私が頼んでも?」
新二「…」
のぶ子「ダメなのね」
新二「決めたんだ」
のぶ子「お母さんには、なんて言うつもり?」
新二「半年後には、どこか戦地へ持ってかれる。満州は他より安全だと言うしか…」
のぶ子「ホントに安全なの? 満州は」
新二「戦争に行くんだからね」
のぶ子「ウソなのね」
端野家
いせ「こんな物…」封筒を叩きつける。
新二「破りたきゃ破れよ。俺の気持ちめちゃめちゃにすればいい。破れよ」
封筒を投げつけるいせ。「母さんの気持ちは、どうなったっていいっていうんだね」
新二「どう言ったら分かってくれるんだよ。泣いたって、わめいたって、俺が兵隊に取られることは避けられないんだよ。内地で召集されたら、どこへ持ってかれるか分かんない。満州なら安全だって言ってるだろ。内地で召集されたら、一番、危険な南方へ持ってかれるかも…」
いせ「そんなことでごまかされる母さんじゃないよ」
新二「僕のためにも、母さんのためにも、一番いい方法を考え抜いて決めたんだよ。母さんには僕が大切なように僕も母さんが大事なんだ。そうだろ? 母さんが僕のために生きてきたことは、よく分かってる。黙って1年だけ辛抱して待ってくれないか? 幹部候補生になれば内地訓練で帰ってこられるんだ。1年…いや1年もたたないうちに帰ってこられるかも…」
いせ「気休め言うんじゃないよ、そんなこと。戦争は、どんどん激しくなって、近所から出征した人たちは、みんな英霊になって帰ってくるじゃないか」
新二「俺は行くよ」
いせ「母さんは許さないよ」
新二「のぶ子さんは分かってくれたよ」
いせ「のぶ子さんがどうであろうと母さんは承知できないよ。絶対に反対だよ。反対だって言ったら反対だよ!」新二の部屋を出て、階下へ。
自室で枕を布団にバンバン叩きつけながら泣くいせ。
新二は倒れたギターを起こして立てかけた。
翌朝
新二「何してんの? そんなとこで」
いせは革靴を磨いていた。
新二「その革靴、どうしたの?」
いせ「満州へ行くのに運動靴じゃ行かれないだろ」
新二「母さん…」
いせ「父さんは十文三分(ともんさんぶ)だったけど、お前は父さんよりおっきいね」
一文が2.4cmで十文が24.0cmで、十文三分は24.5cmかな。
きれいに磨いた革靴を靴箱の上に並べて置いたいせは朝食の準備を続ける。
<満州なら安全だと新二は言いました。きっと私を安心させるつもりだったんでしょう。今思えば、どんなことをしてでも止めるべきだったと思います。でも、あのころの思いつめた若者を引き止められるお母さんがあったでしょうか>
いせ、新二、のぶ子が大きな荷物を抱えて歩いている。
新二「あ~、大収穫だったね」
のぶ子「見ず知らずのうちなのに、よく分けてくれたわね」
新二「アハハハッ」
のぶ子「おばさんの粘り、すごいわね」
新二「あれじゃ、向こうが根負けするよ」
のぶ子「物事は、すべからく、ああでなくっちゃ」
新二とのぶ子の少し後ろを歩いていたいせは疲れてへたり込む。いせは荷物の一つを新二に持つように頼んだ。
浜辺
波打ち際に座ってお弁当箱を開ける3人。弁当の中身は蒸かし芋。
いせ「この海の続きで戦争してるなんて思えないね。海へ来たの久しぶりだね。新二、覚えてる?」
新二「うん」
いせ「のぶ子さん、新二と2人で東京へ出てきて2年くらいたったときに私がお世話になってる呉服屋さんの旦那さんの勧めでお見合いしたのよ。その日もこの子と2人でお弁当を持って、ここへ来たの」
新二「あんときは握り飯だったけど、今日は芋だ。ハハハハッ」
回想シーン
カニに指を挟まれたいせ。<<あ、痛たたた…わあ~!>>
新二<<お母ちゃん!>>
いせ<<や~、ハハハハッ。よし>>
着物のまま海へ入ってじゃれあういせと新二。
海から出てきたいせは、新二を海に引きずり込む。
昼ドラは同じシーンをまとめ撮りすると聞いたことがあるから、下手したらこの海のシーンと今回が同じ日の撮影だったりして。この海の回の終盤に中学生新二が初登場した。
海で貝殻を拾う?いせを見ながら砂浜に座っているのぶ子と新二。
のぶ子「お母さんも女、私も女だけど、母親っていうのはすごいことなのね。お母さんにとっては新二さんは子供であり、恋人であり全部なのね。自分なんだわ。今度の決心をするのは、つらかったと思うわ。お母さんのためにも私のためにも帰ってきてくんなくちゃイヤよ。行ってあげて」
新二は、いせのところへ駆け寄る。
端野家
茶の間でお茶を飲んでくつろぐのぶ子。
いせ「ちょっと買い物に…」
のぶ子「私、行ってきます」
いせ「いいの。この辺は私のほうが詳しいし。闇の物も手に入れなきゃならないから」
のぶ子「じゃ、ご一緒に」
いせ「いいの、いいの。のぶ子さん」
のぶ子「はい」
いせ「悪いけど、新二の荷造り手伝ってやってくださる?」
のぶ子「はい」
いせ「ちょっと時間がかかるかもしれないけど、お願いしますね」
のぶ子「いってらっしゃい」
のぶ子は新二のいる2階へ
新二は三浦先生からもらった鉢植えを眺めていた。「三浦先生、どうしてるかな? 先生の残していった鉢植え、いつの間にか花が咲いてる。先生は僕たちに鉢植えを残していったけど、僕は君に何も残していけない」
のぶ子「そんなことないわ。あなた、私にいろんな思い出を…」
新二「のぶ子さん」
買い物帰りのいせはこっそりお酒を口にする。
新二が今までいた窓際の部屋は石田さんの部屋で、立ち上がって自分の部屋の机に戻ってきた感じかな。
ふすまごしで顔が見えないのぶ子。「私、待ってます。どんなことがあっても。新二さん、私…」
新二「のぶ子さん」
のぶ子「新二さん、私はいいのよ」
新二「いけないよ、そんな…もし、僕が戦死したら…」
のぶ子「イヤ」
新二「万一のことを言ってるんだよ。僕が戦死するようなことが…」
のぶ子「イヤ!」両手で顔を覆う。
新二は立ち上がり、のぶ子のそばへ行く。「帰ってきたら、すぐ結婚しよう。それまで僕たち…」
新二に抱きついて泣くのぶ子。新二も抱き締めたが、のぶ子がスッと立ち上がる。「ごめんなさい、困らしちゃって」
いせが帰ってくると、ギターの音色が聴こえる。新二は2階、のぶ子は1階にいた。
いせ「お酒、見つけてきたわよ」
のぶ子「あっ、お手伝いします」
いせ「お肉もあったの。小さく切ってちょうだい」
のぶ子「はい」
いせ「ケンカしたの?」
のぶ子「いえ」
茶の間にいせ、新二、のぶ子が集まる。
新二の杯に酒を注ぐいせ。「さあ、お飲み」
新二「僕だけ? みんなも飲んだら?」
いせ「別れの杯みたいでイヤだから、お前だけお飲み。3人じゃ今更挨拶ってこともないわね。のぶ子さん、お酌してあげて」
のぶ子「はい」
いせは雑炊をよそい、のぶ子は新二にお酌する。
新二「石田さんが出征したときのことを思い出すな。あんときは…」
いせ「やめて。石田さんの話は」黙って雑炊をよそう。
新二「なんだよ。元気出しなよ。母さんたちがそんなんじゃ安心して、たてないじゃないか」
いせ「さあ、食べよう。のぶ子さん」
のぶ子「はい」
新二「いただきます」
のぶ子「いただきます」
新二「おお、うまい。あっ、肉が入ってんだね。母さん自慢のすいとんともしばらくお別れだな」
いせ「たくさんお食べ。いっぱい作ってあるから」
新二「うん」
すいとんという食べ物は戦時中を思い出す貧乏くさい料理という考えの人もいるということをドラマやバラエティを見てると気付かされる。私の地元だと普通に郷土料理としてよく食べるので、貧乏料理みたいな扱いされると失礼だな~と思う。野菜も肉もたくさん入って、おいしいんだよ!
「本日も晴天なり」でも元子がすいとんを作って男子中学生の大介がこんなもの!と怒っていた…ことに同調するつぶやきが多くて、腹が立った思い出。
<2人の間には特別なことはなかったようでした。ホッとしたようなかわいそうのような。あの、のぶ子さんが今はお孫さんのあるいいおばあちゃんで年に何度か新二の消息を気にして寄ってくれます。しゃべったあげく、おしまいには泣いてしまうのがお決まりで…>
何もなかったことをかわいそうだと思ういせが息子のことしか考えてなくて、ちょっとゾッとする。もし何かあって何かができたら…? 松江みたいに「孫は私が育てます」とか言いやしない?
すっかり暗くなり、のぶ子を送る新二。
のぶ子「もういいわ、帰って」
新二「なんで?」
のぶ子「なんででも。1分でも1秒でも長く、お母さんと一緒にいてあげて。ねっ?」
家を出てすぐのところでもういいと言われて引き返した新二。
いせ「もう帰ってきたの?」
新二「あ…うん」
いせ「新二、銭湯行こうか? 一緒に」
新二「うん」
いせ「手拭い出しな。引き出しから」
洗面器と手拭いを持ち、電気を消して、外へ。
最初に銭湯から上がったいせは、新二を待つ。
新二「ごめん、ごめん。ひげ剃ってたらね、切っちゃった」
いせ「大丈夫かい? あ~あ」
新二「うん、平気」
いせは遠回りして帰ろうと提案した。
いつもの階段を上って、高台へ来たいせ。「満州はどっちだい? 一緒に行きたいよ、お母さんも。お前のしたいことはなんでもやらせたい。だから母さん許したんだ。それでなかったら…あしたからホントに独りぼっちだよ。おはようもおやすみも言う相手が…母さんに約束しておくれ。死なないで帰ってくるって」
新二「約束するよ」
いせ「どんなことをしても」
新二「うん」
いせ「お前が母さん置いて死んでしまったら…母さん生きてないからね。死ぬからね。本気だからね、母さん」
新二「母さん」いせの肩に手をやる。
ほら、といせの前に背中を向ける新二。
いせ「フフッ、ダメ。人が見るよ」
新二「いいから、はい」
おんぶして歩きだす新二。
いせ「歌、歌って。新ちゃん」
新二「えっ? なんの?」
いせ「なんでもいい。好きなもの」
いせをおんぶして、下駄で石段を下りる新二にハラハラ。
♪泣くな 妹よ
妹よ 泣くな
<あったかい背中。新二のにおい。今でも覚えております。新二…>
おんぶ姿を上から映してつづく。
のぶ子とは今後も関わることが示唆されてるのね。正直、嫁姑の関係にならなくてよかったと思うよ~。