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【連続テレビ小説】マー姉ちゃん (126)

公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意 

サザエさん」2万部再販の発注からひと月半。インフレで値上がりが続き、初版は12円のものを、25円で再販することとなった。その頃、マチ子(田中裕子)は病気の身体で疎開先を心配してくれた細谷が、小説家として復活したと知って感激する一方で、消化に悪いスルメばかりを食べて、胃を悪くしていた。そんな矢先、取次店を訪れたマリ子は「サザエさん」再販の買い取りを断られ、返本続きで全く売れてない事実を知り…。

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マリ子が「サザエさん」の再版を発注してひとつき半もたちましたでしょうか。

 

磯野家に帰ってきたマリ子。マチ子は部屋でスルメをかじりながら右耳に鉛筆、左耳にペンをさして思案中。机には山盛りのスルメが乗った皿。ヨウ子も原稿の手伝い。

 

マリ子「お母様、また教会ですって?」

マチ子「のようね」

マリ子「まあ、いない方が静かでいいことはいいけれど」

ヨウ子「ええ、お母様のおつむはどう分かち合おうかということでいっぱいでいらっしゃるみたい」

マリ子「ええ?」

 

お茶を運んできた千代。

千代「今度の出版でもうかるお金のことですたい」

マリ子「まあ」

マチ子「で、どうだった? 姉上の方は」

マリ子「うん、やっぱり何事も粘りよね。このところの日参でついには敵も音を上げて3月末までには必ず仕上げましょうって」

千代「まあ、さすがマリ子お嬢様たい」

 

マリ子「だから定価は25円に刷っていただくことにしました」

ヨウ子「えっ?」

マチ子「ちょっと待ってよ。初版は確か…」

ヨウ子「12円だったでしょう? 倍じゃありませんか」

 

マリ子「だってインフレですもの」

マチ子「それにしたって倍とはね」

 

壁に貼られた紙

藝術界

〆切

二月中

 

千代「構いまっしぇん、インフレですけんね」

マリ子「そうよ。今度の紙だって何も刷らずに白いままで寝かせておくだけでも黙って値が上がってしまうんですもの」

マチ子「へえ~、そんなもんなの」

 

マリ子「そうだ! こういう情報はすぐにでも役立てよう! 今度、マチ子の原稿料も断固値上げを要求しなくっちゃ!」

マチ子「すごい飛躍ね」

マリ子「そのくらいのことについていかなければ、たちまち世間から取り残されます」

マチ子「何たる鼻息。それで2万部刷っていくらになるの?」

マリ子「う~ん、取次店では7掛けでお願いしたんだから…」

ヨウ子「35万」

マリ子「本当!?」

マチ子「すごいじゃない! 初めが10万で今度は35万なんて…まるで夢ね!」

 

ヨウ子「でも経費だって倍になるんでしょう?」

マリ子「それにしたって15万は、がっぽりもうけ…うわ~っ!」

千代「まあ、やりんしゃったですね。やっぱりマリ子お嬢様は大物たい」

マリ子「いえいえ」

マチ子「なんのなんの。前途洋々よ、マー姉ちゃん!」

 

ヨウ子「それにしても1万…いえ、3万…ううん、もしかしたら5万円は覚悟しないとね」

マリ子「何が?」

ヨウ子「お母様が献金なさろうと思われるもうけ分」

マチ子「そんな…」

千代「そんな…それはあんまりですたい」

 

まま、こういうのを「捕らぬ狸の皮算用」と申しますが…

 

マリ子「あっ、そうだ。今日ね本屋さんでこういうものを見つけてきたの。はい」

マリ子が畳の上に置いたのは「春秋文學」という雑誌。

 

マチ子「これは?」

マリ子「8ページをご覧なさいよ」

マチ子「ん?」

 

信濃の山彦  細谷巌

 

マチ子「細谷さん…」

マリ子「塚田さんに電話で聞いてみたら、やっぱりあの細谷さんですって」

マチ子「そういえば小説か何か書いてるとは聞いてたけど…」

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マリ子「みんな頑張ってるのよ、みんな」

マチ子は黙ってうなずき、作品を読み入る。

 

マリ子は着替えると言って、千代にも「仕事の邪魔をしたら駄目よ」と席を立たせた。着替えたマリ子は今度は下にヨウ子を呼んで「ゆっくりお茶が飲みたいの。ヨウ子はあまり根を詰めてもいけないから、ここでマー姉ちゃんにつきあってお茶を飲みなさいよ。ゆっくりと」とマチ子を一人にした。

 

下の様子をうかがっていたマチ子は部屋に戻り、小説を再び読み始めた。

 

3年前、病気の体で疎開先を心配してくれた細谷が小説家として復活したというニュースは、マチ子の心を大きな安らぎと感動で満たしてくれるものでした。

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細谷さんが妙にかっこよく見えたあの日…。あらすじに名前があっても役者名が書かれてない時は話にしか出てこないんだね。残念。

 

さて、月が変わって3月半ばです。

 

千代が電話に出ると、昭栄洋紙店からだった。増刷分が出来上がったという内容でマリ子は大喜びで家族に報告した。

マチ子「へえ~、約束どおりじゃないの」

マリ子「そうよ。その約束をいかに守らせるのが大変だったかそれだけは認めてよ」

ヨウ子「認めますとも、マー姉ちゃん

千代「ほんなこつ、おめでとうございます!」

マチ子「ご苦労、ご苦労! 本当にご苦労さん!」

 

はる「…には違いないけれども、仕事というのはもともとそういうもんなんですよ」

マリ子「えっ?」

はる「約束の日を約束どおり守るのは当たり前のことではありまっしぇんか」

マチ子「いや、そんなことおっしゃったって、お母様、今は戦国時代なんですよ。お母様も一度あのカウンターにお座りになってみればいいんだわ」

はる「それはマリ子の仕事でしょう」

マチ子「でもございましょうが…」

 

はる「いいえ。もともとこれはマリ子がエンマコオロギみたいに泣いとったことから始まったお仕事ですからね。ますます頑張るんですよ、マリ子」

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マリ子「ええ…はい…。また胃が痛くなったの?」

マチ子「当たり前じゃないの。だってパ~ッと喜ぼうと思ったらいつも変なブレーキがかかるんだもん。消化にいいわけないのよね」

はる「あっ、そうだわ。今日、教会で鎌田さんからお昆布頂いてきたんだったわ」

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鎌田夫人との付き合いも長いね~。

 

はる「今日ね、教会でマチ子がこのごろスルメばっかり食べ過ぎて胃がおかしいんですって申し上げたらね、それならお昆布の方がいいでしょうっておっしゃってくださったのよ」

マチ子「あら、このごろは教会でその…スルメとかお昆布のお話なんかなさるんですか?」

はる「当たり前じゃありませんか。皆さん、それだけマチ子の胃の痛みを分け合ってくださっているんですよ。ありがたいと思いなさい」

マチ子「はい…」

机の上に置かれた大きなお昆布。

 

まあ昔から昆布は「よろこぶ」といって祝い事には欠かせない品の一つではあったのですが…

 

その翌日、マリ子が再び日本一の取次店、日配を意気揚々と訪問したところ…

 

マリ子「姉妹出版の磯野でございます。暮れには大変お世話になりました」

高瀬「ああ、姉妹出版さん?」

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荒谷二中で加藤優を散々いたぶったという音羽ね。

 

マリ子「はい。『サザエさん』の単行本を2万部買っていただきました」

高瀬「ああ、B5版のあれね」

マリ子「はい、あれでございますが、おかげさまでこの度、たった今、増刷いたしましたので、またそれをお買い上げいただければ大変ありがたいと思いまして」

高瀬「冗談じゃありませんよ!」

マリ子「はあ?」

 

高瀬「あれは駄目ですよ!」

マリ子「『あれは』と申しますと?」

高瀬「お宅の本ですよ、B5版の」

マリ子「はあ」

高瀬「どうしてあんな大きさで作ったんですか? おかげで全然出やしないですよ!」

マリ子「出るって一体どこへ?」

 

高瀬「書店へですよ。うちでもね、長年のつきあいがあるので何のかんの無理言って持っていってもらってもすぐに返本ですよ」

マリ子「返本?」

高瀬「本が返されてくることですな」

マリ子「すると、どういうことになりますの?」

高瀬「倉庫に積んでおくだけですよ」

マリ子「そんな…」

 

高瀬「とにかくね、あれだけでもね相当のしょい込みですからね、再版分なんてとんでもない」

マリ子「困ります!」

高瀬「困ってるのはこっちの方なんですよ!」

マリ子「だってどうしたらいいんですか? たった今、2万部増刷してきたばかりなんですよ!」

高瀬「えっ!?」思わず立ち上がる。

マリ子「はい…」

 

高瀬「どうしてまたそんな…」

マリ子「だってこの前、ポンと全部お買い取りくださったじゃありませんか。だから…。それに今は本だったら全部売れる時代だっておっしゃってくださいましたでしょう?」

高瀬「だから駄目だと言ってるんですよ。本なら何でも売れる時代に売れない本などなおのこと頂くわけにはいかないんですよ」

 

マリ子「だってどうしたらいいんですか?」

高瀬「書店回りはしたんですか?」

マリ子「はい?」

高瀬「市場調査ですよ。街の本屋さんを次々に回って自分のところの本がどのように売れているか自分の目で確かめたんですか?」

マリ子「いいえ。でもこの前、雑誌を買いに本屋さんに行ったら『サザエさん』の本は一冊もありませんでした」

 

高瀬「ほら、見なさい」

マリ子「だから私もう『サザエさん』は全部売れてしまったのだとばかり思って…」

高瀬「むちゃだな…。それで2万部も再版するなんて正気の沙汰じゃありませんよ」

マリ子「でも皆さん、この漫画は面白いと」

高瀬「それは買った人じゃないでしょう? 差し上げた人の評判でしょう?」

マリ子「それは…」

 

高瀬「いや、確かにこの漫画は面白いと思いますよ。しかしね、本が悪いんだな。一体どうしてあんな中途半端な大きさにしたんですか」

マリ子「それは…」

高瀬「とにかくね、そういう事情で今回は遠慮します。それよりかね、買い取りでなかったら今までの分だってお引き取り願いたいくらいですよ」

マリ子「そんな…」

高瀬は吉井という男に倉庫に案内するように言い、「どういうことになってるか何でしたらご自分の目で確かめて対策を立てられることですな」と次の人を呼んだ。

 

えらいことになりましたよ、マー姉ちゃん

 

フラフラになりながら道を歩くマリ子。マチ子がペン入れ、ヨウ子がベタ塗りをしていると静かに戸が開く音がし、ヨウ子が「お帰りかしら?」と気が付く。

マチ子「マー姉ちゃんだったらどんな薬をぬったところで、あんなおしとやかな帰り方は絶対しないわね」

ヨウ子「本当。今日のご帰還はなおのこと意気軒こうたるものでしょうしね」

マチ子はヨウ子にマリ子の鼻息で飛ばされないようにと軽口を言うが、千代やはるがマリ子を気遣う声が聞こえた。

 

慌てて下に降りると、マリ子は玄関で倒れて得意の変顔寄り目。前もやってたな。

マリ子「出版って…お化けより怖い…」

マチ子「マー姉ちゃん!」

 

お化けならば電気をあかあかとつけておけば出ることはないはずだと、いつか日暮里のおばあちゃんが言ってましたが、出版はいわゆる水物といって一つ見込みが狂うとこうなるわけでお化けより怖いとはまさにマリ子の名言でした。

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家中に返本された「サザエさん」があふれる。

 

家に入ってきたマリ子たち。朝男は本を置くための新しい物置を作ってくれた。

マリ子「あ~あ。これじゃあ寝ても覚めてもサザエさん』の夢を見そうだわ」

はる「それも2万遍見るような気がするわ」

マリ子「お母様…」

朝男「前に日配で受け取ってくれなかったら合わせて4万遍の夢だぜ」

マリ子「やめてよ、そんな…」

 

マチ子「お母様。あのウラマドのおば様の所のお納戸にあと2000冊ぐらい入りそうですって」

はる「まあ、それはありがたいこと」

 

朝男「それにしても2万冊ってのはすごいね」

千代「感心してる場合じゃなかですよ! 誰ですか? 今年はいい年になるぞ、ドカ~ンとラッパを吹いたとは!」

朝男「いやそれは…俺も言ったけどさ、おめえさんだってよ」

 

マリ子「そうよ、お母様だって私だって…」

はる「そう言われれば、そんな思いも…」

マチ子「みんなよ。みんなドカ~ンといけって言ったんでしょうけど…。こんなもの抱え込んで今年は一体どんな年になるのかしら? マー姉ちゃん

マリ子「うん…」

 

本当に一体どんな年になるのでしょう?

 

超有名な今になれば笑い話だけど、本の大きさが違うくらいで売れないものなのかねー。ま、ピンチが訪れてもいずれはと思い、あまり心配はなし! それより酒田のおばあちゃま、お元気かしら?