公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
鹿児島から訪ねてきた貴美(三木弘子)は、未亡人のままのマリ子(熊谷真実)を心配するが、新八郎の帰りを待つことから始めた姉妹出版の仕事が、マリ子をたくましい女性へと成長させていた。新八郎と結婚したことを何一つ後悔していないマリ子を見て、貴美は安堵して帰っていく。一つの区切りをつけたマリ子は、朝男(前田吟)に、自分の生き方に自信を持ったと胸の内を話す。そんな中、ヨウ子(早川里美)が二人目を出産し…。
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階段から玄関を映したショット。マリ子が正子を抱いて歩く。「ほら、鹿児島のおばあちゃまにこんにちはってしましょうね」
客間
貴美「まあ、この子が正子ちゃんですか?」
はる「はい」
貴美「まあまあ、なんて色の白か。あの…抱いてもよかでしょうか?」
はる「どうぞどうぞ抱いてやってくださいまし」
マリ子「これでも生意気に結構重たいんですよ」
貴美「はい。はいはい」
マリ子「いい子だ、いい子だ」
貴美「ほんのこて、よか、おごじょじゃ。いえね、あんまり脇の者が伺うては失礼かと控えておりもしたが、このお子を抱いて毎晩のように新八郎と話をしているという、マリ子さんのお手紙、あれを拝見して、もう矢も盾もたまらんで、こうして飛んでまいりもした」
マリ子「はい」
貴美「マリ子さん、まさか、まだあなたは新八郎のことを?」
マリ子「はい」
はる「おかあ様、どうせマリ子はまた今晩もこの子の子守ですわ。どうせおつきあいなさるでしょうから、今のうちにお風呂に入れておきましょう」
貴美「まあ、恐れ入ります」
はる「はいはいはい、行きましょうね~。あのね、向こうのお部屋に用意しておきますからね、お召し替えのもの」
マリ子「お願いします」
はる「ごゆっくり。はいはい、行きましょう、行きましょう」
マリ子「あ~、うるさい大小がいなくなりましたわ」
貴美「まあ」笑い
マリ子「戦争が終わって、もう10年ですものね。いまだに新八郎さんの戦死を信じないって言ったら世間はどうかしてるって言うでしょうね」
貴美「そうですよ。だからこそ主人も私も、あなたにもう一度幸せをつかんでほしいと籍をお返ししたのですよ」
マリ子「ええ、十分幸せですわ、お義母様」
貴美「マリ子さん…」
マリ子「まず、あの戦争に生き残れたことが幸せですし、戦争が終わっても力いっぱい生きてこられたことを幸せに思っています。お義父様やお義母様が私の将来を心配してくださっていることも幸せですけれど、私としては、もう二度と新八郎さんのような旦那様には、お目にかかれないと思ってるんですもの。
そうとなったら改めて旦那様を探す必要はないし、それどころじゃなかったんです。ただ、精いっぱい生きてきただけなんです。
何て言ったらいいのかしら…。マチ子にとって『サザエさん』が切り離せないように、私は姉妹出版と一緒に歩いてきたような気がするんです。これからも多分ずっとそうですし、ぶつかっていけるものがあるっていうのは本当にすばらしいことですね、お義母様」
貴美、うなずく。
マリ子「私はなにも無理に再婚しないわけでも何でもないんです。ごく自然のことだったんです。困ったことがあると必ず新八郎さんが夢の中で助けに来てくれますし、私、あの人と結婚して本当によかったと思います」
貴美「マリ子さん…本当にそう思ってよかとですね?」
マリ子「はい」
貴美「私たちはね、広島のあの宿で形ばかりでいい、祝言のまね事をしてほしいと頼みましたでしょう」
マリ子「はい」
貴美「それがあなたを不幸にしてしまったのではないかと、とても心を苦しめてきたのですよ」
マリ子「この前、何かの婦人雑誌で読んだんですけど、あの戦争で適齢期を外してしまった未婚の女性は250万人からいるんですってね」
貴美「まあ」
マリ子「そこへいくと私はたとえ1週間でしたけれど、すばらしい新婚生活を送れましたし、子供には恵まれませんでしたけど、今、ヨウ子のおかげで母親の気分を味わわせてもらっています。これ以上、何も言うことはございませんわ」
貴美「ありがとう、マリ子さん。今度こそ主人も私も安心して新八郎の墓参りができるでしょうよ」
マリ子「はい、お義母様」
何度か出てきた桜島の映像にのせてナレーション
新八郎の母は安心して鹿児島へ帰っていきましたが、彼女の訪れはマリ子にも一つの区切りをつけたようでした。
磯野家裏庭
朝男「はあ~、そいつはよかった。で、一体、何でえ? その一区切りってのは?」
マリ子「うん、『明日を思い煩うことなかれ』って本当だなって改めて思ったの」
朝男「おいおい、それはおっ母さんの得意のせりふじゃねえか」
マリ子「だから今度はそれを私のものにしようと思ったのよ」
朝男「冗談じゃないよ。大体ね、お前さんの所はのんきで人がよすぎるんだから。明日のことを思い煩わないでみろ。どういうことになるか目に見えてるぞ」
マリ子「でも、今までだって大して明日のことは思ってもみなかった感じ」
朝男「本当かよ?」
マリ子「だって、今、どう切り抜けようかと今日のことだけで明日を思う余裕なんかなかったんですもの」
朝男「ん~、そういう意味か」
マリ子「うん。だけどね、今度は違う意味で考えてるの」
朝男「どういうこったい?」
マリ子「明日を思って今日一日頑張るんじゃなくって…」
朝男「うん」
マリ子「今日は今日一日、思い残すことのないように一生懸命生きようと思うの」
朝男「うん」
マリ子「そしたら自然に明日がやって来るんじゃないかな」
朝男「よし! じゃあひとつこの天海さんも見習ってみるかな」
マリ子「どうぞどうぞ」
朝男「ハハハハハッ! これで俺も少し安心したよ」
マリ子「何が?」
朝男「ん? いやいやいや…今年満36歳、おめえさんだってまだまだ女盛りだ。たった1週間のかみさん稼業で終わるのかと思うと、俺も気ぃもんでたんだぜ、これでも」
マリ子「お気持ちはうれしゅうございますけれど、そんな稼業は今更まっぴらごめん。私もマチ子も女が真剣に取り組めば男には引けを取らないって分かったんですもの。要するに自信を持っちゃったのね、自分の生き方に」
朝男「日本の女も強くなったね」
マリ子「あら、それだけ男の人が大したことなくなったっていうことじゃないかしら」
朝男「冗談じゃねえぞ! うちはね、まだまだ俺が強えんだから!」
マリ子「分かってます。でもそういうことじゃなくて女の人も本当に仕事を持つようになったっていうことじゃないかしら」
朝男「多分、そういうこったろうな」
マリ子「だから私はとっても幸せよ」
朝男「おめえさんが幸せなら俺も幸せだよ」
マリ子「まあ」笑い
一家のけん引車の方向がそうと決まれば、たちまち右にならえをするのが、この一族の特徴。マチ子は良心に従い、気の向いた仕事のみ忠実に励み、その合間にはかわいいかわいいめいのために得意の人形を制作。
ヨウ子は、ごく自然の成り行きとして次の子をみごもり、子供は明日を全く思い煩うこともなく月日とともに成長いたします。
またしてもおなかの大きいヨウ子がお琴さんと一緒に食事の準備。さっきまでが昭和30年、ここで昭和32年に飛んだんだね。
正子「ママ~!」
ヨウ子「ここは危ないからあっちへ行ってらっしゃい。おばあちゃまの所に」
はる「はいはいはい、正子ちゃん。待ちなさ~い。ほら、正子ちゃん」
ヨウ子「お母様~、鬼ごっこばかりじゃなくて、もっと情操豊かにするような、お遊びないんですか?」
はる「さあね、ちょっとほかに思いつかないわね。そのうち、考えておく…ああ~。待て待て~、ほら、待て~!」
客間から廊下を走っていく。
ヨウ子「はあ…孫だとどうして、ああ甘いのかしら…。私たちが小さい時のおばあちゃまはもっときぜんとしてらしたのよ」
お琴「しかたございませんわ。何て言ったって、初めてのお孫さんなんですから」
ヨウ子「でも『年寄りっ子は三文安い』っていうじゃない」
お琴「まあ」
外から登場。
マリ子「三文ぐらい安くたって構わないじゃありませんか。世田谷中にあんなかわいい子がいたらお目にかかりたいくらいだわ」
お琴「お帰りなさいませ」
ヨウ子「マー姉ちゃんまで…」
マリ子「はあ~、おなかすいた!」
ヨウ子「どこ行ってらしたの?」
マリ子「書店さん回りよ。『サザエさん』の出足を偵察してきたの。あら? これでもちゃんと仕事してるんですから」
ヨウ子「だったらちゃんとお玄関からお入りになればよろしいでしょう」
マリ子「残念でした。あそこは正子の鬼ごっこに占領されちゃってます」
ヨウ子「まあ」
お琴「さあ、それじゃあ、ヨウ子奥様」
ヨウ子「ええ、マー姉ちゃん、お帰りになったし、お食事にしましょう」
お琴「はい」
マリ子「じゃあ、私、ちょっと呼んでくるわ。お母様、お食事よ!」
マチ子「は~い!」
お琴がマチ子にみそ汁をよそう。それにしても、青木繁好の母ちゃんより高橋健の母ちゃんの方が出番が多かったんだなー。どうでもいいけど。
はる「こら、待て~! 正子ちゃん、待ちなさ~い! ほらほらほら! あれ~、どこ行くのかな? ほらほら、あれ? ありゃりゃりゃ…」
マチ子「まあ!」
テーブルの下にもぐった正子を追いかけるはる。
マチ子「ちょっと待って、ちょっと待って! お母様、何なさってるの、もう!」
はる「あら、あんな方へ逃げてしまって…正子ちゃん、正子ちゃん。ああ~、正子ちゃ~ん。あれ~、どこかな? いたいた。正子ちゃ~ん!」
マリ子「ごちそうさま。はい、選手交代よ、お母様」
はる「いいからゆっくり召し上がりなさいよ」
マリ子「毎度のことながら気もそぞろ。ごはんなんかゆっくり食べてられませんわ」
ヨウ子「ごめんなさいね、本当に」
マチ子「なになに、子供は安全第一がモットーなのよ。昔っからマー姉ちゃん、そそっかしいんだから。まだまだ修養が足りないのよ」
はる「まあ、そそっかしいのはあなたもですよ。ほらほら、ごはん粒落ちてるじゃないの」
お琴「すいません、すぐに私が」
はる「あら、いいですよ。正子ちゃ~ん、今行きますからね~!」
マリ子の席でごはんを食べ始める。
マチ子「お母様まで落ち着きのないことったら」
マリ子「こら、つかまえた~! えっ、何? あら、ウンチ?」
マチ子「嫌だ、もう!」
マリ子「これはいけません。ここでしたら大目玉ですからね。はい、行きましょう」
マチ子「今、食事中なのよ」
はる「構わないじゃありませんか。『出物 腫れ物 所嫌わず』ってね。あのぐらいの子供がね、便秘してる方がよっぽど大変なのよ」
マチ子「私はエチケットの話をしてるんです」
はる「私はね、自然の仕組みの話をしているのよ。何に恥じることがありましょうや」
マチ子「理屈をおっしゃってるけど、孫かわいさで正子の肩持ってらっしゃるだけだわ」
はる「えっ、何ですか?」
マチ子「いえいえ、なになに。ねっ? ヨウ子? ヨウ子!」
ヨウ子「来たみたい」
マチ子「マー姉ちゃん、大変!」
ヨウ子「大丈夫よ。お食事、済ませてしまいましょう。まだ時間ありそうだし」
はる「そ…そうですね…マチ子、マチ子…」
2度目となると手慣れたものと言いたいのですが、実は落ち着いているのはヨウ子一人のようでもあります。
ごはんをかきこむマチ子が面白い。ヨウ子以外、はるもお琴さんも食事のスピードが上がっている。
応接間のソファで寝ている正子のそばにいるマリ子。はる、正史、マチ子は落ち着かない様子。
マチ子「今度は絶対に男の子だと思うんだ。間違いないと思うの」
マリ子「うん、私もそんな気がする」
正史「そうですね。一姫二太郎というし、男の子の方が理想的な気はしますが、僕は何だかやっぱり女の子のような気がしますね」
マチ子「そんな気がするんじゃなくて、そっちの方がいいんでしょう? 正史さんは女の子ばかりの方が」
正史「いや、別にそういうわけじゃありませんが…」
はる「それにしてもどうしてあの病院はみんな家族を追い返したがるんでしょうね」
マリ子「そうよ」
ドラマの都合上とかではなく、当時の完全看護ってそこまで極端だったのかもしれないな。「ゲゲゲの女房」でも母乳が出るのにミルクで育てなさいという医師の指導を受けたり、今とはいろいろ違う。
はる「人間がこの世に生まれてくるというのは実にすばらしい瞬間なんですよ。家族ならせめて廊下で産声を漏れ聞いて喜びを分かち合いたいと思うのが当たり前のことでしょう」
正史「同感です。僕、お義母さんの意見には全く賛成です。これから早速行って掛け合いに押しかけましょう!」
マチ子「間に合うわけないでしょう、今から行って」
正史「いや、しかしですね…」
マリ子「し~!」
マチ子「ん?」
マリ子「空耳だったのかしら? 今、赤ちゃんの産声が聞こえたみたい…」
電話の音
マチ子「そら来た!」
マリ子「し~!」
寝ている正子を置いて、部屋を出る。
はる「もしもし、磯野でございますが。はい。はい。はい。まあ、また女の子!」
歓声が上がる。
マチ子「当たり、正史さん! 女の子だって!」
マリ子「いずれにしても、おめでとう、正史さん!」
正史「ありがとうございます! 僕も確信してたんですよ、今度も娘だって!」
歓声
マチ子「さすがパパよ!」
はる「うるさいわね、まだ電話中ですよ! もしもし、あのそれで…」
はるをよそに騒いでいるマリ子、マチ子、正史、お琴さん。
哀れ昔ヒトラーの威厳、今いずこ。
昨日は総集編みたいだったけど、戦争前までの思い出だったから、今日はその後の総集編かと思ったら全然違った。1週間に2回も出産するのも珍しい。明日で終わるの寂しいなあ。