TBS 1969年10月14日
あらすじ
鶴 亀次郎は裸一貫からたたき上げ、一代で築いた建設会社の社長である。ワンマンで頑固一徹な亀次郎は子どもたちに"おやじ太鼓"とあだ名を付けられている。この"おやじ太鼓"、朝は5時に起き、夜は8時になるともう寝てしまうが、起きている間は鳴り通し。そんな亀次郎をさらりとかわす7人の子どもたちに比べて、損な役回りはお手伝いさんたち。ひと言多いばっかりに、毎日カミナリを落とされる。
2023.10.10 BS松竹東急録画。12話からカラー。DVDは第1部の39話まで収録。
鶴家
亀次郎:進藤英太郎…大亀建設株式会社を一代で立ち上げた。62歳。
妻・愛子:風見章子…良妻賢母。57歳。
*
長男・武男:園井啓介…亀次郎の会社で働いている。31歳。
妻・待子:春川ますみ…正子の紹介で結婚。
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次男・洋二:西川宏…ピアノや歌が得意。空襲で足を悪くした。29歳。
長女・秋子:香山美子…出版社勤務。27歳。
三男・三郎:津坂匡章(現・秋野太作)…二浪して今は大学4年生。
次女・幸子:高梨木聖…大学4年生。
四男・敬四郎:あおい輝彦…浪人中。
三女・かおる:沢田雅美…高校2年生。
*
正子:小夜福子…亀次郎の兄嫁。高円寺の伯母さん。59歳。
*
お敏:菅井きん…お手伝いさん。愛子の4つ下。53歳。
*
水原トシ:西尾三枝子…洋二の恋人。
神尾光:竹脇無我…秋子の恋人。TBS局員→俳優。25歳。
西川:山口崇…幸子の恋人。高校教師。
*
黒田:小坂一也…運転手。
今日は出演者がいっぱいだー!
舞台
役者「俺はいつだってこのシャツを着てるときが最高だ。このシャツは重宝でな。これを着ると俺は人間が変わったようになるんだ。おめえらと下のバーで会ったとき、これを着とらんでよかったよ。もし、これを着ていてこのカービンを持ってたら、その場でおめえらを撃ち殺しとったろうからな。うそじゃねえぜ!」
カービン銃を持った男がベッドの上にくっついて掛ける男女に銃を向ける。
役者「おめえら、まんまとこの罠ん中に入ってきやがったな。俺は目に見えねえ南部のクモの巣を張っといたのさ。おめえら2人とも知らなかったろうが。ハッハッハッ! だが、もうおめえらも知ってしまった。おめえらの町ってのは混血の町だ」
ベッドの上にいる男が金髪ズラが三郎で隣の女の子は大手さん(田村寿子)?
何度か名前が出ていたものの実際出てきたのは今回で2回目。キャストクレジットに名前がなければ分からなかったけど。
役者「ほっつき歩くジプシー野郎がいっぱいだ! おめえらほんとのアメリカ人じゃねえ。マーシー、おめえは…」
舞台で一人芝居をしているのは坂口蓮さんという方かな。特に情報なし。
客席では待子がいびきをかいていた。武男、待子、洋二、幸子、敬四郎、かおるの順に並んで見ている。武男、洋二はちゃんとスーツ着てんのね。武男が起こそうとしたが、洋二は「この芝居は、お義姉さんは寝てたほうがいいんですよ」と言う。
武男「敬四郎やかおるに見せてもいいのか?」
洋二「来ないほうがよかったんですよ」
役者「間違いねえ。そして、この町に住んでいやがるがここがジプシーの汚(きたね)えゴミ捨て場さ。純粋な血なんぞ金輪際見られねえ」
洋二が隣の幸子に耳打ち、幸子から敬四郎、敬四郎からかおるへ。
かおる「なんですって?」
敬四郎「僕とかおるは寝たほうがいいってさ」
かおる「あらどうして?」
敬四郎「きっとこれからすごくなるんだよ」
かおる「だけど三郎兄さん腰掛けてるだけね。ちっとも動かないわ」
敬四郎「(幸子へ)三郎兄さん、腰掛けてるだけだね」
幸子「(洋二へ)三郎兄さん、いつまでも腰掛けてるの? ああやって」
洋二「(幸子へ)今にカービン銃で撃たれちゃうんだよ」
幸子「あっ、そう。(敬四郎へ)今にカービン銃で撃たれちゃうんですって」
敬四郎「ふ~ん。(かおるへ)もうじき殺されちゃうんだってさ」
かおる「あっ、そっか」
こういうきょうだいの何気ないやりとりが懐かしい。
前にお芝居を見たときは亀次郎、愛子、運転手の田村、洋二、敬四郎、かおるだった。
広縁の外にはまだ風鈴が鳴っている。広縁の椅子に掛けている亀次郎は「いいかげんに風鈴を外したらどうなんだ」と愛子に話しかける。
愛子「そうですね。もうすっかり秋ですね」
亀次郎「何を言ってんだ。とっくに秋の終わりですよ。今頃まで風鈴を鳴らしてるうちがどこにありますか」
愛子「いいじゃありませんか。私、その風鈴の音(ね)は好きですよ」
今日の愛子さんは着物に老眼鏡で繕い物。やっぱり暑い時期は洋服ってこと?
亀次郎「夏のもんですよ、風鈴は。隣で笑っていますよ」
愛子「隣は隣ですよ」←愛子さんは一貫してこの考えだったね。
亀次郎「とにかくもう外したほうがいいですよ」と立ち上がり手を伸ばすが、愛子は「いいんですよ、外さなくて」と止める。
愛子「隣がよそのうちのこと笑いますか。夫婦ゲンカばっかりしているくせに」
隣というのは猫かき病でおばあちゃんが死んだ家?
亀次郎「強情だな、お前も」
愛子「秋風が身にしみるんですか? お父さんは」
亀次郎「しみませんよ。なんだ、こんないい天気に。じつにすがすがしいよ」
愛子「退屈だったら昼寝をしたほうがいいですよ」
亀次郎「退屈なんかしませんよ。退屈はバカのすることですよ」
愛子「だってしょんぼり腰掛けてて気になるじゃありませんか」
亀次郎「なんだ、お前こそばばあみたいにほどきものなんかして、そんなものはとっととくず屋へ出しゃいいんですよ」
愛子「何を言ってるんですか。ぼつぼつ赤ちゃんの支度をしてるんですよ。お父さんの寝巻きなんかおしめにしかなりませんからね」
亀次郎「ハハハハッ、そりゃいい。そういう赤ん坊は必ず出世するぞ。お前の寝巻きじゃ雑巾ぐらいにしかならないからな。ハハハハッ、ああ、おかしいおかしい」
愛子「ハハハッ。バカバカしい。そんなこと言ってりゃ退屈しませんよ」
亀次郎「いや、しかし気になるな、この風鈴は」
愛子「三郎が買ってきてくれたんですよ。中学のとき、修学旅行で京都へ行って」
亀次郎「あっ、そうか。それがまだあったのか」
愛子「その風鈴が鳴ってるうちは、まだまだ三郎がそばにいるような気がするんですよ。みんな勝手にどんどんどこか行っちゃいますからね。せめて初孫のおしめでも作ってりゃ幸せですよ」
亀次郎「んっ、そうだ。わしも手伝ってやるよ」と愛子のいる茶の間に移動。「これもほどくんだろ?」
愛子「いいんですよ、お父さんは」
亀次郎「いいことありませんよ。なんだ、自分ばっかりいいおばあちゃんになろうと思って」
愛子「ダメなんですよ。それはもう雑巾にしかならないんですよ」
亀次郎「雑巾はお前ですよ。そっちをよこしなさい」
愛子「うるさい人ですね」
亀次郎「うるさいんじゃありませんよ。こういうことは仲良くやるんですよ。隣の夫婦を見てみなさい。なんだ、あのケンカのしかたは」
黒田が茶の間に顔を出し、今晩は松茸ごはんとお敏さんが言ってましたけど、もうお米といでおかなくていいんですか?と聞いてきた。愛子は黒田にあのカップ10杯でいいわとといでおくよう頼む。黒田は「お茶でも入れ替えますか」と入ってきた。亀次郎はハサミを持って格闘中。
黒田「社長もお手伝いですか」
亀次郎「そうなんだよ。孫のおしめじゃしかたがないよ」
愛子「何言ってんですか。いいって言うのに退屈だもんだから」
亀次郎「退屈はバカがすることですよ」
黒田「いいおじいちゃんとおばあちゃんですね」
亀次郎「まあな」
愛子「とうとうこんなことになっちゃったんですよ」
亀次郎「なるのが当たり前ですよ」
愛子「当たり前でもちょっと寂しいわね。やっぱり人生の秋ですよね」
亀次郎「ほらどうだ。秋風が身にしみてんのはお前のほうじゃないか」
愛子「お互いさまですよ」
亀次郎「ヘヘーンだ」
黒田「だけどいいですね。本当にいいと思いますよ」
亀次郎「そりゃそうさ」
愛子「何がいいの?」
亀次郎「そんなことは聞かなくたって分かってますよ。なあ? 黒田君」
黒田「はあ」
愛子「そうかしら」
亀次郎「そうに決まってますよ。こんな年になってこんなに仲のいい夫婦がどこにいるんだ。なあ? 黒田君」
黒田「はあ」
亀次郎「ハハッ、こうやって孫のおしめは仲良く作るし、たまには肩を揉んだり揉まれたり」
愛子「うそですよ。揉ませるほうですよ、お父さんは」
亀次郎「揉みますよ、たまには」
愛子「あら、そうだったかしら」
亀次郎「なんだ、この恩知らずは」
愛子「いつもこれなんですからね」
黒田「これがなかなかないんですよ。じゃ、お茶を入れてきます」
亀次郎「あっ、今日もお敏は捜しに行ったのか?」
黒田「ええ、もうよしなさいって言うのに」
亀次郎「いや、そりゃまあ捜すに越したことはないけど」
黒田「すいません。ちょいちょい出かけちゃって」
亀次郎も愛子も「そんなことはいいんですよ」とそれぞれ言う。
黒田「でも無駄足に決まってるんです」部屋を出ていく。
愛子「お敏さんも夢中なんですよ。黒田さんの子供のことでは」
亀次郎「それがあの女のいいとこだよ」
電話が鳴り、黒田が出た。「なんだ、お敏さんか」
お敏「あんた、分かったのよ! 子供さんのいる所が分かったのよ」と今、ここにいるのよと横浜の高風(こうふう)子供園でやっと捜し当てたと言った。
kofu-kodomoen.hakuho-kai.ed.jp
昭和21年3月、戦災孤児や浮浪児の家庭に代わる家として開設された実在の場所。
お敏「さあ、健坊、お父ちゃんって言いなさい」
前任運転手の田村の子供も健坊だった。
黒田「健坊、お父ちゃんだよ」
お敏「さあ、健坊、大きな声で言わなきゃダメじゃないの」
黒田「健坊」
お敏「どうしたのよ。お父さんが健坊、健坊言ってんじゃないの」
黒田「健坊、お父ちゃんじゃないか」
お敏「ほら、どうして言わないの。バカね、坊やは」
黒田「バカじゃないよ」
お敏「そんなことは分かってますよ。さあ、坊やはお利口だからお父ちゃんって言いなさい。ねっ。ほら、大きな声でね」
健「お父ちゃん」
黒田「健坊…」
茶の間から出て背後で話を聞いていた亀次郎と愛子。
亀次郎「黒田君、おめでとう」
黒田はお敏に「ありがとう」とお礼を言うが、お敏は坊やをうちに連れて帰れないと言う。いろんな規則があるせいだと聞き、黒田と亀次郎は車に乗って横浜へ向かう。
黒田「すいません、せっかくの日曜日に」
亀次郎「いや、日曜日だからよかったんだよ。とにかくどうでもこうでも子供をつれてこなきゃしようがないからな」
1969年10月12日(日)かな。ちょうど今の季節とリンクしてる。
黒田「うるさい規則があるんですね。男親一人じゃ渡してくれないなんて」
亀次郎「結局、子供のためを思って、そういう規則があるんだな」
黒田「渡してくれるでしょうか」
亀次郎「大丈夫だよ。人手のない貧乏人じゃあるまいし、わしが保証人になれば大丈夫だ」
黒田「ありがとうございます」
亀次郎「君はやっぱりわしの思ってたような人間だったよ。わしの目に狂いはないさ」
黒田「私の目だって狂いはありませんよ。社長はこういう人だって分かっていたんです」
呼び鈴が鳴り、愛子が裏玄関を開けると正子だった。裏門が呼び鈴だったのか。
愛子「あらまあ珍しい。さっぱりだったじゃありませんか」
お敏にうなぎを先に食べさせて、うなぎを食べ損ねた日。前回は電話の声のみ。
正子「だって来れないわよ。あの三郎さんの金髪じゃ」
愛子「まあどうぞ上がってちょうだい」
それにしても今更ながら鶴家の嫁同士はいい関係だね。
覚悟を決めてきたという正子だったが、愛子一人だと聞き、わけを聞こうとしていると、インターホンの呼び出し音が鳴り、正子は茶の間へ。愛子がインターホンに出ると、谷村と名乗るかおるに用のある男の声だった。
谷村「さあ、なんて言ったらいいのかな。蓼科のセレナーデの男ですよ」
愛子「あら。じゃあ、かおるが捜していた…」
谷村「ええ、友達からかおるさんが捜してるって聞いたものですからね」
愛子が表門へ出ようとすると電話が鳴った。正子が電話に出た。
電話は大手と名乗る男。「私はですね、一度お宅へお邪魔したことのある大手ですよ」
この時も電話をかけてこれから来ると言ってたけど、洋二の家出でドタバタして、本当に来た描写はなかった。
正子「じゃあ、あの女子学生の」
大手「鈴子(すずこ)の父ですよ。今、田園調布の駅前にいるんです。これからお伺いしますが、ご主人、ご在宅ですか?」
正子「いいえ、あいにく留守なんです」
愛子が蓼科のセレナーデを連れてきた。正子は電話を代わろうとしたが電話が切れてしまった。正子がこれから大手っていう女のお父さんがこれからこのうちへ来ると報告。亀次郎が留守だと言っても待たせてもらうと言っていた。
愛子「また怒鳴り込んでくるのかしら」
正子「こっちだって怒鳴ってやりゃいいんですよ。大体、だらしがないのはお互いさまですよ」
谷村「いいんですか? 私も待たしていただいて」
愛子「ええ、いいんですよ。ほら、かおるが蓼科でお会いした人」
正子「ああ、セレナーデの」
谷村「あっ…困ったな。そんなに覚えていてくださると」
谷村:岡本富士太
以前、予備校で敬四郎と杉本が出会ったガリ勉君とは別の役。
インターホンの呼び出し音が鳴る。もう大手が来たのかと正子が表門へ。愛子は谷村をテラスへ案内する。「短いお芝居だそうですから、間もなく帰ってくると思うんですよ」
谷村「かおるさん、芝居も好きなんですか」
愛子は好きなわけじゃない、大学へ行ってる兄が学生芝居をやってるから面白半分に見に行ったと答えた。お芝居は今日で終わり。
谷村「へえ、このうちの人はみんな面白いんですね」
愛子「あら、そうですか?」
谷村「かおるさんもロマンチックだし、そのお兄さんもロマンチックなんでしょ?」
愛子「まあ、苦労知らずの甘ちゃんですよね」
谷村「その甘いところがいいんですよね」
愛子「あなたもやっぱり学生さんですか?」
谷村「いえ、とんでもない。肉体労働者です。洗濯屋ですよ」
愛子「えっ、洗濯屋さんですか」
谷村「どうぞよろしく。御用聞きですよ」
愛子「ああ、そうですか」
正子が愛子を呼ぶ。今日はゴチャゴチャですよと幸子さんの好きな人が来たと言う。
愛子「じゃあ、西川先生が見えたのね」
正子「真剣な顔よ。まあ、ちょっと行ってらっしゃい」
愛子は玄関へ。
谷村が正子にかおるの母の名が愛子というのかと聞いてきた。正子がそうだと言うと「やっぱり違うんだな。どうりで甘いと思ったな」と一人納得。正子が何が違うのか聞くと、雰囲気だと答え、お母さんもロマンチックなんでしょ?と聞く。正子、ポカーン。
広間へ通された西川。「いきなりお父様にお話しするよりもお母様からお伝えしていただいたほうがよかったのかもしれないんですが」
愛子「幸子のことでしょうか」
西川「はあ。幸子さんの就職も決まったそうですし、僕のほうもやっとさっぱりしたもんですから」
愛子はソファに掛けるように言い、お茶を持ってこようとする。
西川「いいえ、お母様。今度こそお茶になっちゃ困るんです。僕もそのつもりでお伺いしたんです」
愛子「でもお茶ぐらいいいじゃありませんか」
西川「いいえ。お母様一人じゃ大変ですからどうぞお掛けになってください。僕の話は簡単なんですから」
愛子「じゃあ、まあ失礼して」
広間に入って来た正子がお茶でいいのかしら?と聞きに来たが、お構いなくと西川が答えた。しかし、愛子がコーヒーを提案するとあっさり、いただきますと頼んだ。
コーヒーはインスタントかしらと広間を出てきた正子に谷村がトイレの場所を聞いた。お手洗いは玄関のすぐ左。正子が台所に入ると呼び鈴が鳴る。
広間
愛子「そうですか。それはどうしたもんでしょう」
西川「いいえ。簡単なんです。幸子さんが就職さえしなければいいんです」
愛子「でもせっかく決まったばかりですし」
西川「ですから僕も慌てたんです。その会社はせめて3年は独身でいてほしいと言ったそうじゃありませんか」
愛子「いいえ。子供さえいなければいいんですよ」
西川「それが困るんですよ。田舎の父は孫の顔が早く見たいって言うんです。それが条件で前の縁談もはっきり決着をつけてくれましたし。少しですが、僕のもらい分も分けてくれることになったんです」
愛子「大変結構なお話ですけど…」
西川「ですから簡単なんですよ」
う~ん、西川先生、なかなかヤバい人じゃないの。
正子が広間へ。「愛子さん、今日はどういう日なの。神尾さんが見えたんですよ」
愛子「おやまあ」
西川「神尾さんって秋子さんの婚約者の方ですか?」
愛子「ええ、そうなんです」
正子「やっぱり真剣な顔してるんですよ」
神尾「真剣ですよ、僕は」
正子「あら…」
愛子「神尾さん、いらっしゃい」
神尾「今日は折り入ってお話があるんです」
西川「神尾さん、先日はどうも」
神尾「ああ、こちらこそ」
愛子「そうそう、お会いしたことがあったんでしたね」
西川「あの晩ですよ。僕が酔っ払ってこのお宅へお邪魔した」
あの夜は神尾と幸子が酔っ払って帰って来たんじゃなかった?
正子「じゃ、一緒でいいじゃありませんか」と神尾が西川の隣に掛ける。
谷村・ジュース
西川・コーヒー
神尾・コーヒーをやめてるから日本茶
広間から出た正子はトイレから出た谷村からトイレの紙がありませんよと指摘された。あっ、そうですか。ありがとうと軽く流して行ってしまう正子に「今度入った人、困るだろうな。つい、うっかりして…」と独り言を言う谷村。
インターホンの呼び出し音が鳴り、正子が表門へ。
谷村「忙しいんだな、このうちは」
広間
神尾「おばあちゃんに怒鳴られちゃったんですよ。少しだらしがないって。ですから、今日は秋子さんとはっきり話を決めようと思って来たんです」
西川「僕もそうなんですよ。やっと決心がついたんですよ」
神尾「僕のほうはとっくに決まってたんですよ。それを秋子さんはいちいち僕のすることに反対するもんだから」
愛子「あんな週刊誌の事件がなければ反対しなかったんですよ」
神尾「とにかく秋子さんはどこへ行ったんですか?」
愛子「編集長の奥さんが8年ぶりに初めての赤ちゃんを産んだんですよ。そのお祝いを持っていったんですよ」
期待感がある場合や実現するまでに相当の努力が払われ、しかもそのことが起こるまでに心理的に長い時間の経過がある場合には、必ずしもその状態が再現されなくても使う場合があります。
(例2)「着工以来、15年ぶりに開通」
神尾「人の赤ん坊より早く自分の赤ん坊を産んだほうがいいんですよ」
西川「そりゃそうですよ。僕だって早く初孫が出来なきゃ困るんですからね」
見た目は最高なのに言うことは最低のやつらだな。
正子が愛子を呼ぶ。姿を見せたのは水原トシ。「しばらくです。突然お伺いいたしまして」
相変わらずの美人だけど、顔色悪い。
今日はおわびに伺ったんですと暗い表情。
愛子「私も一度お目にかかりたいと思ってたんですよ」と案内しようとするが、お客様がかち合い、どこに案内しようかと言っていると、またインターホンの呼び出し音が鳴る。
トシ「あの…よろしいんでしょうか、私」
愛子「いいも悪いも…三郎から聞いただけですけど、もう洋二のことは構ってくださらないんだそうですね」←別れたの婉曲表現? いいね。
トシ「そのほうがいいんじゃないかと思って」
こちらへと歩いていくと、電話の裏のスペースのマッサージ椅子に勝手に座ってる谷村。「いいですね、この椅子は」
愛子「じゃ、どうぞごゆっくり」
トシはテラスに通された。
愛子「あなたが洋二から離れていったのは洋二のためを思ってそうなさったんですか?」
トシ「私、どうしたらいいのかわけが分からなくなっちゃったんです。いろんなことが」
正子がテラスにやって来た。今度も大手ではない。駅前からなら歩いたって10分もかからないのに、来たのは敬四郎のお友達で敬四郎にお寿司は儲かると言った子だった。
正子「は~あ、まあまあなんて忙しいうちかしら。ちょっと一服しなきゃたまらないわ」とテラスのトシの向かいに掛ける。
トシ「洋二さんから伺ってました。高円寺のおば様ですか?」
正子「ええ、そうですよ。だけどあんた、どうして洋二さんを振っちゃったのよ」
トシ「いいえ、そうじゃないんです」
ガラス1枚隔てた部屋だから何となく話を聞いてる谷村。マッサージも終わり、敬四郎の友達が愛子に連れられてきた。「いいでしょ? 若い人同士だから」
谷村「ええ、そりゃ」
愛子が谷村と寿司屋の娘を紹介する。敬四郎のお友達の寿司屋の娘さん…名前は?
谷村「やっぱり奥さんはロマンチックですね」
愛子「おや、そうかしら」
谷村「だって僕は洗濯屋の店員でしょ。この人はお寿司屋さんでしょ。ちょっと不思議な縁ですよね」
そういや、寿司金の息子と洗濯屋ハープの娘も恋仲になったし、縁はあるのかもしれない。
寿司屋の娘:荘司洋子
喫茶店で三郎と話してたミナコとは別人。これから「3人家族」にも出てくるよ。
トシと話をしていた正子が「大変な誤解よ」とテラスから出てきた。「水原さんはやっぱり洋二さんが好きなんですよ。恋愛と学生運動の板挟みなんですよ。まあちょっとこっちへいらっしゃいよ」とテラスへ。
谷村「すごいなあ、やっぱり。恋愛だってさ」
広間
西川「しかし、お茶もコーヒーもさっぱり来ませんね」
神尾「あのおばちゃん、調子がよすぎるんですよ」
西川が神尾の肩をポンポン。それにしてもこの2人を一緒にしとくなんて分かってるなあ。眼福、眼福。
愛子がトシを連れて隣のテラスから移動してきた。「こちら水原さんなの。いいでしょ? ご一緒でも」
西川・神尾「どうぞ」
トシ「失礼します」
愛子「神尾さんも西川先生もこの方のことは知ってるでしょ?」
神尾・西川「ええ」
正子「とにかくホッとしたわよ。ねえ? お母さん」
なんで前回からおばちゃんは愛子さんをお母さんと呼ぶの?と思ったけど、愛子が子供に「高円寺のおばちゃんですよ」と言うのと同じことか?
愛子「とにかくお願いするしかありませんよ。子供の失恋は嫌ですからね」
神尾「失恋しかかってるのは僕じゃありませんか。お願いしたいのはこっちですよ」
愛子「失恋なんかするもんですか。秋子の気持ちは決まってるんですよ」
西川「幸子さんの気持ちはどうなんですか? 僕のほうは実に簡単だと思うんですけどね」
愛子「簡単だもんですか。あなたの話が一番ややこしいんですよ」
谷村がブーブー鳴ってますよと広間に知らせに来た。
愛子「今度こそ大手さんでしょうね」
正子「どこを歩いてたのかしら」と玄関へ。
神尾「大手さんって誰ですか?」
愛子「それが困っちゃうんですよ、三郎には」
神尾「ああ、じゃあ、一緒に芝居をしている彼女ですか」
愛子「その彼女が彼女だかどうかはっきりしないんですよ」
谷村「やっぱりこのうちはロマンチックだなあ」
神尾や西川に見られて「いや、失礼しました。毎度どうも!」と出ていった。
神尾「誰ですか?」
愛子「かおるの憧れの人ですよ。洗濯屋さんですって」
西川「じゃあ、セレナーデの君ですね。聞きましたよ、幸子さんから。我が家は上から下までポーっとしてるって言ってましたからね」
愛子「ポーっとしっぱなしじゃ困るんですよ」
神尾も西川もよく知ってるね。そして、神尾は知らない人はすぐ聞く。
正子に呼ばれて愛子は玄関へ。
愛子「あっ、いらっしゃいまし」
大手「いや、奥さん、ひどい目に遭いましたよ。この前、伺ったときに駅から近くだと思って歩いてしまったんですがね。ハハハ…どうしてどうして。田園調布の道は分かりにくいですな。とんでもない所へ行っちまいましてね」
正子「駅前のタクシーにお乗りになればよかったんですよ」
愛子「すぐなんですけどね」
大手「そこがつい商人のケチなとこでしてな。ヘヘヘ…。ああ、こちらの奥さん初めてでした。あの…わたくし、こういうもんで、え~紙入れは…あっ、すられるといけないと思って腹の中へ、この…。え~、こういう者です。どうぞよろしく」
腹の中から出し、ペロッとなめた名刺…
正子「はあ」
大手「金沢で呉服屋をやっておりましてな。ちょっとした老舗ってとこですかな」
正子「そりゃまあ結構ですわ」
大手「商売もなかなかどうしてどうして」
大手:三島雅夫
おおー! 最後の最後に「おやじ太鼓」の世界に三島雅夫さん! あのソフトな語り口調がたまらん。
愛子「大変失礼ですけど今日はお客様がかち合ってしまいまして」
大手「大繁盛ですか」
愛子「恐れ入りますけどご一緒に」
大手「ええ、かまいません、かまいません」
愛子「どうぞ」
大手「ああ、そうだ奥さん。いい顔ばかりもしてはいられないんですよ。とにかく私はね、金沢からびっくりして駆けつけたんですがね、それというのもですよ、東京の親戚の者が目回して電話かけてくれたんですよ。なんですか、あの芝居は。エロと言っていいのか、グロと言っていいのか…」
正子「まあまあ、廊下の立ち話もなんですから…」
大手「立ち話でもいいんですよ。結婚する気があるのかどうか、それさえはっきりしてくれれば」
愛子「まあまあ、そういうお話でしたら、なおさらどうぞさあ」
大手「それもそうですな。いや、驚いたのなんのって」
敬四郎たちが帰ってきた。正子は「お母さんと私でてんてこまいだったのよ」と報告。
谷村「やあ、かおる君」
かおる「あら、谷村さん」
谷村「やっと会えたよ」腕をつかんでひと回転。
敬四郎「なんだ、君も来てたのか」
寿司屋の娘はセリフなし。
広間
大手「とにかく若い者の恋愛は心配で心配で、フフッ。いや、真面目ならいいんですよ、真面目ならね。うん。ねっ、奥さん」
愛子「はあ、そりゃもう」
雄一に語る耕作パパ。
武男「ただいま」
愛子「あっ、おかえり」
武男「いらっしゃい」と広間の面々に頭を下げる。
幸子「西川先生」と駆け寄り、立ち上がった西川と握手。
広間に入ってきた洋二がトシを見つける。「君も来てたのか」
トシ「すいません」
洋二の大きな手がトシの肩に。愛子も笑顔で見守る。しかし、トシのテンション低い。
武男「お母さん、待子を褒めてやってください。ビフテキを食べたんですよ。こんな大きいのを」
愛子「まあ」
待子「赤ちゃんのためですもの」明るいオレンジのワンピースで秋らしい。
武男「偉いでしょう? 待子は大した女房ですよ」
愛子「大丈夫だった?」
待ち人の来ない神尾と大手はキョロキョロ。武男は愛子に玄関に行くように言う。
裏玄関では正子が三郎に「とにかく上がりなさいよ。自分のうちじゃないの。それにもう金髪じゃないんだから平気よ」
三郎「だけど、追い出されるなら、ここのほうが便利だからね」
正子「そんなことないったら」と腕を引っ張る。
愛子「三郎」
三郎「あっ、お母さん」
愛子「ちょっといらっしゃい」と茶の間へ引っ張っていく。
秋子帰宅。
正子「彼氏がねじ込んで来てますよ。さあ、早く広間へいらっしゃい」
秋子「色男ぶってんでしょ。俳優のまね事は三郎一人でたくさんだわ」
広縁で風鈴を見ながら
愛子「お母さんはみんながそれぞれ幸せになってくれればいいのよ」
三郎「でも、僕は将来芝居をやっていきたいんですよ」
愛子「いいじゃないの、やれば」
三郎「いいんですか? お母さん」
愛子「それしかないわよ。一番好きなんだもの」
三郎「ありがとう、お母さん」
愛子「さあ、もう風鈴を外しましょうかね」
風鈴を片付けないのは愛子さんなりの願掛けだったのかな。
銅鑼の音が鳴る。
正子「お母さん、お母さん、お父さんのお帰りですよ!」
表玄関にかつてないほど人が集まる。洋二兄さんより西川先生のほうがちょっと背が高い。いや、神尾も同じくらいある。3人とも175cm前後というところか。
敬四郎「さあ、帰りましたよ」
一同「おかえりなさい」
亀次郎「おお、みんな来てたのか。どうだ、坊や。ここのうちは面白いぞ。雷おやじがいるんだ」
一同の笑い声
亀次郎「ほら、愛子。また世話の焼ける子供が1人増えたよ」
愛子「上がって…」
亀次郎「ああ、はいはい、ハハハッ。ほら、うん? お兄ちゃん、お姉ちゃん、お兄ちゃん。ほら、うなぎの好きなおばちゃんもいるんだよ」
一同の笑い声で終。
はー! 終わってしまった。面白かったなあ。最後の最後に神尾と西川先生の2ショットをありがとうございます。
〇年後ラストって割とさめるのでそうじゃないのが本当によかった。待子さんの子供も1970年2月生まれでもう53歳か。
最終的な間取り図。トイレはドアを開けると複数あると設定しました。最後まで風呂場がどこにあるか不明だったけどね。
あしたから山田太一脚本の「兄弟」が始まります。CSの日本映画専門チャンネルで数年前に山田太一特集として繰り返し「3人家族」「兄弟」「二人の世界」を放送していました。そのなかで「兄弟」を最初に見たので、印象深い作品です。簡素な感想は以前残しているので今回は鑑賞のみということにします。
CSは1話の間にCMが挟まらないので見やすかったな~。当時は単発の2時間ドラマの再放送をよく見ていたせいか、4話のまとめ再放送も気にせず見ていました。今度は1話ずつじっくり見たいと思います。
「おやじ太鼓」のにぎやかさや「3人家族」「二人の世界」の華やかな主演2人に比べると、「兄弟」はちょっと地味に見えるかもしれませんが、私は好きなんです。静男と順二のお父さんがいい味出してます。