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【ネタバレ】木下恵介アワー「おやじ太鼓」 #47

TBS  1969年6月10日

 

あらすじ

 

鶴 亀次郎は裸一貫からたたき上げ、一代で築いた建設会社の社長である。ワンマンで頑固一徹な亀次郎は子どもたちに"おやじ太鼓"とあだ名を付けられている。この"おやじ太鼓"、朝は5時に起き、夜は8時になるともう寝てしまうが、起きている間は鳴り通し。そんな亀次郎をさらりとかわす7人の子どもたちに比べて、損な役回りはお手伝いさんたち。ひと言多いばっかりに、毎日カミナリを落とされる。

2023.9.14 BS松竹東急録画。12話からカラー。DVDは第1部の39話まで収録。

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鶴家

亀次郎:進藤英太郎…大亀建設株式会社を一代で立ち上げた。62歳。

妻・愛子:風見章子…良妻賢母。57歳。

*

長男・武男:園井啓介…亀次郎の会社で働いている。31歳。

妻・待子:春川ますみ…正子の紹介で結婚。

*

次男・洋二:西川宏…ピアノや歌が得意。空襲で足を悪くした。29歳。

長女・秋子:香山美子…出版社勤務。27歳。

三男・三郎:津坂匡章(現・秋野太作)…二浪して今は大学4年生。

次女・幸子:高梨木聖…大学4年生。

四男・敬四郎:あおい輝彦…浪人中。

三女・かおる:沢田雅美…高校2年生。

*

正子:小夜福子…亀次郎の兄嫁。高円寺の伯母さん。59歳。

*

お敏:菅井きん…お手伝いさん。愛子の4つ下。53歳。

 

鶴家の前に止まる日産プレジデント。ちゃんとロゴが見えるように止めるんだよね。インターホンの呼び出し音が鳴り、運転手・田村の「社長のお帰り~!」の声が響くが、反応なし。久しぶりの田村さんとはいえ、声だけだからかキャストクレジットに名前なし。

 

別宅ではお敏と待子の笑い声が聞こえる。

お敏「ああ、おかしい! どうしてこっちのうちへ来るとこんなにおかしいんでしょ」

待子「お敏さんが変なこと言うからよ」

お敏「あらやだ、私じゃありませんよ。若奥様が素っ頓狂なんですよ」

待子「あら、そうかしら」

お敏「そうなんてもんじゃありませんよ。食パンの中にたわしが入ってたなんて…」

二人で大笑い。食パンの中にたわし…どういう状況!?

 

裏玄関の戸を勢い良く開けて亀次郎が「こら、バカ!」と怒鳴る。「家じゅう誰もおらんのか」と靴を脱ぎ捨て、「お敏!」「愛子!」と呼びながら服を脱ぎ散らかしていく。

 

お敏「ああ、面白かった。たまには油を売らなきゃ」

待子「お敏さん、タバコ」

お敏「あっ、そうそう。いつもこれで損するんですよ。あっちへ置いたりこっちへ置いたり、いつの間にか誰かに吸われちゃうんですからね」

待子「あんまり吸わないほうがいいわよ。毒よ」

 

この時代だってこういう考え方があったんだろうに、喫煙率は高い。

 

お敏「毒を食らわば皿まで、ですよ。どうせこのうちにいたら立つ瀬はないんですからね。生きてるうちが花ですよ。もっとも花の盛りはとっくに過ぎちゃいましたけどね」

待子「ハハハ…」

お敏「笑い事じゃないんですよ」

またまた二人で笑う。姑の愛子より面倒そうなお敏を攻略した待子は有能。黄枝子なら周りにいるあらゆる人と対立してそうな気がする。

 

本宅の茶の間では亀次郎がズボンを脱ぎ捨て、ネクタイも投げ捨てる。

 

ご機嫌に裏玄関に入ってきたお敏。「アラ、エッサッサーだわ、ほんとに。誰さ、この靴の脱ぎ方は。♪ラーラ ランラン ラララ。あらまあこんな所に上着を。なんてバカがいるんだろ」と拾い上げるが、「あっ、この上着は…」。

 

亀次郎に気付かれ、「どこ行って油を売ってたんだ。家じゅう空っぽにして」と怒鳴られる。

お敏「すいません、ちょっとお隣へ」

亀次郎「ちょっとやひょっとじゃありませんよ。泥棒が入ったらどうするんです」

お敏「はい。大急ぎで交番へ」

亀次郎「交番じゃありませんよ。110番ですよ」

お敏「あっ、そうでした、そうでした。火事のときは119番です」

亀次郎「ほんとにお前ときたら、アホらしくて怒鳴るのも嫌になっちゃう」

 

お敏に脱ぎ散らかした服を片付けるように言い、愛子はどこに行ったのか聞く。

お敏「さあ、どこへいらしたんでしょう」

亀次郎「バカ! 行き先も言わないでうちを空けるバカがあるか」

お敏「はあ」

 

橋田ドラマでもおなじみ家を空けるときはどこに行くか報告しなければいけない問題。家族それぞれが合いカギを持ってという時代じゃないのね。「岸辺のアルバム」でも則子が家にいるときも鍵をかけてたし、帰ってきた人が中から施錠するシーンも毎回描写されてたな。

 

亀次郎「土曜日ならわしが早く帰ってくるぐらい分からんのか」

お敏「でもまさか、こんなに早くお帰りとは…」

亀次郎「うるさい! まさかもヘチマもあるか。お茶をいれなさい」

 

今回は1969年6月7日(土)だと思います。

 

お敏は亀次郎に顔を洗うように言う。

亀次郎「分かってますよ。顔だって手だって洗いますよ。ったく本当にどっちが主人だか分かりゃしない」

 

一人になったお敏は「そうでしょうかね。それが分からなきゃよっぽどもうろくしてるんですよ。怒鳴ってるほうが主人に決まってますよ」とぼやく。

 

しかし、水道の工事中で水が出ない。お敏はお風呂にくみこんでいたというがお風呂も空っぽ。お敏は台所のくみ置きを持ってきますと走る。

 

亀次郎「家も風呂も空っぽで愛子も愛子だ」

 

愛子がいるのは中華料理屋。木下恵介アワーで家族で外食というと中華料理屋。「3人家族」だと舞台が横浜だからかなと思ったけど、他の作品は違うし、そういうことでもないみたい。

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木下恵介アワーではないけど、「岸辺のアルバム」もそうだった。大体最終回で出てくることが多いけど、「おやじ太鼓」は初回から中華料理屋。家族や大人数で来るなら中華料理、カップルだとフランス料理という感じかな。

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愛子「さあ、お母さん、もうおなかいっぱいだから、あんたたち食べてちょうだい」

洋二「食べてますよ。こんなごちそう久しぶりだもの」

三郎「油が切れちゃってね、骨の関節がギーギー鳴るんですからね」

正子「うそおっしゃい。おばちゃんがちゃんとごちそうしてるじゃないの」

三郎「そりゃまあね」

正子「まあねじゃありませんよ」

愛子「そうですよ」

正子「今日は肉にしようか魚にしようか、それだってフライにしたり、バター焼きにしたり、随分、栄養には気を遣ってんのよ」

三郎「そうそう。コロッケがよく出るよね。ほら、肉屋で売ってる、あれ」

正子「あればっかりじゃありませんよ。シューマイだってギョーザだって」

愛子「贅沢言ったらバチが当たりますよ」

正子「そうですよ。だからうちを追い出されたんですよ」

三郎「そんなバチならもっと早く当たればよかったな。ねえ、洋二兄さん、そう思わない?」

正子「まあ、あきれた」

洋二「思わないこともないけど、お前とはちょっと違うよ」

愛子「そうですよ。てんで生き方が違いますよ」

三郎「どうして?」

正子「あんたはだらしがないの。洋二さんはしっかりしてますよ」

三郎「そりゃ随分不公平だな」

愛子「不公平じゃありませんよ。どっちが真面目かってことですよ」

三郎「真面目ですよ、僕は」

 

愛子、正子、洋二、三郎という組み合わせ。三郎は正子のアパートにいるのかな。食事つきなら一人暮らしも楽よね。きっと掃除や洗濯なんかもしてもらってるだろうし。

 

しかし、正子は大手という女の子には好感を持ってない様子。

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大手の父は結局鶴家には来たんだろうか?

 

洋二「真面目に交際しなきゃダメだよ」

三郎「してますよ」

正子「それにしては帰りが遅すぎますよ。送っていったり迎えに行ったり、ゆうべだって、あの子が帰ったのは11時過ぎじゃないの」

愛子「まあ」

 

三郎はため息をついてビールを一気飲みして、ビールを注文する。前にイネさんが飲んでたときも相手はしてたけど、飲んではなかったような。敬四郎は飲んでたけどね。

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洋二に「よせよ、お前は」と止められるくらいだし。

 

三郎「どうしてですか? 洋二兄さんだって彼女のためにうちを出たんでしょ。僕だって彼女のために出たんですからね」

正子「出たのと追い出されたのとは大違いですよ」

三郎「おばちゃんったら」

正子「そうじゃないの」

三郎「いいんですか。そんなこと言っても。僕を養子に欲しいんじゃないんですか」

正子「真っ平ですよ。あんな大手なんて女の子がくっついてて」

三郎「あきれますよ、おばちゃんには」

 

無理して食べようとしている三郎に洋二は「無理するなよ。残ったら僕が夕ごはんに持って帰るよ」と言い、愛子もそのほうがいいと同意、正子はおかずをチョイスし始める。愛子はもうお茶にした方がいいと三郎を止める。

 

洋二「このごちそうだって、お父さんの支払いだもの。お父さんのおかげですよね」

正子「そうですよ。徒や疎かには食べられませんよ」

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三郎「どうりで奥歯に物が挟まっちゃう。あっ? あっ?」

愛子「あきれますよ、あんたには」

 

正子は洋二と三郎はどうしてこんなに違うのかと三郎を呆れた目で見る。

洋二「違いやしないですよ、本心は」

正子「いいえ、大違い」

三郎「おばちゃん、そんな力を込めて言わなくたっていいでしょ」

正子「言いたくもなるのよ」

三郎「失礼な」

愛子「言いたくもなるのよ、お父さんだって」

 

今日は土曜日だから早く帰ってくるんじゃないんですか?と聞く洋二にいつも忙しくて遅いのだと愛子が答える。

洋二「お父さんも大変だな」

愛子「そう思ったら一度顔を見せるのよ。お父さんだって会いたいのよ」

三郎「さあ、そりゃどうかな」

愛子「どうかなってことがありますか」

 

うなぎを食べていったことをまだ気にしている正子。

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洋二「頑固だからな、お父さんは」

正子「頑固も頑固。あんな頑固な人はニューギニアへ行ったっていないわよ」

三郎「変なとこでニューギニアが出るんですね」

正子「出るわよ、おばちゃんだって。ニューギニアには人食い人種がいるんでしょ?」

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1961年、ニューギニア島のアスマット族がマイケル・ロックフェラーを殺害し、食べたとされる事件があった…けど、10年近く前のことを今、持ち出したんだ?

 

人食い人種に例えられて、洋二もお父さんもかわいそうにと苦笑。

三郎「かわいそうなのは僕じゃないのかな」

正子「あんたなんかちっともかわいそうじゃありませんよ。好き勝手なことをして。寝るとこだって一番いい部屋を空けたんじゃないの」

三郎「分かってます、分かってます。おばちゃん、ありがとう。実にありがとう」

正子「口先ばっかりなんだから」

 

洋二は三郎を海千山千だという。

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愛子「でもね、おばちゃん。ほんとにありがたいと思ってるんですよ」

三郎は今晩、おばちゃんの肩を揉んであげると調子のいいことばかり言う。

 

洋二「ねえ、お母さん。お父さんによろしく言ってくださいね」

愛子「よろしく言うよりも自分で顔を見せるのよ」

洋二「でもそれは…」

愛子「もしなんだったら電話でもいいのよ。それだってお父さん安心するわよ」

正子「そうね。電話なら怒鳴られたって大したことないものね」

愛子「怒鳴るもんですか。なまじそのほうがいいかもしれないのよ。お父さんだって照れくさくないものね。電話なら顔が見えないものね。お父さん、ああ見えてもとてもはにかみ屋なのよ」

三郎「さあ、そりゃどうかな」

愛子「どうかな、じゃないのよ。お父さんのことは私が一番よく分かるのよ」

三郎「でも、あの顔でしょ?」

愛子「あの顔だっていいとこがあんのよ。ヒゲはちょっと邪魔だけど」

 

武男の部屋のソファでいびきをかいて寝ている亀次郎。同じ部屋の机に突っ伏して待子もいびきをかいて寝ていた。帰ってきた武男はいびきの音に気付き、部屋へ入っていく。「おやおや、二重奏か」

 

武男はそっと待子を起こす。立ち上がった待子を座らせ、どうして亀次郎が寝ているのか聞くと、待子が脚を揉んだらいい気持ちになって眠ってしまったと答えた。愛子はどこに行ったのか聞く武男に洋二と三郎のとこに出かけたと言う待子。亀次郎はお敏しかいなかったため、別宅に来た。

 

武男「そりゃそうだよね。寂しがり屋なんだよ。見かけによらず」

待子「お義父様のいびきもすごいんですね」

武男「だから僕は君のいびきぐらい平気なんだよ」

待子のほっぺチョン。

武男「お母さんもこのすごいいびきに慣れちゃったんだからね」

待子「あたくしはこれほどすごくはないでしょ?」

武男「軽いよ、君のは。甘くってね」

待子「まあ、フフッ」

武男「あんパンだものね、ハハッ」

待子「フフッ」

いびきで甘くなる新婚さん。

 

お茶でも入れましょうかと言う待子を制し、「たまにはお父さんのいびきをじっくり聞くのもいいもんだよ」と武男は亀次郎の顔を見る。「起きてるときは怒鳴ってばっかりいるもの。寝てるときのいびきのほうがしんみりするよ。昔、おんぶしてくれたおやじさんらしくってね」

 

珍しい回想シーン。バラック小屋のような粗末な家から幼い武男を抱いた亀次郎が出てきた。モンペ姿の愛子が止めるが、愛子を突き飛ばし、走り出す。坊主頭のカツラにねじり鉢巻き、半纏を着た亀次郎は小さな子供たちが遊んでいる中に行き、子供たちを追いかけ、つかまえて泣かせる。着ている半纏には青林組の文字。武男も泣き止み、父の姿をじっと見ている。洋二をおんぶした愛子と武男をおんぶした亀次郎が二人並んでリズミカルに歩く。

 

この回想シーンはセリフが一切なく、キャストクレジットに子役の名前はない。武男や洋二がまだ未就学児っぽいから戦中なんだろうね。昭和18、19年ごろか。まだ洋二は空襲に遭ってない頃かも。

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亀次郎が以前語っていた貧乏の盛りだったころかな。新潟→長野→東京など転々としていたらしい。

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愛子も家を持てたのは子供を5人も持ってからと話していたから、幸子の生まれた昭和22年ごろ、田園調布に引っ越したのかな。武男や洋二は貧乏な頃もよく知ってるから両親への思いはまたほかの兄弟とは違ってそう。秋子、三郎、幸子は幼すぎてあまり覚えてないだろうし、敬四郎、かおるは生まれたときから田園調布のお屋敷住み。

 

裏玄関から帰宅した愛子はお敏に何かあったか聞いた。

お敏「旦那様がちんぷりかえっちゃって」

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静岡出身の長澤まさみさんが「ちんぷりかえる」と言ってたらしいけど、お敏さんの故郷は確か甲府

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イネの近所に住む六さんが出てきたのが甲府の山の中だからね。

 

お敏はいきなり雷を落とされ、水道の水は出ないし、お風呂の栓は緩んでるし、と愚痴をこぼす。亀次郎は隣に行ったきり。

 

愛子が手を洗ってくると席を立つと、テーブルの上に置かれたお土産に気付くお敏。「あっ、きっと中華饅頭だわ。ああ、いいにおい」と箱を持っていると、武男が入ってきた。

 

箱の包み紙から黄河大飯店だと気付く武男。あとからついてきた待子も中華饅頭だと指摘する。お敏は張り切ってお茶を入れに行く。

武男「あんパンとあんまんは違うよね」

待子「いいのよ、どっちもおいしいから」

武男「それもそうだね」

 

茶の間に戻ってきた愛子に武男と待子が亀次郎が隣で寝ていることを知らせる。お敏は中華饅頭をふかしているので、待子がお茶を入れに台所へ。

武男「だけど、あれですね。お父さんのいびきを聞いていて、つくづく思ったけど、お父さんもガックリきてるんですね」

愛子「そりゃそうよ。あれで人一倍、子煩悩なんですよ」

武男「洋二や三郎は一体何を考えてるんだろう」

愛子「今日、2人に会ってきたのよ」

武男「ああ、それで出かけたの」

愛子「おばちゃんにだって悪いしね」

 

敬四郎帰宅。

武男「敬四郎か」

愛子「あの子も何を考えてるんだか」

 

敬四郎はスーツ姿でちょっと会う人があったと言うが、女の子ではないらしい。

愛子「洋二と三郎でお母さん、クタクタよ」

敬四郎「僕のはそんなんじゃないんですよ」

しかし、敬四郎もこのうち出ていきますよと言う。

武男「バカ!」

愛子「バカなこと言うんじゃありませんよ」

敬四郎「そうじゃないんだったら」

愛子「洋二と三郎のことでクタクタだって今言ったばかりじゃないの」

敬四郎「違うんですよ、そんなのとは」

愛子「違ったって大したことありませんよ」

武男「お前はろくなこと言いださないんだ」

 

愛子は亀次郎を起こしに隣へ。裏玄関に入って来たかおるは夏休みに彼とヨーロッパに行くから、すぐ返事をしなきゃと急かす。何十万もかかるのに。

愛子「彼と彼女は真っ平ですよ」とそのまま隣へ。

 

別宅の玄関

愛子「彼だの彼女だの、お父さんとお母さんの年を考えてごらんなさい」

 

愛子が武男の部屋に入ると亀次郎が起きた。

愛子「すごいいびきだったそうですよ」

亀次郎「いびきなら待子さんのほうがわしよりすごいよ」

愛子「何言ってるんですか。自分がいびきをかいてて、人のいびきが分かりますか」

亀次郎「あのいびきで何度も目を覚ましたんですよ」

愛子「バカバカしい。お父さんのいびきで目を覚ますのは私ですよ」

亀次郎「うそ言いなさい。お前のいびきだって相当ですよ」

愛子「そりゃまあ、私だっていびきぐらいかきますよ。疲れるのはお互いさまですからね」

亀次郎「待子さんのいびきはお前よりすごいよ。いや、あれは本物だ」

愛子「いいじゃありませんか。いびきぐらい本物だって偽物だって」

亀次郎「そうはいきませんよ。鼻が悪いとか頭が悪いとか…」

愛子「そんなこと、お父さんが心配しなくたっていいんですよ」

 

待子さんのことは武男さんが心配してますよと待子が諭す。「大体、新婚の家庭に昼寝に来て、そんな嫌なこと言うお舅さんがありますか」。亀次郎は心配してるだけと言うが、愛子は余計なお世話、親が出張るところではない、もう時代が違うと言う。

 

今日はどこに行っていたと聞かれた愛子は洋二と三郎に会った来たと話し、バカだよ、お前はと返されると、「ええ、バカですよ。親バカですよ」と言う。亀次郎はつまらんいびきの話より一番先に言えばいいと言う。

 

愛子「大喜びでしたよ。中国料理をごちそうしてやったら」

亀次郎「いや、2人とも痩せこけてたのか?」

愛子「まあ、うちにいるようなわけにはいきませんからね」

亀次郎「洋二はどうだったんだ?」

愛子「元気でしたよ。三郎も相変わらずで」

亀次郎「三郎はどこにいたって元気なんですよ、あのバカ」

愛子「およしなさい。自分の子供をバカバカ言うのは」

亀次郎「親バカ子バカでいいんですよ」

 

武男が部屋に入ってきた。敬四郎、かおる、ちょうど帰ってきた幸子も加わる。

愛子「おや、ちょうどよかったじゃないの」

亀次郎「ほほう、うまそうじゃないか」

かおる「家出息子のおかげね」

亀次郎「かおる!」

愛子「バカね、何を言うの、あんたは」

武男「いけませんよ、かおるは」

亀次郎「言っていいことと悪いことがありますよ」

幸子「もっと言葉に気をつけなきゃダメよ」

敬四郎「黙ってりゃいいの。余計なこと言わないで」

かおる「だってさ…」

亀次郎「だってじゃありませんよ」

愛子「せっかく機嫌がよかったのに」

亀次郎「それほどよくありませんよ。いや、大体、この子たちはですよ…」

愛子「分かってますよ」

亀次郎「分かってなんかいませんよ」

 

電話が鳴り、みんなにお茶を入れていた待子が電話に出る。やっぱり嫁っていうのは、こんなおおらかそうな家でも働かなきゃならないのね。お敏が洋二から電話があり、別宅に電話するように言っていて、待子が洋二からの電話を受けた。

 

最初は躊躇する亀次郎だったが、「よし、あのバカが」と電話に出る。

亀次郎「もしもし」

洋二「あっ、お父さんですか。もしもし、もしもし」

亀次郎「聞こえてますよ」

洋二「洋二です。すいません、お父さん」

亀次郎「なんの用だ?」

 

扉の陰から見ていた愛子が「なんの用だじゃありませんよ」と思わず口を出す。「そんならお前が出たらいいじゃないか」と受話器を愛子に渡す亀次郎。

 

愛子「もしもし、洋二か?」←洋二か?って!

亀次郎「洋二に決まってますよ」

 

愛子は洋二に「お父さんやっぱり照れてんのよ」と話し、亀次郎は「照れてなんかいませんよ」と否定。もう一度受話器を渡されて、電話口で「ひと言、声を聞きゃいいんですよ」と言い、部屋に戻り中華饅頭を頬張った。武男たちも食べ始める。亀次郎は満足そう。(つづく)

 

久しぶりの洋二兄さん。しかし秋子姉さんは不在。秋子とカメオの結婚問題は全く進行しないね。秋子こそ第二部になったら結婚しててもおかしくなかったのに。やっぱり香山さんの忙しさの問題だったのか? それこそ結婚して別居してる設定じゃダメだったのかね。