TBS 1969年5月13日
あらすじ
鶴 亀次郎は裸一貫からたたき上げ、一代で築いた建設会社の社長である。ワンマンで頑固一徹な亀次郎は子どもたちに"おやじ太鼓"とあだ名を付けられている。この"おやじ太鼓"、朝は5時に起き、夜は8時になるともう寝てしまうが、起きている間は鳴り通し。そんな亀次郎をさらりとかわす7人の子どもたちに比べて、損な役回りはお手伝いさんたち。ひと言多いばっかりに、毎日カミナリを落とされる。
2023.9.8 BS松竹東急録画。12話からカラー。DVDは第1部の39話まで収録。
鶴家
亀次郎:進藤英太郎…大亀建設株式会社を一代で立ち上げた。62歳。
妻・愛子:風見章子…5月で57歳。
次男・洋二:西川宏…ピアノや歌が得意。空襲で足を悪くした。29歳。
長女・秋子:香山美子…出版社勤務。27歳。
三男・三郎:津坂匡章(現・秋野太作)…二浪して今は大学4年生。
次女・幸子:高梨木聖…大学4年生。
四男・敬四郎:あおい輝彦…浪人中。
三女・かおる:沢田雅美…高校2年生。
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長男・武男:園井啓介…亀次郎の会社で働いている。31歳。
妻・待子:春川ますみ…正子の紹介で結婚。
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正子:小夜福子…亀次郎の兄嫁。高円寺の伯母さん。59歳。
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お敏:菅井きん…お手伝いさん。愛子の4つ下。6月で53歳。
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神尾光:竹脇無我…秋子の恋人。25歳。TBS局員→俳優?
「おやじ太鼓」なのにおやじがいない日! バンコック組は帰国せず、子供たちは洋二、三郎、幸子、かおるのみ出演。菅井きんさん、小夜福子さん、竹脇無我さんが単独クレジットで風見章子さんは津坂匡章さんとの連名表記。
お敏が忙しく掃除をしていると、電話があり、お敏が愛子を探しに行く。愛子は裏玄関から入ってきたが、階段で大きな音がして驚く。
お敏「ああ、痛い! ああ、痛い…」
愛子「まあ、何を慌ててるの、あんたは」
お敏「ああ、痛い…これというのも人手が足りないからですよ」
愛子「そんなこと分かってますよ」
愛子あてに林重役から電話があった。
林「奥様ですか?」
愛子「はい」
林「社長は今晩お帰りだそうですね」
33話で昼休みに亀次郎と武男がそば屋に行くときに社長室にいた林専務かな? しかし、声だけの出演の人もクレジットが出るときと出ないときがあるのはなぜ? この方の場合、オープニングに名前はなかった。
亀次郎一行は、バンコックからカンボジア、香港にもふた晩泊まったと愛子が林に話している。
表玄関の掃除をしているお敏は「どうせ帰ってくるのは夜なんだから、ざっと拭いといたって見えやしないんだから。とにかく人手が足りないんですからね」と独り言。まあ、愛子より亀次郎がチェックが厳しいんだろうな。
寿司屋(玉川長太)の配達が「天気がよくていいね」と門の先から声をかけてきた。
これまでも何回か出演しています。
寿司屋はお敏が働き者だと近所の評判だと言い、ゆうべのお客さんがお敏の年を聞いてったと話す。
お敏「なんのために人の年、聞いてくのさ?」
寿司屋「やだな、お敏さんったら。女の人の年を聞くのは縁談に決まってるじゃないか」
お敏「バカバカしい。つまんないこと言ってないでさっさと行きな」
寿司屋「いや、ほんとなんだよ」
店が暇なんじゃないのというお敏にこのごろ出前さっぱりじゃないのと言う寿司屋は亀次郎が今晩帰ると聞くと「えっ、今晩? じゃあ早速寿司を取らなきゃ。何しろ外国から帰ってきた人が一番先に食べたいのは寿司だからね」と調子のいいことを言い、毎度どうもと帰っていった。
武男たちは結構お寿司食べてたけどね。
お敏「人の気も知らないで。どうせ私の口には入りゃしませんよ。だけど人の年を聞いてたってほんとかしら」
愛子が家の中からお敏を呼んだ。「みんなどこへ行ってしまったの?」と言う愛子に日曜日だから行くとこはたくさんあるんじゃないんですかとお敏。まだお昼も済ませていないので愛子とお敏は一緒に食べることにした。
お敏はお寿司でも取りましょうかと言うのだが、愛子は「じゃあ、頼んどくといいわ、今晩の」と夕食のことを言い、「じゃあ、サラサラっとお茶漬けでも食べましょうか」。「フン、サラサラって唾が出ただけか」とガッカリ。
愛子が台所でお茶漬けの準備をしているとかおるが帰ってきた。紺色のワンピースがかわいい。「はい、お母さん」と一輪のカーネーションを差し出す。
愛子「覚えててくれたの?」
かおる「そりゃ覚えてるわよ。母の日ぐらい」
愛子「じゃあ、いくらか感心なとこもあんのね」
かおる「いくらかじゃないわよ。こんないい娘めったにいないのよ」
この日は1969年5月11日(日)だったんだね。
花瓶を持ってくると台所を出たかおる。お敏が台所に入ってきてカーネーションに気付く。
愛子「これだからつい文句も言えないのよ」
お敏「手を知ってるんですよ。このごろの子供は。全くあれなんですからね」
かおる「お敏さん、何ゴチャゴチャ言ってんの?」
お敏「いいえ、ゴチャゴチャじゃないんですけどね」
かおる「そんなら何よ?」
掃除くらい手伝ったらどうなのという愛子にかおるは勉強、勉強でたまの日曜でこれから出かけるのだと言う。彼が初めてボウリングに連れてってくれるというのでお小遣いを取りに来た。彼が駅前で待っていて、すぐ戻ってこないと置いてっちゃうと言われていてるから、とにかく忙しいと部屋に行ってしまった。
愛子「子供ももうあの年になると言うこと聞きゃしないんだから」
お敏「子供によりけりなんですよ。特にこのうちの子供は」
愛子「のびのび育ってんですよ」
愛子は丸干しを焼くようにお敏に言い、私は塩昆布の方がいいと言うと、私が食べるんですよと愛子。台所に戻ってきたかおるは愛子から「夕方までに帰ってこなきゃダメですよ」と言われ、「モチよ。お土産もらわなきゃ損しちゃうわ」と慌ただしく出かけていったが、台所に顔を出す。
かおる「お母さん、赤いカーネーションうれしかったでしょ?」
愛子「さあ、どうですかね」
かおる「やだ。照れくさいもんだから。じゃあ、彼によろしく言っとくわ。さよなら」
愛子「バカね。さよならってことがありますか」
お敏はかおるの彼について愛子に聞く。クラスの男の子で、愛子も一度見たが、別に心配するほどの子じゃない。よそ様の大事な息子さん。
幸子がテンション低く帰宅。かおるとそこで会ったと出迎えてたお敏に言う。幸子も一輪のカーネーションを愛子に渡した。
愛子「ありがとう。これだからごまかされちゃうのよ」
お敏がお茶漬けあがりませんか?と誘ったが、「それどころじゃないのよ」と言い、愛子に「折り入ってお願いがあるんです」と茶の間に呼び出した。お敏はため息をつく。
お敏「いいえ、ため息が出ちゃうんですよ。難しいもんですね。お嬢さんも年頃になると」
愛子「年頃に限りませんよ、女は」
お敏「あら、そうでしょうか。私なんか別に」と言いながら、塩の塊が息する方の穴につっかかったんですと盛大にせき込む。
茶の間
幸子「ああ、苦しい。一体どうしたらいいのかしら」
愛子は広縁の椅子に座る幸子に声をかけた。西川先生のことで困っていると言う幸子。
台所
お茶漬けを食べていたお敏は私も丸干し焼いちゃおうとガスに火をつけたところで電話が鳴る。
茶の間
愛子「じゃあ、西川先生には前にとても好きな人があったのね」
幸子「でもその人との婚約はとっくに解消しちゃったのよ。ただ、その女の人は今でも西川さんのこと忘れられないのよ」
愛子「変な話」
かおるが先生が結婚やめたと言ってたのは、昨年9月ごろの話。
お敏が高円寺の奥様から電話だと愛子に伝えたが、「今、それどころじゃないのよ。あんた聞いといてちょうだい」と返され、お敏は正子と会話する。
正子「ああ、愛子さん?」
お敏「いえ、お敏です。あの…」
正子「愛子さんどうしたの?」
お敏「それが…それどこじゃないもんですから手が離せなくって」
正子「あっ、忙しいのね。今晩の支度で」
お敏「はい。それほどでもないんですけど」と丸干しが焼けてるのが気になり、さすがに電話を中断して火を止めに行く。
今日のおばちゃんは声のみ! でもちゃんとオープニングに名前は出てた。
台所
お敏が焦げた丸干しを皿に置いていると、三郎が一輪のカーネーションを持って帰宅。
三郎「お敏さん?」
お敏「それどこじゃないんですよ」
電話に戻る。
お敏「すいません。丸干しが焦げてたもんですから」
正子「あら、丸干しを焼いてたの。おいしそうね」
お敏「はい、とてもとても。フフッ」
正子「そうそう。そのおいしいで思い出したわ」
お敏「は?」
正子「私、外国から帰った人に聞いたのよ」
お敏「はい」
お敏と正子の電話中。三郎は台所にあった花瓶に自分のカーネーションを活ける。丸干しで1杯食べようかと独り言を言っていると、お敏が電話で寿司金やおそばと言っているのを聞いてソワソワ。お敏が電話を切り、今晩、高円寺のおばちゃんが亀次郎の迎えに来るのだと知り、ご飯を盛る。
三郎「そりゃそうとお母さんは?」
お敏「幸子さんとお座敷で揉めてますよ」
三郎「揉めてる?」
お敏「深刻ですよ。おば様のお電話にも出ないんですからね」
三郎「脅かすなよ」
お敏「ほんとですよ」
三郎「こりゃ早いとこ部屋へ帰って寝ちゃったほうがいいかな」
お敏「ゆうべどこへ泊まったんですか?」←ゆんべじゃなくなってる。
三郎「こら、大きな声出すなったら。友達の下宿へ泊まったんだよ」
お敏「友達にもいろいろありますからね。ヒゲのあるのやないのや」
三郎「男に決まってるよ」
お敏「怪しいもんですよ」
三郎「とにかく僕は寝てるからね。このカーネーションの1本は僕が買ってきたんだからね。そう言っといてよ、お母さんに」
そっちじゃありませんよと大きな声で言うお敏に三郎はびっくり。(本宅の2階じゃなく)隣へ行く癖がついてるという三郎。
インターホンが鳴り、お敏が裏玄関を開けると、神尾!
神尾「じゃあ、秋子さんはまだ帰ってないんですか」
お敏「はあ、ご一緒じゃなかったんですか」
神尾「さっきまで一緒だったんですけどね。ちょっと揉めちゃったんです」
お敏「じゃあ、あなたのほうもそれどこじゃなかったんですか?」
神尾は愛子が在宅か聞き、折り入ってお話がしたいと家に上がった。
神尾「お忙しいんじゃないんですか?」
お敏「それがもう何がなんだか分からずゴタゴタするんですよ、このうちは。今も幸子さんとあちらで折り入ってお話をなさってるんです」
神尾「やっぱり揉めてるんですか?」
お敏「もうもう揉めたり揉まれたり。私なんてもうクタクタですわ。家相でも悪いんでしょうか、このうちは」
神尾「ハッ、活気があっていいですよ」
お敏「とんでもない。あの怒鳴り声がいいもんですか。私の心臓なんて、もうタガが緩んじゃってるんですからね」
愛子と幸子が茶の間から出てきた。お敏は神尾が来たことを伝える。幸子に「しばらくお父さんにはなんにも言っちゃダメですよ」と口止めする。「でも、あたくしの気持ちは…」と幸子。
愛子「何言ってるんですか、まだ大学生じゃないの。そんな話は大学卒業してからだって遅くはありませんよ」
幸子「遅いのよ、それでは」
愛子「まあ、いいから自分の部屋へ行って少しじっくり考えてごらんなさい」
幸子「さんざん考えたのよ」
結婚とかそういう話? 何も実態が見えない話。
愛子「は~あ、ハァ、子供も大きくなると…」
電話が鳴る。お敏が出て、愛子は広間にいる神尾のところへ。奥の窓側にマッサージ椅子が見える。1年前の母の日のプレゼント。
18話は神尾のおばあちゃんの初登場回でもある。
神尾「少しお疲れのようですね」
愛子「世話が焼けるんですよ。みんなそれぞれ勝手なこと言いますからね」
寿司金からの電話で今夜のお寿司は何人前でいいでしょうかとお敏が聞いた。愛子は「そんなこといいように頼んどいてちょうだい。とてもお寿司のことまで考えられないわ」とちょっとイライラ。お敏からそばのほうはどうしましょうかと聞かれ、おそばも取るの?と驚く。正子が言っていたとお敏が言うと、「じゃあ、ごちそうするから好きなもの取るといいわ」と笑顔。お敏も「ありがとうございます」と頭を下げた。
お敏「やっぱり母の日はどことなく違いますよ、奥様。フフッ。では、早速」
愛子「おかしな言い方」
神尾「そうか。今日は母の日だったんですね」
ちょっとしんみり。神尾のお母さんは元気なんだろうかね?
寿司金からの電話は切れてしまった。「そりゃそうと年を聞いてたってほんとかしら」とまだ気にしているお敏。再び電話が鳴り、出ると西川先生だった。「どうしましょう」と迷うお敏に幸子を呼ぶように言う愛子。
神尾「お母さんも楽じゃありませんね」
愛子「楽なもんですか。とんだ母の日ですよ」
神尾「僕もその口です。勝手なことを言いに来たのかもしれません」
ここでは電話がうるさいから広間へ行きましょうかと言う愛子。ここ、広間だと思ってたけど、広間は扉もついてるし、違うんだな。
最近、ドラマを見ながら鶴家本宅の間取り図を何となく書いています。表玄関と裏玄関の位置関係は何となくわかったけど、広間のところがまだちょっとよく分からない。電話の向かい側が台所で裏玄関は台所と亀次郎が座っている茶の間の間にあって…そういうのも見ていて楽しい。
広間へ移動
そういえば、まだ白黒の初期のころは食事や亀次郎の還暦祝いのお祝いをここのテーブルセットでやっていたのに、最近は全然活用せず、茶の間に机を並べて座って食べることが多い。パーティー用?
幸子が走ってきて電話に出る。別宅にも別回線の電話があるのにね。「お待ちどおさま、幸子です。ええ、話したわ」
台所に戻ってきたお敏が「そうそう、お茶をお入れしなきゃ」とわざと大きな独り言。
幸子「だってお父さん、今晩帰ってくるでしょ。その前にお母さんには話しといたほうがいいと思って。まだなんにも言わないわ。だって、お母さんだってすぐには言いようがないでしょ」
かおる「ああ、損した、損した。もう大損しちゃった」と帰ってきた。
幸子「(かおるに)あんた、ちょっと黙っててちょうだい。もしもし」
かおる「機嫌が悪いのね」
幸子「黙っててちょうだいったら」
三郎「はあ~、おなかが減った。おなかが減った」と階段を降りてきた。「こんな腹ペコじゃ、タヌキ寝入りも…」
幸子「ちょっと静かにしててちょうだい。もしもし」
三郎「機嫌が悪いんだな」
幸子「向こうへ行っててよ」
電話中なんだからさ~、もー!
広間
神尾「僕だって真剣なんですよ。考え抜いたあげくなんです。世間によくあるような軽薄な俳優志望とは違うんですよ。僕はこのチャンスに一か八か自分の将来を懸けてみようと思ってるんですよ。それを秋子さんは頭から否定するんですよ。いや、否定するどころじゃないんですよ。僕という人間をですよ、僕自身を軽蔑したような顔をするんですよ。今日だってそうなんです。さんざん僕を侮辱してサッと帰っちゃったんですよ。僕だってカッとしますよ。あした、テストがあるというのに」
神尾の語尾がYOばっかりだね。お敏がお茶を持ってきた。
愛子「困ったことになったわね」
神尾「困ったどころじゃありませんよ。僕たちの仲はもうめちゃめちゃですよ」
お敏「こっちもめちゃめちゃですか? あっちのほうもめちゃめちゃなんですよ」
愛子「何がめちゃめちゃなの?」めちゃめちゃ大連発。
お敏「幸子さんには西川先生と電話で揉めてるんですよ。三郎さんは三郎さんでおなかが減ったもんだから…」
愛子「三郎が帰ってきたの?」
お敏「ええ、ええ、もうとっくですよ」
愛子「まあ、ゆうべはどっかへ泊まってきちゃって」
神尾「そんなことより僕のほうのゴタゴタはどうなるんですか?」
愛子「どうなるって、おっしゃったって…」
お敏「まあ、お茶でもあがってください」
神尾「いりませんよ、お茶なんか。お茶にされちゃたまりませんからね」
お敏「あらまあ」
神尾「開いた口が塞がらないのは僕ですよ。大体ですよ…」
「3人家族」の雄一はおハルさんにこんなに強く言う人じゃなかったので面白い。
ドアが開くと、かおるがカーネーションが3本活けてある花瓶を手に広間に入ってきた。「お母さん、私、もう大損しちゃったわよ。彼と一緒にボウリング場行ったでしょ。そしたらね、財布がないのよ。落としたんだか、すられたんだか知らないけどね。とにかくどこ捜したって…あっ、そうそう。お寿司屋さんから電話あった」
お敏「あっ、あいつときたらば!」神尾を突き飛ばして部屋を出る。
かおる「しょうがないでしょ、それを彼ときたらね…」
愛子「彼、彼、言うんじゃありませんよ。なんですか、高校生が」
神尾「つまり、彼女がですよ…」
愛子「彼女じゃありませんよ。うちの娘ですよ」
神尾「その娘ですよ、問題は」
愛子「問題はあなた方の問題ですよ」
神尾「だからですよ。お母さんは僕と娘と…」
愛子「どっちもどっちですよ」
神尾「あら、どうしてですか?」神尾が「あら」って。
愛子「だって、あなた方はお互いにお互いがいいと思ったからお互いに選んだんでしょ?」
神尾「そりゃお互いにそうですよ」
愛子「だったらお互いに恋愛の自由を貫いたらいいじゃありませんか」
かおる「そうよ。恋愛は自由よ」神尾の肩に手を置く。
時系列的にこのドラマのほうが前なのに、かおるがちゃんと高校生に見えるのがすごい。
愛子「生意気言うんじゃありません! そんなとこにボーッと立ってないで向こう行ってなさい」
かおる「まあ、お父さんそっくり」
愛子「そりゃそうですよ。似たもの夫婦ですよ。お父さんがいなければお母さんが代わりをするんですよ」
かおる「せっかく花持ってきてあげたのに」
愛子「とんだ母の日ですよ。まるでお母さんを困らすことばっかり」
神尾「だから僕はさっき…」
愛子「みんな勝手なこと言うんですよ」
三郎が「お母さん」と広間に入ってきた。「すいません、謝ります。僕は泊まる気じゃなかったんですよ。彼女を下宿に送ってったんですよ。そしたら帰りの電車がなくなっちゃったんですよ」
愛子「それで彼女の下宿へ泊まっちゃったんですか?」
三郎「僕一人じゃないんですよ。友達もいたんですよ」
愛子「いたっていなくったって男の子と女の子でしょ」
かおる「もちろんよ、ねえ?」
愛子「あんた、向こう行ってらっしゃい」
神尾「それでどうしたの?」
三郎「いや…どうもこうもないんですよ。その晩、彼女のおやじさんが田舎から出てきちゃったんですよ」
かおる「また…運が悪いわね」
愛子「運じゃありませんよ」
神尾「それで見つかっちゃったの?」
三郎「見つかったどころじゃないんですよ。逃げようったって2階の窓だし」
愛子「まあ、なんてことをしてくれたの、あんたは!」
なぜか愛子を見てうなずく神尾。
三郎は立ったまま。愛子とかおるはソファに座り、向かい側のソファに神尾も座る。
そこに帰ってきたのは洋二。思いつめた要は表情で「お母さん」と声をかけ、手にはカーネーション。
愛子「なんですか。あんたまでそんな顔して」
洋二「お母さん、すいません。僕、このうちを出て行こうと思うんです」
広間にいる面々は戸惑う。
洋二「母の日にこんなこと言ったら悪いけど」花瓶にカーネーションをさす。
愛子の泣きだしそうな表情でつづく。
去年の母の日回は楽しかったのにね~。なによりおやじがいないのが寂しすぎるよ。さて、もう一度広間の位置関係を確認しよう。