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【ネタバレ】木下恵介アワー「おやじ太鼓」 #50

TBS  1969年7月1日

 

あらすじ

 

鶴 亀次郎は裸一貫からたたき上げ、一代で築いた建設会社の社長である。ワンマンで頑固一徹な亀次郎は子どもたちに"おやじ太鼓"とあだ名を付けられている。この"おやじ太鼓"、朝は5時に起き、夜は8時になるともう寝てしまうが、起きている間は鳴り通し。そんな亀次郎をさらりとかわす7人の子どもたちに比べて、損な役回りはお手伝いさんたち。ひと言多いばっかりに、毎日カミナリを落とされる。

2023.9.19 BS松竹東急録画。12話からカラー。DVDは第1部の39話まで収録。

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鶴家

亀次郎:進藤英太郎…大亀建設株式会社を一代で立ち上げた。62歳。

妻・愛子:風見章子…良妻賢母。57歳。

*

長男・武男:園井啓介…亀次郎の会社で働いている。31歳。

妻・待子:春川ますみ…正子の紹介で結婚。

*

次男・洋二:西川宏…ピアノや歌が得意。空襲で足を悪くした。29歳。

長女・秋子:香山美子…出版社勤務。27歳。

三男・三郎:津坂匡章(現・秋野太作)…二浪して今は大学4年生。

次女・幸子:高梨木聖…大学4年生。

四男・敬四郎:あおい輝彦…浪人中。

三女・かおる:沢田雅美…高校2年生。

*

田村:曾我廼家一二三…運転手。

*

水原トシ:西尾三枝子…洋二の恋人。

 

杉並区成宗辺りの風景

洋二はアパートの部屋で絵を描いていた。

トシ「こんにちは」

洋二「やあ、いらっしゃい」

トシ「邪魔にならないかしら」

洋二「待っていたんだよ。いつ来てくれるかと思って」

 

座布団を出す洋二に「ああ、いいのよ。私は」とトシ。

洋二「まあ、敷きなよ。1枚しかないんだから」

トシ「だからいいのよ。あなたのほうが疲れてるわ。座ってて」

洋二「いいんだったら。僕はこうやって足を投げ出してるから」

トシ「あっ、じゃあ、お借りするわ。私なんてコンクリートの上だってしょっちゅう座ってるのに」

 

これってさ、学生運動での座り込みとかそういうことなのかな?

 

洋二「よく来てくれたね」

トシ「幸子さんから聞いたんだけど、すいません。来れなくて」

洋二「2日寝ただけだもの。君は忙しいからね」

トシ「あっ、変なもの買ってきたんだけどどうかしら」

洋二「変なものって?」

トシ「ところてんなの」紙袋から取り出したビニール袋の中にところてん。

洋二「ああ、そりゃいいや」

トシ「ちょっと思いつきでしょ」

洋二「ありがとう」

トシ「安くておいしいわよね」

洋二「安いに越したことはないものね」マグカップを2つ取り出す。

 

トシ「ああ、そりゃそうとあのオンボロの階段が随分立派になっちゃったじゃないの」

洋二「この間、おふくろが来てね、びっくりして替えてくれたんだろ。うちの会社のお手のもんだからね」

トシ「お母様がいらっしゃったの」表情が曇る。

洋二「うん。そんな顔しっこなし」

 

トシ「どうぞ。私もいただくわ」

洋二「思い出すな、ところてん。戦後の食べ物のなかったときにところてんだけはあったんだね」

トシ「あら、そうだったの?」

洋二「おふくろさんとよく並んだもの。懐かしいよ、ところてんは」

 

微妙に年の差のあるふたり。洋二は29歳の戦中生まれでトシは22歳の戦後生まれ。そういえば幸子とトシはすっかり関係も切れたのかと思ったけど、トシは幸子に聞いてきたんだね。

 

トシ「だけどね、洋二さん。私、あなたにおうちに帰っていただきたいの」

洋二「帰らないよ。もうよしなよ、その話は」

トシ「あなたって、結局、お金持ちのお坊ちゃんね」

洋二「どうして? 嫌なこと言うね」

トシ「わがままよ。人の気持ちが分からないんですもの」

洋二「そりゃ、わがままだけどね。でもいつかおやじだっておふくろだって分かってくれるよ」

トシ「そうじゃないの。私の気持ちよ」

洋二「そうかな」

トシ「おうちにいればなんの不自由もないのに、こんなひどい部屋でところてんを喜んで食べてるんですもの」

洋二「いいじゃないか、それだって。こういう生活だってしてみなきゃ本当のことは分かりゃしないよ」

トシ「つらいわよ、私も。私のためにこんなことをしてるんですもの。気持ちは分かるけど、ありがたくはないわ」

洋二「僕は別に…僕の気持ちを理解してもらおうと思って無理してるんじゃないよ」

トシ「無理よ。頑張ってはいるけど」

 

洋二「僕には他に愛しようがないからだよ。君が泥んこになって闘ってんのに僕は傍観してるしかないものね。せめてこんな部屋にくすぶって努力することが少しでも君に近づけるような気がするんだよ。平和な甘い家庭にどっぷり首までつかっていたら、とても発言する勇気さえ持てないもんね。もっとももっと頭がよかったら別だけどね。僕には分からないことが多すぎるんだよ」

トシは洋二の後ろにある絵を見つけた。

洋二「昨日から描き始めたんだよ。もう一度本になるといいと思ってね」

トシ「すてきね。とってもかわいいわ」

洋二「君と最初に会ったときも君はそう言ってくれたね」

トシ「ええ」

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洋二「涙を浮かべてね」

トシ「あ…どうしたらいいのかしら。私、今だって泣けてきそうよ」

洋二「苦しむんだよ、お互いに。真剣に苦しめば、その先には本物の何かがあるよ」

 

思えば、トシ初登場回はまだ白黒だった。きれいな女優さんだな~と思ったし、カラーになってもやっぱりきれい。しかし、このカップル危ういね。洋二こそ待子さんみたいなフワフワ系がいいと思うな。

 

⚟敬四郎「こんにちは」

 

洋二「やあ、来たのか」

敬四郎「(トシに)いらっしゃい。しばらく」

トシ「こんにちは」

洋二「入んなよ。汚いとこだけど」

敬四郎「うん」

かおる「聞きしに勝るわね」

 

恋人同士で部屋にいるのに敬四郎もかおるも普通に部屋に上がってくるもんなんだね。洋二も笑顔で迎え入れてるんだけどさ。

 

トシは座布団を譲るが、敬四郎は大きな風呂敷包み持参で中身は座布団。愛子に持っていくよう言われた。かおるは魔法瓶とお寿司を持ってきた。

敬四郎「たまの日曜だっていうのに朝っから大変」

 

今回は1969年6月29日(日)

 

かおる「お敏さん、昨日からお休みで田舎行っちゃったのよ」

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初子が言っていた「藪入り」ってやつ? 1月と7月が奉公人が田舎に帰る日。イネさんのいる実家かなあ。嫌だろうね。

 

敬四郎「だからごはんの支度は手伝う。大掃除はするし」

かおる「そのあとがこのお寿司。おいなりさんにのり巻き。お母さん作ったの」

敬四郎「茶飲み茶碗持ってきたからね。ちゃんと洗って」

かおる「お茶は魔法瓶に入れてきたわ」

洋二「そりゃいいや」

トシ「随分用意がいいのね」

敬四郎「そりゃ、僕のお母さんですからね。フフッ」

 

敬四郎はお父さんとかおるが言って軽い小突き合いが始まる。

洋二「何を言うんだ、お前たちは。さあ、君も食べようよ」

トシ「母の味ね」

洋二「まあね。めった作らないんだけどね」

トシ「私、胸につかえないかしら。申し訳なくって」

洋二「そんなことは言いっこなしだよ、さあ」

 

トシは愛子にも会ったことある分、申し訳ない気持ちが先立つのだろうか。

 

風鈴の音を聞いている亀次郎。愛子は半そでブラウスで今回も洋装。老眼鏡をかけ、茶の間で何か書いている。

 

亀次郎「今日は日曜日か。日がたつのは早いもんだ。今日は29日。あしたは30日。いよいよあさってから7月だ。もう今年も半分過ぎてしまったのか。いや、うかうかしちゃおれんよ。いや、しかし、まあ、どうしてこう悪いことをするやつがあとを絶たないんだろう。それも食うに困って悪いことをするんじゃないんだからな」

愛子「困った世の中ですね」

亀次郎「汚職の記事はまるで毎日だよ。ったく腹の立つやつらだ」

 

辞書で調べながら書いている愛子。

 

亀次郎「ああ、いよいよ真夏か。暑くなるぞ。また海や山でたくさん死ぬんだろ。フッ、あきれたもんだ。わざわざ山へ死にに行くバカがあるんだから世話が焼けるよ。やれやれ。なかなかどうしていろんなことがあるもんだ」←炎上必至!

愛子「お父さん、退屈ならお寿司でもあがったらどうですか。まだたくさんあるんですよ」

亀次郎「別に退屈なんかしてませんよ」

愛子「そんならいいんですけどね。独り言ばっかり言ってますからね」

亀次郎「独り言じゃありませんよ。世の中のことをおまえに聞かせてるんですよ」

愛子「あら、そうなんですか。フフッ。私は字を間違えちゃいますからね。あんまりよく聞いてませんでしたよ」

亀次郎「あきれるよ、お前には。人にさんざんしゃべらせておいて」

愛子「お父さんが勝手に独り言を言ってたんですよ」

 

独り言じゃないと言い張る亀次郎は、愛子にいつまで手紙を書いてるのか聞く。愛子は字だって忘れっぽくなって簡単にはいかないと辞書を引いている。

 

亀次郎「字なんてものはな、大学出だってろくだま知りませんよ。サラサラっとひらがなで書いちゃあいいんですよ。気取ったって始まりませんよ」

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愛子「そうはいきませんよ。結婚式のご披露に招待されてるんですもの。少しは改まらなきゃ」

亀次郎「あっ、そうか。結婚式か。ああ、それじゃ何かお祝いを贈らなきゃいかんな」

愛子「そうなんです。うちのときもいただいたんだから」

亀次郎「何をもらったんだっけ?」

愛子「花瓶でしたよ、確か」

 

花瓶ばかり15~6ももらっていてどんな花瓶か思い出せない愛子。亀次郎はあきれて、もらうほうの身になって考えてみたらいい、しまう場所も困ると言う。風呂敷もありがたくないけど、花瓶のもらいすぎも困ると愛子も同調。このごろは団地に住む人も多く、置物なんか狭いうちだったらどうするんだろ?と疑問の亀次郎。

 

愛子「昔は実用品を贈るのは失礼ということになってましたけどね。もう時代が違いますよね」

亀次郎「そうさ。どんどん頭を切り替えなきゃずれちゃうよ」

愛子「大丈夫ですか? お父さんは」

亀次郎「バカなこと言いなさい。どうしてわしがずれるんだ?」

愛子「いえ、そんならいいんですけどね」

 

時々ちょっと…と言いかけるが、書き終えてしまうから黙っててくださいと言う愛子につっかかる亀次郎。「30年も仲よく揉めてきた夫婦の仲で水くさいですよ」と言う。愛子は書き物に夢中。多摩川へでも散歩に行ったらどうかと提案したり、隣の武男の所はどうかと言う。

 

それにしても50年以上前は実用品を贈るのは失礼というマナー?があったんだね。

 

亀次郎「嫌ですよ。わざわざ邪魔者に入れるか。気の利かない」←おお、気遣い。

愛子「じゃあ、台所行ってお寿司でも食べるんですよ」

亀次郎「うるさい。大きなお世話だ。イー!」←かわいい。

 

表玄関付近で掃除機をかけている亀次郎。武男が裏玄関から入ってきて、「僕がします」と代わる。

 

台所に入った亀次郎はコップに水道水を入れて飲む。武男は掃除機を持ったまま、台所へ来て、待子が具合悪くて寝ちゃったんですけどねと報告。朝ごはんを食べるまでは何ともなかった、熱はなし、吐き気あり。日曜日なので医者も呼べない。だから、待子はこっちのうちへ来れませんからねと言うと、いいからいいからと亀次郎は気遣う。

 

愛子は手紙を出しに行ったきり、まだ帰ってこない。待子のそばについているように亀次郎が言うと「じゃ、掃除のほうもお願いします」と行ってしまった。ただ報告に来たのに、亀次郎が掃除機かけてたんでやりますって言っちゃったのかな。

 

亀次郎は水は体にいいんだともう1杯飲もうとするが、電話が鳴った。

 

亀次郎「もしもし」

男子生徒「あっ、かおるさんのお宅ですね」

亀次郎「はい、そうです」

男子生徒「あれ? あなた誰ですか? まさかおやじさんじゃないでしょうね」

亀次郎「君は誰ですか?」

男子生徒「あっ、いけねえ。やっぱりおやじさんか」

亀次郎「かおるになんの用ですか?」

男子生徒「いえ、ちょっとね。じゃ、彼女によろしく。さよなら」電話が切れる。

 

亀次郎「あきれた小僧だ。あれが問題の彼か」

 

愛子帰宅。

亀次郎「どこにポストがあるんだ? まさか多摩川の土手じゃないだろ」

愛子「この暑いのに散歩なんかしますか。まあ、水を1杯飲ましてください」

 

台所

亀次郎「ああ、水は薬ですよ。ガブガブ飲みなさい」

愛子「ガブガブ飲んだらおなかを壊しますよ」

亀次郎「何を言ってんだ、土方の女房が。昔は水っ腹でやっと命をつないだくせに」

愛子「若いときと今は違いますよ」

亀次郎「ヘッ、すっかり奥様で収まり返っちゃって。お前もひ弱くなったもんだ。駅前のポストへ行ってくんのに1時間近くもかかって」

 

愛子は魚一のお母さんにパッタリ会い、魚一のおやじさんがガミガミ怒ってる最中に血圧でぶっ倒れたから、亀次郎も気をつけるように言うと、亀次郎はガミガミ怒っているつもりはなく、怒ると叱るは違うと言う。

 

愛子「じゃ、あなたのは怒るんじゃなくて叱ってるんですか」

亀次郎「そうさ。ヘッ、無知で話にならん」

愛子「まあ、無知でもバカでもいいから気をつけてくださいよ」

 

魚一のお母さんはこの暑いのにおやじさんに怒られて怒られて半泣き。自分が思うように働けないもんだから、しょっちゅうイライラして怒る。親孝行な息子はお母さんをかばってお父さんを叱っている。

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魚一の息子はお敏と世間話してたね。

 

愛子「そういう息子がいてくれなきゃ、お母さんがたまりませんよ」

亀次郎「いませんよ、うちには。そんなバカな息子は」

愛子「いましたよ。1人や2人は」

 

お寿司でも食べましょうと言うと、なんだあのいなり寿司はと亀次郎がけなす。待子が具合悪いのをいなり寿司のせいと思ってる? 愛子は私だけ食べますからと言うと、亀次郎はのり巻きを食べると言ってつまむ。「そうさ。それがつきあいですよ」

愛子「フフッ、変な義理ですね」

 

お寿司を食べようとすると、「ごめんください」と男性の声がした。愛子が裏玄関に行くと運転手の田村と妻子がいた。

 

田村鈴子:青樹知子…田村の妻。

 

田村「ちょっとご挨拶に出ました」

愛子は上がるように言うが、田村は玄関だけでと遠慮する。亀次郎も玄関に出てきて上がるように言うが、田村はイタズラ坊主もおりますしとまた遠慮。

 

亀次郎「いやいや、君には長いこと世話になったんだし」

愛子「そうよ」

田村「じゃあ、私だけ失礼して」妻にお庭で坊主を遊ばしてなさいと言う。

 

田村の息子は健坊と呼ばれてるんだね。鈴子は頭を下げて、庭へ行った。あの広い庭だもんね~。

 

亀次郎は広縁の椅子に座り、田村は正座して「長い間、お世話になりました」と頭を下げた。

亀次郎「ああ、いやいや、こちらこそ世話になったよ。君の安全運転のおかげで一度も事故はなかったしな」

 

さあ、掛けなさいと亀次郎の向かいの椅子を勧めたものの、田村は正座のまま。亀次郎はお別れだからゆっくり飲んどくといいよとビールを持ってこさすと言っているのだけど、やっぱり田村さんが飲んでそのまま車で帰るんだろうか? 車で来たとは限らないけどね。

 

田村は郷(さと)に帰るつもりはなかったが、母が一人になってしまったため、故郷に帰ることにした。末っ子が長男になっちゃったという言い方してるので、兄がいたけど亡くなったのかもしれないな。

 

亀次郎「寄る年波で心細くなったんだろう。まあ、四国へ帰ったら、うんと親孝行してあげるんだな」

田村「はい」

亀次郎「いや、それにしても随分、君にも怒鳴ったな。うん? ハハハ…まあ、わしの性分だから堪忍してくれよ」

田村「社長、何をおっしゃるんです。あたくしは…あたくしは社長のおかげでものになったんです。四国の田舎から大阪へ飛び出して、そっからまた東京に憧れて飛び出して、すんでにヤクザの仲間入りするところを…」泣きながら「ありがとうございました」と頭を下げる。

 

初めて明かされる運転手・田村の波乱万丈な人生。

 

田村「社長に拾われなかったら、私はどういう人間になっていたか分からないんです。ありがとうございました」

椅子から立ち上がり、田村の正面に座った亀次郎。「君は本当にそう思ってくれるのか?」と聞く。

 

田村「はい。命の恩人だと思ってます。いいえ、私ばかりじゃありません。女房だってそう思ってます。あれも施設を出た親を知らないかわいそうなやつです。支那そば屋の出前持ちをしているときに私とすっかり好き合っちゃいまして。社長があのとき、叱るどころか…お…おかげさまで一緒になれました」

亀次郎もそっと目元を拭く。

田村「だからあいつにとっても、それから私たちの間に生まれた坊主にとっても本当に社長は親よりも大切な恩人なんです」

亀次郎「田村…」亀次郎は涙を見せまいとそっぽを向いたまま田村の手を取る。

田村「はい」

亀次郎「ありがとう」

田村「すいません。自分の勝手でお暇いただきまして」

亀次郎「ああ、いやいや、それでいいんだ。お前が郷(くに)へ帰って親孝行をしてくれれば。それが何よりもわしへの恩返しだよ」

田村「はい」

亀次郎「じゃあ、元気でな」

田村「社長も体に気をつけて長生きしてください。血圧と胃の病気が心配ですから」

亀次郎「ハハハ…何を言う。愛子みたいなことを言うな」

 

愛子がお茶を持って部屋に入ってきたが「あら、なんですか。そんなとこへ座って」と驚く。そこへ掛けるか、ここへ座ったらどうですかと言う。

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このドラマでは「座る」と「掛ける」を明確に使い分けてるとツイッターで見たばかり。座るは座布団とか床で掛けるは椅子やソファー。今は何でも「座る」と言いがち。

 

亀次郎はビールとお寿司を持ってくるよう愛子に言うが、お寿司は田村の妻子にあげた。愛子曰く、坊やは一人前の大人並みに食べた。亀次郎はうちの子供たちとは違う、うちの子供たちは半人前だと言う。なんだかイライラしている亀次郎。

 

ビールを持ってこようと席を立った愛子に「大体、うちの子供たちはだ…」と近づく。

愛子「およしなさい。田村さんの前で」

亀次郎「かまいませんよ」

田村「社長、わたくしはもうおいとまいたしますから」

亀次郎「いや、いいんだ。君はそこの椅子へ掛けてとっくりと聞いてなさい」

 

田村は広縁の椅子に掛け、亀次郎と愛子は茶の間に座っている。

亀次郎「わしは今さっき、あの田村君の優しい気持ちに触れて涙が出たんだ」

愛子「そりゃ田村さんは優しい人ですよ。ですけど、田村さんとうちの子供とどういうふうに違うっていうんですか」

亀次郎「大違いですよ」

愛子「違いやしませんよ」

亀次郎「違いますよ。親の気持ちなんかまるっきり分かってないんだ」

愛子「分かってるんですよ」

亀次郎「どういうふうに分かってるんだ」

愛子「分からないのはお父さんのほうですよ」

 

愛子は洋二や三郎のことが気になるなら一度くらい訪ねてやったらどうかと言う。「三郎はともかく洋二のとこぐらい」と言われた亀次郎が田村に視線を送り、田村は下を向く。愛子は熱を出して寝たときだって、うちで騒いでいただけ。お父さんが行ってやったらどんなに喜ぶか分からないのに、意地を張ってるだけと責める。

 

愛子「一遍、あのひどい部屋に行ってみるといいんですよ。洋二がどれだけ一生懸命になってるか。私は涙が出ちゃいましたよ。洋二だって、その前に会ったとき、お母さんが泣いちゃうからアパートへは来ちゃいけないって言ったんですよ。それほどひどい部屋なんですよ。そんな部屋に入り込んでまであの子は水原さんっていう人の苦労に近づこうと思って…かわいそうですよ」

亀次郎「それが困るんですよ」

愛子「そりゃ、全学連は私だって困りますよ。困るというより何がなんだか分かりませんよ」

亀次郎「それ見ろ」

愛子「ですけど、あの子にはあの子の生き方があるじゃありませんか。たとえ、あの子の脚が悪いように、やっぱり歩く方向が違ったとしても、それはもう親がどうしてやるわけにもいかないじゃありませんか。あなたが言うように半人前じゃありませんよ。立派な大人ですよ。自分の責任で生きるしかありませんよ」

亀次郎「だって、お前、みすみす子供が不幸になっていくのに…」

愛子「だったら一度行ってやるといいんですよ。そんなに心配なら」

亀次郎「それができりゃ簡単ですよ!」

愛子「どうして簡単にできないんですか!」

 

田村が間に割って入り、亀次郎がアパートの下の倉庫までは行ったと言った。

 

愛子「お父さん、どうして会ってやらなかったんですか」

亀次郎「田村君。親というものはありがたいもんですよ。子供のようにむちゃなことはできないからな。じっと我慢してるしかないからな。達者でな。親孝行をな」と言って茶の間を出ていった。

 

アパートの下の倉庫からアパートへ上がってく階段が危ないので、亀次郎の指示で田村から家主に言わせて、タダであの階段を上がりよく一晩で直したのだと田村が愛子に言った。あのアパートって下が倉庫なんだね。どういう作りなんだか想像ついてない。

愛子「ちっとも知らなかった」

 

広間のピアノの鍵盤を適当にたたく亀次郎。愛子は笑顔で広間に入ってきて、田村が武男のほうへ行ったと話した。亀次郎は武男で思い出したと待子が気持ち悪くなって寝てると言い、吐き気がする、お前のいなり寿司のせいだと言うのだが、愛子の表情は輝く。「何言ってるんですか、お父さんは。赤ちゃんですよ、赤ちゃんが出来たんですよ」と驚く亀次郎をそのままに「そうに決まってますよ」と広間を飛び出していった。

 

亀次郎は「おい、愛子! おい、愛子! おい、愛子! 医者だよ、医者だよ! おい、愛子!」と追いかけた。

 

ピアノのアップでつづく。

 

ちょっと悲しいラストが続く中、希望の見えるラスト。

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田村さんと言えば、三保の松原アゴが外れるほど大爆笑してたのを思い出します。