公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
手土産を持ってきた花江(岩本多代)は、子供のいないマリ子(熊谷真実)を残念がるが、貴美(三木弘子)が制す。一方、マリ子は、隆太郎(戸浦六宏)たちが工面してくれた米をヨウ子(早川里美)に送ろうして駅員(北見治一)に没収されそうになるも、人懐っこさで切り抜ける。その頃、療養所では東京から戻った千代(二木てるみ)との再会に沸いていた。ウラマド姉妹の話を聞き、マチ子(田中裕子)も畑を始めると言い…。
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麦わら帽子に鍬を担いだ隆太郎と一緒に出かけるマリ子。
隆太郎「では、いたてきもんで」
貴美「いたておさいじゃんせ」
マリ子「行ってまいります」
貴美「はい、行っていらっしゃい」
特に注釈もなく進む会話。マリ子が「行ってきます」と言ってるんだから、そういう会話だろうと察する。
春はいわゆる端境期。作物の出来が早い南の国でも昭和19年のこのころとなると急速に食糧事情が悪くなり、しゅうとの隆太郎は食糧増産戦士です。
隠居所に住んでいるくらいだから、隆太郎は元軍医で、今はやってなさそう。
インパールへ一里
というタイトルがある新聞のアップが一瞬うつり、その新聞を広げて、貴美が一升瓶に入れた米をついていた。
花江「ごめんくださいませ。岩村でございます」
花江が東郷家を訪れた。
貴美「まあ、岩村さん。さあ、どうぞお上がりくださいませ。ただいま取り散らかしておりますけれど…。さあ、どうぞ」
花江「失礼いたします」
貴美「さあ、こちらへどうぞ」
流れるような美しい日本語。
貴美「まあ、お出迎えもいたしませんで」
花江「いいえ。こんな時間にお伺いしたんですもの。どうぞ、もうそのままで」
貴美「ただいま、お茶を」
花江「いえ、それより、マリ子さんは?」
貴美「はい、たった今、主人と駅に寄ってからそちら様へ伺う予定で出かけましたけれど」
花江「駅と申しますと、まさか福岡へ戻ったわけでは…?」
それにしても岩本多代さんお美しいわ~。1940年生まれなので、「マー姉ちゃん」の頃は39歳。えー、若いね! 奥様役がぴったり。
でも私が印象に残っているのは「乳姉妹」の女の赤ちゃんが金持ちの家と貧乏な家で取り違えられる話の母親役で、朝ドラだとお金持ちの奥様役が多い岩本さんが、このドラマだと貧乏な家のお母さんなんだよね。
↑昭和42年の白黒テレビドラマでは謎の美女役。当時27歳。
↑ヒロインは酒井和歌子さんで岩本多代さんは母親が亡くなり、母親代わりに結婚もせず家のことを取り仕切る長女役。当時31歳。
貴美「いえいえ、ヨウ子さん宛に荷物を送るとか申しまして」
花江「あらまあ。それじゃあ、一足違いでございましたわ」
貴美「と申しますと?」
花江「あっ、いえ、ゆうべ主人の古いお友達とかがお見えになりましてね、このとおり、いろいろと珍しいものを頂戴いたしましたのよ」
貴美「まあ! 黒砂糖ではございませんの」
花江「それからこれは高麗ニンジンの粉だそうですわ。ですから、ヨウ子さんに送ってあげたらどうかと思いまして、大急ぎで出てまいりましたんですけれど」
貴美「まあ、それは結構なものをありがとうございました。マリ子がさぞ喜ぶことでしょう。はい、今夜にでも早速荷造りをして明日にでも送らせればよろしいのですから」
花江「そうですか。ゆうべのうちにお届けすればよろしかったのに私が気が利かないもんですから本当に二度手間をおかけいたしまして」
貴美「いいえ。荷物というものは1つより2つの方が受ける側にはうれしいものでございましてね」
花江「あら、本当。そういえばそうでございますわね」
貴美「いかがでございますか? こちらのお暮らしにはお慣れになりましたか?」
花江「ええ、おかげさまでマリ子さんがいろいろと助けてくれるもんですから」
貴美「それはよろしゅうございました」
花江「でも、こちらのお嫁さんを勝手に使わせていただきまして本当に心苦しゅうございます」
貴美「とんでもございません。私どもは息子ばかりでしたから寝起きするにもマリ子がいることで主人がとてもうれしいようでございましてね」
花江「本当。それでもしお孫さんでも連れて帰ってこられましたのなら、もっとお喜びいただけましたでしょうに。残念でしたわ」
貴美「(にこやかな表情から変わり)奥様、もうそのことは…」
花江「あら、まあ…どうしましょう。私、心ないことを…」
貴美「いえ。さあ、お茶をおひとつ」
花江「ありがとうございます」
貴美がサッと制するのもいいし、花江が貴美の表情を見て、すぐに悪い事を言ったと察するのもいいな。それにしても戦時中とはいえ、あるところにはある。
そのころ、話題の主は駅の小荷物受け付けにおりました。
マリ子は荷物を書籍だというが、駅員は無言で床を指さした。床には転々と米粒が落ちていた。駅員は米は没収だと言うが、マリ子は妹が病気で福岡の療養所に入院していて、とても重いので、せめてものが喉に通らなくなる前に一口でも白いごはんを食べさせてやりたいと必死に言った。
駅員は福岡のどこか?と興味を示す。今津の療養所だと言うと、今津はいい所で昔はあの浜でよく泳いだという。
マリ子「まあ、ご存じなんですか?」
駅員「うん。こまんか時に西新におったもんね」
マリ子「あっ、私も西新です」
駅員「ありゃ~」
マリ子「西新といっても百道の方ですけれど」
駅員「ほんなら、南西学院のある?」
マリ子「はい、学院とはもう目と鼻の先ですたい」
駅員「いや~、ほんなごとな。こりゃあ、また珍しか」
別に珍しくも何ともないのですが…。
実際は西南学院なのね。西南学園の前がサザエさん通りになってる。
駅員は辺りを見回し、マリ子も同じように見回す。
駅員「あんた。見んでもよかと」
マリ子「あっ、はい」
駅員「まあ、病人に送るとなら見逃してやるけん。これっきりたい。よかね?」
マリ子「よかです」
駅員「そんなら荷造りの方はあとでわしがうまいこと処理しとくけん、人が来んうちにはよ行きんさい」
マリ子「こんとおりです。ありがとうございました」
頭を下げたマリ子が床に落ちた米粒を拾う。
駅員「あ~、よかよか! はよ、しんせ! ほらほら、人が来るばい!」
マリ子「(集めた米粒を駅員に渡し)じゃあ、お願いします。どうも」
大岡越前守ならぬ駅員守(えきいんのかみ)の粋な計らいで、ともあれ書籍荷物はその後も何度か無事に療養所へ到着したようです。
駅員守みたいな言い回しいいなあ~。駅員守の北見治一さんは「たけしくんハイ!」では、飲み屋の店主。
はるはヨウ子の目の前で荷物を開けた。箱には米と黒砂糖。ちょっとうらやましそうに見ているマチ子。
ヨウ子「でも、マッちゃん姉ちゃま、ちょっとかじってみて。本当に甘いかどうか?」
マチ子「バカね、ヨウ子ったら」
そこに一平が見舞いに訪れた。顔色がよくなったと言われて、笑顔で返事をするヨウ子、かわいい。一平はいい土産を持って来たといって、お千代ねえやを連れてきた。喜ぶヨウ子たち。
ヨウ子「いつ? いつ帰ってきたの?」
千代「はい。大祭が終わってすぐに汽車に飛び乗り、今朝、戻ってまいりました」
久しぶりの感じもしたけど、まだ先週のことだし、ドラマ内でも1か月たったくらいの感じかな。昭和19年4月。
はる「心行くまでお参りできましたか?」
千代「はい。あそこへお参りしましたけん高男さんはもう帰ってはこなさらんとです」
一平「これこれ、お千代ねえや」
千代「ばってん、天海さんのお母さんやウラマドの奥様方には本当にようしていただきました。皆様方からも早うようなるようにとヨウ子お嬢様にお言づけでしたよ」
ヨウ子「ありがとう」
お礼のつもりでウラマド姉妹の家の庭に畑を作ったお千代。大根や菜っぱの種を植えてきたので、あとひとつきもすればお汁の実に困らない。
マチ子「だったら、おば様たちご自慢のバラの花は?」
千代「バラの花ではおなかいっぱいになりましぇん。ですけん、肥のくみ方までお教えしてまいりました」
はる「まあ、おいたわしい」
千代「いいえ。楽しみが出来たと大喜びでしたよ」
ヨウ子「それではあのおズボン姿で?」
千代「はい。もんぺはお持ちじゃないとおっしゃるけん、まあ、ちょっとおかしな格好でしたけん、しかたありまっしぇん」
一平「いや、全くあげんな滑稽な格好は、わしはこの年になるまで初めて見たばい」
麦わら帽子に乗馬ズボンのウラマド姉妹のイメージ映像。マドカの手には収穫フォーク、ウララの手には立派な大根で2人とも笑顔。
マチ子「よし! それじゃあ私も畑をやるか!」
毎日、新聞社に出ているものの、紙面が足りずに仕事はお昼ごろから4時くらいまで。ヨウ子に会うだけが能じゃない。黒田武士の一平も張り切る。
一平「今になもうカボチャでん、トマトでん、マチ子さんと2人で一生懸命野菜ば作って山ほど担ぎ込んでくるけん」
マチ子「そしたら、うちのお母様が泣いて喜んで、あちこちの病室に分かち与えることでしょうよ」
はる「はい、もちろんですとも」
千代「よし! ならお千代ねえやがマチ子お嬢様に肥のくみ方、教えてさしあげましょう」
マチ子「うわ~!」
マチ子のナレーション「といういきさつで私の方は毎日、朝6時起きで畑仕事に精を出す至極健康的な日々を送っています」
またマリ子が読み聞かせした東郷家の食卓。
隆太郎「じゃっどん、こん手紙でも、ヨウ子さんのあんばいがようなっていっちょるとが目に見えるようじゃ」
貴美「ほんのこて」
マリ子「それもこれもお義父様やお義母様がご自分のお口をお詰めになって、ヨウ子にお米を送ってくださったからですわ。私、本当にありがたくて…」
隆太郎「嫁の実家に病人があれば、わしらが心配するのは当然のことじゃ」
マリ子「はい」
隆太郎「あとはヨウ子さんの生命力じゃ。何としても生きようという一念が物を言うとじゃ」
マリ子「はい」
隆太郎「これは男やおなごの区別はなか。新八郎じゃってん同じ思いで南のどこかで気張っちょるじゃろう」
隆太郎と貴美の視線は新八郎の写真へ。写真の前には陰膳。
お千代ねえやもやってたし、「純ちゃんの応援歌」でも陽一郎が帰ってくる前は、やってました。
マリ子と貴美の笑い声。繕い物をしている。
貴美「私も一度、その駅員さんのお顔を拝みに行きたかとですよ」
マリ子「お顔はどうということはないのですけれど相当な人物ですわよね、あの人は」
貴美「相当なのはマリ子さんの方じゃなかですか?」
マリ子「『仏の顔も三度』と言われたくらいですから多分そうだとは思いますけれど、なぜかお米を量りにかける頃になるとどこからともなくパラパラとお米が漏れてくるんですよ」
貴美「はい、分かりました。今度から荷は私が作りましょう。そうしたらそん大岡越前さんもそんなに悩まんでも済むでしょう」
マリ子「あ~っ!」
貴美「いけんしたとですか? 一体」
マリ子「すいません。アハハッ! あの駅員さんの名前、大岡さんというんです」
貴美「まあ!」2人で大笑い。
隆太郎「ないごっか? おはんらはまるでおごじょんごと笑い声を張り上げて」
娘、お嬢さんなど若い女性という意味か。
2人は新八郎の着物を洗い張りして、縫い直す。マリ子が仕立てた着物がうれしいだろうと貴美が言い、マリ子は貴美と夜なべするという。貴美は隆太郎に先に寝るように言うが、隆太郎はうるさくて眠れないという。
隆太郎「誰がはしたないと言うちょる?」
貴美「はあ?」
隆太郎「ほんのこて鈍かおなごじゃ、おはんは」
貴美「はい」
マリ子「分かりました。お義父様は仲間外れにするなという意味なのでしょう?」
貴美「まあ」
隆太郎「(せき込み)マリ子さん…そげんはっきり言うもんじゃなかぞ」
ほのぼのムードの中、空襲警報が鳴る。
隆太郎「電気!」
マリ子「はい!」
隆太郎「鉄かぶとと長靴」
隆太郎の指示にテキパキ従うマリ子と貴美。
警戒警報のサイレンが日本の空に頻繁に響くようになったのはこのころからのことでした。
「あぐり」のときもこのドラマも戦時中に笑顔でいると悲壮感がないという感想を時々見かける。私が多分、最近の戦争物のドラマがあまり面白くないと感じてしまうのは、悲壮感を煽り立てて、悲しい、辛い、そういう面ばかりクローズアップしたドラマを作るせいかと思う。戦争といっても長いんだから、日常生活で泣いて暮らしてばかりもいないだろうに。