NHK 1987年9月26日(土)
あらすじ
昭和21年5月、食堂に来た役人が、許可が無いなら営業を停止しろ、と言う。落ち込む蝶子(古村比呂)だが、よね(根岸明美)が自分たちのために飯炊きを続けてくれ、と頼むので元気になる蝶子。よねたちが食事していると、勘違いした警官が止めに来るが、よねたちが追い返す。まだ蝶子がいると聞いた組合の斉藤(左奈田恒夫)が、知り合いの祝言で歌ってほしいと頼みに来て、組合の上司の三上(金井大)は蝶子に見合い話を…。
2025.10.4 NHKBS録画
脚本:金子成人
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音楽:坂田晃一
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語り:西田敏行
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岩崎蝶子:古村比呂…字幕黄色
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岩崎要:世良公則
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北山みさ:由紀さおり
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土田よね:根岸明美
三上:金井大
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斉藤:左奈田恒夫
警官:西村淳二
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役所の人:篠田薫
正森:池田功
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行商の女:小沢悦子
関悦子
阿部光子
本庄和子
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早川プロ
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野々村富子:佐藤オリエ
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野々村泰輔:前田吟
<昭和21年の5月も半ばとなりました。5月1日には11年ぶりに「メーデー」が復活。8日には「音楽コンクール」も復活して、次第に自由の風が吹き始めてはいたのですが、食糧事情は切迫していました>
戸が開く音
蝶子「いらっしゃい!」
⚟︎汽笛
蝶子「あの…」
警官「ここの責任者は?」
頭の手拭いを取る蝶子。「あの、責任者っていうと?」
泰輔「何事だ?」
蝶子「いや、あの…責任者は誰かって?」
泰輔「え?」
警官「あんたがい?」
泰輔「え、まあ、そのような」
役人「すぐに営業ば停止するんだ」
泰輔「え!?」
蝶子「そんな!」
警官「はいはいはい、あんだども出て! 出て!」
富子「ちょっと、ね、お金が…」
泰輔「ちょっと、お金!」
店内にいた客たちがぞろぞろ店を出ていく。
警官「さっさと、さっさと。金はええから」
泰輔「お金、お金! ちょっと、どういうことなんですか、一体!」
役人「営業停止だんだ」
蝶子「どうして!?」
役人「営業許可証、持ってますか?」
みさ「なしたの? あ、まあ、ご苦労さんです」
警官「あ、いやいや」
せきばらいする役人。「こういう食堂を経営する時には営業許可証が要るんだ」
警官「持ってねえべ」
泰輔「…」
役人「即刻、やめてもらいます」
蝶子「けど、どうして、今ごろ?」
泰輔「そうだよ。私らね、去年からず~っとここでやってたんだから」
役人「もちろん知っていやした。んだども、あまりにも堂々と営業してたすけ、当然、許可証は持ってるもんだと思っていやした」
警官「んだ」
みさ「何なんさ?」
富子「食堂やめろって、ねじ込みに来たんだから!」
いやいや、と手を振る役人。
みさ「あ、いやいや~」
蝶子「じゃあ!」
役人「はい?」
蝶子「営業許可は、どうしたら取れるんですか?」
役人「う~、しかし、疎開してきたんだべ?」
蝶子「はい」
役人「じゃ、いずれは引き揚げるわけだべ?」
蝶子「…はい」
役人「んだば、無理だなす。それに営業許可証は今日頼んで、明日出てくるもんでもねえんだ」
蝶子「それは、どのくらい?」
役人「それは、まあ、こうした混乱した時期だけに…」
泰輔「じゃ、やめろということじゃないですか!」
役人「んだから! 最初から営業ば停止しろとしゃべってるんだ!」
警官「うん」
よね「営業許可証が?」
うなずく蝶子。
行商の女「なして、そったらもの要るんだべ?」
行商の女「うん」
蝶子「とにかくそういうことなので」
行商の女「どしたらよかべ…」
よね「あ…んだば、また、おらたちの飯炊きば、してけねべが?」
蝶子「それは、はい! やらせてもらいます!」
よね「頼むすけ」
行商の女たち「いがった!」
警官が蝶子の店の前を通りかかり、人がいるのに気づく。「あ~っ! 営業停止って、しゃべったべ!」
蝶子「はい、食堂はやめました」
警官「これは何だ? え、これは」
富子「これは」
よね「おらがおらの飯、食って、どこ悪いんだ?」
警官「え?」
蝶子「つまり、あの、私たちが皆さんから、お米を預かり炊いてあげてるだけなんです」
警官「え?」
よね「おらたちが行商してる間に昼飯ば炊いてもらってるだけだすけ」
富子「炊くだけ」
警官「ん?」
行商の女「場所ば借りて、今、食べてるとこだんだすけ」
蝶子「はい」
よね「それともあれだべか? 昼飯ば炊いてもらうにも、いちいち、許可証が要るんだべかなす? 軒先借りるにも許可証が要るんだべかなす?」
警官「…なんも」店から追い出されて帰っていき、よねたちが笑う。
心配そうに外を見る蝶子。
富子「大丈夫だから」
斉藤「岩崎さん!」
蝶子「あ、斉藤さん!」
斉藤「ああ、まだこっちさいるって聞いだすけ」
蝶子「何ですか?」
斉藤「また、歌っこえ。おらの知り合いの息子が復員してきて、祝言挙げるんでなす」
蝶子「復員?」
斉藤「んだすけ、また、あんたさ歌っこ歌ってもらえねえべか、聞いてけんだって頼まれたんだじゃ」
蝶子「いいですよ」
祝言の席で「花嫁人形」を歌う蝶子。
♬金襴緞子の帯しめながら
花嫁御寮は なぜ泣くのだろ
文金島田に髪結いながら
花嫁御寮は なぜ泣くのだろ
出征していく要の姿を思い出す蝶子。
♬あねさんごっこの
花嫁人形は
涙が浮かんで歌が止まってしまった。
倉庫に帰ってきた蝶子。この場面だと戦時中の黒留袖のモンペ姿になってんだよね。さっき歌ってる後ろ姿は黒留袖に見えた。
富子「うん、お帰り」
泰輔「お帰り」
蝶子「ただいま」風呂敷包みを持っている。
泰輔「ご祝儀か?」
蝶子「うん」
泰輔「ヘヘヘッ」
元気なく背を向けて座る蝶子。
富子「どうした?」
蝶子「歌、失敗しちゃった」
みさ「なしたの?」
蝶子「別に…あ、何よ?」
みさ「あ、嘉市さんから」
蝶子「ほう…」
みさ「『滝川に来い』って書いてあるっしょ?」
うなずく蝶子。
泰輔「どうだ。思い切って、滝川行ってみるか?」
返事ができない一同。
泰輔「そろそろ6月だよ。何でみんな連絡がねえんだよ! 千駄木の家の跡と洗足のチョッちゃんのうちの跡に行き先書いた札、立てといたんだよ! 連平君や夢助君が東京に戻ってるとしたら千駄木か洗足には必ず行くはずなんだよ!」
富子「うん」
蝶子「お向かいの中山さんだって行き先、分かったら連絡ぐらい」
みさ「要さんだってねえ」
泰輔「戦争が終わって、そろそろ1年だよ。誰もみんな帰ってこねえってことか?」
富子「…そうとしか」
泰輔「どうしてだよ!」
みさ「まさか、みんな…」
蝶子「母さん! それ以上は言っちゃダメ」
産業組合の事務所に呼び出された蝶子。「何か?」
三上「あ、ま、座って」かぶっていたハンチングで丸テーブルの上の書類をたたくと、ほこりが舞った。「おお、ハッハッハ、いや~。正森(まさもり)さん、知ってるべ?」
蝶子「はい」
正森「どうも」
三上「岩崎さん」
蝶子「はい?」
三上「あれは、どないしたべ?」
蝶子「?」
三上「戦地さ行った旦那さん。連絡あったべがなす?」
蝶子「いえ」
三上「消息は?」
蝶子「いえ」
三上「戦争終わって、そろそろ1年だもなす。いや…ほとんど復員してきてるって、しゃべってるども、どやしたんだべなす? 変だべ?」
蝶子「お話っていうのは?」
三上「あっ…」正森と小突きあう。
正森「おらのおいっ子が復員してきたんだども嫁っこいねえすけ」
ここで組合長がニコッと笑ってるのが何ともなあ…
⚟︎汽笛
厨房で洗い物をする富子とみさ。
⚟︎汽車の走行音
居間でソロバンをはじきながら帳簿を付ける泰輔。
⚟︎蝶子「ただいま!」
一同「お帰り!」
蝶子が今に入って来た。
泰輔「用事、何だったんだ?」
蝶子「うん、何だと思う?」
泰輔「何だい?」
蝶子「へへ、お見合い!」
泰輔「え~!?」
蝶子「ウフフフ」
富子「誰に?」
泰輔「うちで独り者といや、加津子ちゃん?」
富子「…まさか!」
ボケでもまだ小学生の加津子の名前を出さないで! 児童婚とか思い出してゾッとする。
泰輔「そうだよな。ということは…」みさを見る。
みさ「え? いやいや、私にってかい?」
蝶子「私に。エヘッ、私もまんざら捨てたもんじゃないでしょ?」
富子「ちょいと」
泰輔「まさか」
蝶子「相手の人は40。つい、この前、復員してきた人。奥さんと子供がいたんだけど、東京に帰ってきたら、奥さんも子供も戦災で亡くなってたの。で、叔父さんのいる、こっちに来てるんだって。で、その叔父さんっていう人が、この前の結婚式で歌った私を見初めたのよ。フフフッ」
富子「そんなこと言ったって!」
蝶子「私は見初められたの。いやいや、この年になって見合い話来るなんて思わなかったわ~」
富子「ちょっと、その組合長って人、チョッちゃんが結婚してるってこと知らないの?」
蝶子「知ってる。子供がいることも知ってる」
富子「…どういうことよ」
立ち上がって家族写真を手にする蝶子。「夫がね、戦地に行ってることも知ってる。何もかも知ってて、見合い話持ってきたのよ」
泰輔「変じゃないか!」
蝶子「向こうもね、『変だ』って言うの。『夫から何の連絡もないのは変だ』って言うの」写真を胸に抱いて座る。「『戦争終わって、10か月にもなるのに、まだ帰ってこないのは変だ』って言うの。『みんな、どんどん復員してきてるのに変だ』って言うの。『覚悟はしておいた方がいいんじゃないか』って。『新しい人生考えた方がいいんじゃないか』って! 私、断ったわよ。当たり前じゃない。だって、私には岩崎要っていう夫がいるんだもの! どうして見合いなんかするのよ!」
うなずくみさ。何も言えない泰輔、富子。
蝶子「どういうこと? どういうことなの…どういうことなの!?」
立ち上がる泰輔。「チョッちゃん、その組合長、どこにいるんだ?」
富子「何しようっての?」
泰輔「会ってみなきゃ何するか分かりゃしねえよ!」
富子「ぶん殴るなら、私も手伝うよ」
泰輔「殴るだけで済むかどうかな!」
みさ「泰ちゃん、暴力は、うまくないっしょ!」
泰輔「けどな!」
みさ「いや、うまくない!」
蝶子「早く東京に帰りたい」
富子「帰ろう」
泰輔「…けどな、帰るったって、住むうちがないとな。バラック立てろったって…金がないとな」
蝶子「私、何だったってやるわよ!」
よねを裏庭に呼び出す蝶子。
よね「話って?」
蝶子「その~。行商の仕事、もうかります?」
よね「!?」
蝶子「行商やりたいんですけど。行商やるには誰かの許しが必要ですか?」
よね「いや、なんも」
蝶子「はい!」
よね「あ! だども、やり方、分かんねえべ?」
蝶子「はい」
よね「だか、また帰りに寄るすけ。な」
蝶子「お願いします」
<とどまるところを知らないチョッちゃんであります>(つづく)
組合長は親切心だったのかもしれないけど…余計なお世話だ。
経営者だった泰輔がいるのに店の許可ももらわないで営業するなんて、ちょっと矛盾を感じるけど、本当は、おじさんたちは東京の空襲で…らしいので、そこはしかたない?のかな。無責任にあっちもこっちもいる人たちでくっつけたから悲劇が起こるんだろうな。
もし蝶子が再婚してたら、小川さんみたいに子供にも会えないよ。
「太陽の涙」と同じ木下恵介脚本の「父子草」も昭和25年にシベリアから帰ったら、家にもあげてもらえず、父が旅館に呼び出して、弟と結婚させたと事情を話して追い出したんだよな。あ~、切ない。
あと1週か…休止があったおかげで長く見られているような錯覚を起こすよ。いや~、休止の分、2話放送とかしなくて、ほんっとうによかった。「澪つくし」の最終週はなんだったんだよ!

