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【ネタバレ】チョッちゃん(149)―連続テレビ小説―

NHK 1987年9月25日(金)

 

あらすじ

「東京に行ってくる」とつぶやく蝶子(古村比呂)。泰輔(前田吟)たちは止めるが、蝶子の決意は固く、思いとどまらせるために、泰輔が一人で様子を見に行くことにする。なかなか帰ってこず、心配な富子(佐藤オリエ)。泰輔は帰って来ると、洗足の家は無く、中山家も戻ってきてない、誰の消息もわからなかった、と言い、がっくり肩を落とす蝶子。食堂の客の復員兵(でんでん)が戦地で聞いたというユーモレスクを口ずさんで…。

2025.10.3 NHKBS録画

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脚本:金子成人

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黒柳朝チョッちゃんが行くわよ」より

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音楽:坂田晃一

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語り:西田敏行

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岩崎蝶子:古村比呂…字幕黄色

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北山みさ:由紀さおり

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小林:でんでん

岩崎加津子:藤重麻奈美

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岩崎俊継:服部賢悟

早川プロ

劇団ひまわり

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野々村富子:佐藤オリエ

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野々村泰輔:前田吟

 

厨房で釜を持った蝶子が裏庭のカマドまで運ぶ。何か考え込むような蝶子の顔を覗き込む富子。「ん?」

 

⚟︎汽笛

 

蝶子「私、東京行ってくるわ!」

富子「え? ちょ…ちょっと!」

 

居間でお金を数えていた泰輔の前に行く蝶子。

みさ「なしたの?」

泰輔「どうしたんだよ?」

蝶子「叔父さん、私、東京に行ってくるわ!」

泰輔「何だい、急に」

蝶子「旅費、あるでしょ?」

泰輔「そりゃ、まあ」

 

富子「けど…」

泰輔「何しに?」

蝶子「様子見によ」

富子「だけど…」

蝶子「もしかしたら要さん、帰ってきてるかもしれないし。帰ってきてなくても何か消息つかめるかもしれないじゃない。ね?」

 

泰輔「けどさ…」

蝶子「神谷先生、言ってたじゃない? 『ここに住んでる』っていうハガキ受け取ってないって。郵便事情、悪いと思うのよ。だから、要さんだって誰かに連絡取りたくても取れないんじゃないかと」

 

みさ「したけど、蝶ちゃん。東京は今、大変だっていうしょ?」

富子「そうだよ。神谷先生も言ってたろ。治安がよくないって」

泰輔「それに女が一人じゃ危ないよ」

蝶子「けど…」

泰輔「第一さ、女が一人、東京に行って泊まるとこ、どうすんだよ? 旅館だってあるかどうか。仮にあったとしてもだよ、女が一人、そんなとこに…」

みさ「いや~、ゆるくないよ」

泰輔「ゆるくないさ!」

蝶子「だったら野宿だって」

富子「冗談じゃないよ! チョッちゃん平気かもしれないけど、こっちであれこれ心配する身になってよ!」

 

蝶子「けど、要さんが帰ってきてるとしたら」立ち上がって家族写真を手にする。

 

泰輔「東京、俺、行こう!」

蝶子「私も」

泰輔「いや、女が一緒じゃ心配だ」

蝶子「大丈夫よ」

泰輔「チョッちゃん、叔父さんを少しは信用してほしいな。ちゃんと様子見てくるから。洗足にも行ってくる。知り合いの連中が戻ってきてるかどうか捜し回ってくるから! な!」

うなずく蝶子。

 

外に出た泰輔を富子と蝶子が見送る。

富子「気を付けんだよ」

 

<その日、泰輔さんは一同の期待を背に東京へと出発しました>

 

泰輔「叔父さんを信用して。いいな! じゃ、行ってくるぞ」

 

目の前の諏訪ノ平駅まで歩く泰輔。

富子「気を付けて」

 

雨の日、店内は客でにぎわっている。

蝶子「ごゆっくり」

 

厨房で皿洗いするみさ。

蝶子「はい、母さん、お願いね」

みさ「そこへ置いてちょうだい」

蝶子「大丈夫かい?」

みさ「うん、ちょっとね」

蝶子がその場で肩をもむ。

 

夜、居間で加津子と俊継がみさの肩をもむ。

みさ「う~ん、上手だねえ。アハ~、いい気持ちだよ」

隣でリンゴをむく富子。蝶子は洋裁。

富子「はい、いいよ」

俊継「いただきま~す!」

指折り数えだす富子。

俊継「僕、まだ1個だよ」

富子「あ? ああ、そうじゃないんだよ。ねえ、ほら、加津(かっ)ちゃんもお食べ」

加津子「うん」

富子「はいよ」

リンゴの乗った皿を富子から受け取った加津子。「はい、おばあちゃん」

みさ「ありがとう」

 

富子「ここを出たのが19で20…21日には東京、着いてるはずなんだから…」

蝶子「叔父さん?」

富子「ねえ、何日に帰るって言ったっけ?」

蝶子「何日とは言ってないわよ」

富子「ああ、今日、24日だからねえ、何してんだろうね、東京で」

 

蝶子「様子見て回ってくれてるわよ」

富子「うん…どこで寝てんだろ?」

蝶子「大丈夫よ」

富子「野宿なんかしてる間にさ、身ぐるみ剝がされたりなんかして」

みさ「ん? 追い剥ぎかい?」

 

蝶子「叔母さん、余計な心配しなくていいのよ。落ち着いて」

富子「何よ!」

蝶子「何?」

富子「何よ! チョッちゃんだって、要さんのことになったら、あれこれ心配するくせに」

 

♬赤いリンゴに 唇よせて

だまって見…

リンゴの唄

リンゴの唄

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蝶子が「リンゴの唄」を歌いながら、裏庭でカマドを見ていると、泰輔が帰ってきた。「ただいま。腹…減った…」ふらついて倒れそうになる。

蝶子「あ、叔父さん! あ~、しっかりして!」

泰輔「あ…」

蝶子「叔父さん!」

 

居間

せきこみ、音を立てながら雑炊をかきこむ泰輔。

富子「はいよ」お茶を出す。

 

蝶子「叔父さん?」

完食した泰輔。「あ~!」

泰輔の口の周りを拭く富子。

泰輔「あ~、食った!」改まって座り直す。「チョッちゃん。洗足のうちは、ないよ。やっぱり取り壊されてた」

蝶子「そう…」

泰輔「中山さんのうちも同じだ」

蝶子「いなかった?」

うなずく泰輔。

蝶子「まだ、疎開先ね」

 

泰輔「千駄木のうちに行ってみたけど、やっぱり焼けてたよ」

富子「当たり前じゃないか」

泰輔「ひょっとしてと思ってさ」

富子「ひょっとなんかしないよ。うち、焼けたから、チョッちゃんのとこに転がり込んだんじゃないか」

泰輔「夢じゃないかとフッと思ったりしてさ」

うなずく富子。

 

蝶子「叔父さん…要さんが帰ってきたような、あれは?」

泰輔「ないね」

蝶子「全然?」

泰輔「うん」

蝶子「…」

 

泰輔「連平君や夢助君のことも全然、分からないんだよ」

蝶子「そう…」

泰輔「知り合いにも誰にも会えなかった」

蝶子「そう…。ありがとう」泰輔たちに背を向け、洋裁を始める。

 

みさ「東京、どんなだい?」

泰輔「う~ん」

富子「帰れない?」

泰輔「無理だね」腕組みしてため息をつくが、ハッと思い出す。「千駄木と洗足に行き先、書いた札は立てといたから」

富子「うん!」

みさ「したらね、それ見たら誰か連絡してくるかもしれないしょ。ね?」

蝶子「うん…待とう! ここで待ってよう!」

うなずく泰輔たち。

 

<やがて季節は木枯らしの吹く頃となりました>

 

食堂

復員兵が窓の外を見て、鼻歌を歌っている。泰輔、富子、蝶子がその客を見ている。

 

厨房に移動する蝶子たち。

富子「もう、1時間もいるんだよ」

泰輔「金は?」

富子「まだ…」

舌打ちする泰輔。「あいつ、金持ってねえんじゃねえか?」

富子「どうする?」

 

蝶子「いくら?」

富子「すいとんだから70銭」

蝶子「『お金はいいです』って言ってみよっか?」

泰輔「え~?」

蝶子「ねえ」

 

小林「あの…」

蝶子「はい!」

小林「お茶、もらえますかね?」

蝶子「はい!」

 

でんでんさん、若い!

 

蝶子がお茶を注ぎに小林の席に行く。

小林「悪いね」

蝶子「え?」

小林「長居して」

蝶子「あ、いえ」

お茶を飲み、外を見る小林。

 

蝶子「お待ち合わせですか?」

小林「待ち合わせじゃないんだけど」

蝶子「はあ」

小林「ただ、まあ」

 

⚟︎子供たちが遊ぶ声

 

泰輔が厨房からお金、お金と、蝶子にジェスチャーを送る。

 

小林「女房がこっちへ疎開してるって、立て札、残してたんでね」

蝶子「ああ…」

小林「来たんだけど」

蝶子「場所、分かりませんか?」

小林「いや。疎開先、行ったらいないんだよ」苦笑「うん…」

蝶子「いないって?」

 

小林「どうもね、あれ…男できて、どっか行ったらしいや」

 

奥にいる泰輔、富子と顔を見合わせる蝶子。「どちらから?」

小林「東京」

蝶子「私もなんです」

小林「あ、そう。次の汽車、何時ですかね?」

蝶子「上野行きですか?」

 

小林「どこ行こうか迷ってましてね。どこでもいいんです。一番早い汽車に乗りますよ」

泰輔「青森行き5時46分だな」

 

うなずく小林。自分の腕時計を確認する。「あと15分か…」

蝶子「青森へ?」

小林「北海道でも渡ろうかな。行ったことないけど」

蝶子「北海道は私のふるさとです」

小林「じゃ、北海道に行くよ」ため息をつき、立ち上がる。

蝶子「お茶、もう一杯」

 

小林が不意に「ユーモレスク」をハミングした。

ユーモレスク

ユーモレスク

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驚く蝶子は急須を持ったまま小林に近づいた。

小林「え?」

蝶子「いい曲」

 

小林「うん…何て曲か知らないけどね」

蝶子「『ユーモレスク』。この曲、『ユーモレスク』っていうんです」

小林「あ、そう…」

蝶子「はい!」

小林「『ユーモレスク?』」

蝶子「『ユーモレスク』はい」

 

小林「戦地で聴いたんだ」

蝶子「へえ」

小林「中国の曲かい?」

蝶子「いえ。どうして?」

小林「いや、中国で聴いたもんだから」

蝶子「へえ」

 

小林「6月の慰安会でこの曲をバイオリンで弾いたやつがいたんだ」

蝶子「その曲、弾いたのは兵隊さんですか?」

小林「そうだったよ」

蝶子「名前は?」

小林「名は知らないな」

蝶子「どんな男でした?」

小林「よく見えなかった。ただ曲だけは覚えてた」

泰輔「うん」

 

小林「何か?」

泰輔「これの亭主がバイオリン弾きでしてね。出征先も中国だもんだから」

小林「ああ」

蝶子「私も要さんもこの曲、好きだったのよ。出征する前夜もね、私と子供たちに、この曲、弾いてくれたの」

泰輔「うん…」

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小林「じゃ、奥さん…。あれは旦那だよ。きっとそうだよ」

うなずく蝶子に小林もうなずいた。

お金を出そうとする小林を泰輔が止めた。「いや、お代は要りませんよ」

小林「けど…」

富子「ホントに」

小林「じゃあ」

蝶子「お気を付けて」

 

食堂を出た小林を追いかけるように外に出た泰輔。「気を落とさないようにね!」

小林「はい!」頭を下げ、駅の方へ歩き出す。

 

泰輔「5時46分だぞ!」

小林「はい!」

 

蝶子「要さんに違いないわよね?」

泰輔・富子「うん!」

うなずく蝶子。

 

<そして、要さんは絶対生きているともチョッちゃんは思いました>(つづく)

 

要のモデルになった人の行く末は分かってるから、まあ、いい。でも、待ってる人には長い長い時間だな。