NHK 1987年9月24日(木)
あらすじ
神谷(役所広司)と安乃(貝ますみ)は、東京からの帰り、安乃のつわりで汽車を降りたところだった。安乃の具合が悪くならなければ汽車を降りてなかった、と言う神谷に、私たちがいるって知りながらどうして?と聞く富子(佐藤オリエ)。神谷は安乃の風呂敷包みを指し、頼介の遺骨だと言う。要の帰ってこない蝶子(古村比呂)に骨箱を見せたくなかった神谷。みさ(由紀さおり)は泣き、蝶子はやっと滝川に帰れるんだね、と…。
2025.10.2 NHKBS録画
脚本:金子成人
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音楽:坂田晃一
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語り:西田敏行
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岩崎蝶子:古村比呂…字幕黄色
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北山みさ:由紀さおり
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彦坂頼介:杉本哲太
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神谷安乃:貝ますみ
駅員:市川勉
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岩崎加津子:藤重麻奈美
岩崎俊継:服部賢悟
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早川プロ
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神谷容(いるる):役所広司
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野々村富子:佐藤オリエ
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野々村泰輔:前田吟
神谷先生、安乃を招いて居間に集まる。
蝶子「安乃ちゃん、具合悪いの?」
安乃「ちょっと」
神谷「どうも、つわりらしいんだわ」
みさ「え、いやいや~!」
富子「本当!?」
うなずく安乃。
蝶子「いや~、おめでとう!」
一同「おめでとう!」
加津子「どうして『おめでとう』なの?」
蝶子「安乃ちゃんに赤ちゃん、できたのよ」
俊継「どこに?」
みさ「うん、おなかん中だ」
泰輔「ハハハハッ」
俊継「へえ~!」立ち上がって安乃の隣に移動。
泰輔「へえ~、安乃ちゃんに子供ができたか! うん」
神谷「いや~、汽車の中で『気分悪い』って言いだして、そしたら、つわりだって言うしょ。いやいや、たまげたもね」
蝶子「それで、私たちのこと思い出して?」
神谷「いや、ここだとは知らずに。リンゴ園の作業小屋だとはハガキで」
加津子「そこは台風で壊れたの」
神谷「いやいや、そうかい」
俊継が神谷先生と安乃の背後に置かれた荷物を見ている。
みさ「したけど、こっちに移ったこと、ハガキ出したんでない?」
富子「そうよねえ?」
泰輔「着いてない?」
神谷「…はい」
富子「世の中めちゃめちゃなんだわ」
泰輔「じゃ、ほかの人の所にも届いてないってことかもしれねえな?」
蝶子「けど、こうやって、会えたんだから」
泰輔「そりゃそうだ。ハハハハッ」
蝶子「うん」
俊継は勝手に荷物から絵本?を取り出して読んでいる。
泰輔「で、どこへ行く途中なの?」
蝶子「東京?」
神谷「うん、東京から北海道戻る途中なんだわ」
蝶子「東京、とうでした?」
神谷「いや~、あんまり、ほとんど出歩かなかったんだわ」
みさ「う~ん、安乃ちゃん、つわりだもねえ」
神谷「いや、なんも、つわりと分かったのは帰りの汽車の中で」
泰輔「何しに東京へ?」
神谷「…ええ」
富子「何さ?」
蝶子「どうしたの?」
神谷「安乃の具合が悪くならなければ、駅、降りてもいなかったんだ」
富子「私ら、ここにいるって知りながら?」
神谷「…はい」
蝶子「どうして?」
泰輔「そいつは水くさいな!」
富子「そうだよ~」
みさ「いくら食べるもんがないっていっても、2人のことば、もてなすくらい、できるもねえ!」
蝶子「遠慮することないです」
神谷「いや、ただの旅なら気楽に寄れたと思うんだ」
俊継が荷物をたたいた。コツコツと硬い音。「何、これ?」
俊継のそばに加津子も行く。
神谷「俊ちゃん、それは頼介おじさんだ」
安乃が風呂敷に包まれた骨箱を膝の上に乗せた。「兄です」
蝶子「頼介さん!?」
うなずいた安乃が風呂敷包みを開ける。
神谷「駅で包んだもんで」
白い布に包まれた白木の箱が出てきた。
あぐらをかいていた泰輔が正座する。
みさ「頼介さん…死んだんかい?」
安乃「はい」
富子「やだね…」涙を拭く。
泰輔「どこで?」
神谷「フィリピンだそうです。死んだのは8月9日なんだわ」
蝶子も涙がぽたぽた落ちてる。
神谷「あと6日、たった6日、生きてりゃ、戦争終わってたんだわ。したら、死ぬこともなく…」
泰輔「よく連絡がついたね」
骨箱を膝に抱くみさ。
神谷「いや~、遺骨の引き受け先、大した探したらしいですわ。この前、やっと滝川の公次君に知らせ来て」
公次君、無事だったのか!
蝶子は加津子たちの所へ行く。「加津(かっ)ちゃん、俊ちゃん、頼介おじさん亡くなったのよ」
俊継「へえ~」
蝶子「あれが最後だった」
富子「千駄木のうちに集まった時?」
蝶子「ううん…。あのあと、頼介さん、うちにお別れを言いに来てくれたのよ。頼介さん何にも言わなかったけど、あれは、きっと出征の前の日だったに違いないわ。それなのに頼介さんの顔、それまでの険しい表情消えて…」
⚟︎列車の走行音
蝶子「穏やかだった…」
⚟︎列車の走行音
⚟︎汽笛
蝶子「頼介さん、言ったわ。『自分は死ねる』って。『今までお世話になった人たちのために自分は喜んで死ねる』って…。言ったとおりしないと済まない性格なんだから…」
⚟︎汽笛
富子「本当だよ。バカ正直なんだから」骨箱に触れる。
みさ「昔からそうだったねえ」
富子「道郎さん、よく言ってた。『頼介さん、何事にもかたくなすぎる』って」
泰輔「もっと要領よく生きられなかったのかねえ。そしたらさ、あのころだって、もっと楽に生きられたのに…。今度だってそうだ! 誰に何と言われようと逃げりゃよかったんだよ!…きっと、あれだよ。自分から弾の飛んでく方、飛んでく方へ突っ込んでいったに違いねえんだよ! バカタレが!」
みさ「33歳かい?」
うなずく安乃。
みさ「短かったねえ…」
え~、黒柳朝さんは1910年生まれ…しかし、蝶子は1911年生まれっぽい。1945年だから34歳だけど、まだ誕生日来てないってことにしよう! 安乃は27、8くらいで公次くんは20代中盤くらいか?
涙を拭く富子。
みさ「結局…結婚もしないで。安乃ちゃんの赤ちゃん、頼介さんの生まれ変わりでないべか? きっとそうだわ」骨箱を安乃に手渡す。
神谷「東京、行くまでは何ともなかったんですわ」
安乃「気付かなくて」
神谷「ま、気付いたら一緒には東京には行かなかったもね」
うなずくみさたち。
みさ「帰りの汽車でねえ…。やっぱり生まれ変わりなんだわ」
泣き出す安乃。
富子「ごはんの支度でもね」立ち上がって厨房へ。こんな時でもやっぱりごはんは食べないといけないからな~。
蝶子「遺骨は、どこに?」
安乃「滝川に。両親の墓の隣に」
うなずくみさ。
蝶子「頼介さん、滝川出て17年。帰りたくても帰れなかったもねえ」
うなずく安乃。
蝶子「やっと…帰れるんだね」
ここで頼介の笑顔…じゃなく雪原を走る馬ソリと鈴の音。
俊道を馬ソリに乗せて雪原を走る頼介。
雪の上をワ~ッと走りたいという蝶子を乗せて走った。
蝶子を見送り、一人涙する頼介。
でも、2人で乗ってるみたいだから、9話かな? 11話は公次もいたし。
すっかり暗くなり、戸口から出て外を見ていた蝶子が中に入る。
居間
神谷「そうかい、食堂かい?」
蝶子「はい」
泰輔「なにもね、初めっから食堂始めたわけじゃないんですよ」
富子「うん、港の方から、こっちに行商に来る人に頼まれて持ってきたお米炊くだけのまあ、飯炊き屋だったの」
神谷「へえ~」
泰輔「それが高じて、こんなことにね。ハハハッ」
神谷「大変だったね」
みさ「なんも。楽しいことも多いの」
泰輔と富子は顔を見合わせ、泰輔は渋い顔、富子は吹きだす。
神谷「へえ~、そうですか」
みさ「蝶ちゃん、歌手になったもねえ」
蝶子「アッハハ、そうだね」
神谷「ええ?」
蝶子「いや、結婚式なんかに呼ばれて、歌、歌ったら折詰弁当とかお金も一度もらって。フフフ」
神谷「そうかい」
蝶子「はい。フフフフッ」
神谷「やっぱりゆるくなかったんだべ?」
一斉に下を向く富子やみさ。
泰輔「でも、まあ、なんとかこうやってね。うん」
安乃「おじさんたちは、どうしてこっちに?」
神谷「あ、ハガキでは茨城の方だと」
泰輔「アハハ…そっちも空襲でね」
富子「ほかに行くとこなくて」
安乃「滝川に行ったらいいっしょ?」
みさ「考えたんだけど」
蝶子「大人数だしね。今はもうここで十分だし。だから。先生、東京の様子、どうですか?」
神谷「うん、したって、あんまり出歩いてないんだわ。千駄木の方にも洗足にも行ってみようとは思ったんだ。したけど…」
安乃「すいません」
蝶子「いや、いいのよ」
神谷「けど、ちらっと見たところによると、いやいや、見る影もないもね。戦争終わって疎開から戻ってきた人、もう家なんかないもんだから、あっちこっちに掘っ立て小屋たてて『バラック』っちゅうらしいんです」
うなずく富子、みさ。
神谷「そういう人はいる。戦災で親ばなくした子供たちはいる。家族なくした復員兵はいる。物ないから犯罪は起きる。治安も悪いし、衛生上も大してよくない。今はまだ東京には戻らん方がいいっしょ」
みさ「先生は、このあとは?」
神谷「ええ。頼介君の遺骨ば滝川に戻して、また札幌に」
蝶子「そのあとは?」
神谷「うん、まだ決めてない」
泰輔「東京に是非、またね」
神谷「はい、いつか」
泰輔「うん」
蝶子「そう、またみんなと集まりたいわね。邦ちゃん、夢助さん、連平さん、中山さん」
みさ「うん、みんな、元気だといいねえ」
富子「連平や夢助、ありゃあ、少々のことじゃ、くたばりゃしないよ。ね!」
泰輔「そうそう」
神谷「岩崎さんも無事だといいな」
蝶子「はい」
2人分のリュックを背負う神谷先生。「加津ちゃん、俊ちゃん」
加津子・俊継「はい」
神谷「元気でな!」
2人「はい」
神谷「うん」
蝶子「先生も」
神谷「うん」
蝶子「安乃ちゃんも」
安乃「はい」
蝶子「立派な赤ちゃん産むのよ」
安乃「はい!」
みさ「お父さん、生きてたらねえ」
富子「そう、産婦人科だったね。ねえ?」
蝶子「ねえ」
泰輔「まあまあ…とにかくさ、無事でいてさえすれば、そのうちにさ」
神谷「そう思います」
みさ「安乃ちゃん、嘉市さんによろしくね」
安乃「はい!」
いやいや~、安乃ちゃん、あまり動かん方がいいのでは?
蝶子「先生」
神谷「うん?」
蝶子「滝川には邦ちゃんいると思いますんで、会ったらよろしく」
神谷「ああ」
駅員「青森方面の列車が参りま~す! はい、どうぞ」
行商のおばちゃんたちがぞろぞろホームの方へ歩いていく。蝶子たちも駅前から待合室に移動。
神谷「したら」
富子「またね」
神谷「皆さん、お元気で!」
蝶子「さよなら!」
一同「さよなら!」
神谷「なんも『さよなら』ではないっしょ? また会うんだから『さよなら』ではない」
蝶子「したら『また』!」
神谷「うん、また!」
一同「また!」
<神谷先生と安乃ちゃんに抱かれて、頼介君は、ふるさとへ帰っていきました>(つづく)
役所広司さんって、ホント、先生っぽいよな!
しかし、頼介君…まあ架空の人だし、そんな気はしてたけど、やっぱり切ない。名前が出てたから回想で出てくるのかと思ったら北海道の景色と馬ソリ。でも頼介を象徴するものでもあったよね。加津子たちの歌で送り出され(マーちゃんもいたんだよ)、家族という習字に涙する姿が忘れられない。
