NHK 1987年10月1日(木)
あらすじ
蝶子(古村比呂)たちは、喜作(伊奈かっぺい)に別れを告げ、洗足へ着くと、音吉(片岡鶴太郎)とはる(曽川留三子)が出迎える。久々に会えて、みさ(由紀さおり)も嬉しい。夜には泰輔(前田吟)や連平(春風亭小朝)、たま(もたいまさこ)も含めて勢ぞろいで宴会。連平が帰京祝いで持って来たラジオをつけると洋楽が流れて、こんな音楽を聴けるようになったとしみじみする。蝶子が洗濯をしていると邦子(宮崎萬純)が来て…。
2025.10.9 NHKBS録画
脚本:金子成人
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音楽:坂田晃一
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語り:西田敏行
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岩崎蝶子:古村比呂…字幕黄色
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北山みさ:由紀さおり
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国松連平:春風亭小朝
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中山音吉:片岡鶴太郎
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大川邦子:宮崎萬純
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中本喜作:伊奈かっぺい
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国松たま:もたいまさこ
中山はる:曽川留三子
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梅花亭夢助:金原亭小駒
中本よし:高柳葉子
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岩崎加津子:藤重麻奈美
岩崎俊継:服部賢悟
中本良平:中野慎
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鳳プロ
早川プロ
劇団いろは
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野々村富子:佐藤オリエ
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野々村泰輔:前田吟
諏訪ノ平駅前倉庫には貼り紙が貼られていた。
御引立て有難度う
御座居ました
都合により閉店
致します
店主
需要があったんだから、誰か任せられる人がいたらよかったね~。
中本家
蝶子「お二人には何から何まで、お世話になりまして」
喜作「いや~」
蝶子「中本さんのおかげで生きてこれたみたいなものです」
よし「なんも。あんたさんもよく働きなしたなす」
蝶子「いいえ。皆さんが助けてくれたから」
みさ「ホントにありがとうございました」
加津子「ありがとうございました」
俊継「ありがとう」
喜作「荷物は、もう送ったのすか?」
蝶子「ほとんど手に持てるぐらいで送ったのは少し」
よし「何もかんも食べるもんにかえてしまったんだべ?」
みさと顔を見合わせ、うなずく蝶子。
喜作「加津(かっ)ちゃん、俊ちゃん」
加津子「はい」
俊継「はい」
喜作「いつかまた諏訪ノ平さ遊びにきてなす」
加津子「また来ます」
俊継「僕も」
喜作「うん。季節になったらリンゴ送ってやるすけ」
蝶子「じゃ、そろそろ」
みさ「ありがとうございました」
喜作「いやいやいや、達者でな」
みさ「はい!」
加津子「おばさん、良平君は?」
喜作「あ、んだ」
よし「良平! 良平!」
障子が開き、半分だけ顔をのぞかせる良平。
喜作「あ、いだのが?」
蝶子「良平君、加津ちゃんと友達になってくれてありがとう!」
小さく頭を下げる良平。
よし「黙ってしまってえ」
加津子「良平君、さようなら」
俊継「おにいちゃん、さようなら」
加津子「手紙、出すからね!」
俊継「僕も」
喜作「あんだも出しなせよ」
うなずく良平。
蝶子「じゃ、さよなら」
良平「…」
蝶子「…じゃ!」
みさ「どうも」
よし「どうも」
加津子・俊継「さよなら」
良平「(小さな声で)さいなら」
リンゴ畑の中を歩く蝶子たち。
<北海道へ疎開するつもりが、この青森県諏訪ノ平に腰を落ち着けて1年余り、いろんなことがありました。それらを懐かしむようにチョッちゃん一家は去ろうとしています>
森の中を走る蒸気機関車。
岩崎家のあった場所には真新しい小屋が建っていた。小屋というには立派過ぎる。
みさ「いやいや、これか? 大したもんだねえ」
蝶子「ホントだね!」
音吉「帰ってきたか! ん? ハハッ!」
はる「加津ちゃん、俊ちゃん!」
加津子・俊継「ただいま!」
音吉「おっ母(か)さんも。ん!」
みさ「音吉さん、はるさん、お久しぶり!」
音吉「達者でよかったよ」
みさ「ありがとう! ウフフフ」
はる「ホントにみんな達者でよかったよ」
音吉「うん!」
蝶子「(自宅の方を見ながら)出来たのね」
音吉「うん!」
蝶子「音吉さん、はるさん、ありがとうございます!」
音吉「野々村さんや連平さんと作ったんだよ」
みさ「立派だもねえ~」
音吉「さ、中へ、お入りよ、ね! お母さん、ほら、これ…」みさの持っていたトランクを持つ。
みさ「すいません」
音吉が玄関を開けて中へ。
蝶子「いや、いいにおい!」
みさ「う~ん、ホントだね~」
俊継「リンゴ小屋よりいいね」
音吉「ん?」
加津子「倉庫よりもいいよ」
音吉「そう?」
みさ「広いもねえ~」
音吉「へへ~」
はる「そんな暮らししてたのかい」
音吉「ま、こんなとこだけどさ、ね! うん」
蝶子「音吉さん」
音吉「え?」
蝶子「ありがとう。本当にありがとうございます」
音吉「いや~、そんな、エヘヘヘヘッ、いやいや」
はる「荷物も届いてるから」
蝶子「よし。これからみんなで荷物片づけようか!」
加津子・俊継「うん!」
夜、岩崎家に泰輔たちも集まる。
泰輔「とにかくさ、ま、みんな無事で何よりだったよ」
一同「うん」
泰輔「1人、頼介君が戦死したのは悔しいけどさ、これだけ顔がそろうとうれしいよ」
みさ「そうだね」
連平「うん」
富子「人も増えたし」
連平とたまが顔を見合わせて笑う。
道郎、雅紀、俊道は戦争関係なく死んじゃったんだよな~。(涙)
蝶子「連平さん、たまさん、改めて結婚おめでとう!」
連平「どうも!」
たま「ありがとうございます」
一同、拍手。
はる「住まいは?」
蝶子「そう」
連平「『狭いながらも楽しい我が家』ってな」
泰輔「よっ、ご両人! アハハハ!」
蝶子「そしたら、夢助さんは?」
富子「今、行くとこなくなってね、昔の師匠の所、居候」
夢助「そうなんで」
泰輔「夢ちゃん、やっぱりあれだな。商売より噺家の方がいいね」
夢助「へい!」
音吉「ねえ!」
たま「(小声で)あんた」
連平「ん?」
たま「あれ」
連平「あれ? あ、そうそう!」
音吉「く~っ、参ったね。『あんた』ときたよ! アハハハッ!」
はる「あんたが何、参るの?」
加津子「おばさんも『あんた』って言った」
はる「あら、やだ!」
音吉「嫌なことはねえだろ!」
連平「はいはいはい、それ、どかしてね」風呂敷包みを持ってきた。
泰輔「仲よくて結構結構。ね!」
連平「チョッちゃん、これね、あたしとたまからチョッちゃんの帰京祝。開けてみて」
蝶子「うん」
富子「う~ん?」
泰輔「何だ? う~ん。何だろねえ?」
蝶子が風呂敷を開けると箱型のラジオが出てきた。
音吉「あら」
蝶子「ラジオ!」
俊継・加津子「ラジオだ~!」
連平「これ、中古なんだけどさ、つてから安く買ったから遠慮しないで受け取ってね」
蝶子「遠慮なく。どうもありがとう!」
加津子「これ、聞こえるの?」
連平「加津ちゃん!?」
加津子「じゃ、今、聴ける?」
連平「うん、聴けるよ! え~とね、差し込みは…」
音吉「お、差し込みは、そ、そこ」
連平「あ、これ?」立ち上がって電球の脇に差す。「よいしょと。ね、で、これをね…」
ラジオに電源を入れる連平。「こうすると…。ほら、ね!」
みさ「音、出ないね」
蝶子「あ、少し待つの」
みさ「あ~あ~」
ラジオの雑音
加津子と俊継が連平を見る。
連平「お? いや、だ…大丈夫だよ。大丈夫、大丈夫。ほら…ほらね!」
ラジオから曲が流れる。
泰輔「ハハハハッ」
はる「へえ~!」
泰輔「洋ものだよ、姉ちゃん」
みさ「ふ~ん。アメリカの歌かい?」
はる「どうなの?」
音吉「ん? ん? どうでしょう?」
連平「音楽の方までは、ちょっとね」
笑い声
♬~(ラジオ「It's Been a Long Long Time」)
「チョッちゃん」で流れたのは男性ボーカルだったけど、オリジナルはキティ・カレンという女性ボーカルの歌らしい。
1945年11月24日付「ビルボード」誌「ベスト・セラーズ・イン・ストアズ」首位。邦題が「久し振りね」で待っていた愛する人が帰ってきて、キスして!って感じの歌詞で蝶子の未来を暗示したような曲なのかも!? 曲のチョイスがオシャレ。
蝶子「こういう曲も聴けるようになったのね、世の中」
泰輔「そうだ、チョッちゃん」
蝶子「うん?」
泰輔「叔父さんね、食堂やることに決めたよ」
蝶子「本当?」
泰輔「こいつともいろいろと話し合ってさ」
富子「うん、食堂なら経験済みだし、一番いいんじゃないかってことになって」
音吉「え? いつ、経験したの?」
みさ「ん? 青森で。エヘヘッ」
音吉「いやいやいや、俺は思ったね。世の中で何が強いかって、食べる物ほど強いものはないね。疎開してさ、いろいろと勉強になったよ」
橋田ドラマは、だから個人経営の食べ物屋設定が多いんだよね。
連平「さすが、社長。目の付けどころが違う!」
笑い声
泰輔「言われちゃったよ。ハハハ!」
みさ「いやいや~、こうやって、それぞれが新しい道を歩きだすっちゅうんは大したうれしいもんだ」
蝶子「そうだね。あとは要さんの帰りを待つだけ」
ラジオ・アナウンサー「『復員便り』の時間です。まずマレー方面派遣、湘南地区司令部オカ1615部隊・キ9326部隊28人は…」
台所仕事をしながら「復員便り」を聴いている蝶子。
汽笛
混雑した列車に揺られる蝶子。
<チョッちゃんは度々、東京と青森を往復しています。東京の物を青森で売り、青森で仕入れたスルメなど海産物を東京に持ってきて売っているのです。東京での販売を一手に引き受けてくれているのが連平さんです>
連平の家にスルメを運んだ蝶子。
連平「すごいねえ! この分でいったら、あと2~3年で、うちが持てるね」
蝶子「いや~、そんなにはね、やれないわよ。要さんが帰ってくるまで」
連平「ま、そうだね」
たま「蝶子さん、私たちね、マーケットにしようと思ってんですよ」
連平「いや、雑貨屋よ。露店商っていうのは、ほら、天候に左右されるでしょ。だからさ、一軒構えようと思って」
蝶子「それはいいわね!」
連平「フフッ、たまちゃんの発案なの。ね! フフフフッ」
岩崎家
庭で洗濯物を干す蝶子を日傘をさした邦子が訪ねてきた。
蝶子「邦ちゃん!」
邦子「チョッちゃん! ああっ!」
蝶子が駆け寄り、ハグして喜ぶ。「邦ちゃんは、いつ?」
邦子「私は4月」
蝶子「旦那さん、復員して?」
邦子「…それは、まだ」
蝶子「要さんもなの」
邦子「この前、中山さんにそう聞いたわ」
蝶子「こっちに来てたの?」
邦子「うん! 世田谷の大川の両親と一緒だから、めったに外に出られないけど、暇な時『チョッちゃん、まだかな』って、時々、来てたんだ!」
蝶子「ありがとう!」
邦子「1人?」
蝶子「…子供たちは学校で母さんは泰輔叔父さんが作ってる食堂を見に」
邦子「そう! ウフフ」
配達員「岩崎さん、郵便です」
蝶子「はい! ご苦労さま」封書を受け取る。
邦子「要さん?」
蝶子「神谷先生!」
邦子「ああ!」
蝶子は邦子と角材の上に座った。「読むわよ」
邦子「うん」
蝶子「前略 昨年は、青森にての思いもかけない対面、驚きとともに皆様のたくましいお姿を見、うれしく、また安どしました。さて、私は、あのあと東京へ戻ろうかどうしようか考えあぐねていました。しかし、私は札幌にとどまることにしました」驚いて邦子の顔を見つつ、手紙を読み進める。「札幌で本屋を開こうと、目下、準備している最中です。5月には長男が生まれました」
邦子「え~!? アハハッ!」
蝶子「拓(ひらく)と名付けました。そういうこともあり、札幌にとどまることにしたのです。従って、教え子の君や邦子君をいつまでも見守るという役からは、ここいらで解放してもらうことにします」また邦子と顔を見合わせる。「君たちは、もう大丈夫だ。私は、もう少しの心配もありません。空知高等女学校での私の教育方針は間違っていなかったと今、自信を持って言えます。皆様によろしく。神谷容(いるる)」笑顔で顔を見合わせる。(つづく)
神谷夫婦は別に東京に戻るこたぁないもんね。
役所広司さんは、この回が最後だったのかな。
あと2回か…

