NHK 1987年8月27日(木)
あらすじ
要(世良公則)が入営する前夜、送別会が行われた。帰る皆を見送り、虫の音を聴きながら、夜空を見上げる蝶子(古村比呂)と要。蝶子は洗濯などしたことのない要に、戦地で必要なこともあるかもしれないと洗濯を教えて、さらに裁縫道具を持ち出して、繕い物の練習。ボタンを付け終わると要は、最後になるかもしれないから、子どもたちにヴァイオリンを聴かせたい、と寝ている加津子(藤重麻奈美)と俊継(服部賢悟)を起こして…。
2025.9.4 NHKBS録画
脚本:金子成人
*
*
音楽:坂田晃一
*
語り:西田敏行
*
岩崎蝶子:古村比呂…字幕黄色
*
岩崎要:世良公則
*
国松連平:春風亭小朝
*
中山音吉:片岡鶴太郎
*
大川邦子:宮崎萬純
*
中山はる:曽川留三子
岩崎加津子:藤重麻奈美
*
神谷安乃:貝ますみ
岩崎俊継:服部賢悟
*
神谷容(いるる):役所広司
*
野々村富子:佐藤オリエ
*
野々村泰輔:前田吟
<要さんが入営する前夜です。その送別会も夜になって終わりました>
夜、岩崎家の玄関から神谷先生、安乃、泰輔、はる、邦子、音吉、富子、連平と送別会に出ていたメンバーが出てくる。蝶子、要も門の前でお見送り。
富子「じゃ、また明日来るから」
要「はい」
泰輔「じゃあね」
要「皆さん、どうも今日は本当に」頭を下げると、みんなも頭を下げた。
邦子「おやすみなさい」
泰輔「おやすみ!」
音吉「おやすみなさい」
はる「気を付けてね」
中山夫婦以外、帰っていく。
音吉「じゃ、我々も」
要「今日は本当にどうも」
音吉「いや」
蝶子「ありがとうございました」
はる「おやすみ」
今回は出演者が多いように見えて、昨日の送別会のメンバーは開始1分で帰宅。
夜空を見上げる岩崎夫婦。
要「明日は晴れそうだね」
虫の声
縁側に座る蝶子と要。
蝶子「あの時も虫、鳴いてたんだわ。あの日の夕方」
要「7月にか?」
蝶子「そう…」
要「空耳だろう?」
小さく首を横に振る蝶子。「聴いたわ。マーちゃんと一緒にちゃんと聴いた」
虫の声
蝶子「マーちゃん、『虫のオーケストラだ』って言ったのよ」
要「ふ~ん」
虫の声
蝶子「今夜もまた虫の声。…だから私、嫌い。よくないことばっかり」
虫の声
要「明日か」
蝶子「外地へ…戦地へ行かされるの?」
要「うん…まあ、そう思っといた方が」
虫の声
茶の間
柱時計は11時50分を指す。
蝶子「練習よ。まずは洗濯の方から」
要「うん」
蝶子「たらいがあれば、たらいの端にこう載せて、水につけた服にせっけんをこうつけて、こう、ゴシゴシと、こう…」洗濯板を使って実際に見せる。
要「うん」
蝶子「やってみて」
要「おお。せっけんをこうつけて…で、こうか」
蝶子「洗濯物は、ただ動かせばいいっていうんじゃないの。板のデコボコを利用して絞り込む感じで、こう…」手ぶりを交えて指導。
要「こうか?」
蝶子「そうそう」
要「…よし」洗濯板で衣類を洗う練習。
蝶子「ウフフフ…」
要「笑うな」
蝶子「すいません」
要「しかし、これは冬は水が冷たいんだろうな?」
蝶子「でも、南方だったら…」
要「ああ」熱心に練習している。
蝶子「次は繕い物!」裁縫箱を取り出し、針を要に渡す。「まずは糸を通すことから」
要「よし」
蝶子「糸の先、広がってるんだから、こういう時は口で、こう…」糸の先を口に含む。「湿らして指でピッと絞る」
要「うん、よし」
蝶子「通す」
要「よっ、こうか」
蝶子「そう」
要「よし」
蝶子「で、歯で糸を切る」
要「糸を切る」実際に歯で糸を切る。「…よし」
蝶子「で、指の先で玉を作る」
要「玉を作る…」
蝶子「うん?」
要「もう一度。よし!」
蝶子「ああ…はい。ボタン付け。はい」シャツを渡す。「要さんは…」
要「うん」
蝶子「ここへこう付けて」
要「うん、よし」
蝶子「針を下から通す」
要「下から通す。こうか?」
蝶子「うん」
要「うん」
蝶子「で、ボタンの穴に針を通す」
要「うん」
蝶子「そして、もう一つの穴に通して針を下に」
要「もう一つの穴に通して針を下に」
蝶子「これを5~6回繰り返す」
柱時計のアップ
要「よし」
蝶子「うん」
要「あ、できてる、できてる」
蝶子「あ、そしたら、こうね、針を下にして」
要「下にして」
蝶子「あ、返して、グルグルと、こう巻く」
要「ああ…ちょっと待ってくれ。…こうしてグルグルと巻く」
蝶子「そして針を」
要「うん」
蝶子「下に」
要「下に」
蝶子「はい、で、裏にして」
要「裏にして」
蝶子「はい、そして、糸を止める。まず、針をここに置く」
要「うん」
蝶子「そして、糸を2~3回巻く」
要「…1、2、3」
蝶子「指で押さえる。そして、針を抜く」
要「うん…ああ! とまってるよ」
蝶子「うん。そしたら、歯で糸を切る」
要「ああ、できたね! よしよし」
蝶子「一人でやってみる?」
要「うん」
蝶子が細々用意している。
要「で、こうやって…あ、違うなあ」針に糸を通す。「よし。え~…こうだな?」
作業している要をじっと見る蝶子。
要「これを下に…よし」
古村比呂さんが見本を見せながらの作業+お芝居もして…大変だろうなあ。
泣きだす蝶子。
要「何だ?」
蝶子「要さんが知らない土地行って、こんなことやるのかと思ったら…かわいそう」
要「かわいそうって言やな、何だってそうだよ。髪だって切らなきゃいかんし。大体ね、ゲートルなんてもん、したこともない。あんな帽子ね、形が好かんよ、俺は。第一ね、俺に軍服が似合うと思うかね?」
じっと要を見つめる蝶子。「生きて帰ってきてね」
蝶子を見る要。
蝶子「死んじゃダメ。…天国へ先に行っちゃダメ」
要「でも、覚悟しておけ」
蝶子「嫌!」
要「戦場へ行くんだ。覚悟だけは」
蝶子「しない! 絶対しない! 加津子や俊継や私が待ってるんだから…要さんは絶対、帰ってこなきゃいけないのよ!」
要「うん」
世良さん、器用そう。すいすいやってる。
蝶子「病気なんかしないように」
要「…うん」
蝶子「今まで病気したことないけど、水が変わると分からないんだから」
要「うん」歯で糸を切る。「うん、できた!」
素早く蝶子が片づけ、ちゃぶ台を移動。
要「よし」ため息をつく。「14年か」
蝶子「?」
要「結婚して」
蝶子「14年」
要「うん。初めて会ってから…」
蝶子「16年」
要「うん」
柱時計のアップ
要「俺はね…死ぬことは大して怖くないんだよ。怖くはないがね、さみしいだろうと思うんだ。明日、お前や加津子や俊継と引き離されるのが、つらくてかなわんよ」
涙を浮かべる蝶子。
要「もしね…今、お前たちと一緒にいられる代わりにバイオリンをやめろと言われたら…俺はやめる。バイオリンを捨てるよ。喜んで捨てる」
涙を浮かべてほほ笑む蝶子。
要「子供たちを起こしてくれんかね」
蝶子「!」
要「今日のうちにね、俺のバイオリンを聴かせておきたいんだ」
うなずいた蝶子は加津子たちの部屋へ。「加津(かっ)ちゃん! 俊(とし)ちゃん!」
柱時計のアップ
⚟︎蝶子「起きて!」
⚟︎眠そうな子供の声
練習室からバイオリンを持ってきた要。
蝶子「お父さんはね、明日からよそへ行っちゃうのよ」
要「そうだぞ。どうした? ほら、目を覚ませ、2人とも!」
蝶子「バイオリン、聴くのよ!」
要「…最後かもしれんぞ!」
正座して要の演奏を聴く蝶子たち。
♬~(「ユーモレスク」)
<要さんの言うように子供たちにもチョッちゃんにも、これが要さんのバイオリンの聴き納めかもしれません。要さんは心を込めて音を奏で、チョッちゃんは、その音を忘れないよう、じ~っと聴いていました>
目に涙をためて演奏に聴き入る蝶子。(つづく)
なかなか珍しい描き方をする入営前夜。
新二も針仕事が苦手だって手紙に書いてたな…って、新二は大学を中退して、満州の軍需工場で働き、昭和19年、満州で現地召集を受けた。あと半年で徴兵検査を受ける段階だから、まだ若いんだよね~。若いからこそ母の心配をよそに軍国青年になってしまった。
先週月曜日から昭和19年4月になって、結構じっくり描いてるね。今週月曜日が6月ごろ? そして今日が9月中旬。じわじわひたひた戦争が迫る。

