あらすじ
蝶子(古村比呂)が音楽学校を卒業し、野々村家でささやかな宴が催される。結婚した後は蝶子も要(世良公則)のアパートで暮らすと聞き、泰輔(前田吟)の妻・富子(佐藤オリエ)は寂しさのあまりがっくり肩を落とす。式の日取りは5月21日に決まった。蝶子は両親の出席を望むが、一度は音楽に娘をとられ、今度は音楽家にとられてしまう…。そう思うと、俊道(佐藤慶)の心境は虚しさと切なさで一杯だった。ところが式は…
2025.6.7 NHKBS録画
脚本:金子成人
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音楽:坂田晃一
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語り:西田敏行
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北山蝶子:古村比呂…字幕黄色
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岩崎要:世良公則
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北山みさ:由紀さおり
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野々村富子:佐藤オリエ
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国松連平:春風亭小朝
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田所邦子:宮崎萬純
河本:梅津栄
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北山道郎:石田登星
梅花亭夢助:金原亭小駒
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高畑品子:大滝久美
患者:石黒正男
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鳳プロ
早川プロ
劇団いろは
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神谷容(いるる):役所広司
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北山俊道:佐藤慶
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野々村泰輔:前田吟
野々村家
<昭和6年3月です。チョッちゃんは東和音楽学校を卒業しました。今宵は、そのささやかな祝いの集まりなのです>
卒業證書
北海道
北山蝶子
明治四拾三年五月十二日生
東和音樂學校本科聲樂
専攻ノ全課程ヲ修メ卒業
試驗ニ合格セシコトヲ證ス
昭和六年三月二十五日
東和音樂學校校長 井上武
…主任教授 小林津矢夫
みんなで卒業証書を見ている。実際は中退らしい。さすがに昭和の終わりでも結婚の過程をリアルに表現するのはまずかったのかな。
富子「う~ん、大したもんだよ」
蝶子「『東和』。ヘヘヘヘッ、ね!」
邦子「チョッちゃん、岩崎さん、まだ?」
蝶子「うん、レコードの録音だとかで」
神谷「へえ~」
蝶子「もうそろそろ来ると思うわ」
連平「なるほどね」
蝶子「何?」
連平「敵の動きをがっちりつかんでるとこなんざ、早くも女房気取りだね」
蝶子「そんなことないわよ!」
夢助「よっ、新妻!」
蝶子「夢助さん!」
相手のこと”敵”って呼ぶこと、昭和だとよくあることなのに気に食わない作品だとお世話になった人なのに敵呼ばわりするなんて…とボロクソ言ったりするんだよな、とふと思い出した。確か「マー姉ちゃん」の時だったかな。
連平「『九尺二間に過ぎたるものは紅のついたる火吹き竹』ってね。『銀の平打、枕に落ちて』とくらあ」
夢助「♬宵の口説の惚仕舞(そうじまい)」
富子「バカ! もう酔ったのかい? もう、いやらしいんだから!」
蝶子「いやらしいの?」
邦子「何がいやらしいの?」
夢助「大変…」
連平「いやらしいよ。だって平打のかんざしって、女の人が頭に差してるやつだから、それが布団の上へ落っこっちゃう」
富子「連平、お黙り!」
夢助「『明けの鐘、ゴンと鳴る頃、三日月形の…』」
富子「夢ちゃん!」
泰輔「『櫛が落ちてる四畳半』」
ちょっと下ネタ?に富子が怒る。「あっ!」
「ストトン節」の中に「明けの鐘~」の都々逸が含まれている。
泰輔「皆、食べてるか? 食べてるか? 道郎君、酒あるか?」
道郎「もう、ないな!」
泰輔「酒がないってさ」空のお銚子を渡す。
富子「はいよ」
泰輔「あいたたた…何だよ」←富子につねられた?
蝶子「どうしたの?」
泰輔「いやいや、何でもない。おお、痛っ!」
台所に行った富子。
邦子「もう、卒業か」
連平「うん」
神谷「あっという間だわ」
一同「うん」
台所で一人、がっくりと肩を落とす富子。
神谷「周りの連中の実力に驚かされて負けじとカリカリ励み、精進したもな」
台所から戻ってきた富子。「それが、あっという間に結婚」
連平「何にもないのは、あたし一人だ」
富子「あんた、本当にいないの? あんたでもいいって人」
連平「あ、『あんたでもいいって人』ってことないでしょう」
道郎「何にもないのは僕も同じだ」
夢助「ついでに、あたしも」
道郎「小説は書けども書けども、ものにならず。その点、神谷さんは着実だな!」
神谷「いやあ」
フラフラと立ち上がった道郎が神谷の方へ向かう。
泰輔「おいおい! 大丈夫か? お前」
道郎「数は少ないけど、こつこつ地道に童話書いてるもんなあ!」
神谷「でも、まだ童話だけじゃ生活できないもね」
道郎「いやいや、作品を発表する場があるだけでもいいじゃないですか!」
神谷「そりゃまあ…」
神谷に絡んでいたものの倒れてしまった道郎。
泰輔「おいおい、大丈夫か!」
夢助「ヘベのレケだ。しょうがないな」
泰輔「おい、酒」
道郎「酒!」
富子「はいよ! あ?」
⚟要「遅くなりました!」
蝶子「あ!」玄関へ走ろうして、道郎にぶつかる。
道郎「いてえ!」
蝶子「ご苦労さまです!」
要「遅くなって」
連平「待ってました!」拍手を送る。
泰輔「『駆けつけ3杯』っていうからさ」
富子「チョッちゃん、お酌」
蝶子「あ…けど、要さん、お酒は」
要「僕は、やめましたから」
富子「そうだそうだ、うん」
要「とにかく卒業おめでとう」
連平「おめでとう!」拍手を送る。
邦子「それで式は?」
蝶子「5月だって」
連平、夢助が拍手。
邦子「新居は?」
要「乃木坂の私のアパートの方で」
富子「出てくのかい」
泰輔「何度同じこと言ってんだよ」
富子「要さん、こっち来るってのは?」
要「いや、僕がそばにいては何かとご迷惑でしょ?」
富子「またまた! チョッちゃんの旦那となりゃ、話は、また別!」
泰輔「調子のいいこと言いやがって」
富子「『部屋狭い』っていうんだったらさ、夢助なんか追い出しちゃえばいいんだからね!」
夢助「おかみさん!」
泰輔「2人は新婚なんだからさ、2人っきりの方がいいんだよ」
蝶子「私は、なんも2人っきりじゃなくたって…」
泰輔「いいや、その方がいいの。そういうもんなんだよ」
蝶子「ふ~ん」
道郎「そうかい!?」
連平「うるさいね、ホントに」
寝てしまった道郎の頬を軽くたたく蝶子。「何か掛けないとね」部屋を出ていった。
神谷「岩崎さん」
要「はい」
神谷「あの~、北山君の歌はダメだとおっしゃられたそうですが」
要「はい」
神谷「『見込みない』とか『才能ない』とか…」
要「『諦めろ』と言いました」
神谷「それは?」
要「は?」
神谷「本気でそう?」
要「?」な表情。
神谷「その…つまり、結婚ばしたいために、その…」
要「いえ、本当にこれ以上やってもダメです。私はそう思います」
おお~! 神谷先生さすが! しかし、要は笑ってごまかしてる。
毛布を持って戻ってきた蝶子は道郎にかけた。
富子「出ていっちゃうの」
泰輔「お前って女は本当に諦めの悪い女だなあ」
連平「ささ、そんなこと言ってないで、みんなでパッとやりましょ。ね!」
神谷「やりましょう!」
蝶子「叔母さん、飲もう!」
要「ああ、俺が。どうぞ」富子にお酌する。
カフェ泉
河本「お待ち遠さま。はい。何?」
邦子「チョッちゃんの卒業写真の写真」
河本「ほう」
蝶子が校門の前で撮った写真。白黒だけど、写真も大きく、昭和初期というより昭和62年っぽいぞ~。
河本「卒業ですか…そうすると、もう、ここへ来なくなるのかな?」
蝶子「どうして?」
河本「だって、しちゃうんでしょ、結婚」
蝶子「だけど」
邦子「私が引っ張り出しますから」
河本「そうね。是非、そうして。寂しくなりますから」
蝶子「はい」
河本「はい、ハハッ…」
♬~(シャンソン)
Googleの曲検索で出てきたのは、これ。「はだかを見られた (Il m'a vue nue)」 1926年
邦子に返してもらった写真を見つめる蝶子。
蝶子が部屋で手紙を書いていた。
「父さん、母さん、先日、音楽学校を卒業しました。本当にありがとうございました。思い起こせば4年前、父さんの反対を押し切って、音楽の道を目指して上京。これまで懸命に頑張りました。声楽家を目指して、学校に通いました。だけど、卒業後は、その道には進みません」
北山医院の診察室の風景
右腕に傷を負った男性が品子と共に診察室に入って来た。
蝶子の手紙「岩崎要さんの忠告もあり、断念します。何も悔いはありません。自分で納得し、自分で決めたことです。爽やかなものです」
俊道が傷の手当てをする。
蝶子の手紙「それは、きっとやるだけのことはやったという満足感があるからだと思います。父さんはやはり結婚のことは許してくれていないのでしょうね。私の手紙に返事をしないというのは、やはりそうなのでしょうね。遠く離れていて話ができないのがもどかしくてしかたありません」
みさは茶の間で蝶子の卒業写真を見ている。
蝶子の手紙「私たち5月には結婚しようと思ってます」
寂しげなみさの表情。
夢助と道郎がタンスを運んでいる。
<その5月です。結婚式も間近に迫った、ある日、チョッちゃんは一足早く自分の荷物を新居となる要さんの部屋に持ち込むことにし、同時にその部屋の改造を始めたのです>
タンスの下敷きになっている夢助。「いてて、あ~!」
蝶子「ちょっと! 要さん、連平さん、来て!」
夢助「体、弱いんだから、ホントは」
道郎「どこだ、どこだ?」
夢助と道郎が運んできたタンスに指示を出す蝶子。
蝶子の手紙「結婚式は5月21日と決まりました。父さんと母さんにも是非、東京に出てきてほしいのです」
俊道とみさは縁側で並んで手紙を読んでいた。
みさ「21日…東京、行かないのかい?」
鳥のさえずりが聞こえる。みさは手紙をたたんで封筒にしまう。
俊道「お前には子供たちへの期待っていうんは、なかったんかい? ああなってもらいたい、こうなってもらいたいとかいう」
みさ「私は…」
俊道「道郎には医者になってもらいたかった」
みさ「はい」
俊道「帝大に入り、卒業後は医者になって後ば継がせようと考えていたんだ」
うなずくみさ。
俊道「したら『小説家になる』っていうんでないの」
俊道を見るみさ。
俊道「蝶子には高女を出たら、うちにいて花嫁修業でもさせ、時が来たら、しかるべき相手に嫁がせようと…したら、『音楽の道に進む』って言う。『東京に行く』って言う。あげくには『結婚する』って言う」
うなずくみさ。
俊道「わしら親には相談も何もなくだ。相手は音楽家っていうべ?」
うなずくみさ。
俊道「音楽にとられ、音楽家にとられ、親っていうんは…こんなもんかい?」
うつむくみさ。
俊道「夢ば一つ一つ潰していくしかないんかい?」
みさ「あ!」
俊道「うん?」
みさ「はあ…蝶々だ!」
紙っぽい蝶々が庭の花の上をひらひら飛んでいる。
野々村家
着物をあててくるくる回る蝶子。
富子「要さん、ちょっと見てやって!」
泰輔「滝川のチョッちゃんの母親が送ってくれたんだよ」
蝶子「母さんが嫁入りの時に着たものなんだって!」
富子「いいでしょう!」
要「へえ、どれどれ、どれどれ、どれどれどれ? うん、よく似合ってるよ」
蝶子「うん」
要「実は…」
泰輔「うん?」
要「式は挙げれなくなりました。21日、東京にいないんですよ」
蝶子「どうして?」
要「ん? 演奏旅行でね、大阪へ行かなきゃいけないんだ。21日は夜じゃないと戻ってこれないんです」
泰輔「そいつは、まずいなあ」
要「あの~、式、先に延ばせませんかね?」
富子「私たちは、いいけど」
蝶子「邦ちゃんは21日、仕事しないで空けるって言うし、安乃ちゃんもその日を…」
泰輔「うん…」
蝶子「式なんかいっか! ね! そんな改まって式なんかしなくていいじゃない?」
富子「けど、こういうことはさ、けじめってもんが…」
泰輔「うん」
要「そうだな」
富子「う~ん」
要「式なんかいっか!」
富子「何だい」
蝶子「21日は皆さんに予定どおり集まってもらって、このうちでささやかな宴を開くとかさ」
要「ああ! それでいい、それでいい」
富子「要さん抜きで?」
要「どうせ、いつもの人たちばかりなんだし、まあ、その辺の事情は分かってくれます」
蝶子「分かってくれるわよ」
要「くれます、くれます」
泰輔「う~ん、まあ、それでいいか!」
要「申し訳ありません」
泰輔「男は仕事が大事だからな」
富子「何だか、さい先、よくないね」
泰輔「水さすんじゃないよ、水を!」
富子「はいよ」
泰輔「チョッちゃん、親ってもんはな、子供がどんなことしたって不安なもんなんだよ。だから幸せであるかぎり、きっと喜んでくれるはずだ」
蝶子「はい!」
泰輔「要さん、よろしく頼みますよ!」
要「はい!」
富子「しっかりね」
うなずく蝶子。
<5月21日。要さんは仕事で出席できないまま、チョッちゃんの結婚祝いの宴が開かれました>
台所では、かっぽう着を着た手伝いの女性が2人。
花嫁衣裳のまま、お銚子を持って台所に入って来た蝶子。
泰輔「おいおい、ダメだよ! チョッちゃん、ダメ!」
富子「ダメだよ!」
泰輔「ちゃんと座れ!」
夢助「チョッちゃんが要さんに釣り上げられたというところでね」
茶の間に戻ってきた蝶子の着物の裾を直す安乃。今日はクレジットに名前なかった。
夢助「ほんのチョッちゃんしかやりませんからね。要の芸でございます!」
連平が三味線を弾き、夢助が恵比須様のマネ?をする。蝶子も大きな口を開けて笑う。
⚟要「ただいま!」
<その夜です>
花嫁衣装のまま出てきた蝶子に一瞬怯む要。「あ、ただいま!」
蝶子「お帰り!」
要「おなかすいちゃった。何か食べるものあるかな?」
蝶子「はい」
要「あ、そうか」
蝶子「どうぞ。はい、こっち、そこで」
要「ああ、何だ?」テーブルの上のお重を開ける。
蝶子「要さん、ちょっと!」
要「うん、何だ?」
蝶子「帰ってきて着替え出そうと思ったけど、戸が開かないの」
要「うん、ちょっ、ちょっ…どいて」
蝶子「う~ん! 開かないでしょ?」
要「ダメだな、こりゃ」
日本髪のカツラを外す蝶子。「暑い! よいしょ」カツラを置く。
<とまあ、こんなような2人の結婚初夜でありました>
日本髪のカツラにピントが当たり、その後ろで戸を開けようと奮闘しているピンボケの要と蝶子。(つづく)
神谷先生が視聴者が気になっていたことを聞いてくれたなー。
俊道も切ない…

