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ドラマの感想など

【ネタバレ】別れて生きる時も 第十六章「運命の糸」その三

TBS 1978年1月25日

 

あらすじ

再出発を胸に美智(松原智恵子)は東京へきたが、日中戦争の最中。足を棒にしても仕事はなく、疲れ果てて往来に倒れた。栄養失調だった。 美智を助けた松本(織本順吉)は印刷会社の社長。行き倒れが縁で美智は松本の秘書として雇われた。が、平安な日は短かった。血まなこで美智を捜していた小野木(伊藤孝雄)に見つかり、彼は逃げる美智に暴力をふるった。

愛の花

愛の花

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2024.9.9 BS松竹東急録画。

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原作:田宮虎彦(角川文庫)

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塩崎美智:松原智恵子…字幕黄色

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井波:中野誠也

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松本:織本順吉

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小川課長:阿木五郎

大澤貞枝:緋多景子

光田(みつだ):桧よしえ

大澤留吉:大久保正信

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山村:名倉美里

奥田:高橋英郎

戸田:磯部稲子

ナレーター:渡辺富美子

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小野木宗一:伊藤孝雄

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協力:大井川鉄道

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音楽:土田啓四郎

主題歌:島倉千代子

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脚本:中井多津夫

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監督:今井雄五郎

 

前回の振り返り

美智「ほんま言うたら、うち、一度結婚しました。そやけど、どないしても辛抱でけしまへんさかい、一人で生きていこう、そな思うて東京に」

松本「そうだったのかね」

美智「もっと早(はよ)うに話さんならん思うてたんどすけど」

松本「いや、そんなこと気にしなくたっていい。誰にも人には言えん事情があるからね」

 

美智「それだけやないんどす。ほかにも社長に聞いてもらいたいことが…」

松本「塩崎君。今、なにも言わなくたって。これから先、君が一番言いやすいと思ったときに…」

美智「いいえ。今でも言いやすい思います。これだけは聞いてほしいんどす。満州に行った私の父には前科がありました。去年、7年の刑を務めて、大津の刑務所から出てきたばっかりやったんどす。今まで秘密にしてきたんどすけど、社長に黙ってたら、ウソついてるようで、ほんまに心苦しかったんどす」

うなずく松本社長。

美智「ハァ…気が軽うなりました。社長に聞いてもらいましたさかい」

 

松本「塩崎君。どんなことでも相談においで。私にしゃべって気が楽になるんだったら、いつでもいいから話しに来なさい」

美智「はい」

松本「君のことはね、初めから他人事には思えなかった。私にも1人、娘がいてね。生きていたら君と同い年だ。大正10年1月の生まれで…大震災のときにね、家内と一緒に死なれてしまった。生きていたら、塩崎君のようないい娘になっていたかもしれない。今でもね、時々、そう思うことがあるんだ」

 

昼ドラって、オープニング、エンディングがあって、前回振り返りもあって、木下恵介アワーの30分とは違う感じ。今にして思えば、「岸壁の母」は昼ドラにしては回想シーンがすごく少なかったと思う。

 

東亞印刷

井波「こんちは」

戸田「いらっしゃい」

井波「光田さん、校正刷りできてる?」

光田「できてます、はい」封筒を手渡す。

井波「ありがとう。それ、だいぶ直しがあるんだ。部屋、借りていいだろ?」

光田「どうぞ」

 

松本「ああ、井波さん」

井波「こんちは」

松本「どうも。近頃は、いつも出張校正に来ていただいて、こちらは大助かりですよ」

井波「ええ」

松本「やっぱり美人の事務員を入れた効果がありましたかな?」

井波「フフフフッ。意外とそうかもしれませんよ。あっ、その美人に今、そこで会いましたよ。でも、あの人、ちょっと冷たいな。もう好きな人がいるんだろうな」

松本「いや、そうでないかもしれませんよ。男は押しですよ、一にも二にも三にも」

井波「いや…いや、僕は、その…」

 

なんでそんな社長も美智をプッシュするのよ。中野誠也さんは「たんとんとん」のころは茶髪でこのドラマだと髪型は変わってないけど、髪色は黒くなってる。戦時中だし。

 

光田「どうぞ」

 

社長や女性事務員たちのいる部屋の隣の小部屋に案内された井波。「あっ、悪いけど、お茶入れてほしいな」

光田「塩崎さんに入れてもらったら? 男の人ってだらしないのね。少々美人だからって、すぐチヤホヤして」

井波「いや…」

光田「あんな気取った人のどこがいいっていうのよ。井波さんなんか大嫌い」

 

電話を受けていた松本社長が山村を呼ぶ。「君、すまんけどもね、来月から多摩川工場のほうに移ってほしいんだ」

山村「多摩川ですか?」

松本「ああ。あそこは男の工員ばかりだからね。女の事務員がどうしても1人欲しいっていうんだ。君は、うちが五反田だし、みんなの中では一番、多摩川工場に近いからね」

山村「私、多摩川なんて、あんな田舎に行くのイヤです」

松本「そんなわがまま言ってもらっちゃ困るよ。今は戦時中なんだから。君のうちからだとね、ここへ来るより、ずっと近いんだよ」

山村「でも…」

 

奥田「あっ、社長。あの…甲文(こうぶん)社の原稿、見出しの活字を決めたいんですけど」

松本「ああ、すぐ行く」

奥田「お願いします」

 

松本「じゃあね、来月から、そういうことで頼むよ」部屋を出ていくと、山村が泣きだす。

 

光田「みんな、塩崎さんのせいよ。塩崎さんが来なかったら、山村さんが多摩川工場行かなくて済んだのよ」

戸田「でも、社長はどうして塩崎さんだけえこひいきするのかしらね」

光田「決まってるじゃない。惚れてんのよ」

山村「あんな人、なにも私たちの会社の前で倒れなくても。もっとほかで倒れればよかったんだわ」

光田「そうよ」

また泣きだす山村。

 

山村さんと戸田さんは同じような2つ結びでややこしいと思ったら、山村さんは光田さんや戸田さんと比べると小柄なのね。

 

事務所に戻ってきた美智の顔を見て、わっと泣き出し席に戻る山村。戸田も美智をにらみながら自分の席に戻る。

 

美智「どうしたの? 山村さん」

光田「あんたの犠牲者が出ただけの話よ」

美智「犠牲者?」

光田「そうよ。あんたが会社に入ってきたばっかりに山村さん、ここ追い出されて多摩川工場行くことになったんですからね。あんたさえいなかったら、こんなことにならなくて済んだのよ。井波さんがあんたにお茶を入れてもらいたいんですって。あっちで校正してるわよ」

美智「はい」

 

部屋に戻ってきた松本社長。「山村君、仕事中にメソメソ泣いてちゃダメじゃないか。私の言うとおりできないんだったら辞めてもらうよりしょうがないよ」

光田「社長、いくらなんでも山村さんがあんまりかわいそうですよ。1人だけ多摩川工場にやられるなんて」

松本「じゃ、君が代わりに行ってくれるかね?」

 

美智は井波のいる部屋へ。壁の上下に隙間が空いてるスイング扉だから、女子社員たちの会話は耳に入ってないのかな?

美智「遅くなって申し訳ありませんでした」

井波「ありがとう。塩崎さん、近頃、京都弁使わなくなりましたね」

美智「ええ、そのように心がけてますの」

井波「ふ~ん、残念だな。僕は京都弁のあの響き、とても好きだったんです」

美智「失礼します」

 

すっかりあたりが暗くなったころ

松本「君が多摩川工場に?」

美智「はい、私が一番、新参者ですから、山村さんに代わって行ってあげたい、そな思うんです」

松本「誰かにそう言われたのかね?」

美智「いえ、決してそういうわけや…」

松本「いや、それは困るよ。君は今、私の片腕になって働いてもらってるんだからね、君がいなくなったら、私はお手上げtだ」

美智「社長にそう言うてもろたら、ほんまにうれしいんどすけど、そやけど…」

松本「いや、分かってる。みんなから意地悪されてるんだろ? 私が君だけをえこひいきするって。女の子はいろいろうるさいからね。しかしね、そんなこと気にしてたら仕事にならんよ。そのうち、誰もなんにも言わなくなってしまうもんだ。ねっ。それにね、山村君のことは心配しなくってもいいんだ。あの子は、この秋に辞めることになってる。本人は知らないかもしれないがね、親からそう言われてるんだ。早く辞めて花嫁修業をさせたいって」

 

美智「そうだったんどすか」

松本「うん。だからね、君は余計なことを考えないで、私の言うとおりにしてればいいんだ」

美智「はい」

松本「第一、君のことはいろいろ心配事が多いからね。私のそばから手放すわけにはいかんじゃないか」

ほほ笑む美智。

 

だけど、社長ももっとうまく女性社員たちに接してほしいよな~。今のままじゃ美智にだけヘイトが集まり、かばうのが社長や井波、ますます女性社員たちに嫌われる。女って怖~、美人だと嫉妬しまくってさ!という男性の思い込みで書かれたようなエピソードだな。

 

<美智は、やっと近頃になって松本に感じる言いようのない親しみは、きっと誰もが父親に感じる、それに違いないと思い始めていた。自分は父・利周に感じることのできなかった父親の愛情というものを今、初めて知ったのだ。松本の優しさは今の美智にとって何ものにも勝る心強い支えになっていた>

 

×榮出版株式會社から出て歩いている美智。

小川「君、塩崎君と違うか?」

振り向いた美智は驚く。

小川「わしや。京都の小川や。いや、しばらくぶりやなあ。君、東京に来とったんか。ちっとも知らなかったわ。いや、偶然やなあ。こんな広い東京で出会うなんて、ええ? あっ、君、小野木はんと一体、どないなってんのや。いや、わしもあの人には、ほんまに参ったで。うちの女の子、一人一人に君の行方知らんか心当たりないかて聞いて回ってな、えらい迷惑したわ。とにかくその辺でお茶でも飲みながら、ゆっくり話そう」

美智「私、今、大急ぎの用事がありますから、すぐ帰らなければなりませんので、ここで失礼させていただきます」

小川「ん…塩崎君!」

 

美智は走り出した。

 

小野木<<美智! 美智!>>

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スーツ姿の小野木が走って追いかけてくる幻影。

 

美智は必死に走る。東亞印刷から出ようとしていた井波とぶつかった美智。

井波「あっ…」

美智「ごめんなさい」封筒を落とす。

井波「すいません、大丈夫ですか?」封筒を渡す。辺りをうかがう美智の様子に「どうしたんですか?」と聞く。

美智「すいませんでした」立ち去っていく。

井波「あっ…」

 

封筒を持って、女性社員のいる部屋に入り、そのまま通り抜けて廊下へ出た美智。

松本「塩崎君、どうかしたのかね?」

潤んだ目で見つめる美智は社長の前から立ち去る。

松本「塩崎君」

 

部屋から光田が顔を出した。

松本「またみんなして塩崎君、いじめたんだろ。ダメじゃないか」←ほら、こういうこと言う(-_-;)

光田「社長、違いますよ。私たち、そんなことした覚えありませんよ。塩崎さんがいきなり外から飛び込んできて誰かに追いかけられたみたい」

松本「追いかけられた?」

 

給湯室?にいた美智。

松本「塩崎君、どうしたんだい? 黙ってちゃ分からんじゃないか。誰に追いかけられたんだ?」

 

<美智は恐ろしかった。京都時代の上司である小川課長に巡り合ったことで小野木が自分を捜しに来るかもしれない。美智の中には今も小野木とのあのどす暗い生活が暗い影を落としていたのである>

 

回想シーン

美智<<イヤや、もう…イヤや~! イヤや、もう、イヤ…>>泣き崩れる。

小野木<<出てくんなら出てってもええで。そやけど、ほかに行くとこがあんのんか? ないやろ? このうち出てってみい。途端に食うにも困って行き倒れや。そうやろ? ええ? そうやろうが!>>

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何度も流すな。

 

料理屋

松本「そうだったのかね。君のご主人だった人がそんなにひどい人間だったとはね。君がそんなに怖がってるところを見ると相当ひどかったんだろうね」

美智「あのまま、一生を終えるほかしょうがないと思うたら、自分が情けのうて。夢中で逃げ出してしもうたんどす。といって、どこにも行く当てはないし誰も身寄りのない東京に来てしまったんです」

松本「うん」

美智「社長、お願いです。私を会社の宿直室に住まわせてもらえないでしょうか。なんや外歩くのが恐ろしゅうて、会社から一歩も外に出とうないんどす。きっと小野木が私を捜しに東京へ来る。そな思うて」

松本「まさか…この広い東京で君を捜そうったって、そう簡単には…それにその小野木という人だって役所勤めがあるんだし、君を捜しにわざわざ東京へ出てくるなんて」

 

美智「いえ、社長には理解できないかもしれまへんけど、小野木って人は、そういう人なんです」

松本「うん、しかしね、塩崎君。その小野木という人が君を捜しに出てきたって、ちっとも怖がることなんかありゃしないよ。私がついてるんだ。私がついてる以上、もう勝手なまねはさせない。そう思って安心することだ」

うなずく美智。

 

松本「で、その課長さん、なんだってまた東京に…」

美智「出張で時々、東京にお出かけになることがありましたから」

松本「ああ…しかしね、塩崎君、あんまり考えすぎないほうがいい。まあ、ご主人のことは、すっかり忘れることだ。よほどの暇人じゃないかぎり東京まで君を捜しに来るわけがない」

首を横に振る美智。

松本「うん。君は美人だからね。その小野木という人、案外、君の言うとおりかもしれん」

大きな目を潤ませる美智。

松本「分かった。私にも考えがあるからね。一度、よく弁護士さんと相談してみよう」

美智「すいません」

 

松本「しかし、一緒になっても小野木の籍に入ってなかったのは不幸中の幸いだったかもしれんな」

美智「私の父に前科のあることを知られるのがイヤだったんだと思うんです」

松本「うん、しかしね、君のような人にどうしてよりによって、そんな男が…さあ、食べよう。ねっ。はい、どうぞ」

 

一緒に暮らしていても小野木美智ではなかったんだなー!

 

<その晩、松本は初めて美智の下宿を訪れることになった。小野木の影におびえ、一人で帰るのが怖いという美智が哀れに思えてならなかったからである>

 

大澤家

美智「このうちなんです」

松本「ああ…」

美智「どうぞ」

 

留吉「あっ、おかえり」家の奥の長火鉢の前にいる。

これ、「本日も晴天なり」で覚えた。

 

美智「ただいま。今日は社長に送ってもろたんどす。社長がご挨拶したい言うてはりますさかい」

留吉「へえ、しゃ…社長さんが? あっ、こりゃ…あっ、まあ、ど…どうぞどうぞ。へえ、これはこれは。まあ、ど…どうぞ。おっ、さ…貞枝! さあさあ」

松本「あっ、どうも」

貞枝「お客様? まあまあ」

留吉「どうぞ、お上がりになって」

貞枝「まあ、どうぞどうぞ、お入りになって。まあ、汚いとこですけど、どうぞ。さあ、どうぞ、おあてになって。どうぞ、ハハ…」

 

松本「あの…私、松本と申します。塩崎君がいつもお世話になってます」

留吉「いや~、世話なんて、とんでも…あの…こっちがかかあで」

貞枝「どうぞよろしく」

美智「おばさん、社長がこれを」箱を差し出す。

貞枝「あら、まあ、わざわざご丁寧にありがとうございます。まあ」

 

松本「あの…私、塩崎君のことでは父親代わりとして、なんでも責任を持ちますんで、どうぞ今後ともひとつよろしくお願いします」名刺を渡す。

留吉「社長さんだ」

貞枝「社長…社長さんなの? まあ、わざわざ、まあ、恐れ入ります」

 

松本「あの…塩崎君のことで何かございましたら、どうぞそこへ電話ください」

留吉「いえ、社長さん。塩崎さんのことならなんにも心配はいりません。こんなべっぴんさんにしては珍しく見持ちがよくて、きちんとしてらっしゃいますから」

貞枝「いえね、初めのうちはね、こんな器量よしは男がほっとくわけがないって、今にいい男ができたらね、こんなあばら家からさっさといなくなっちゃうんじゃないか、なんて、うちと話してたんですけどね。塩崎さんったら、もう堅い一方でね、もう~」

 

留吉「ひとつお近づきのしるしに」酒の用意をする。

松本「いえ、あの…私、あの…不調法なもんですから」

留吉「いや~、社長さんまでも、もう塩崎さんもそろいもそろって堅物なんだから、これがまた」

 

美智の部屋

美智「どうぞ」

部屋の前に立っている松本社長。

美智「どないしたんですか? 社長」

松本「いや、別に」部屋に入ってまじまじ見て、窓際に掛ける。「ねえ、何もないのかね? 家財道具は」

美智「はい。さっきもお話ししましたように着のみ着のままで飛び出してきたもんですさかい」

 

松本「しかし、これじゃあ、暮らすのに不便じゃないのか?」

美智「いいえ。うちは小さいときから貧乏暮らしに慣れてますさかい、全然、不自由してません」お茶缶を確認し、急須を持って部屋から出ようとした。「お湯もろうてきます」

 

松本「塩崎君」

美智「はい」

松本「いや、なんでもない。どうも君を見てると、なんかいじらしくってね」

 

1階に下りた美智。「おばさん」

貞枝「はいよ」

美智「すんまへん。お茶の葉、切らしてしもうて…」

貞枝「ああ、いいよ、いいよ。よかったね、いい社長さんで。フッ」急須を受け取る。

 

京都理化工業所の建物の外で小川課長と小野木が会っていた。

小野木「ほう、神田駅の近く…」←髪がさっぱりしてる?

小川「そやなあ、ちょうど小川町と須田町の真ん中辺の道を入ったとこやったな」

小野木「小川町と須田町…」

小川「いや~、びっくりしたわ。初めは人違いかと思うたんやけどな。お茶でも飲もかて話しかけたら、いきなりいちもくさんに走りだしていきよったわ。あらぁ確か万世橋の方向へ走っていったみたいやったけどな」

小野木「万世橋か…」

小川「きっとあの辺のどっかで働いてるの違うかな、塩崎君」

 

小野木「課長はん。塩崎屋のうて小野木と呼んでください。美智は私の家内ですよってにな。わざわざ教えてくださって、ご親切なこってすが、美智が東京にいるってことは、とうの昔に知ってましたんや」

小川「えっ?」

小野木「美智からも時々、手紙が来ますよってにな」

小川「手紙が?」

小野木「そうどす。ちょっと事情がおまして、しばらくは東京に行ってますけど、そのうち、京都へ帰ってくることになってますんや」

小川「ふ~ん」

 

小野木「私もそのうち折を見て、東京まで美智に会いに行くことになってますんや」

小川「小野木はんが?」

小野木「そうどす。あっ…ほな、おおきに」

小川「あっ、どうも」

 

小川の前から立ち去って歩く小野木…からの蒸気機関車

 

<小野木が郷里に不幸があったという口実で休暇を取り、東京へ向かったのは、それから間もないことである。どんなことがあっても美智を捜し出し、連れ戻そう。愛憎の入り交じった小野木の執念には恐ろしいものがあった>

 

列車に揺られて何か食べてる小野木。(つづく)

 

小野木の前妻が逃げたのも知ってるのに何でしゃべるんだ、小川ぁ~!