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【ネタバレ】別れて生きる時も 第十四章「運命の糸」その一

TBS 1978年1月23日

 

あらすじ

再出発を胸に美智(松原智恵子)は東京へきたが、日中戦争の最中。足を棒にしても仕事はなく、疲れ果てて往来に倒れた。栄養失調だった。 美智を助けた松本(織本順吉)は印刷会社の社長。行き倒れが縁で美智は松本の秘書として雇われた。が、平安な日は短かった。血まなこで美智を捜していた小野木(伊藤孝雄)に見つかり、彼は逃げる美智に暴力をふるった。

愛の花

愛の花

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2024.9.5 BS松竹東急録画。

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原作:田宮虎彦(角川文庫)

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塩崎美智:松原智恵子…字幕黄色

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松本:織本順吉

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大澤留吉:大久保正信

光田(みつだ):桧よしえ

大澤貞枝:緋多景子

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山村:名倉美里

磯部稲子

太田医師:伊藤正博

警官:八木秀司

ナレーター:渡辺富美子

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小野木宗一:伊藤孝雄

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音楽:土田啓四郎

主題歌:島倉千代子

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脚本:中井多津夫

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監督:今井雄五郎

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今井雄五郎さんは「カルメン故郷に帰る」の助監督の一人。木下組ってやつ?

 

<山奥の寂れた温泉宿で10日余りを過ごした美智が東京に行こうと思い立ったのは小野木に対して愛情を抱くことができないばかりか卑劣な手段によって、自分の人生を狂わされてしまった彼から逃れるほかに自分の生きる道はないと思ったからである。たとえ東京が誰一人、身寄りのない荒野であるとしても、その荒野に自分は真実の愛を求めて、さまよい続けていこう。美智はそう思い、ついに自分の第二の人生を踏み出したのである>

 

真実の愛…?

 

御茶ノ水駅近くの東京復活大聖堂教会(ニコライ堂)が映し出され、美智が歩いている。

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”都内 ドーム型の屋根”で検索したら出てきました。

 

<そして、東京での美智の生活は、まず日々の糧を得(う)るための職探しから始まったが、誰一人、身寄りのない東京で定職を得ることが、どんなに困難なことか美智は嫌というほど思い知らされずにはいられなかった。戦時体制下ということもあって身元保証人なしに職を得ることは、ほとんど至難のことだったのである>

 

求人広告を頼りに歩き回る日々。まだ普通の洋服のせいか戦時下というのを感じない。

 

<こうして職を求めて、東京の町をさまよい歩くうち、既に一月(ひとつき)余りの日々が過ぎ去ろうとしていた。そして、小石川の路地裏にある指物師(さしものし)の手狭な2階が今の美智の住まいになっていた>

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家具職人的なやつかな?

 

ガラス窓に

 

指物師

 大澤留吉

 

と書かれた建物に入っていく美智。「ただいま」

留吉「おう、おかえり」

 

お向かいは

 

東京府知事認可

櫻花派出婦會

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え! 派出婦=家政婦だって。美智はこっち行かないの?

 

留吉「ヘッ、どうだね? ちっとはマシな仕事がめっかりそうかね?」

美智「あっ、それが…」

留吉「ああ…何しろ戦争戦争の一点張り、なっ。以前と違って、この東京の町もすっかり不景気になっちまった。それに若(わけ)え者(もん)もどんどん兵隊に取られていくしよ。本当なら心当たりを聞いてあげてえところなんだけどよ、どこを見たって商売じめえが目立つばっかしでね。こちとらの稼業だって、そのうち、お手上げになってしまいそうなあんべえでね」

美智「心配かけまして、ほんまにすんまへん。勤め先は、あるにはあったんどすけど、うちには東京に身寄りがないもんですさかい」

 

留吉「身寄り?」

美智「はい。ちゃんとした身元保証人がないと、どこも雇うてくれはらしませんし」

留吉「ふ~ん。その身元保証人っていうのは、身内じゃないといけねえのかい?」

美智「いえ、東京のお方ならどなたでも」

留吉「だったら、俺がなってやってもいいよ」

美智「ほんまどすか?」

留吉「いいとも。こんな俺でよかったら、いつでも言ってくんな」

美智「よかった。ほんまにおおきに」

留吉「ハハハハッ」

 

美智「おじさん」

留吉「うん?」

美智「よろしゅうお願いします」

留吉「いいとも。ハッ」

 

留吉役の大久保正信さんは「おしん」の松じいでもあり、山形の方言指導もしていたので、ちゃきちゃきの江戸っ子役にびっくり。でも、「岸壁の母」で同じく江戸っ子役だった菅貫太郎さんも秋田、京都弁を頑張ってる小野木こと伊藤孝雄さんも岩手出身でわりと東北出身の役者さんっているもんなんだなー。

 

2階の自室に戻った美智は前掛けをあて、食事の準備をする。

 

<小野木の家を出るとき、家の中にあるだけの金をさらえてきたので、東京に行っても三月(みつき)は暮らしていけるともくろんでいたものの、しかし、こうして部屋を借り、職探しのための毎日の交通費と思わぬ出費がかさみ、美智の財布は、ほとんど底を突いていた。あと2~3日、こんな状態が続けば、飢え死にするほかない。正直、美智は、そこまで追い込まれていたのである。しかし、下宿のあるじが身元保証人になってくれると言ったことで、やっと、いちるの望みをつかんだように思えるのだった>

 

大澤家1階

貞枝「それであんた、塩崎さんの保証人になってやるって、そう言ったの?」

留吉「別にどうってことはねえじゃねえか」

貞枝「冗談じゃないわよ。あんた、女の人と見ると、すぐデレデレ優しくなっちゃうんだから、もう」

留吉「バカ、ええ? 気の毒で見ちゃいらんねえからじゃねえか。それに人柄だってよさそうだしさ。ヘッ」

貞枝「そんなこと言ったって…(小声で)どこの誰とも分かんないような人の保証人になってよ、あとで痛い目に遭わされたら、どうするつもりよ」

 

留吉「てやんでえ…おい」徳利を差し出す。「部屋を貸してえって言いだしたのは、てめえのほうじゃねえか」

貞枝「そりゃまあ、そうだけどさ。あの人ね、初めっからね、おかしいと思ってたのよ。だってさ、引っ越してくるときの荷物だって、ほとんどありゃしないしさ。あれじゃいつドロンされたって…」

留吉「おい。言っていいことと悪いことがあるんだぜ」

貞枝「だってさ、あんな器量よしがよ、こんなとこでひどい貧乏暮らしをしてるってのが大体おかしいわよ。とにかくね、保証人になるって話は、私からきっぱり断っときますから」

留吉「おい、ちょ…ちょっと待て、貞枝、ちょ…ちょっと待て、おい」

貞枝「塩崎さん!」2階へ。

 

貞枝「塩崎さん」

美智「はい」

貞枝「あ~、あの…実はね、身元保証人のことなんだけどさ、うちの亭主は気がいいから、あっさり引き受けたらしいけどさ、この話、なかったことにしてほしいのよね。あっ…大体さ、塩崎さんがどこの誰とも分かんないのによ、就職の保証人になれるわけないじゃない、ねえ? 正直言ってさ、私、あんたにこの部屋貸したこと後悔してんのよ。私も初めにさ、あんたの身元、ちゃんと聞いとくべきだったのよね。いや、もしも…もしもよ、あんたが病気にでもなったらさ、私ら、どこへ連絡したらいいか分かんないもんね。そりゃあ、初めは、よさそうな人に思えたから、あっさり部屋を貸すなんて言っちゃったけど、荷物だってなんにもありゃしないしさ」

美智「まだ、京都から出てきて間がおへんし、ちょっとずつそろえたい思うてます」

貞枝「まあ、そこまで私が立ち入る筋合いないとしてもさ、今月の家賃だけは25日までには入れてもらう約束でしょ?」

美智「遅うなって申し訳ありません。なんとか近いうちに」

貞枝「う~ん、いっそのこと、ほかへ移ってもらったほうがありがたいんだけどね」乱暴にふすまを閉めた。

 

貞枝のマシンガントーク! やっぱりこのドラマ、小説が原作のせいか?長台詞が多いね。ポンポン会話するようなタイプじゃない。

緋田景子さんは今は樋田慶子さん。どちらも読みは”ひだけいこ”

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「はね駒」では、東京で下宿屋をはじめたりんの家のお向かいさん・小川ヒサ役。

 

落ち込む美智。

 

警官が各家を巡回している。「ごめん」

貞枝「はい。あっ…まあ、ご苦労さまでございます」

警官「大澤留吉、同妻、貞枝。別に変わりないな?」

貞枝「はい」

警官「以前、2階を貸しておった青木弘は先月に出たきりだな?」

貞枝「はあ」

警官「よしと。ほかには特別変わったことはないか? はい、実は、あの…そのあと、また、お貸しすることになりまして」

 

警官「うん? それを先に言わんか。名前は?」

貞枝「あの…塩崎美智といいますんですが」

警官「女か?」

貞枝「はい。あっ、今、おりますから、あの…呼んでまいります。ちょっとお待ちを」2階へ上がって美智を呼ぶ。「あっ、今、下にお巡りさんが来てね、なんか、あんたに聞きたいことがあるんだって」

美智「お巡りさんが? うちに何か?」

貞枝「うんうん、とにかくちょっと早く来てよ」

 

警官「あんたが塩崎美智かね」

美智「あっ、はい」

警官「本籍は? 本籍はどこかね?」

美智「京都どす」

警官「京都? 京都府か?」

美智「いえ、京都市どす」

警官「京都市の?」

美智「右京区衣笠下町」

警官「衣笠下町?」

美智「住吉上(あが)る」

 

小野木は上京区役所勤めだから、前に住んでたおばちゃんとこの住所かな?

 

警官「それで? 東京に親戚はおるのか?」

美智「いいえ」

警官「おらんのか。年頃の娘が1人で東京に何をしに来たんだ?」

美智「東京でなんぞええ仕事見つけよう、そな思いまして」

警官「いいか? 身寄りもおらんのに東京で何かいい仕事を見つけようったって、そうはいかんぞ。しかも、このご時世にだ」

 

美智「実は本郷のほうに父の友達がいてまして、そこを頼ってきたんやけど、どっかに引っ越したあとやったさかい、うち…」

警官「お前、申し立てておることは、ほんとだな?」

美智「ほんまどす」

警官「ウソをついても京都の役所に照合したら、すぐ分かることだからな」

 

警官役の八木秀司さんは「マー姉ちゃん」や「おしん」25話に出演。ていうか、このドラマ偶然にも「おしん」序盤の山形パートに出演してる人多いね。

 

<言うまでもなく美智が一番恐れたのは京都の役所に照合されることによって自分のことが小野木に知れはしないかということであった>

 

美智が歩いてる階段って、「岸壁の母」で、いせが仕立物を持って歩いてた、よく出征兵士の見送りの一団がいたりした、あの階段じゃない!? 正面の看板は違ったものになってるけど見覚えのある風景。

 

<美智は目の前が真っ暗になったように思った。小野木の黒い影は、それほどまでに今も美智につきまとっていたのである>

 

美智が歩いている正面からスーツ姿の小野木が歩いてきた! 陰に隠れた美智…これ、オープニングのタイトル、原作テロップが出てるあたりのシーンだ。無言の小野木が美智に向かって走って追いかけてくる。

 

有限会社

 東亞印刷

 

刷印亞東

場工田神

 

の前まで走ってきた美智は塀にもたれかかり倒れた。ここもオープニングでちょうど”小野木 伊藤孝雄”のテロップが出てるあたりだ。このシャツだもんねえ。

 

工場から出てきた女性工員・山村が「どうしたんですか?」と声をかけた。慌てて中へ「ねえ、ちょっと、ちょっと、大変よ。若い女の人がね…」

光田「どうしたのよ?」

山村「あっ、社長。若い女の人が表で倒れてます」

 

倒れている美智の周りに工員も数人いる。

松本「すぐお医者さんを呼ぶんだ」

山村「はい」

松本「宿直室に布団、敷いてくれ」美智をお姫様抱っこ

光田「はい」

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山村役の名倉美里さんは「赤い衝撃」7話で芸者役。ミサコの兄は結局どうなったんだ?

 

宿直室

お人形みたいに体を固くしている美智が布団に寝かされた。美智の顔をじっと見つめる松本社長。「あっ、光田君。この人の持ち物を調べてごらん。身元が分かるかもしれんん」

光田「はい」

 

美智のハンドバッグを開けた光田を置いて宿直室を出た松本。「あっ、どうも先生、ご苦労さんです。お願いします、先生」

太田「分かった」宿直室へ。

 

入れ違いに出てきた光田。

松本「あっ、どうだった?」

光田「あの人、小石川のたかさご町に住んでるみたいなんです。名前は塩崎美智って書いてありました」

松本「ああ…」

光田「ハンドバッグの中に履歴書が何枚も入ってたんです」

松本「履歴書?」

光田「あの人、勤め口を探してるみたいですよ」

 

松本「で、その小石川ってのは、自分のうちなのか?」

光田「いえ、下宿みたいです」

松本「じゃ、誰かその下宿まで知らせんといかんな」

光田「社長、あの人、相当暮らしに困ってるみたいですよ。がま口の中に50銭とちょっとしか入ってないんです」

松本「50銭?」

光田「ええ」

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いせさんなんて東京へ来たばかりのころ6銭しか財布になかった。

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光田役の桧(檜)よしえさんは「太陽の涙」では看護師役。

 

宿直室

腕にでっかい注射をされている美智。

 

廊下

松本「あっ、先生、どうもお手数かけました」

太田「ああ」

松本「大丈夫ですか?」

太田「うん、2~3時間、寝かしておけば、多分、回復するだろう」

松本「ひどい病気じゃないんですか?」

太田「うん。病気というよりは過労というところだな。まあ、多少、栄養不足の気味はあるがね」

松本「栄養不足?」

太田「うん。だいぶ無理してるようだな。まあ、栄養と休養を十分に取れば大丈夫だよ。でも、お宅の前で倒れて、あの人、運がよかったよ。じゃ、お大事に」

松本「どうも、ご苦労さんでした。山村君、お送りして」

山村「はい」

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太田医師役の伊藤正博さんは大河ドラマもいっぱい出てるけど、朝ドラも「マー姉ちゃん」「本日も晴天なり」「おしん」「澪つくし」と出てる。

 

どうでもいいけど太田と松本という並びにクスッと来る。

 

宿直室

美智の寝顔をじっと見つめる松本社長。自分の財布からお札を1枚美智のハンドバッグに入れ、部屋から出た。

 

工場

印刷工場ってことはタコ社長と同じ業種? 写植がいっぱい並んでる?

 

光田「社長」

松本「うん?」

光田「あの女の人、気がついたみたいですよ」

松本「そうか、いや、それはよかったね」

光田「私、これで帰ってもいいですか?」

松本「いや、ちょっと待ってくれんか。あの人、このまま具合が悪いようだったらね、途中まで送ってやってくれんか?」

光田「私がですか?」

松本「うん」

 

宿直室

松本社長が入ってくると、畳に手をついて頭を下げる美智。

松本「もうすっかり大丈夫かね?」

美智「はい、大変ご迷惑をかけてしもうて、おわびの申し上げようもあらしまへん」

松本「いやいや、人はみんなお互いさまだからね。でも、うちの真ん前だったから早く手当てができてよかった。お医者さんに診てもらったら過労だということだったよ」

 

美智「お医者はんに? うち、お医者はんに診てもろたんどすか?」

松本「過労だからって、ブドウ糖の注射をしてもらったんだが、それが効いたのか少し顔色がよくなったみたいだね」

美智「見ず知らずの方にお医者はんまで呼んでもろて、うち、なんてお礼を言ったらええのか…あの…お医者はんのお金…」

松本「いやいや、元気になったんだから、そんなこと心配しなくたっていいんだ。いや、それより1人で帰れるかね?」

美智「はい」

松本「なんだったら、うちの女の子に送らしてもいいんだが」

美智「いえ、うち、1人で帰れますさかい」

 

松本「塩崎さんだったね」

美智「はい」

松本「まあ、あんまり無理をしないように。あんた、丈夫そうでもなさそうだし、あまり無理をして胸でも患ったら元も子もなくなる」

美智「はい、ご親切に。すんまへんどした。おおきに。ほな、うち」

 

時計の鐘の音が鳴る。

松本「ああ、もうこんな時間になって。おなかすいたでしょ? 晩ご飯になんかおいしい物いっぱい食べて帰るんだね。そしたら、過労なんか吹っ飛んでしまうよ」

 

ご飯おごるよ、一緒に食べようなんて言わないところがいい!

 

松本「じゃ、気をつけて」

美智「はい」

 

通用門から出ていく美智を見送る松本社長。

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織本順吉さんは「赤い疑惑」と「マー姉ちゃん」の間くらいの時期か?

 

屋台のうどん屋

美智は、うどんをすする。「おいくらですか?」

店主「かけうどん、10銭ですけど」

美智「はい」ハンドバッグを開けた美智は拾圓札が入っていることに気付いた。

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喜代枝が満州から送ってきたのも10円札。今なら数万円くらい?

 

<美智が驚くのも無理はなかった。さっきまでこの中にはせいぜい2~3日、生きていくのに精いっぱいの僅かの金しか入っていなかったのだから。一体、誰が…>

 

お金を払って屋台を出た美智。

 

松本社長の言葉を思い出す。<<こんな時間になって。おなかすいたでしょ? 晩ご飯になんかおいしい物いっぱい食べて帰るんだね。そしたら、過労なんか吹っ飛んでしまうよ>>

 

再び工場前に戻ってきた美智。

 

<やっぱりあの社長さんに違いない。その美智の推測に誤りがあろうはずもなかった。そして、それが終生、美智にとって忘れることのできない恩人となる松本との出会いであった>(つづく)

 

岸壁の母」のいせさんにとっての呉服屋の店主みたいな存在? それとも三浦先生? どうか呉服屋であれ。月曜日回だから新たな登場人物がいっぱい。