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【ネタバレ】別れて生きる時も 第二十五章「信頼の絆」その二

TBS 1978年2月7日

 

あらすじ

井波(中野誠也)と結婚して半年、美智(松原智恵子)は初めて知る幸せをかみしめた。 新聞社の嘱託となった夫を助けるため美智も印刷会社で働いた。二人は愛と尊敬、信頼で固く結ばれ、しつこい小野木(伊藤孝雄)のいやがらせにも揺るがなかった。やがて二人の間に女の子が生まれ麻子と名づけた。昭和十六年十二月の開戦以来、男たちは次々と戦場に送られていた。

愛の花

愛の花

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2024.9.20 BS松竹東急録画。

peachredrum.hateblo.jp

原作:田宮虎彦(角川文庫)

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井波美智:松原智恵子…字幕黄色

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井波謙吾:中野誠也

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松本:織本順吉

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吉岡俊子:姫ゆり子

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管理人:近松敏夫

田切:叶年央

戸田:磯部稲子

ナレーター:渡辺富美子

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小野木宗一:伊藤孝雄

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音楽:土田啓四郎

主題歌:島倉千代子

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脚本:中井多津夫

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監督:八木美津雄

 

<やっとのことで小野木の居所を突き止めた松本は、そこへ小野木を訪ねた>

 

松本社長がノックし、ひょっこり顔を出した小野木はラクダのシャツに髭も生え、パンにかぶりついていた。「ああ、どうも」

松本「あんたの居所を突き止めるのに苦労した。なんのことはない。あんたの本籍の役場に照会したら、ちゃんとここを教えてくれた」

小野木「あんた、私になんのご用がおますんや? あんたとは、きれいさっぱりなんの関わりもないはずです」

松本「そんなことおっしゃらずにちょっと話があるんだ」

小野木「ふ~ん。まあ、いいわ。退屈しのぎに聞きまひょ。どうぞ」

 

雑然とした部屋に上がった松本社長。流しに洗い物がたまっている。

小野木「ほな、聞きまひょうか」

松本「あんた、私が何を言いたいか自分でも分かってんだろ?」

小野木「さあ、よう分かりまへんなあ」

松本「あんた、井波さんのお父さんに手紙を出したそうだね。井波さんがあんたの奥さんという人と不義を犯して行方をくらましたって。あんたの奥さんって、一体誰のことなんだ? えっ? まさか、美智さんのことを…」

小野木「そうどす。美智は今でも私の家内ですよってになあ」

 

松本「バカも休み休み言ったらどうだい。美智さんはね、れっきとした井波さんの奥さんだよ。ちゃんと籍も入ってるし、それがどうして…」

小野木「まあ、言うたら、それぐらい美智が好きやっちゅうことでっしゃろな」

松本「好きだったら何をしてもいいっていうのかい、ええ? 第一ね、そんな嫌がらせをして、なんの得があると思ってんだ」

小野木「そら、まあ考えようどす」パンを食べていたが、立ち上がって湯飲みに水を注ぐ。ラクダのシャツにももひき姿。

 

松本「いつまでもそんなこと言ってるんだったらね、こっちにも覚悟があるんだ。二度とそんなまねをしたら…」

小野木「私の腕をへし折ってやる。そない言わはるおつもりですか? それやったら、どうぞやっておくれやす。美智を取り返すためやったら、腕の一本や二本、へし折られようと、私はちっともかましまへん」

松本「貴様のようなヤツは警察へ突き出したっていいんだぞ」

小野木「ほう、警察…」

松本「そうさ、刃物を持って女のあとをつけ回すようなヤツは、警察の手で…」

 

小野木「警察は、どっちの味方をしてくれますやろな。あんた、あの井波っちゅう男がどんな人間か知ってはりますのんか?」ズボンを履く。「ありゃ思想犯でっせ。大勢の兵隊さんがお国のために戦ってはるっちゅうのに、あの男は戦争はいかん。日本は中国やら満州から手を引けなんてアホなことをほざきよる国賊でっせ。そんな国賊と女房を寝取られた、この私と警察はどっちの味方をしてくれますやろなあ」Yシャツを着る。

松本「貴様…」立ち上がって小野木に近づく。「まだそんなことを…」

小野木「国賊の味方をするあんたも、やっぱり思想犯のお仲間でっか? それより、あんたにいっぺんお聞きしたい思うてましたんや。あんた、美智と夫婦になるんや言うてはりましたな。あの話、どないなりましたんや? フフッ、あんた、美智に振られましたんやろ? そらまあ、無理もない話ですけどな。ええ年こいて娘ほども年の違う女を女房にしよう、そんな血迷うたことを考えたかて、そうは問屋が卸しまへん」

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松本が小野木の胸ぐらをつかむ。

小野木「そのあんたが今は美智の親代わり? そんなことを聞く耳、持ちまへんな。どないするつもりだす? やれるもんやったら、どうぞやっておくれやす」松本の手を振り払う。「はっきり言うておきまっせ。あんたと話しすることは何もおへん。なんの関係もない第三者ですよってにな」

にらみあう二人。

 

吉岡家を訪れた美智。「ごめんください」

俊子「はい! おかえんなさい」

美智「これ、どうぞ」花束を渡す。

俊子「まあきれい。いつもすいません」

 

美智「あの…お米の配給届いてますでしょうか?」

俊子「はいはい」

 

玄関で風呂敷を広げて準備する美智。「はい」

俊子「お金のほうは、この前、お預かりしたのがまだありますからね」

美智「いつもすいません」

俊子「うん、こんなことぐらい。昼間は塩崎さん、働きに出てる…あら、いけない。また『塩崎さん』なんて言っちゃったわ。気をつけてるんだけど、つい、前の癖が出ちゃって。これからは『奥さん』って、そうお呼びします」

美智「まあ…」

俊子「フフフフッ。ねえ、それはそうと井波さん、お勤めが見つかってよかったわね」

美智「ええ、小さな出版社なんですけどね、翻訳のお手伝いを」

俊子「だったら奥さんはお勤め辞めてしまったらいいのに」

美智「でも、主人は臨時の嘱託ですから。いつ仕事がなくなってしまうか分かりませんので」

 

俊子「フッ…井波さんのこと、『主人』だなんて、アハハッ。すっかり奥様ぶりが身についちゃって、きっと幸せなのね。そうなんでしょ?」

美智「ええ、今の私、とっても幸せなんです。毎日が夢じゃないかって、そんな気がするくらい」

俊子「いや~、そんなおのろけ話聞かされたら戦争に行った亭主思い出しちゃって、今夜寝られなくなっちゃうかもしれないわよ」

美智「あっ、そんな…ごめんなさい」

俊子「あっ…冗談、冗談。イヤだわ。奥さん、うぶなのね。すっかり赤くなっちゃって」

美智「イヤだわ」

俊子「フフッ」

美智「それじゃ、失礼します」

俊子「またね」

 

<美智と井波の新居は吉岡家からすぐ近くにあった。閉鎖された工場の宿直室を改造した粗末な借家だったが、2人にとっては、どんな豪華な城にも勝るかけがえのない愛の巣であった>

 

東亞印刷

女性従業員「お先に失礼します」

松本「ああ、ご苦労さん」

男性従業員「お先に失礼します」

戸田「社長お先に」

松本「ああ、ご苦労さん」

 

光田さんいないね。

 

松本社長のもとに井波が来ていた。

松本「あの男のことは私一人で解決できると思っていたんですがね、なんていうんでしょうかね。ほんとに参ってしまいましたよ」

井波「とんだご迷惑をおかけしてしまって…」

松本「井波さん。あんなヤツ、相手にしないで放っとくのが一番ですよ。いや、さすがの私もね、今度ばかりはすっかり自信をなくしてしまいました」

 

井波「小野木ってヤツは、そんなに…」

松本「考えてもごらんなさい。いまだに本気で美智さんのことを自分の女房だと思い込んでるんですから」

井波「しかし、このまま、ほっておくわけにも…」

松本「う~ん。まあ、とにかくね、ヤツの出方を見たうえで…何しろここがまともじゃないですからね」頭をトントンと指さす。

 

井波「いや、僕の両親にあんな手紙を出すぐらいのことなら我慢もできますがね。これからもし、美智に危害を加えるようなことがあったら大変ですからね。一度、あの男に会って徹底的に話し合ってみたいんですよ」

松本「いや、井波さんの気持ちは分かりますが、話して分かるヤツじゃないですから」

井波「たとえ、どんな男だって話せば誠意は通じると思うんですよ。僕はまだ人間っていうものを信じたいんです」

 

話せば分かるなんて、小野木には通じない。

 

小野木のアパートの戸をノックし、「小野木さん」と声をかけた井波。

管理人「小野木さんなら引っ越しましたよ」

井波「引っ越したんですか?」

管理人「ええ。今日、夕方に」

井波「どちらへ?」

管理人「しばらく友達の所に転がり込んで、それからすぐに郷里のほうに帰るんだとか言ってましたよ」

井波「はあ…」

 

東亞印刷

松本社長のデスクの上の電話が鳴り、戸田が出た。「はい、東亞印刷でございます。は? 社長にご用でございますか? ただいま所用で外出中でございますが、どちら様でございましょう?」

 

電話をかけているのは小野木! なのに「あの…井波と申します。ええ、い、な、み、です。はい。今日、ぜひご相談したいことがありまして恐縮ですが、仕事が済んだら、ぜひ、私のうちに来ていただきたいと思いまして…」

戸田「はい、分かりました。社長が帰りましたら伝えます。はい」

小野木「じゃ、よろしく」手帳を見て、今度は井波の働く会社へ電話。

 

田切「もしもし、はい、ちょっとお待ちください。井波さん、電話です」

井波「あっ、どうも。あっ、もしもし、井波ですが。何か?」

 

小野木「はあ…私もいよいよ京都に戻ることになりましてな。はあ…その前にいっぺんお会いしてぜひ話したいことがおますよって。あの…今夜にでも会っていただけまへんやろか?」

井波「そうですか。分かりました。僕のほうもお会いしたいと思ってましたから。ええ、ええ。じゃ」受話器を置いて考え込む。

田切「あの…どうかされたんですか?」

井波「うん? いや、別に」

 

今日に限って光田さんがいないのね。光田さんが電話に出てれば…。

 

夜の公園

小野木の前に姿を現した井波。

小野木「いや…こんなとこへすんまへんな」

井波「いや」

小野木「あっ、タバコ切らしてしもうて。1本頂けまへんやろか?」

井波がタバコの箱を差し出す。

小野木「ああ…」タバコを口にくわえる。「マッチ…」

井波がマッチ箱を手渡す。

 

小野木「私も美智の先の亭主ですよってに、あんたとはなんとか兄弟っちゅうことになりますな」←なんちゅー下品な!

井波「小野木さん」

小野木「その意味でもいっぺん杯を酌み交わしたいもんでんな」

井波「僕に話って、なんでしょう?」

 

小野木「(声をひそめて)あの松本さんな、あの人、気ぃつけたほうがよろしいで。美智の父親代わりやちゅうて、なんたらかんたら都合のええこと言ってますけどな。あの人、美智とどういう間柄か、あんた知ってますのんか? 美智は、あの男の囲い者になってましたんやで。あんた、うそや思うたら、あっこの会社の娘さんらに聞いてみたらええがな」

井波「そんなくだらんことを言うために僕をわざわざ呼んだんですか?」

小野木「あんたが気の毒で見てられないんよってな。あんたもお人がよろしいな。あんな年寄りのおもちゃになったような女をすき好んで嫁はんにするんやさかい」

井波「君!」

 

小野木「いや…そら、怒らはるのも無理ないと思いますけどな。今かて、あの2人、時々、あんたの目ぇ盗んで…」

井波「小野木さん。これ以上、美智を辱めるようなことを言うなら、僕にも覚悟があります」

小野木「あんた、まだ信用できまへんのんか。それが証拠にあのおっさん、私がねじ込んだら、これで勘弁してくれて大枚500円包んできよったわ。もっともそんな金、突っ返しましたけどな。フフッ。それに美智だって虫も殺さんような涼しい顔してけつかるけど、あらぁ恐ろしいおなごでっせ。私と一緒になってからも男出入りがあって、随分と苦労しましたわ。あれは根っからの男好きですよってな、井波はんも気ぃつけんとあきまへん。もっとも私の仕込みがよすぎたせいかもしれまへんけどな」

 

持っていた弁当箱を落として、小野木に近づき胸ぐらをつかむ井波。「二度と…二度と美智に近づいたら警察へ訴えるぞ」

小野木「松本さんも同じこと言うてましたわ。両方の男から大事にされて美智は幸せ者(もん)でんな」

胸ぐらをつかむ手に力を入れた井波だったが、手を離し、弁当包みを持って去った。

 

井波が去った後、平然と自分の持っていたタバコに火をつける小野木。タバコもマッチも持ってるじゃないか! いや~、いつにもまして下衆だったな。

 

井波家

井波「ただいま」

松本「あっ…」

美智「おかえりなさい」

井波「いらっしゃい」

 

松本「お疲れでしょう」

美智「社長、これからご用があるのにわざわざ来てくださったのよ」

松本「さあさあ」

 

美智「はい、あなた」座布団を出す。「あなた、水くさいわね、なんなの?」

井波「うん?」

松本「いや、妻に隠し事なんかけしからんとね、今、私が怒られてしまいましたよ」

 

井波「隠し事って?」

美智「会社で何か?」

井波「いや」

松本「じゃ、一体なんですか? できるだけのことはしますよ」

 

美智の顔を一度見る井波。「一体、なんの話ですか?」

松本「えっ?」

美智「あなた失礼よ。せっかく来てくださったのに」

井波「どうもしかし、よく分かりませんが…」

松本「変だね」

 

美智「あなたが来てくれって言ったから社長が来てくださったのよ」

井波「僕が来てくれって?」

美智「ええ、あなた、社長に今日、電話したでしょ?」

井波「いや」

 

松本「確かに君からだって聞いたがね。ちょうど留守で直接じゃなかったんだが、相談があるから来てくれって」

美智「ねえ、あなた。私に聞かせたくないこと?」

井波「そうか。小野木じゃないでしょうか」

松本「小野木?」

美智「あなた…」

 

井波「実は今日、小野木から電話があってね、今、会ってきましたよ」

松本「あいつ…まだいたのか」

美智「怖いわ」

 

松本「どんな話でした?」

井波「いや…京都へ帰るとか言ってましたが」

松本「まさか、その挨拶だけじゃないでしょ?」

井波「ええ。なんか、愚痴っぽいこと言ってましたよ」

美智「乱暴されなかった?」

井波「うん? いや」首を横に振る。

 

松本「いや、電話が小野木としても、どうして小野木が私にここへ来させる必要があるんだろう」

美智「あなた…」

松本「ヤツ、その辺にいるのかな」玄関を開けて見まわす。

 

美智「あなたも見て」

井波「松本さん、どうっていうことないと思いますよ。ただの嫌がらせですよ」

松本「しかし、こんなことをしてなんになるっていうんだ。あいつ、ほんとに愚痴だけであんたを呼んだんですか?」

井波「ええ」

松本「分からんヤツだな。おかしくなったのかな」←元々おかしい!

井波「ご迷惑かけてすいません」

 

松本「いや、それはかまわんけどもね。そうね、井波さんの言うとおり、このまま京都へ帰るのが悔しくて、きっと悔し紛れにやったんでしょう。あっ、あの…私、そろそろ失礼して」

井波「あっ…」

美智「ほんとにすいませんでした」

松本「じゃ、おやすみなさい。(井波に)気をつけてね」

井波「ええ」

美智「おやすみなさい」

 

玄関の戸を閉めた美智。「お食事にしましょうね」

井波「欲しくない」

美智「どうして?」

黙って茶の間へ戻る井波。

 

美智「じゃあ、もう少しあとにしましょうか? 着替えします? そのほうが楽よ」

井波の上着に手をかけた美智を振り払う。「いや、ほっといてくれ」

美智「あなた…」

 

タバコを口にする井波。

美智「ごめんなさい。私が悪いんです。あんな男と関わり合って…」

背を向けたままの井波。

美智「やっぱり小野木と何かあったのね?」

井波「なかったよ。ほんとになかった」

美智「ほんと?」

井波「ああ。きっと京都へ帰るさ。帰んなくたって、あんなヤツに負けてたまるか。そうだよな? 美智」

目を潤ませてうなずく美智。

 

井波はフッっと笑い、美智を抱き寄せ、おでことおでこをくっつけた。「お茶入れてもらおうか」

 

美智は上着を脱がせ、ハンガーにかけた。(つづく)

 

エンディングは、これからずっと3番の歌詞かな?

 

小野木も人を逆なでさせたり、不安にさせる天才だね。そしてドラマももう後半に突入。井波さんは美智のことを信じてほしい。