TBS 1978年1月18日
あらすじ
前科者の娘と知って愛してくれた石山(速水亮)が理由も告げずに去った。絶望した美智(松原智恵子)は小野木(伊藤孝雄)の求婚を受け入れた。が、小野木の性格は異常だった。美智を家にとじ込めて友人とのつき合いも禁じた。夫を愛そうとした美智だったが、彼が卑劣な手段で石山との間を裂き、その上、母をだまして満州に行かせたことを知って、美智は家を出た。
2024.9.2 BS松竹東急録画。
原作:田宮虎彦(角川文庫)
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小野木美智:松原智恵子…字幕黄色
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井村さき:津島道子
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堀井陽子:種谷アツ子
堀井:柿沼真二
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女性:秋山京子
給仕:若井政文
森川房枝:関悦子
ナレーター:渡辺富美子
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小野木宗一:伊藤孝雄
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音楽:土田啓四郎
主題歌:島倉千代子
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脚本:中井多津夫
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監督:八木美津雄
上京區役所
給仕「小野木はん、手紙です」
小野木「ああ」
給仕「小野木はん、それ、満州から来た手紙でっしゃろ? 僕、いろいろな切手集めてますよって、その満州の切手頂けまへんやろか」
小野木「バカ者(もん)、人の手紙がどっから来たか、いちいちのぞいてるヤツがあるか」
給仕「すんまへん」
人によってメチャクチャ態度の変わる男・小野木。
すぐ手紙を開け、他の職員たちには背を向ける。入っていたお札はポケットに入れ、手紙を読み始める。
喜代枝の手紙
「こちらへ来てはみたものの何もかも聞いていた話とは、まるで違(ちご)うて苦労が絶えしまへん。お便りもでけしまへんどした。あんじょういったら美智を呼んでやろうと、はかない夢を抱いておりましたが、今ではそれもはかない夢となりました」
ここまで読んで頬が緩む小野木。
喜代枝の手紙
「ここにいたかて、どうしようもないことも分かりましたさかい、主人と一緒にロシアの国境に近い所に行くことになりました」
小野木の席の電話が鳴る。「はい、小野木です。あっ、堀井さんですか。はじめまして。あの…区役所の小野木です」ニコニコ笑顔。「ええ、先ほど、お電話したんですけど、お留守やったもんで。ハハハッ。実は、お宅の奥様と、うちの家内とは女学校時代からのお友達やそうで。ええ、そうどす。ほかでもありません。いっぺんお目にかかって少々お話ししたいことがあるんですが。ええ、ええ。なんでしたら今夜あたり…ええ」
堀井家
ハットをかぶった堀井が帰宅。「おい! 帰ったで。陽子! 陽子!」玄関の戸をたたく。「おい、開けんか。何ボケっとしてんねん。んっ」ハットを渡す。
陽子「文句を言いたいのは、こっちのほうやわ。6時に帰ってくる約束で晩ご飯の支度して待ってたのに、今、何時や思うてんの?」
堀井「それがな、会社のほうに美智さんの旦那はんから電話があってな、話があるからつきおうてくれって今まで取っ捕まってたんや」
陽子「みっちゃんのご主人から?」
堀井「あ~あ、参ったわ。あ~あ…」
陽子「一体、何があったの?」
堀井「人は見かけによらんもんやな。あんな美人が…」
陽子「美人って、みっちゃんのこと?」
堀井「ああ、男狂いでちょっとでも目ぇ離したら何するか分からへんって言うんや。この前も大学生とええ仲になってしもうて後始末するのは大変やったらしい」
陽子「デタラメやわ、そんな話」
堀井「そやかて、旦那はん、自分の奥さんのことをわざわざ悪く言うわけないやろ」
陽子「うん。けど、みっちゃんがまさか…そりゃ昔から秘密主義でよう分からんとこはあったけど」
堀井「俺とこにも誘惑の電話がかかってくるかもしれんよって、そんとき気ぃつけてほしいて、そない言わはるんや。それがあの人、常とう手段らしいんや」
陽子「ほな、今までにみっちゃんから電話もろうたことあったの?」
堀井「冗談やあらへん。そんな電話、いっぺんもあらへんわ」
陽子「ほんま?」
堀井「アホ! 俺を疑うヤツがあるかい」
陽子「ん~」
小野木家
ご機嫌で鼻歌を歌っている小野木。美智はズボンを脱がせ、靴下を脱がせ、シャツのボタンを外す。←自分でやれやっ!
美智「えらいお酒のにおい、どこで飲んではったんどすか?」
小野木「今日はな、出征軍人の壮行会があって、嫌々、飲まされてしもうた」
美智「酔うてはるさかい、今日はお風呂やめはったほうがええのと違いますか?」
小野木「いや、入る入る」
風呂場へ送り出す美智。一旦風呂場の戸を閉めた小野木が顔を出す。「ああ、お前も一緒に入ろう」
美智「へえ、すぐに行きますさかい」
小野木「ああ」
美智は小野木が脱いだ服をたたみながらポケットを見ると、封筒が出てきた。
…町……の五番地
塩崎 喜代枝
美智は喜代枝の手紙を読んだ。
「それについても心残りなのは美智のことでございます。どうか小野木はんのお力でどこぞに縁つけてやってください。父親(てておや)が父親ですよって、それが容易でないことは、よう分かってますけど、小野木はんがその当てがある、美智を嫁にもろうてくれる、ええ家を世話してくれはる、そない言うてくれはったことだけが、ただ一つの頼りどす。同封の10円は、なんぞの折に美智に渡してやっていただけまへんやろか。よろしゅうお願いします」
回想シーン
小野木<<お母さんが満州へ行かれるとき、私んとこへ来て、こない言わはったんです。『前科者の娘やさかい、ええとこへお嫁に行くことは望めんやろう』そやさかい、美智さんのこと私にもろうてほしいって>>
回想終わり
<美智は、小野木の言葉がウソだったことを初めて知って、氷のように冷ややかなものが自分の背筋を通っていくのを覚えずにはいられなかった>
小野木が風呂場から美智を呼ぶ。「何グズグズしてんねん。早(はよ)う来んかい! おい、美智!」
美智「うち、気分が悪いさかい、今日は、やめます」
風呂から上がった小野木。「ああ、ええ風呂やった。ハハッ。ハァ~、具合が悪いって、どないしたんや?」
美智「うち、手紙読ませてもらいました」
小野木「手紙? なんの手紙や?」
美智「あんたに聞きたいことがあります」
小野木「あっ、そうか」戸棚から財布を取り出し、10円札を美智に投げ落とす。「こんな物(もん)好きに使ったらええやんか」
美智「なんであんなウソをつかはったんどすか?」
小野木「あんなウソ?」
美智「母が満州に発つとき、うちのこと、あんたにもろてほしいて頼んだって、いつか、あんたそない言わはったやないの」
小野木「ああ…」
美智「なんでそんなウソを?」
小野木「アホ。ウソも方便ちゅうことがあるやないか。お前を口説くためなら、あることないこと、どんなウソでもついたるわ。そやけどな、もとを正せば、そのぐらいお前のことが好きやったからやないか」
美智「好きやったら、どんなウソをついてもええって言わはるのどすか?」
小野木「そうやがな」
美智「うちの嫁入り先を世話するって、母に言うたんも、みんな…」
小野木「そうや、みんなウソや。デタラメや。お前の母親が安心して、お前を京都に残していけるようデタラメ言うたんや。そやけどな、デタラメばっかしやないで。ええとこにお嫁に行かすちゅうのは、この俺のこっちゃ。ハッ、別にウソついたわけやないやろ。ちゃんとお前をもろうたんやさかい。美智、よう聞いてくれ。今やから言うけどな、俺はお前を初めて見たときから…もう5~6年も前や。お前たちが、あの駄菓子屋がに間借りし始めたときや。あんときから、お前のことが好きやった。よっしゃ、必ずこのおなごを女房にしてやろう、そない思うたんや。お前の父親が刑務所に入ってる関係で、お前たちの面倒を見ることになったんやが、ほんまのこと、父親以上に親身になって世話してきたつもりや、お前のことが好きやったからな。そやけど…俺にはよう分かってた。お前が俺のことを嫌(きろ)うとるっちゅうことをな、それでも、俺は、お前を女房にしてみせる。そう思うて執念深くチャンスを待ったんや。そんなときやった。お前の父親が刑務所を出てきて満州へ行く言いだしたのは。お前の母親が何度も俺ん所に相談に来たよ。お前を連れてったほうがええかどうか。そやさかい、俺は言うたんや。『満州には連れていかんほうがええ』って。お前を俺のそばから離したくなかったんや」←…このドラマ長台詞率高い。
美智「ひどいわ。うちと母ちゃんを引き裂いたんは、あんたのせいやったんやね。あんたっていう人は自分の欲のためやったら、どんなことでも平気で…」
小野木「そや。俺はお前を女房にするためならどんなことでもする」
台所のほうに行こうとする美智を止める小野木。
美智「イヤや」
笑って止める小野木。
美智「触らんといて」
小野木「お~っとっとっと」障子を閉める。
美智「あんたみたいな気色の悪い人…」
逃げようとするニヤニヤしながら追いかけて背中から抱き締める。「俺はお前の亭主やで。かわいがってやるから、うん?」
この恐怖の追いかけっこシーン、無駄に長いわ。こんな気色の悪い男でも作戦次第では2回も結婚できるんだ。
美智「イヤや、もう…イヤや~! イヤや、もう、イヤ…」泣き崩れる。
小野木「出てくんなら出てってもええで。そやけど、ほかに行くとこがあんのんか? ないやろ? このうち出てってみい。途端に食うにも困って行き倒れや。そうやろ? ええ? そうやろうが!」
泣くしかない美智。
小野木家に鍵をかけ出かけた美智。
房枝「ああ、奥さん、お出かけどすか?」
美智「へえ、ちょっとお友達のうちまで。よろしゅう頼んます」
房枝「へえ。奥さん、近頃、なんやお痩せにならはったな」
美智「あっ…そうどすか。ほな」
<別にどこへ行くという当てはなかった。無性に小野木に逆らってみたい衝動が美智の中に芽生えていた>
堀井家
美智「陽子ちゃん」
庭いじりをしていた陽子が振り向く。
美智「こんにちは。この間は、わざわざどうも」
陽子「いえ。あのな…」
美智「どないしたん?」
陽子「こないなこと言うて、みっちゃんには悪いと思うんやけど、うちの主人からみっちゃんとつきおうたらあかんて、そな言われてるねん。みっちゃんのご主人がうちの人に会(お)うて、なんやそんなことを…」
美智「うちの主人が?」
陽子「思い切って言うけどな、すまんけど、もう、うちには来てもらいとうないんやわ。ほな」
<美智は底知れぬ寂しさに襲われてならなかった。だんだんと1つずつ自分にとってかけがえのないものが失われていく。そんなどす黒い宿命が自分につきまとっている。そんな気がしてならなかった。やがて、美智の足は、昔、母と住んだ家のほうへ向かっていた>
美智が住んでいた家から子供が出てくる。
女性「早う帰らなあかんえ」
みどり「うるさいな、知らん!」
女性「なんやて、これ! 早う帰らな鍵かけてしまうえ!」
子供たちとすれ違った美智は、さきの店へ。「おばちゃん」
さき「まあ、みっちゃん。まあまあ、あっ、さあさあ、どうぞ、お上がり。なっ。さあさあ、なっ」
美智「おばちゃん、長いことご無沙汰しまして、ほんまに申し訳ないと思うてます」
さき「まあまあ、挨拶はあとにして、さあ、どうぞ、かけておくれやす」
美智「おばちゃん、今の子たち、ここの?」
さき「へえ、あのな、みっちゃんたちが出たあと、4人も子供のいる人に入ってもろたんやけどな、ハァ…朝から晩まで騒々しいて、ほんま言うたら出てってもらいたいとこやけど商いのほうもあがったりやしな。なんや近頃、みっちゃんたちがここにいてたころのことが懐かしいてな。ハハッ。さあさあ、ハハハッ。どうぞ」ラムネを出す。
美智「おおきに。なんやったら、うち、また戻ってきまひょか?」
さき「まあ…頼りになる旦那さんのいはるお人が心にもないこと言うて。そやけど、みっちゃん、よう訪ねてきてくれたなあ。ほんま言うたら、おばちゃん、ちょっと腹立ててたとこえ。長い間、一つ家に暮らしてたのに、えらい薄情やなあて」
美智「すんまへん」
さき「フフッ、そら冗談や。小野木さん、この前、来はったときに、みっちゃんが急に偉いさんの奥さんになったような気分でいるさかいに困る言うてはったけど、みっちゃんがそういう人でないっちゅうことは、よう分かってるさかいなあ。けど、なんや、だいぶやつれたようやなあ。所帯持ったら、いろいろと気苦労が多いんやろかなあ」
美智「うち、この間、具合が悪かったさかい」
さき「そら、気ぃつけなあかんえ。みっちゃん。小野木さん、ようかわいがってくれはるやろなあ。みっちゃんみたいな器量よしをお嫁さんにもろうたんやさかいに小野木さんかて大事にせんとバチが当たる。フフフフッ。けど、お母ちゃん、みっちゃんが小野木さんとこへお嫁に行ったっちゅうことをまだよう知らんのやろな」
うなずく美智。
さき「まあ、知らせるつてもないし…けど、小野木さんと許婚の約束を交わすまでは、お母ちゃん決めていかはったんやろ?」
美智「許婚?」
さき「そやないの?」
美智「許婚って、おばちゃん、それ、誰のこと?」
さき「誰のことって…みっちゃんと小野木はんのことやないの?」
美智「そんな…だ…誰がそんなことを?」
さき「うん、誰がって、あの…小野木はんから口止めされててんけどなあ。だいぶ前に…いや、だいぶ前にっちゅうても、先月の初めのころやったかいな、2階においやした石山はんがひょっこり訪ねてきはって」
美智「石山はんが?」
さき「うん。みっちゃんと小野木はんが許婚の間柄やったっちゅうことを小野木はんから初めて聞いたんやて」
美智「石山はん…」
回想シーン
石山<<美智さん、好きだった。ずっと前から。僕が大学を卒業したら結婚してほしい>>
驚いて振り向く美智。
石山<<それまで待っててほしい>>
美智の肩に手を置き、向き合う石山。
回想終わり
美智「おばちゃん、石山はん、ほんまに小野木から?」
うなずくさき。「みっちゃんと小野木はんが許婚の仲やったら、どうにもならんさかい。そやさかいに石山はんのお父さんが来はって、2人を別れさせたんやろう? そやろ? みっちゃん」
美智「そんな…許婚なんてウソや。ウソ…ウソや、ウソ、ウソ、ウソ」
さき「みっちゃん、みっちゃん」
美智「ウソや。ウソや…」泣き崩れる。
小野木家
ビールを一気飲みしている小野木。「ああ~、そや、俺が言うたんや。俺とお前は親が許した許婚やさかい、手ぇ出したら、ただじゃ済まないぞって。そしたら、石山のヤツは、びっくらこいて…ハハッ」
美智「恐ろしいことする人や。あんたっていう人は」
小野木「恐ろしいこと? 惚れたおなごに言い寄るヤツを追い散らすのが、なんで恐ろしいことや?」
<そのとき、美智は、はっきりと知った。恐ろしい人だ。この人によって自分の運命は狂わされてしまったのだと>
悔しそうな美智のアップ。(つづく)
美智をなめて開き直るようになった小野木。早く行動起こしてほしい!
こういう怪演が見られるのはいいんだけどさ…やっぱりドロドロの昼ドラよりほのぼのしたホームドラマが見たいなあ~。