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【ネタバレ】岸壁の母 第三十八章「この母の戦争は終らない」その三

TBS 1977年12月28日

 

あらすじ

船が港に入るたび、いせ(市原悦子)は舞鶴の岸壁に立っていた。最後の引き揚げ船にも新二(大和田獏)の姿はなかった。待ち続けて二十七年、ある日、中国で新二を見たという噂が立つ。

岸壁の母

岸壁の母

2024.8.14 BS松竹東急録画。

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冒頭はお決まりのシーン。青白画像。船が港に帰ってくる。

いせ「石頭(せきとう)教育、13981(いちさんきゅうはちいち)部隊、荒木連隊、第1大隊、第6中隊の端野新二(はしのしんじ)を知りませんか? 端野新二知りませんか? 端野新二を知りませんか? 端野…新二~!」

 

端野いせ:市原悦子…字幕黄色。

*

端野新二:大和田獏…字幕緑。

*

西田:鶴田忍

*

看護婦:須芽万紗子

夫人:光映子

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三浦文雄:山本耕一

*

音楽:木下忠司

*

脚本:高岡尚平

   秋田佐知子

*

監督:高橋繁男

 

復員局

いせ「満州はどこですか?」

職員「あそこの端です」

 

職員「それをそっくりそのまま写して、それで…それで判を押してね、で、日付も間違えないようにして」

女性「はい、分かりました。どうもありがとうございました」

 

いせ「あの…10日前にお願いしといた端野新二の母ですけど」

 

<復員局などで新二と同じ部隊にいたことのある人の住所が分かると新二の消息を尋ねる手紙を書きました。新二の属する第1大隊だけでも750人もいたそうですから、名前はもちろん、顔も分からないのは当たり前です。いくら手紙を出しても返事は来ませんでした。復員局にお願いして中国やソ連政府に消息調査もしましたが、なんにも返事はありません。ただただ、時がたつばかりでした>

 

警察病院

眼鏡も外し、ボーっと布団に入っている三浦先生。

 

看護師「衰弱がひどくてねえ、前のようには暴れなくなったけど」

いせ「食べ物のほうは?」

看護師「生きようとする意欲がないっていうのか食事も満足にしないのよ」

 

精神科第二病棟の扉を開ける看護師。昨日のオープニングクレジットにも名前のあった須芽万紗子さんは看護師役であることが判明。怪演を見せていたあの女性はノンクレジットだったか。

 

看護師「あんな状態じゃ、退院してもまたすぐ元に戻ってしまうわね」病室のドアを開け「三浦さん」と声をかける。三浦先生は目をつぶったまま。「何かあったら呼んでくださいね」と出ていった。

 

いせ「いかがですか? 先生」

目をつぶったままの三浦先生が話し始める。「あなたには、こんなとこを見せたくはなかった」

いせ「先生…」

三浦「帰ってくれませんか?」目を開ける。「私はもうおしまいだ」

いせ「何がおしまいですか?」

三浦「生きて帰らなければよかったんだ」

 

いせ「何をおっしゃるんですか? 帰りたくても帰れない人がたくさんいるのに。先生は、これからじゃありませんか。今までの分を取り戻すんですよ。すいません。分かったようなこと言ったりして。元の先生に戻ってもらいたいからです。私と新二がくじけそうになったら、いっつも先生は励ましてくださったじゃありませんか」

三浦「昔のことは、やめてください」

いせ「いいえ。何度くじけそうになったか。そのたんび新二と2人で波止場の水門から飛び込んで死のうとしたとき、先生に助けていただいたことを思い出しては一生懸命生きてきました」

 

体を起こした三浦先生はベッドから出て、病室の外にいた看護師に「この人に帰ってもらってくれ」と言った。

 

看護師「(三浦先生に)さあ、寝てなさい。(いせに)端野さん」病室から出たいせ。

 

警察病院

中目黒分室

内科

外科

放射線

神経科

眼科

 

端野家

枕元に新二の写真と手紙を置いている布団に入っているいせ。うつぶせのまま目をつぶる。

 

<<波の音>>

新二<<母さん>>夢の中は白黒。

 

岸壁で振り向いたいせ。新二が岸壁を歩いてきた。

いせ<<新二。新ちゃん!>>手提げを落とし、両手を広げる。

 

しかし、今にも抱き締めようとしたとき、新二の姿が消えた。

 

いせ<<新ちゃん。どこ? 新ちゃん?>>

 

目を覚ましたいせ。手紙も写真も払いのけて電気を消し、すすり泣く。

 

新聞の見出し

 

北鮮・韓國に宣戰布告

 

金浦飛行場爆擊

 

<また日本の近くで戦争が始まったのでした。いつの世でも世界のどこかで戦争が起こってます。人間と人間が殺し合うだけなのに>

 

朝鮮戦争は昭和25年だから、やっぱり前回は前々回と同じ昭和24年のままだよねえ。前回、最終引き揚げ船のことを言ってたから、急に昭和33年に飛んだのかと思ったけど、さすがにそれはなかった。

 

看護師に連れられて、病院の中庭に出たいせ。

看護師「見て、端野さん」

いせ「あら」

 

浴衣姿で歩いている三浦先生。

 

看護師「この間、あなたがお会いになって、しばらくしてから人が変わったみたいに。もう大丈夫よ」その場を立ち去る。

 

いせはベンチに座った三浦先生に近付く。「先生」

三浦「端野さん」

いせ「よかったですね」

三浦「ええ、かけませんか?」

いせ「すっかりお元気になられて」

 

ベンチに座る2人。

三浦「浴衣、どうもありがとうございました」

いせ「いいえ」

三浦「あなたには随分ご迷惑を…病院の支払いまでしてくだすったとか。随分ご無理なすったんじゃ…」

いせ「覚えてらっしゃいますか? 私たちが家賃も払えないときに先生は大事なご本を売ってくださいました」

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三浦「あれはあとからあなたから返していただいた」

いせ「新二が疫痢で生きるか死ぬかってときも…」

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三浦「あれだって、あなた自身が…」

いせ「いいえ。私たちは先生に助けていただいたと思ってます。新二がいてもきっと同じことをしたと思います。私たち親子にとって、先生は肉親以上に大切な人ですから」

 

ま、あのとき、病院代のお金を貸してくれたのは呉服屋の旦那さんですけどね。

 

三浦「ありがとう、端野さん。私はあなたまでだましたのに…」

いせ「忘れましょう。過ぎたことですよ」

三浦「許してください。あなたまでだましてしまった自分がイヤでイヤで何度か死のうと思った。その度に前線で死んでいった連中の顔が浮かびました。なんの未練もないのに死ねなかった。仕事もうまくいかず、ついヒロポンを…酒とヒロポンをやっているときだけが苦痛から逃れられました」

いせ「もう、先生…そんなことみんな忘れて一日も早くよくなってください。きっと笑い合える日が来ますよ」

 

三浦「あなたは強い人だ。羨ましい」

いせ「強いだなんて…」

三浦「女の人って、ホントは男よりずっと強いのかもしれない」

いせ「そんなこと…」

三浦「気を悪くしないでください。あなたがいたからこそ、私はこうやって…敬服してるんですよ」

 

端野家

帰ってきたいせは明かりをつける。

 

<さみしかったですね。三浦先生に強くなったと言われたときは。でも、強くならざるをえなかったんですよ。女手一つで子供を育てるんですから。でもね、私って娘のころは、そりゃ無口なはにかみ屋だったんですよ>

 

突然の回想シーン

おろした髪に赤いリボン、はかま姿の女性の後ろ姿が映る。

女性<<いせさんじゃないの。お父様はまだお帰りにならないの?>>

 

うつむき加減のいせ。<<はい>>

 

おお! 市原さんが若いころも演じている!

 

女性<<外国航路だから長くなるわね>>

いせ<<はい>>

女性<<主人の弟、覚えてるでしょ? 函館の工業高等学校に行ってる豊さんのこと>>

いせ<<はい>>

女性<<この前も来てね、いせさんのこと話してたわよ。夏休みになったら遊びにいらっしゃい>>

いせ<<はい>>

女性<<豊さんも交えてトランプでもしましょうよ>>

いせ<<はい>>

女性<<じゃ、お母様にもよろしく>>日傘をさして去っていく。

 

いせもまた小さな緑色の日傘をさして歩き出す。函館じゃないかもしれないけど、ちゃんと港町でロケしてんのね。

 

いせと話してるのが光映子さんかな?

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「太陽の涙」では看護師、「幸福相談」では夏目の占いの客。

 

<お笑いにならないでください。ホントに人と満足に口も利けないくらいおとなしい娘だったんです。外国航路の船員をしていた父が生きていれば、私もこんなにならなかったかもしれません>

 

後ろ姿でも弾むように歩いていて若さを感じる。

 

<女は男で変わるなんていいますけど、最初で最後の亭主で私も変わりました。今はとってもおしゃべりで達者なのは口と耳だけ。年ごとに強情になるみたいですよ。フフフフッ>

 

一人でご飯。仕立物の仕事。

 

<世の中も少しずつ落ち着いてきたせいか注文も増えるようになりましたが、前のように体が言うことを聞きません。職業病でしょうか。右手の指が前のように動きません。昔は一日に3枚も縫い上げましたのに。三浦先生が退院して訪ねてこられたのは、26年のお正月が済んだころだったと思います>

 

戸が開く音がして、いせは「あらまあ」と玄関へ急ぐ。「いつ?」

三浦「今朝、退院しました」

いせ「そうですか。おめでとうございます」

三浦「ありがとうございました」

いせ「どうぞお上がりください」

三浦「はあ」

いせ「さあ、どうぞ」

三浦「失礼します」

 

いせ「ホントに、すっかりお元気になられて」

三浦「あなたのおかげですよ」

いせ「いいえ、私はなんにも」

三浦「本当にいろいろお世話になりました。一度、田舎へ帰ってこようと思いまして。ちょっとご挨拶に」

いせ「田舎へ?」

三浦「ええ。父方の親戚がおりますから」

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佐渡かな?

 

いせ「そうですか」

三浦「これからのこともよく考えてみようと思ってます。これからの人生は拾い物の人生だと思って」

いせ「フッ、拾い物だなんて…」

三浦「投げやりで言ってるんじゃないんですよ。戦争から生きて帰ってきた人間は、誰でもどっかにそんな気持ちがあるんじゃないんでしょうか」

いせ「拾い物でも生きてるってことは、ありがたいことですよ」

三浦「儲かったと思って、これから大事にします」

 

いせ「ハハハハッ、どうぞ」お茶を出す。

三浦「はあ。東京へ戻ってくる気になったら、また伺います」

いせ「さみしくなりますわ。身近な人がみんないなくなってしまって」

三浦「端野さん、何かあったら知らせてください。今度は私があなたのために…」

いせ「新二が帰ってくるまで元気でいなくちゃなりませんから」

三浦「そうですよ。新二君のためにも長生きしなくちゃ」

 

<人生というものは人と人が寄り添っては一緒に生きて、また去っていく。元気になられた三浦先生が田舎へ帰って、ホントに一人きりになってしまいました>

 

新二に供えていたせんべいを三浦先生に出すいせ。三浦先生、眼鏡外してるのね。三浦先生がせんべいを噛む。

 

いせ「いい歯ですねえ」

三浦「ええ」

笑い出す2人。市原さんのアドリブかなあ?

 

昭和二十七年

 

端野家

ほうきとバケツが2階の階段の手すり付近に置かれていて、いせの歌声が聴こえる。

 

♪湯島通れば 思い出す

お蔦 主税の心意気

湯島の白梅

湯島の白梅

  • provided courtesy of iTunes

いせはギターがしまってある押し入れの下の段に入り、学帽をかぶっている。

 

戸が開く音がし、男性が「ごめんください」と声を掛けても歌い続ける。

 

♪知るや白梅 玉垣

のこる二人の 影法師

 

歌いきって「は~い!」と返事して、玄関へ。「いらっしゃいませ」

西田「端野新二君のお母さんですか?」

いせ「はい、そうですが」

西田「自分は端野君と同じ部隊にいた西田という者です」

いせ「あら…まあ、まあ、そうですか。どうぞお上がりください」

 

西田「商用があって東京に来たものですから」

いせ「どうぞどうぞ」

西田「失礼します」

いせ「まあ、そうですか。どうぞ」

 

<新二と一緒の部隊にいた方でした。もう夢中でした。新二について初めて聞ける方が突然、目の前に現れたんですから>

 

棚の上の新二の写真を見ていた西田。「懐かしいなあ」

いせは笑いながら写真を手にして西田に手渡す。

西田「一日も早くお伺いしなければと思っていながら、復員してきてから、こっち、自分でちっぽけな会社をやってるもんですから仕事に追われて…申し訳ありません」

 

いせ「ご郷里は?」

西田「九州です」

いせ「まあ、まあ、九州から。ようこそねえ」

西田「端野君のことは、その後…」

首を横に振るいせ。

西田「そうですか」

 

いせ「あらまあ…まあ、ごめんなさい」急須の蓋をお茶碗に落とした。夕食時にも鍋の蓋を落としたり…老いの表現かな?

 

西田「隊長から頂いた日本刀をこうして背中にしょった勇ましい端野君の姿が目に見えるようです」

いせ「話してください、新二のこと」

西田「昭和20年の8月に入るとソ連が参戦しました」

いせ「はあ」

西田「私たちの所属する荒木連隊は8月11日未明、牡丹江(ぼたんこう)市外東方、掖河(えきが)付近に陣地を占領するために駐屯地の石頭を列車で出発しました。8月11日、午後1時30分ごろでした。掖河駅に到着して連隊の主力は、その付近に陣地を占領しました。私や端野君は第1大隊長の猪股大尉の指揮の下に綏芬河(すいふんが)方面から侵入する戦車を阻止する任務をもって磨刀石(まとうせき)に向かいました」

 

西田が「磨刀石」と紙に書いて、いせに手渡す。字幕がなきゃ、なんのこっちゃだよな。掖河は一発で出なかったけど、綏芬河は一発で出てびっくり。

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磨刀石という地名が出てきたのは、「尋ね人」を聞いた人からもらった手紙に書かれていた。この手紙、西田が書いたんではないのかな? 

 

西田「あとで分かったんですが、磨刀石に向かった兵隊は約750名もいたんだそうです。磨刀石に着いた途端、敵機の空襲に遭い、10名以上が戦死しました。それから、駅の東側に陣地を占領して戦闘状態に入ったんですが陣地の最前線に敵の戦車が攻撃してきました。12、13、14日とソ連軍と激しく戦いました。戦死者が次々に出て、ほとんど全滅状態になったんです」

いせ「それで新二はどうしたんですか?」

西田「15日のことでした」

 

満州

<<銃声>>

 

西田「15日の朝、みんなは壕(ごう)の中でしばらく休んでいました。私や端野君が気がついたときには壕の中には12人しか残っていませんでした」

 

新二<<大丈夫か!?>>

兵士<<はい>>

新二<<大丈夫か!?>>

 

西田「私たち12人は戦友の名を呼びながら進んでいきました。そのとき、ソ連の戦車が見えたんです。それからは思い出すのもゾッとするような猛烈な攻撃を受けました」

 

<<砲声と爆発音>>

 

戦車の映像は当時の本物!?

 

<<爆発音>>

 

新二<<行くぞ~!>>

兵士たち<<おう!>>

 

<<爆発音>>

 

新二<<ああっ! 西田! 生きてるか?>>

西田<<端野!>>

 

新二<<西田、お前が生きて帰ったら、おふくろによろしく頼む>>

西田<<ああ、俺のほうも頼むぞ>>

 

<<銃声>>

 

<<爆発音>>

 

戦車の映像と合わせるためかここもずっと白黒。

 

西田<<端野~!>>

<<爆発音>>

 

新二<<あっ…>>右のすね辺りを押さえている。

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この前の回想?では太ももを押さえてたような。

 

新二<<西田! これ以上は無理だ。撤退しろ!>>

西田<<端野~!>>

新二<<俺に構わず撤退しろ!>>首にかけていた双眼鏡を外して投げる。<<持ってけ~!>>

 

<<爆弾の飛来音と爆発音>>

<<銃声>>

<<爆弾の飛来音>>

 

右すねを押さえながら土手を歩いている新二。

 

<<砲声>>

<<銃声>>

<<爆発音>>

<<砲声と爆弾の飛来音>>

<<爆発音>>

 

新二<<うわ~っ!>>水に落ちる。

 

この前のとは微妙に違う感じだね。

 

西田「昭和20年8月15日の午後3時から3時半ごろの出来事でした」

いせ「8月15日?」

西田「内地では終戦玉音放送があったあとだったんですね。そんなことも知らずに私たちは必死に戦っていました。私はもう一人の兵隊と一緒に逃げました。その兵隊は戦車に撃たれて戦死しました」

 

いせ「それで新二は?」涙をこらえて手で口元を覆う。

西田「溝に飛び込んだところは見ました。端野君の行方も見届けないで申し訳ありません!」手をついて頭を下げる。

いせ「まあ、そんなこと…まあ、どうぞどうぞ。どうぞ」頭を上げさせる。

西田「夢に見るのは端野と別れたときのことばかりです」

いせ「はい。ありがとうございました。ホントにもう新二のことが初めて分かりましたから」

 

西田「お母さん。端野さん、きっとどこかで生きてますよ。脚に弾が当たったくらいで参るような人じゃない」

いせ「フフフフッ」新二の写真を見る。(つづく)

 

あの状態から生きてたら、それはそれですごい。