TBS 1977年11月16日
あらすじ
新二(中野健)が危篤になってしまう。看病の甲斐あって助かるが、蓄えは底をついてしまう。いせ(市原悦子)は再婚を勧められるが、新二の亡き父への思いを知り、二人で生きていこうと決意する。
2024.7.3 BS松竹東急録画。
冒頭はお決まりのシーン。青白画像。船が港に帰ってくる。
いせ「石頭(いしとう)教育、13981(いちさんきゅうはちいち)部隊、荒木連隊、第1大隊、第6中隊の端野新二(はしのしんじ)を知りませんか? 端野新二知りませんか? 端野新二を知りませんか? 端野…新二~!」
端野いせ:市原悦子…字幕黄色。
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端野新二:中野健…字幕緑。
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三浦とよ子:生田くみ子
呉服屋の店主:飯田和平
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吉岡節子
谷口久美子
後藤泰子
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山口京子
古川小夜子
宍倉伸一郎
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三浦文雄:山本耕一
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音楽:木下忠司
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脚本:高岡尚平
秋田佐知子
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監督:高橋繁男
<おかげさまで新二は助かりました。一時はダメかと思い、新二にもしものことがあったら私も生きてなんかいられないとさえ思いました。新二が大丈夫と言われ、少し心の余裕が生まれたのか、今度は三浦先生のことが気がかりになりました。三浦先生は、お土産に持ってこられたスイカが新二の病気の原因だと思い込んでおられるようでしたけど、ホントの原因はなんだったんでございましょうかねえ>
今でもマグロの刺身と思い込んでるよ、私は。いせさんも刺身を食べさせたことを医者や三浦先生に言ってないのかな?
三浦家
とよ子がおらず、三浦先生は郵便受けに入っていた鍵で家の中に入り、カーテンを開け、窓を開け、とよ子が書いた置き手紙を見つけた。
とよ子の書き置き「しばらく実家に帰らせていただきます」
家に帰ってきたいせは家の周りに白い粉がまかれているのに気付き、すれ違った女性たちに「こんにちは」と声をかけても無視された。
<新二の着替えを取りに帰ってみると、うち中、消毒されてました。そのことよりもっとこたえたのは近所の人の目です。まるで罪人を見るように。世間の目というのは、そういうもんなんでしょうか。ともかく新二は薄皮を剝ぐように一日一日、回復へ向かい元気になりました。病院の先生も奇跡だとおっしゃったくらい>
病室
新二におかゆを食べさせていたいせだが、自分でも食べる。
また三浦先生が来た。「おお、食べてるな。うんと食べて早く元気になれよ」
新二「はい」
三浦「いい物持ってきたんだ」
新二「なんですか?」
先生が持ってきたのは童話の本だった。
いせ「いつもすいません」
三浦「いや」
いせ「新ちゃん、早く食べちゃおう」
新二「うん」
中庭で洗濯物を干すいせに三浦先生が声をかけた。「こんなことを聞いて失礼なんですが、病院のほうの支払い、どうなってるんですか?」ベンチに座る。
いせ「はあ…」
三浦「お困りになってるんじゃ?」
いせ「でも…なんとかなります」
三浦「私に少し手伝わせてもらえませんか?」
いせ「とんでもない。先生にそんなご心配を…」
三浦「私のせいで新二君を…当然のことです」
いせ「先生。そんなにご自分をお責めにならないでください。新二もああやって元気になりましたし、支払いのほうは…」
三浦「しかし…」
いせ「お気持ちだけ頂いときます」
三浦「そうですか。困ったときは、いつでも言ってくださいね」
いせ「ありがとうございます」
ベンチから立ち去ろうとした三浦先生にいせが声をかけた。「先生。ちょっとお元気が…何かおありになったんですか?」
三浦「いえ、なんにもありませんよ。そんなふうに見えますか?」
いせ「それならよろしいんですけど」
<三浦先生のおっしゃるように病院の支払いは私にとって大きな問題でした。あしたにも新二が退院できるというのに全く当てもありません。細々と蓄えてきたお金も、もう底をついてしまいました。どうしたらいいのか、ホントのところ、途方に暮れてたんです>
新二をおぶって帰ってきたいせ。
新二「お母ちゃん、この白いの何?」
いせ「新ちゃんが病気になったから消毒したの」
新二「ふ~ん」
いせ「これからも気をつけないとね。また病気になるのイヤでしょ?」
新二「うん」
鍵を開けて家の中へ。
新二「やっぱりうちがいいや」
いせ「そうでしょう? お母ちゃんも昨日片づけに戻ってきて、つくづくそう思ったもの」
新二「ごめんね、お母ちゃん」
いせ「何が?」
新二「病気になって」
いせ「バカねえ、おかしな子。さあ、お布団敷いて…寝てなくちゃ」新二の頭のにおいを嗅いでる。
新二「もう大丈夫だよ」
いせ「ダメ。2~3日、大事にしなくちゃ。それから、お母ちゃん、ちょっと出かけてくるけど1人でお留守番できる?」
新二「うん。でも、どこへ?」
いせ「うん…ちょっとね」
いせが出かけたのは、河島屋呉服店。
店主「引っ越して間もないのに何かと大変だったね」
いせ「実は旦那さん、お願いが…こんなこと、お願いできる筋じゃないんですけど。病院の支払いが…一生懸命働いてお返ししますから貸していただけないでしょうか?」
店主「どのくらい?」
いせ「20円」
店主「20円ね。失礼だが、あんたは仕立物で生活をしてるんだ。20円の金を借りて、どうやって返せるね?」
いせ「なんとしてでもお返しいたしますから。旦那さん」
店主「私は商人(あきんど)だ。返ってくる当てのない金を貸すことはできない。気の毒だが、貸すのはお断りだね。仕事、持ってってくれるね?」
いせ「はい」バッグから風呂敷を取り出し、広げると、店主は反物と封筒を置いた。
店主「これ。20円、入ってる」
いせ「旦那さん」
店主「貸すんじゃないよ。失礼だが、お見舞いに差し上げるんだ」
いせ「そんな大金頂くわけには…必ず働いて、少しずつお返しいたしますから」
店主「ハハハハッ。そう思うんなら、それはそっちのこと。貸したつもりで返らなきゃ気持ちが悪いからね。催促なしの利息なしだ。まあ、好きなようにしたらいい」
いせは封筒を両手で受け取り、深々と頭を下げた。
<これで病院の支払いができる。ありがたいと思いました。ご主人は、ああおっしゃってくれましたけど、そのお気持ちに対して、一日も早く働いてお返ししなければと思いました>
今の家の家賃が4円20銭。単純に4円→4万円と考えると、20円→20万円くらいかそれ以上くらいかな?
1926/昭和元年…公務員初任給75円/サラリーマン大卒(早慶)初任給80円/サラリーマン中卒初任給35円/新聞1円(1か月)/葉書1銭5厘/封書3銭
…1円→1万円ってことはないか。もっと低いか。
夜、仕立物をしていたいせは蚊帳の中で寝ている新二の布団をかけ直し、枕に頭をのせた。その後、気付くと夜が明けていて、新二が起きた。「寝なかったの?」
いせ「いや、お母ちゃんのことは心配しなくたっていい。さあ、まだ早いから少し寝よう」いせは布団に横になる。眠っていたいせの手が新二の手に当たる。新二は、いせの右中指にはめられた指ぬきを外して戻す。目をつぶりながらほほ笑むいせ。
子供たちが寺の境内で相撲をしていたが、新二はその輪に入っていない。いせが聞くと、悪い病気がうつると仲間外れにされたことが分かった。いせは新二の頭にぬれた手ぬぐいを巻き、2人で帰った。
いせ「新ちゃん、お母ちゃんと相撲取ろうか」
新二「お母ちゃんと?」
いせ「何よ。お母ちゃん、まだ負けないよ」
新二「うん、やろう」
いせ「やる? よし」
家に帰った2人。新二は、うちわを持って行司のマネ。「東~」
いせ「えっ、ちょっと待って」作業台?を片づける。「はい、いいわよ」
新二「東~、清水川~」
いせ「イヤ、イヤ、お母ちゃん玉錦がいい」
新二「ダメダメ。じゃ、双葉山」
当時は前頭
いせ「うん、新ちゃんは?」
新二「僕は弾丸巴潟(ともえがた)」
当時は十両
いせ「よし」
新二「見合って…はっけよい、のこった!」
結構本気で押し合いをするいせと新二。壁に背中を打ちつけたいせは痛いと部屋を出て、新二が帯を引っ張り、組み合うと、ヤー!といせが投げ飛ばした。「フフフフッ。アハハッ。お母ちゃんの勝ち!」
しかし、新二の脚が襖をぶち抜いていた。
いせ「なあに? これ。あ~あ…知らない、新ちゃん。どうしよう、やらなきゃよかった」と穴を手でふさいた。
夜、三浦先生が片手鍋を持ち、もう片方の手で長ネギを持って帰ってくると、家に灯りがついていた。「帰ってたのか」
とよ子「玄関、開けたまま不用心よ」
三浦「ちょっと通りまで買い物に行ってたんだ。随分ゆっくりだったじゃないか」
とよ子「あなた」
三浦「なんだい?」
とよ子「私がいなくて、かえって清々してらしたんじゃなくって? 一度ぐらい実家のほうに連絡してくださったって…私のこと心配じゃなかったの?」
三浦「電話をしたって、お前は、いなかったじゃないか。義姉(ねえ)さんが、お前のことを元気だって、おっしゃってたから…まあ、たまには、お前も実家でゆっくりするのもいいだろうと思ってね。どうだった? 皆さん、お元気だったか?」
とよ子「あなた聞かせて。あの晩、どうして帰らなかったの? 端野さんのとこへ泊まったんでしょ?」
三浦「バカ。わけも聞かずに実家に帰ったりして、一体、お前、何考えてんだ?」
とよ子「わけって、どんなわけがあったの?」
三浦「あれから新二君が大変だったんだ。俺が土産に持っていったスイカを食べて疫痢になった」
とよ子「疫痢?」
三浦「新二君が死ぬか生きるかってときに帰ってこられるか。電話もない。お前に連絡の取りようもないじゃないか。一晩、亭主が帰ってこないぐらいでガタガタ騒ぎ立てたりして、そんなに俺が信用できないのか?」
逆ギレじゃない??
長い間があり、三浦先生がタバコをプカーッと吹かす。「飯にしようじゃないか」
とよ子「それで、新ちゃんは、もう大丈夫なの?」
三浦「ああ。2~3日前に退院したはずだよ。夏休みでよかったよ」
とよ子「そうだったの」
三浦「医者も言ってたけど子供の病気って、突然くることがあるそうだ。俺たちには子供を育てた経験がないから驚いた」
とよ子「助かってよかったわ」
三浦「俺は責任を感じてつらかった。その上、お前は置き手紙残して実家に帰っちまうし」
とよ子「ごめんなさい」
どうして、とよ子が謝ることになるのさ!
三浦先生がとよ子を見て、ニコッ。とよ子も笑顔を返す。仲直り!?
端野家
いせが仕立物をしようとしていた。
店主「お暑うございます」
いせ「まあ、旦那さん」
店主「いや、精が出るね。裏から入らしてもらいましたよ」
いせ「どうぞどうぞ、お上がりください。まあ、暑いのにすみません」
店主「なに、他に寄る所もあったしね。新ちゃんは、もうすっかりいいの?」
いせ「ええ。先日はホントにありがとうございました。おかげで病院の支払いもできました。ご返済のほうもできるだけ早くさせていただきます」
店主「いつでもいいんだからね。まあ、頑張りなさいよ」
いせ「はい」
店主「新ちゃんは?」
いせ「遊びに行ってます。でも、あんな病気をしたあとですし、なかなか近所の子供たちが遊んでくれないらしくて…」
店主「なあに。子供たちのことだ。すぐ仲良くなりますよ」
いせ「私もそう思って様子を見てるんです」麦茶を運んできた。
店主「ところで仕事だが…一反120円もする友禅だ」
いせ「120円?」
店主「縫い賃もいつもよりはずっと弾むつもりです。やってみるかね?」
いせ「はい。一生懸命やらせていただきます」
店主「これ寸法」
いせ「はい。へえ、きれい」
店主「いせさん。新ちゃんもそろそろ父親が必要になるんじゃないかね。新ちゃんが小さいうちはいいけど、これからの男の子は学問させとかないとね。いや、私の知り合いにいい人がいるんだが再婚する気はないかね?」
戸惑いのいせ。
店主「真面目な月給取りだし、奥さんと子供を病気で亡くしてる。子供好きだから新ちゃんをかわいがってくれると思うよ。新ちゃんがちょっと病気しても今度のように困るんじゃ、あんたも不安じゃないかね?」
いせ「はあ…」
外から立ち聞きしていた新二。
店主「まあ、新ちゃんのためにもよく考えといてくれないか?」
いせ「はい」
店主「じゃ」
新二は慌てて外に飛び出し、店主から身を隠した。
<旦那さんがおっしゃるとおりかもしれません。新二の将来を考えると不安でした。だからといって、ほいそれと再婚する気にもなれなかったんです>
いせは新二の名を呼ぶ。縁側から家の外へ出て、路地へ。「うちの新二、知らない?」と路地で花火をしていた子供たちに聞くも、知らないと言われた。
いせ「あら、どこ行ったんだろう?」再び縁側から家に入ると、顔を真っ黒にした新二が台所にいた。「どうした? その顔」を聞くが、新二は黙って、いせの手のひらに小銭をのせた。「何? これ。どうしたのよ? 1銭5厘もあるじゃないか」
新二「僕の病気で、お金、たくさん使ったんだろう? だから、くず鉄拾って歩いて売ったんだ。使って」
いせ「新ちゃんがそんなこと心配することないの。花火でも買いな」
新二「いいってば。お母ちゃん、使ってよ」洗面器に水をため、顔を洗う。
いせ「ありがとう。もう二度とこんなことしないでよ」ギュッと小銭を握りしめ、棚に置き?新二の顔を拭いた。
<誰に教わったのか、あんなことまでして…くず鉄が1貫目1銭5厘、銅(あか)が2銭。遊び盛りなのに…親の口から言うのもなんですが、とっても母親思いの子でしたよ>
1銭硬貨と5厘硬貨のアップ。(つづく)
小島という前例があるせいか、店主に対して、何かするんでは!?とハラハラ。でも、今のところ、20円を貸してくれたり、仕事もくれたり、見合いの話をして、さっさと帰ってくれるいい人だった!? いやいや、まだまだ分かんないよ~!?