TBS 1977年12月22日
あらすじ
八月、日本はついに敗れて引き揚げが始まるが、二年が過ぎても新二(大和田獏)は帰らない。いせ(市原悦子)は息子の死を信じることが出来ず、舞鶴港に通っては帰還兵に新二の消息をたずねていた。
2024.8.8 BS松竹東急録画。
冒頭はお決まりのシーン。青白画像。船が港に帰ってくる。
いせ「石頭(せきとう)教育、13981(いちさんきゅうはちいち)部隊、荒木連隊、第1大隊、第6中隊の端野新二(はしのしんじ)を知りませんか? 端野新二知りませんか? 端野新二を知りませんか? 端野…新二~!」
端野いせ:市原悦子…字幕黄色。
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端野新二:大和田獏…字幕緑。
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水野のぶ子:小畑あや
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高間イワオ:陶隆司
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勝子:水澤摩耶
西田:鶴田忍
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復員局の職員:園田健二
修一:一柳俊之
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音楽:木下忠司
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脚本:高岡尚平
秋田佐知子
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監督:菱田義雄
爆発音
<昭和20年8月6日、広島に8月9日には長崎に原子爆弾が落とされました。そして、同じ9日にはソ連が日本に戦争を仕掛けてきたのです。そうなると満州は一番危険な所です。新二のことが心配で心配で眠れない夜が続きましたよ>
敵に向かっていく兵士たち。そんな中、新二も撃たれて苦しんでいる…!?
端野家
いせ「新二」とつぶやき、ハッと目を覚まして起き上がり、布団を出て、仏壇に手を合わせて祈る。
朝、目を覚ましたのぶ子が隣に寝ていたいせがいないことに気付き、ふすまを開けると、いせが仏壇の前で寝ていた。「おばさん、どうしたんですか? こんな所で」
いせ「夢を見たの、新二の。爆弾に吹っ飛ばされた」
のぶ子「おばさん…」
いせ「悪いほうにばっかり考えちゃって。新二には私たちがついてるんだから、簡単にやられないわよね?」
のぶ子「ええ、新二さん大丈夫です。おばさんがこんなに心配してるんだもん。きっとおばさんの気持ち、新二さんに届いてると思います」
いせ「そうよね」近くに置いていた新二の写真立てを手ぬぐいで拭く。
竹槍を持って歩いているいせと勝子。「ねえ、回覧板見た? 広島や長崎に落ちた新型爆弾には白い物を着とくといいってホントかしら?」
いせ「さあ…」
「本日も晴天なり」や「マー姉ちゃん」でも光による新兵器なので白い服を着ていれば反射するという話をしている。でも、最初に聞いたのは「おしん」。
勝子「それにこんな物(竹槍)、役に立つのかしら? 本土決戦になったとき」
いせ「何もしないよりいいってことでしょ」
いせ「そうよ。不可侵条約って、お互いに侵さないって約束したでしょう」
勝子「端野さん。こうなったら信じるしかないわよ。新ちゃんもうちの修一も無事帰ってくるって」
いせ「そうは思ってるけど…変な夢なんか見ると…」
勝子「端野さんも夢を? 私もよ」
いせ「そうなの?」
端野家
新二の写真の前でお守りを持っていたのぶ子は、戸が開く音がして、慌ててお守りを胸にしまった。
いせ「どうしたの? 早かったじゃないの」
のぶ子「ええ。会社、ほとんど仕事にならなくって」
いせ「どうして?」
のぶ子「材料がないんです。どこの軍需工場も同じらしいんですけど。それにこのごろじゃ休む人も多くなって。食料不足のせいなんです。買い出しに行ったり、農家に手伝いに行って食べ物を分けてもらうために。ホントにどうなるのかしら。戦争に必要な飛行機も満足に造れなくなって…みんな言ってます。日本は負けるんじゃないかって」
いせ「のぶ子さん。やめてちょうだい、日本が負けるなんて。冗談じゃないわよ」
のぶ子「おばさん」
いせ「私たち国民はみんな、お国のためにつらい思いをしてるのよ。戦死した人だって…石田さんだって、石田さんのお兄さんだって、三浦先生だって、みんな、お国のために戦死したじゃない。新二だってどうなるのよ? お国のために大学をやめて私たちが止めるのも聞かずに戦争に行ってるのよ。そんな、冗談にも負けるなんて言わないでちょうだい」
<正直言って、私もこの戦争は、もうダメなんじゃないかと思わずにはいられませんでした。でも、そのことがまことしやかに話されるのを聞くと新二がどうなるのか不安になって、つい、イライラしちゃいましてね>
まーた、イライラ出たよ。いせ自身は、のぶ子に新二が爆弾に吹っ飛ばされた夢を見たなんて不穏なこと言っといて。な~にが、つい、だよ。
のぶ子は庭に出て畑の前に行き、またお守りを取り出す。
お守りを交換した新二とのぶ子の回想シーン。
新二<<君だと思って、いつも身に着けてるよ>>
のぶ子<<私も>>
新二<<おふくろのこと頼む>>
うなずくのぶ子。
新二の写真の前に供えられた芋。いせとのぶ子の静かな食事風景。
<既に7月下旬に米英ソの連合国側はポツダム宣言という日本に無条件に降伏をするようにと決議をして日本政府に最後の通告をしていたんですってね。そんな事情は私たち国民には、なんにも知らされていなかったものですから、ただ軍部の主張する本土決戦の日が来るのだ。最後まで戦い抜くんだと信じておりました。あの昭和20年8月15日まで>
端野家前の路地
勝子「そうなの。昨日、買い出しに行ったんだけど、ひどいものよ。乗るのも降りるのも命懸け」
いせ「あの…窓から乗り降りしてるんでしょ?」
勝子「それどころか洗面所もお便所の中もぎっしりで、そりゃあ、つらいわよ。1人じゃとても無理。のぶ子さんと行ったほうがいいわ」
そこに高間が通りかかった。「どうも」
いせ「なんでしょうか?」
高間「いや、あちこち知らせに歩いてるんだけどね、お昼に重大ニュースがあるそうだからラジオを聴いてください」
いせ「重大ニュースって、なんですか?」
勝子「いよいよあれですか? 本土決戦?」
高間「いや、わしにもよく分からんのですよ。とにかくラジオを聴いてください。頼みますよ、では」
勝子「なんでしょうね」
いせ「なんでしょう」
歩き回っていた高間は時計を見て端野家へ。「あの…」
いせ「あら、組長さん」
高間「一緒に聴かせてくださいよ」
いせ「どうぞどうぞ」
12時になった。
ラジオからアナウンサーの声が聞こえる。「天皇陛下のご放送であります。謹んで拝しまするよう」
ラジオ:天皇「朕(ちん)深く世界の大勢(たいせい)と帝国の現状とに鑑(かんが)み、非常の措置を以(もっ)て時局を収拾せむと欲し、ここに忠良(ちゅうりょう)なる、なんじ臣民(しんみん)に告ぐ。朕は帝国政府をして米英支蘇(べいえいしそ)四国に対し、その共同宣言を受諾する旨、通告せしめたり。なんじ臣民の衷情(ちゅうじょう)も朕、よく、これを知る。されども、朕は時運のおもむくところ、堪え難きを堪え、忍び難きを忍び、もって万世のために太平を開かんと欲す。なんじ臣民、それ、よく朕が意を体せよ」
君が代が流れる。
おお、「本日も晴天なり」くらい割と長くやった。
いせ「組長さん、なんて言ったんですか?」
正座してじっと聞いていた高間は涙を浮かべていた。「負けたんだよ、日本は」
いせ「負けた? 日本が」
高間は大きくうなずき「戦争が終わったんだよ。このまま戦争を続ければ、国民を苦しめるだけだとおっしゃって…」下を向いて泣き出す。
いせ「負けた、日本が」
頭を下げて高間は出ていった。
「本日も晴天なり」によれば、玉音放送の後、アナウンサーが経過説明を行ったそうで、今回はそのシーンを省いて、高間が終戦の詔書だけで理解したことにしたんだろう。いや、分かる人は分かったのか。
のぶ子「どうなるんでしょう? 私たち」
いせ「新二が帰ってくる。戦争に負けたってことは、戦争が終わったってことよ」
のぶ子「新二さんが帰ってくる?」
いせ「こんな物いらないわ」電灯の傘に付けた黒い布を外す。「これも取りましょう。こんな物いらないわ。のぶ子さん、向こうも取りましょう、こんな物」
二人で窓の白いテープを笑いながらはがす。
いせ「うれしい」
のぶ子「終わった」
いせ「戦争なんて、もう…空襲もない。新型爆弾もない」家中の黒い布も外す。「新二が帰ってくる。ハハハッ、新二が帰ってくる。よかった」写真立てを抱きしめる。
あえて白黒映像にしてんのかな?
兵士「おい! 戦闘司令部が後退したぞ、行こう」
一同「おう」
爆発音がする中、兵士たちは走る。
新二「戦車だ」
<ずっとあとになって分かったことですが、前線では戦争が終わったことも知らず、たくさんの兵隊さんたちが攻めてくる敵と激しく戦っているところもあったそうです。新二もその一人だったんでしょう>
攻撃を受け、撃たれて倒れた者もいた。
爆弾の飛来音
爆発音と銃声
新二「あっ、くう~!」
西田「おい、端野! 端野! しっかりしろ。大丈夫だ」新二の血のにじむ右太ももを押さえる。
新二「西田、逃げろ」
西田「端野!」
新二「これ持って逃げろ」双眼鏡を渡す。
西田「おい」
新二「西田、お前が生きて帰ったら、おふくろによろしく言ってくれ」
西田「貴様が生き残ったら、俺のほうも頼む」
新二「分かった」
西田「死ぬなよ、端野」
新二「ああ、貴様もな」
西田「ああ。あっ、ヤバい」新二を塹壕に移動させた。「端野、それじゃ」
新二「ああ」
鶴田忍さんは「3人家族」では健の友達。市原悦子主演の「おばさんデカ」の1~6作目で市原さんと共演。乙女の上司のデカ長だって。
夜、黒い布を外し、明るい中で夕食。
いせ「さあ、新二」と雑炊を供える。「新二が一日も早く帰ってくるように、お父さん、頼みますよ」仏壇に話しかけた。「明るいねえ。夜も安心して寝られるし」
のぶ子「ええ」
いせ「いただこう」
のぶ子「はい」
食べ始めた二人。
いせ「おいしい」
のぶ子「ホント」
いせ「いつもと同じすいとんなのに気分のせいかしら」
のぶ子「ええ」
いせ「うちも焼かれずに済んで運がよかった」
のぶ子の前でそんなこと言うんじゃねーよ!
のぶ子「きっと新二さんも帰ってきたら喜びますね。いつごろ帰ってくるかしら?」
いせ「満州だから、ひと月はかかるでしょ。混雑してるようだから」
のぶ子「ひと月…待ち遠しいな」
いせ「ひと月なんてすぐよ」
のぶ子「フフッ」
<あのとき、すぐにでも新二に会える、一緒に暮らせると確信しておりました。それなのにあれから32年も待たされております>
外を歩いていたいせは大きな荷物を抱えて歩いていた復員兵に駆け寄る。「あの…ちょっとすいません。ご苦労さまでした。どちらからお帰りですか?」
復員兵「自分は九州の部隊にいました」
いせ「あっ、そうですか」
<町には、あちこちから復員してくる人の姿が見られるようになりました>
端野家
一升瓶に入った米を突くいせ。「新橋の外食券食堂で働く?」
のぶ子「ええ。会社も閉鎖されたし、ぼんやりしてるわけにもいかないでしょ?」
いせ「なんで食堂なんかで?」
のぶ子「おばさん、東京駅や新橋、品川駅なんか復員してくる人が大抵おなかすかして食堂に来るでしょう? 少しでも早く新二さんの消息が分かればいいと思って」
いせ「なるほど」
外食券食堂
「リンゴの唄」が流れている。
並木路子、霧島昇「リンゴの唄」1945/昭和20年10月11日公開の松竹大船映画「そよかぜ」の主題歌。
戦後2か月で映画公開ってすごいね。
のぶ子「いらっしゃいませ。すいません」テーブルの上の湯飲みを片づける。「どちらからですか?」
復員兵「自分は水戸の連隊であります」
のぶ子「ご苦労さまでした」
復員兵「雑炊2つ」
のぶ子「はい」
端野家
出かけようとしたいせが玄関に落ちていた葉書に気付く。「新二だ」
新二の葉書
「母さん元気ですか? 僕は甲種幹部候補生に合格して間もなく内地の教育隊でなく残念ですが、石頭(せきとう)教育部隊に転属になりました。今までと違って、訓練も厳しくなりましたが、元気ですから安心してください。いよいよ、お国のために働く時が来ました」
<終戦になって2か月もたって届いた葉書でした。新二は、いつどこでこの葉書を出したのか消印が消えていたのが残念でなりません>
三星食堂勝手口から出てきたのぶ子。「おばさん」
いせ「ごめんね、忙しいところ。これ、新二から」
のぶ子「新二さんから?」
いせ「これから復員局行ってこようと思って」
葉書を読んでいるのぶ子。
いせ「復員局行けば何か分かるんじゃないかと思ってね」
厚生省
引揚援護廳復員局←”庁”の旧字体、難しすぎ。
いせ「あの…調査していただきたいんですが」
職員「所属の部隊は?」
いせ「満州の…石頭教育部隊です」
職員「そんな部隊はありませんよ」
いせ「えっ? ないって…今日、来たんですよ。息子がちゃんと書いてきたんですから」
職員「しかし、そんな部隊名、一度も聞いたことがないですね。これが今日来たといっても本省でも通信ができないのに個人宛ての手紙なんか…ああ、これ、以前に出したのが今頃、届いたんですよ」
いせ「ですから、息子の消息を調べてください」
職員「じゃあ、あちらでこの書類に必要事項を書き込んでください」
<新二が噓の部隊の名前を書くわけはありません。復員局で知らない部隊があるなんて信じられませんでしたよ、ホントに>
いせが家の前まで来た。
勝子「さあ、もう少しだからね。もうすぐうちだからね。まっすぐよ。はい、もうちょっと、もうちょっと」目に包帯を巻いた復員兵を押して歩いている。「あっ、端野さん」
いせ「修一さん」
勝子「こっちよ」いせのほうを向かせる。
修一「おばさん、ただいま帰ってまいりました」
いせ「よく…おかえりなさい。ご苦労さまでした」
勝子「ご覧のとおりよ。両目をやられちゃって…」
いせ「まあ…」涙を拭く。
勝子「でもね、こうして帰ってきてくれただけでも…」
修一「お母さん」
勝子「うん…」泣いている。
修一「母たちがお世話になったそうで」
いせ「いいえ。なんにもできなくて」
修一「おばさん、新ちゃん、まだだそうですね」
いせ「そうなんです。それでね、今も復員局行って調べてくれるように頼んできたとこ」
修一「必ず帰ってきますよ。今、どの方面も混乱状態だし、なかなか連絡が取れないから…心配いりませんよ」
いせ「ありがとう、修一さん」
勝子「じゃ。さあ、修ちゃん、そっちよ、さあ。ちょっと待ってね」玄関の戸を開けて入っていった。
端野家
布団を並べて寝ているいせとのぶ子。
いせ「石頭教育隊なんていう部隊ないって言うけど、どういうことなのかねえ。同じ部隊の人はまだ誰も帰ってこないっていうことなのかね」
のぶ子「ええ」
いせ「なんか音しなかった? 玄関のほうで何か音が…」玄関へ歩いて行く。「誰? 新二なの?」玄関を開け、外へ。のぶ子もついてくる。家の前をウロウロ。「新二? 風かな?」
<うちの前にふっと現れる新二の姿が元気に笑っている新二であったり、お隣の修ちゃんのように目が見えない新二であったり、足が1本しかない新二であったり。怖い夜でした>
まだ路地にたたずむいせとのぶ子。(つづく)
突然、新二と言いながら家を出ていくいせを見たのぶ子のほうがよほど怖い思いをしたよ。
勝子、修一親子は今週になって急に出てきたけど、もっと前から幼なじみとして登場させときゃよかったのに。