TBS 1977年11月30日
あらすじ
昭和十六年十二月、太平洋戦争が始まる。いせ(市原悦子)はいくら国のためとはいえ、新二(大和田獏)を戦争に送り出したくないと考えていたが、戦争は激しさを増し、男たちは続々と出征していた。
2024.7.17 BS松竹東急録画。
冒頭はお決まりのシーン。青白画像。船が港に帰ってくる。
いせ「石頭(せきとう)教育、13981(いちさんきゅうはちいち)部隊、荒木連隊、第1大隊、第6中隊の端野新二(はしのしんじ)を知りませんか? 端野新二知りませんか? 端野新二を知りませんか? 端野…新二~!」
端野いせ:市原悦子…字幕黄色。
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端野新二:大和田獏…字幕緑。
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三浦とよ子:生田くみ子
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石田健太郎:長澄修
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いね子:峯田智代
近所の女性:山口京子
看護師:中島早苗
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三浦文雄:山本耕一
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音楽:木下忠司
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脚本:高岡尚平
秋田佐知子
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監督:菱田義雄
山道を歩く三浦先生といせ。
<身重の奥様に少しでも栄養のあるものをと思って買い出しに出かけましたが不注意から私が足を痛めて終バスに乗り遅れてしまい、やむなく石田さんの実家に一晩ごやっかいになってしまいました>
足を引きずるいせを気遣う三浦先生。「もう一バス遅らしたほうがよかったんじゃなかったかな」
いせ「いえ、少しでも早く帰って奥様におわびしなくちゃ」
三浦先生「電報が打ってありますから大丈夫ですよ。こんなすばらしいお土産見たら、きっと、あいつ喜びますよ」
東京に戻ってからも階段を上るいせを気遣う三浦先生。「大丈夫ですか?」
いせ「はい」
とよ子にもこれくらい気遣いを見せていれば…
三浦家
鍵がかかっており、三浦先生が「おい、とよ子! 今帰ったぞ」と呼びかけたが返事なし。「おかしいな。出かけたのかな?」郵便受けに入っていた鍵を取り出し、開けようとしていると女性に話しかけられた。「あっ、三浦さん。今、お帰りですか?」
三浦「どうもちょっと遠くまで買い出しに出かけてたもんで」
女性「お留守に大変だったの。奥さんが夜中に苦しみだして、はうようにして、うちへ。それから主人と2人で病院へ連れていくやら…」
三浦「それで?」
女性「お気の毒でした。流産なすって」
お隣の女性は山口京子さん…かな。
7、8話でも名前があって、こっちでは看護師かな~?
病院
第六病室へ
三浦先生の顔を見た途端、とよ子は泣きだし、ついてきたいせは顔を見せずに帰った。ついていかなくてもよかったと思うな~。
端野家
鍵を開けて、家に入り、座り込む。
病室
とよ子のベッドわきに腰掛ける三浦先生。
端野家
新二が帰ってきて、「ただいま」「おかえんなさい」を言い合う親子。
新二「ああ、すごいじゃないか。どうだった? 石田さんの田舎」
いせ「うん…」
新二「どうしたの? ぼんやりして。なんかあったの?」
いせ「三浦先生の奥様、ゆうべ来たんだって?」
新二「うん。どうして知ってんの?」
いせ「寄ってきたから、帰りに」
新二「あっちは電報が遅れたんじゃないかな。心配してここへ聞きに来たんだよ。どうしたの? 母さん、元気ないね」
いせ「先生の奥様、流産なさったんだよ。ゆうべ」
新二「そっか…そういえばここへ来たときも青い顔してたもんな」
いせ「母さんがいけなかったんだよ」ちゃぶ台にうなだれる。
新二「どうして?」
いせ「母さん、足、痛めちゃったんだよ」
新二「どうしたの?」
いせ「帰り道に花が咲いてたもんだから奥様にお土産に持っていこうと思って、足踏み外しちゃったんだよ」
新二「大丈夫?」
いせ「最終バスに乗り遅れて、結局、石田さんのうちにごやっかいになったんだけど、ゆうべ帰ってれば、こんなことにならなかったんじゃないかと思ってさ」
新二「母さんのせいじゃないよ」
いせ「奥様、心配させたのは母さんのせいらしいよ」
新二「だって、ちゃんと電報打ってるんだし、泊まる所も分かってんだから」
いせ「ねえ、新二」
新二「何?」
いせ「いや…」
新二「そんなに自分を責めるのは、おかしいよ。おばさんは運が悪かったんだよ」
「ハァ…」とため息をつき風呂敷包みにもたれかかるいせ。
新二からすれば優しく繊細なお母さんに見えるかもしれないけど、やっぱり三浦先生だけでも帰ってればなあ。
病室
食事を残しているとよ子。
三浦「食べなきゃダメじゃないか。卵、どうだ? 元気出せよ」風呂敷包みから、いせの作った半纏が出てきた。
とよ子「捨てて。見たくないわ、その半纏」
三浦「とよ子」
とよ子「ゆうべ、ホントに石田さんって方のうちへ泊まったの?」
三浦「何を言いだすんだ。お前も見ただろ? 端野さんが足をくじいてたのを。お前の土産に野花をとろうとして足を滑らしたんだ」
三浦先生もすぐいせをかばい立てするような口調になるんだよね。
端野家
新二「わあ~、うまそう」
石田「すき焼きですね」
いせ「そうなの。お母さんに分けていただいたの」
石田「ああ、きっと分家で牛を…」
いせ「そう言ってました。どうぞホントにお父さん、お母さんには、すっかりご迷惑をかけて…私もお手紙書きますけど、お便りするとき、よろしくおっしゃってね」
石田「はい」
いせ「さあ、どうぞ、おあがり」
みんなで「いただきます」
新二「うん、うまい。ゆっくり食べなきゃね、こんなうまい物。今度いつお目にかかるか分かんないもの」
いせ「ホントに。これ全部、分けていただいた物よ、お母さんに。お肉はもちろん、卵でしょ、みつば、しらたき、お砂糖まで」
新二「ふ~ん。新鮮なんだね、うまいもの」
石田「おばさんの腕がいいんだよ」
黙ってご飯をよそういせを見ていた石田。「どうかしたんですか?」
いせ「えっ?」
石田「いや、元気がないから」
いせ「いいえ。頂くわよ、久しぶりの白いご飯」
気遣うように見ている新二。
いせがご飯を食べ始める。「もったいない」
<結婚して10年目にやっと諦めかけていた子供に恵まれただけに三浦先生ご夫妻の落胆ぶりが私には、よく分かりました>
冷え切った感じに見える病室の三浦夫妻。
<わたくしなんぞ夫に殴られ蹴られましても元気な新二を産みましたのに。一晩の心配事で流産してしまうことがあるんでございますね>
一晩の心配事ではないだろう。
足を引きずったいせがとよ子を見舞う。「いかがですか? 奥様」
とよ子「ええ。どうぞ」体を起こしているが、髪をおろしまま。
いせが持参した風呂敷包みの中はかごに入ったなにか。
とよ子「そんな心配なさらないで」
いせ「なんておわびしたらいいか…」
とよ子「あら、あなたにわびていただくことはないわ」
いせ「奥様…」
とよ子「そうでしょ? だって、あの晩帰ってこれなかったのは、ちゃんとしたわけがあるんですものね。誰が聞いたって、あなたを責めることはできないわ。足のほうはもうよろしいの?」
いせ「はい」
とよ子「でも、主人には、いい思い出になるでしょ」
いせ「奥様…」
とよ子「主人の気持ち、私には分かるの。きっと楽しかったと思うわ。ハァ…おかしなものね。私たち子供が出来たことでどうにか結びついていたのね。それがこんなことになってしまって。まるで2人をつないだ糸がプツンと切れたみたい」
何も言えないいせ。
<わたくしは責任を感じないではいられませんでした>
とよこのいた病室は空で三浦先生は看護師に聞いた。「あの…三浦ですが家内は?」
看護師「ああ、奥さん、今日退院なさいましたよ」
三浦「そうですか」
看護師「奥さんから、お預かりした物があります。どうぞ」茶封筒を渡した。
三浦「どうもお世話かけました」
病院から出た三浦は封筒の中身を見ると、とよ子の手紙が入っていた。
「お互いにしばらく離れて、これからのことを考えたほうがいいと思います。実家に帰ります。 とよ子」
三浦家
家へ入りコートや帽子を脱いでタバコをくわえる三浦先生。
三浦家へ来た新二。「こんにちは。先生…」
三浦先生は庭にいた。
新二「おばさん、まだ病院ですか?」
三浦「うん? ああ…お茶でも入れるか」
新二「あっ、僕がやります」
新二が台所へ行くと、三浦先生はどっかり座ってタバコ。
⚟いね子「文雄さん、いる?」
三浦「はい。あっ、義姉(ねえ)さん」
いね子「上がらせてもらいますよ。文雄さん、とよ子からいろいろ聞きました。あの子がかわいそうで。ホントにもう私…」泣きだす。
台所にいた新二は思わず立ち聞き。
いね子「しばらく冷却期間を置いたほうがいいわね。とよ子は私が預かりますから」
三浦「とよ子、体のほう、どうなんですか?」
いね子「がっかりしたんでしょ。寝たり起きたりしてますよ。とよ子の着替えなんかもらっていきますからね」風呂敷を広げてたんすの引き出しを開ける。
いね子の着物の紫の生地に亀の甲羅みたいな模様が所々が白く浮き出てきれいだな。
三浦先生は台所にいた新二に声をかけた。「いいんだよ。とよ子の姉さんだ。出てこいよ」
新二「はい」お茶を持ってきた。
いね子「あら、お客さんだったの?」
端野家
いせ「実家に?」
新二「おばさんの姉さんっていう人が着替えを取りに来てた。当分、実家のほうだって」
いせ「ああ、そう」
新二「母さんがなにも気に病むことないよ。三浦先生とおばさん、これは夫婦の問題だよ」
いせ「フフッ、生意気なこと言って」
<奥様が実家へ帰られたそうです。ああ…あのとき余計なことをして足を滑らせたことが悔やまれてなりませんでした>
新二「母さん、まだ気にしてるの? おばさんが流産したのは母さんのせいじゃないよ。栃木から帰れなかったのもしかたないじゃないか」
いせ「でもね」
新二「また…」
いせ「2人があんなに仲良くしてらしたのに。先生も奥様も」
新二「母さんも体壊しちゃうぞ。母さんがそんなふうじゃ気になって勉強できないじゃないか」
いせ「ごめん、ごめん。試験がもうすぐだから、しっかり勉強しなさい」
新二「やるさ」
いせは新二と三浦家へ。
新二「こんにちは、新二です」
三浦「おう。入って待っててくれ」庭先の井戸で洗濯をしていた。
新二「先生」
三浦「やあ。(いせを見つけて)ああ、いらっしゃい。ちょっと洗濯済ましちゃいますから」
いせ「先生、よろしかったら私が…」ニコニコして割烹着に着替え始める。
三浦「いやあ、そんな…」
新二「あっ、いいんだよ、先生。おふくろもそのつもりで来たんだから」
いせ「どうぞ」
三浦「いや…そりゃ悪いなあ」
いせ「大丈夫です」
三浦「そうですか?」
いせ「ええ」
三浦「じゃ、お願いします」
いせ「はい、大丈夫です」
いせは洗濯をし、三浦先生は新二に勉強を教えた。
<奥様がお留守と分かっていて伺うのは気がとがめたんですが、かといって三浦先生が女手がなくて不自由していらっしゃるのを知っていて放っておくわけにもいかず、日曜日に新二と一緒に伺ったんでございます>
庭に洗濯物を干し、茶の間を片づけ、洗い物を台所へ運ぶ。
<うちの中の様子から思ったとおり先生が1人で不自由してらっしゃる様子がすぐ分かりました。それに奥様が実家へ帰っていらっしゃるさみしさも手に取るように感じられました>
廊下の雑巾がけ、玄関先の路地に水かけするいせ。
三浦「悪いな、お母さんに」
新二「そんなことないですよ。おふくろ、だいぶ気にしてたんです。自分のせいだって」
三浦「そんなことはないよ。お母さんのせいなんかじゃないよ」
新二「でも、うちのおふくろ物事をそんなふうに考えるところあるから。あっ、先生、これでいいですか?」
三浦「うん? う~ん。うん、これはいいな」
大きな風呂敷包みを抱えて帰ってきたとよ子。やっぱりね!
路地に水が履いてあり、玄関に女ものの草履があることに気付いたとよ子は、家に入り、台所で包丁を研ぐいせを見かけた。
三浦「とよ子」
いせ「あっ、奥様」
三浦「とよ子」
とよ子「こういうことだったんですか」
三浦「とよ子」
とよ子「私の留守をいいことにまるで自分のうちみたいな顔して」
いせ「いいえ…」
三浦「失礼なことを言うもんじゃない」
とよ子「ああ、そうですか。分かりました!」家を飛び出した。
いせが「奥様。ねえ、奥様」と追いかけたけど、ここは三浦先生が行くべきじゃない?
走っていくとよ子を追いかけるいせ。「奥様…」(つづく)
三浦先生はのんびりし過ぎだし、とよ子が怒るのも分かる。結局、三浦先生や新二から見ると優しい気遣いのあるいせに対して、なぜか当たりが強いとよ子にしか見えないのかなあ?
こちらはこのドラマより1年前に公開された映画版「岸壁の母」。いせを中村玉緒さん、新二を江藤潤さんが演じている。結構詳しいあらすじなので、今後の展開がかぶったりしてるのかな? ドラマは相撲部、映画は剣道部だけどね。
原作者がいて、いくら昼ドラとはいえ、こういう色恋っぽい脚色いいのかね?