TBS 1977年12月23日
あらすじ
八月、日本はついに敗れて引き揚げが始まるが、二年が過ぎても新二(大和田獏)は帰らない。いせ(市原悦子)は息子の死を信じることが出来ず、舞鶴港に通っては帰還兵に新二の消息をたずねていた。
2024.8.9 BS松竹東急録画。
冒頭はお決まりのシーン。青白画像。船が港に帰ってくる。
いせ「石頭(せきとう)教育、13981(いちさんきゅうはちいち)部隊、荒木連隊、第1大隊、第6中隊の端野新二(はしのしんじ)を知りませんか? 端野新二知りませんか? 端野新二を知りませんか? 端野…新二~!」
端野いせ:市原悦子…字幕黄色。
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水野のぶ子:小畑あや
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水野力:中島元
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復員局の職員:園田健二
老人:大杉侃二朗
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小松のりゆき
飯島守
湯原一昭
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三浦文雄:山本耕一
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音楽:木下忠司
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脚本:高岡尚平
秋田佐知子
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監督:菱田義雄
<昭和20年8月15日、天皇陛下の玉音放送で戦争がようやく終わりました。8月30日、マッカーサー元帥が厚木に到着。日本はアメリカの占領下に置かれたのです。新二が帰るのを今日か明日かと待つうちに終戦から1年も過ぎ、復員局へ調査をお願いしているのですが、なんの消息も分かりません。ラジオの『復員だより』を聴いては東京駅や品川駅へ出かけました>
品川駅の階段
いせ「あの…どちらですか?」
復員兵「中支です」
いせ「どうも」
駅のホーム
いせ「あの…どちらから?」
復員兵「北支からです」
いせ「ああ、そうですか。ご苦労さまでした」
いせ「すいません、どちらから?」
復員兵「中支からですが」
いせ「ご苦労さまでした。あの…どちらからお帰りですか?」
復員兵「北支です」
いせ「ご苦労さまでした」
なおもホームを歩き回る。
いせ「あの…どちらから? あの…端野新二はおりませんでしょうか? あっ、すいません。どちらからお帰りですか?」
復員兵「北支です」
いせ「ご苦労さまでした」
家族連れが通りかかる。
子供「おかえんなさ~い!」
復員兵「大きくなったね」
中支…中国の華中。北支…中国の華北。
いせ「分からないものね」
のぶ子「ええ」
いせ「これ持って帰って、もうどなたかに差し上げたら?」
<朝方3時に暗いうちから起きて、自分たちの乏しい食事を削っても新二の好きなおにぎりとのり巻きを作って、お重に詰めて何日通いましたかしら>
チラッと映ってたけど、のぶ子は持っていたお重を通りすがりの復員兵に渡してたのかな?
昭和二十三年・秋
<こんなことを繰り返しているうちに瞬く間に終戦から3年がたちました。戦争は終わったものの今度は食べるための戦争です。皆さんには想像もできないほどの食糧難でしたよ>
端野家
いせ「どうしてるんだろう?」
のぶ子「もしかしたら抑留されてるんじゃ…」
いせ「抑留? ソ連に捕まってるの?」
のぶ子「お店に来る復員兵の人たちの話だと、かなりの人が…」
いせ「それでもいいわよ、生きてれば。いつかは帰ってこられるだろうから」
うなずくのぶ子。
いせ「今までにラジオの『尋ね人』にも出したけど、なんの連絡もないし、新二と同じ方面の人たちは誰も帰ってきてないのかしら」
のぶ子「そうですね。でも、ラジオ聴いた人から何か連絡あるかもしれませんよ」
いせ「もう少し待ってみましょうね」
白髪が目立つようになったな~。
食堂
のぶ子「いらっしゃいませ」
復員兵A「ああ」
のぶ子「ご苦労さまでした。どちらからですか?」
復員兵B「満州」
のぶ子「あの…歩兵第240(によんまる)連隊か石頭教育隊っていうのをご存じですか?」
復員兵A「240連隊には俺たちもいたことがあるよ」
のぶ子「ホントですか?」
復員兵A「ああ」
のぶ子「端野新二っていう人、知りませんか?」
復員兵A「端野?」
のぶ子は復員兵に新二の写真を手渡す。
⚟店員「のぶ子ちゃん、できたよ!」
のぶ子「はい!」
席を離れたのぶ子が戻ってきた。「お待ちどおさまでした。ご存じでしょうか?」
復員兵A「この人は歌がうまいだろ?」
のぶ子「ええ」
復員兵A「じゃあ、あいつじゃねえか? ほら、甲幹に合格して転属になった」
のぶ子「そうです。端野さん、甲幹に合格して石頭教育隊に転属になったって葉書が…」
復員兵B「やっぱりあいつか。いや、石頭っていうのは牡丹江(ぼたんこう)省にあってね、で、そこで教育を受けるんで転属になったんだよ」
のぶ子「それで?」
復員兵A「ソ連が参戦してからの戦いはすごくてね。石頭教育隊のほうも大変だったらしいよ。なんでもある中隊なんか、ほとんど全滅だったってことだよ」
復員兵B「気の毒だけど、この人もダメだと思うよ」
ガッカリののぶ子。
甲種幹部候補生略して甲幹。昔から略すね~。
帰り道
酔っ払ったアメリカ兵2人に出くわし、追いかけられるのぶ子。
アメリカ兵「Hey,don't…come on」
のぶ子「イヤッ、やめて、助けて! 助けて!」
アメリカ兵「Let's have a good time.We're not gonna hurt you」
のぶ子「イヤッ。やめて、やめ…」
数人の人が集まってきたので逃げていったアメリカ兵たち。そのくらいで逃げるような人たちでよかったよ。集まった人も大声出すでもなく、駆けつけるでもなく見てただけ。
端野家
いせ「どうしたの? のぶ子さん、どうしたの?」
髪をおろしたまま帰宅したのぶ子。
いせ「のぶ子さん」
のぶ子は、いせにすがって泣きだした。
いせ「まあ…」
寝巻きに着替えたのぶ子。
いせ「無事でよかった。お勤め変えなさい、のぶ子さん。助けてくれた人たちがいたからよかったけど、またいつアメリカ兵に何されるか分かりゃしない。あんたにもしものことがあったら…」
のぶ子「ええ、でも…」
のぶ子の心の声<おばさんには言えない。新二さんたちの部隊が全滅したかもしれないなんて…>
電気を消して床に就くいせたち。もう空襲ないんだから別の部屋でもいいのにね。
いせ「あしたはお休みだったわね」
のぶ子「はい」
いせ「買い出しに行こうよ。お米がなくなったし、お正月が来るのにお米がなくちゃ」
のぶ子「ええ」
いせ「ハァ…ホントにやりきれないね。新二が帰ってくるまでは、ゆっくり眠れやしない。夢ばっかり見て」
体を起こしたのぶ子。「おばさん。今日、お店に来た復員兵の人から聞いたんですけど…」
いせも起き上がる。「なあに? 話して」
のぶ子「石頭教育隊はソ連軍と激しい戦いをして、ほとんど全滅に近い状態だったそうです」
いせ「だからってなあに? 新二が死んだことになる? ねえ、のぶ子さん」
のぶ子「その復員兵の人たちも多分ダメだろうって…」
いせ「何を言ってるの。生きてます、新二は。死んでないわよ」
急に怒りだすから怖いんだよ。
激混みの蒸気機関車
男性「手入れだ!」
男性「おい、早く荷物を捨てろ!」
いせ「ねえ、のぶ子さん、後ろに捨てて。これ印つけないとダメかな、早く」
のぶ子「ちょっとすいません」
汽笛
男性「投げろ!」窓の外へ荷物を投げる乗客。
いせ「ちょっと、私の水筒どこ?」
汽笛のブレーキ音
のぶ子「どいてください、どいてください」急いで列車から降りようとする。
いせ「ちょっと待って、ねえ」
停車した列車から降りて荷物を持って走る人々。
すすき野原
いせ「待って、のぶ子さん」
のぶ子「こっち、おばさん、早く。早く。ここなら大丈夫」
いせ「怖かった。よかった、捕まらなくて」
のぶ子「ええ」
いせはバッグの布の部分で顔を拭き、笑う。
<大変でした、買い出しは。取り締まりが厳しくて、捕まったら、お米なんか取り上げられるだけじゃなく留置される人もいたんですよ>
買い出しから帰ってくると端野家の前に男性がいた。
いせ「どなたですか?」
河野「あっ」
のぶ子「叔父さん」
河野「ああ、どうもご無沙汰しました」
いせ「お久しぶりでございます」
河野「いや、そろそろ帰ろうかと…あっ、買い出しですか?」
いせ「はい」
河野「ハハハハッ、のぶ子がいつもお世話になりまして」
いせ「いいえ。どうぞお入りくださいませ」
河野「どうも」
いせ「さあ、どうぞ」
<空襲で亡くなった、のぶ子さんのお父さんの弟に当たる人で、のぶ子さんが空襲に遭って間もなく、一度ここへみえたことがありました>
キャストクレジットは水野力。でも字幕は河野。わざわざ字幕で河野と出すくらいだからキャストクレジットが誤りなのかな? のぶ子の父は婿養子だしね。
河野「実は、のぶ子に縁談がありましてね。相手は終戦後すぐに復員してきて役所に勤めてるんですが、ああ、なかなか人間もできてる。のぶ子の相手には、もってこいだと思って…」
のぶ子「叔父さん、あんまり勝手なことしないでよ」
河野「勝手とはなんだい? 私はあんたのこと心配して」
のぶ子「だって…」
いせ「のぶ子さん。叔父さんの気持ちも分かります」
のぶ子「おばさん。私、新二さん待ってます。いつまでも」
河野「何を言っているんだ。あ、いや…悪く思わんでください。私は兄貴に代わって、この子の将来のことを…いやいや、あの…息子さんがお国のために満州に行かれてるってことは、よく…まあ、帰ってくるってのが分かっていれば待たせるんですが」
のぶ子「ひどいことを…おばさんの気持ちにもなってみてよ」
いせ「いいのよ。叔父さんのおっしゃるのも道理よ」
河野「分かってもらえますか?」
いせ「はい。のぶ子さんとよく話し合ってみますから」
河野「頼みます。先方もなるべく早く見合いをしたいというもんですから」
いせ「分かりました」
中島元さんはバイプレーヤーでいろんなドラマで見かける方。「たんとんとん」では、文子が働くそば屋の店主。
昭和二十四年
ラジオ「明日午後の引き上げ船白龍丸で舞鶴港に上陸する予定です。現在までに分かっております、お名前を申し上げます。東京都出身の前畑勇さん、横江良成さん、伊藤進さん。神奈川県出身の…」
ラジオに耳を傾けるいせ。「舞鶴、行ってみるわ。お役所からの連絡待ってたって、らちが明かない」
のぶ子「舞鶴なら、なんか分かるかもしれませんね」
いせ「今までお金がなくて…それと行ったら悪い結果を聞かされるようで怖くて行かなかったけど、こうしちゃいられない。あんたのためにも。きれいよ、のぶ子さん」
のぶ子「おばさんのおかげです」この日は和服。
いせ「フフフフッ」
ラジオ「田中さんと井上さん。三重県出身…」
今まで毎回見てきたオープニングのような白青映像。
一同「お~い! お~い!」
男性「おかえりなさ~い!」
汽笛が鳴り、船が港に近付く。船が当時の映像だから、それに合わせてるのかな?
迎えに来た人々は「お~い!」と手を振り続ける。
船から降りてくる復員兵たち。
いせ「あっ、あの…石頭教育隊の端野新二、ご存じないでしょうか?」
復員兵「知りません」
復員兵「知りませんね」
いせ「あの…端野新二、ご存じないでしょうか?」
復員兵「知りません」
いせ「知りません? あの…すいません。石頭教育隊の端野新二、ご存じないでしょうか?」
復員兵「知りません」
再会を喜ぶ人々。
いせ「ご苦労さまでした。端野新二はご存じないでしょうか? 端野新二を知りません? あの…」
いせ「あの…すみません。石頭教育隊の端野新二、ご存じないでしょうか?」
復員兵「さあ、知りませんね」
いせ「端野新二です。ご存じありませんか。そうですか。あっ、申し訳ありません。あの…石頭教育隊の端野新二、ご存じないでしょうか?」
復員兵「知りません」
いせ「ご苦労さまでした」
<ソ連が戦争を仕掛けてきてからの満州の混乱ぶりや国境付近の激戦は、ひどかったようですねえ。慰問に行ったご婦人が男に化けて逃げ帰ったと伺いましたが、新二はどうしているでしょう>
岸壁に立ついせ。
端野家
帰宅したいせ。
のぶ子「おかえりなさい。おばさん、どうでした?」
首を横に振るいせ。
のぶ子「昨日来たんですよ」封筒を手渡す。
いせ「眼鏡ちょうだい」
のぶ子「はい」
いせが老眼鏡をかけて手紙を読む。
男性の手紙
「私はラジオの『尋ね人』で端野君をお捜しだと知りました。私たちが所属していたのは石頭教育部隊で荒木連隊第1大隊第6中隊におりました。8月9日、ソ連が宣戦布告してからの満州は大混乱でした。私たちは磨刀石(まとうせき)という所に到着以来、寝る間もないほどの激戦でした。端野君は勇気ある人でした。隊長より頂いた日本刀を背に勇ましい姿が今日も目に浮かびます。あのときの戦闘状態から考えて、端野君は戦死したのではないかと思います。自分だけが生き残り、お母さんに申し訳ありません」
手紙を読み終えたいせは眼鏡を外して泣き出した。慟哭というのはこういう泣き方のことを言うのかな? のぶ子も泣きだす。
<翌日、手紙のことを確かめるために復員局へ出かけたんです>
職員「気の毒だけど、いい情報がなくってね。息子さんが荒木連隊の第6中隊におられたことは分かりました。第6中隊の人は、ほとんどは生きては帰ってないんです。帰った人たちから聞いた話でも、あのころは名前も知らない同士が敵と戦うことがあったらしいんですよ。今のところ、息子さんが生存しておられるという可能性が少なくって…」
いせ「息子は生きてます。死んではおりません」
端野家
いせ帰宅。
河野「あっ…ああ、こりゃどうもお邪魔してます」
いせ「どうも」
河野「のぶ子を迎えに来ました。これの店のほうは私から話をつけてきましたから」
のぶ子「おばさん…」
いせ「のぶ子さん、ちょっと。(河野に)失礼」と、のぶ子を連れて席を立つ。
2階
いせ「新二はダメかもしれない」
のぶ子「おばさん…」
いせ「叔父さんと一緒に行きなさい」
のぶ子「そんな…」
いせ「戦友の方の手紙も読んだでしょ? 復員局でも生きてる可能性が少ないっていうし、いつまでもあんたをこのうちに縛っておくわけにはいかない。もし新二が帰ってきたとしても分かってくれるわよ」
のぶ子「おばさん、私行くのイヤです」
いせ「おばさんを困らせないでちょうだい。あなたがいつまでも幸せをつかめないで年取っていく姿を見てるのは、たまらないわ。新二は死んだのよ。そう思うしか…」
のぶ子「イヤ、イヤです」
いせ「どうして分からないの」
河野がいそいそと玄関へ向かう。のぶ子の肩にマフラーを置き、コートを着せるいせ。
のぶ子「おばさん、長い間、お世話になりました。どうかお元気で」
いせ「幸せになるのよ」
のぶ子「おばさん…」
手を握り合ういせとのぶ子。
<4年間、一番苦しいとき、一緒に暮らしたのぶ子さんと別れるのは、つろうございました。でも、人生は迷っていてはダメで決めなければならない難しいときがあります。のぶ子さんの幸せを心から願って別れたんでございます。年かさのいった私の責任と思いましてね>
のぶ子を見送るいせ。
毎度、八つ当たりされながら暮らすより新しい環境に身を置くのもいいのかもしれない。いせだって再婚を勧めた母から逃げたように逃げることもできるし。
新二の写真を見ながら「分かっておくれ。こうするよりほかなかったの」とつぶやく。
<新二は生きていると、せめて私だけは信じていなくてはと気をしっかり持つようにいたしました>
闇市…かな。狭い通りに店がいっぱい。人もいっぱい。
笠置シヅ子「東京ブギウギ」1948/昭和23年1月発売。
人混みの中に見覚えのある人が!
<目を疑いました。幻を見たのでしょうか。確かに三浦先生だったのでございます>
あちこち捜し回るいせ。「あの…ちょっと失礼」振り向いた男性は眼鏡だったけど別人。「あっ、どうも」と、いせはなおも三浦先生を捜す。(つづく)
三浦先生、生きてるような気がしてたんだ。あと5回。40話って長いような気がしていたけど、あと1週と思うとあっという間。
キャストクレジットの”老人”はどこの場面の人だろう? 今回はセリフのある人はたくさんいたけど、老人、いたかなあ?
大杉侃二朗さんは「たんとんとん」では文子の働くクリーニング屋の店主だったり、「思い橋」にも出てた。