TBS 1977年12月1日
あらすじ
昭和十六年十二月、太平洋戦争が始まる。いせ(市原悦子)はいくら国のためとはいえ、新二(大和田獏)を戦争に送り出したくないと考えていたが、戦争は激しさを増し、男たちは続々と出征していた。
2024.7.18 BS松竹東急録画。
冒頭はお決まりのシーン。青白画像。船が港に帰ってくる。
いせ「石頭(せきとう)教育、13981(いちさんきゅうはちいち)部隊、荒木連隊、第1大隊、第6中隊の端野新二(はしのしんじ)を知りませんか? 端野新二知りませんか? 端野新二を知りませんか? 端野…新二~!」
端野いせ:市原悦子…字幕黄色。
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端野新二:大和田獏…字幕緑。
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三浦とよ子:生田くみ子
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石田健太郎:長澄修
石田の兄:藤堂博
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三浦文雄:山本耕一
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音楽:木下忠司
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脚本:高岡尚平
秋田佐知子
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監督:菱田義雄
走り去るとよ子を追いかけるいせ。いせは神社の鳥居をくぐってベンチに座る。
いせ「奥様。奥様、待ってください」
とよ子「ほっといてちょうだい」
いせ「誤解なさらないで。新二から先生が不自由してらっしゃるって聞いたもんだから、せめてもの償いのつもりで」
とよ子「何が償いよ。私がいないのを幸いに」
いせ「そんな…」
とよ子「私はまだ三浦の妻なのよ。今日も気になって…私なんかもう必要ないってわけよね」
いせ「奥様…奥様が流産なさって、どれだけ傷ついてらっしゃるかよく分かります。でも、それは先生も同じ思いで…どうか帰ってあげてください。先生だって奥様がいらっしゃらないと、どんなにおさみしいか」
とよ子「どうだか分かるもんですか」
いせ「お願いします」
とよ子「やめてちょうだい。あなたはご立派よ、いつだって」
階段を下りてきたいせと、階段を上がってきた三浦先生。
いせ「先生」
三浦「端野さん…とよ子は?」
いせ「先生、なぜお止めにならなかったんですか?」
三浦「あんなとき、いくら話しても…」
いせ「いいえ。奥様は先生の優しい言葉が…」
三浦「端野さん。僕たちはもうそんなことじゃ…」
後ろを振り返るいせ。
マフラーを巻いてる暇にさっさと来いよ、三浦先生!
端野家
いせ「どうしたの? お茶?」仕立物をしている。
新二「母さん。俺、三浦先生んとこ行くの、やめようか?」
いせ「何言いだすのよ」
新二「母さん、気に病んでるじゃないか」
いせ「それと、お前の勉強とは別。そんなこと、お前が心配する必要ないわ」
新二「俺だって、もう子供じゃないんだよ。なんで先生の奥さんが家を出てるのか分かってるさ。母さんと先生のことうたぐってるんだろ? それなのに、俺が平気な顔して先生のとこへ出入りしちゃ…」
いせ「どういうこと? それ。変に思ってるの? 母さんのこと」
新二「そんなこと思ってるわけないじゃないか」
いせ「信じてる?」
新二「当たり前さ」
いせ「そう。母さんはね、恥ずかしい真似なんか、これっぽっちもしてないよ。だから、お前は今までどおり三浦先生の所へ伺って勉強してちょうだい」
新二「母さん、一つだけ聞いていい?」
いせ「いいよ。なんでも聞いていいよ」
新二「三浦先生のこと好き?」
いせ「好きよ。でも、それは人間としてってことよ。三浦先生は、いい人だと思ってる、母さん。いけない?」
新二「あっ、いけなかないよ。三浦先生も母さんのこと好きなんだ、きっと。悪い気はしてないんだろ?」
いせ「先生には奥様がいらっしゃる。母さん、それ以上のことを考えたことないわ。ただ…今度のことでは母さんも責任を感じないわけにはいかない。奥様がああいう気持ちになられるのもよく分かる。だから、つらくって」
新二「分かってるよ」
いせ「お前はね、余分なこと考えないで。試験を控えた大事なときなんだから」
新二「ああ。そのかわり、母さんももう苦しむのは、やめ。自分さえ間違ってなければいいじゃないか。きっと分かってくれるよ、いつか。母さんがくよくよしてると俺、つらいんだよ。俺が分かってりゃいいだろ? 誰が分かってくれなくたって俺がいるんだから。さあ、やるぞ、あと2週間。あっ、夜食作ってね」
いせ「雑炊でいい?」
新二「ああ、大根入れてね」
いせは作業をやめ、台所へ。
<うれしくって、頼もしくて…子供を持った喜びをそのときほどしみじみと感じたことはありません。頑張ろうと思いました。三浦先生ご夫妻がああいうことになってしまって償いようもありませんが、そのことは、これから私の心にしょっていこうと決めました>
新二の頼もしさに喜びをかみしめるいせだけど、自分にやましい気持ちが全くないから堂々としてていいとだけは言えないんじゃないのかな? 新二がとよ子に配慮しようとしてたのに勉強とは別ってなあ。新二が来る度、とよ子は、いせの顔がちらつくだろうが。
外で待ち合わせていた三浦先生ととよ子。
三浦「ここのほうがいいと思ってな。義姉(ねえ)さんたちのいる所より」
とよ子「ええ」
三浦「どうだ? 体のほうは」
とよ子「寝たり起きたりしてるわ」
三浦「とよ子。帰ってきてくれないか? 端野さんのこと、まだこだわってんのか? あの人は俺たちのことで苦しんでる。あの日だってホントに厚意で来てくれたんだ」
とよ子「もういいのよ。そのことはどうでも」
三浦「とよ子」
とよ子「そりゃ、あの日はカッとなったわ。ここへ帰ってきて、いろいろ考えてみたの。私たちの間にはいつも端野さんのことが引っかかってたでしょ? そのことがあったからこそ、ここまで私たち…端野さんがいなかったら、もっと前に私たちダメになってしまったんじゃないかって思うようになったの。私、あなたと別れようっていうんじゃないのよ。ただ、自分がよく分からない。あなた、わがまま言って悪いけど、もうしばらく私の自由にさせてくれない?」
うなずくしかない三浦先生。
端野さんがいなかったらという無理やり論で自身を納得させようとしてるんだね、とよ子は。
<新二の高等商船の合格発表の日がやって来ました。こんなとき、親は、なんにもしてやることができませんね。せめて神様にお願いすることぐらいしか>
神社で手を合わせて歩くと、赤ちゃんを背負った女性から「お願いします」と千人針を頼まれた。こういう一人で歩いてて、突然話しかけられるパターン初めて見たかも。
<人はみんな愛する者のために祈ります>
いせ「ご苦労さまです」
女性「はあ」
いせさんは明治32年生まれの亥年だから一つ。寅年だったらいっぱいできたのに。そういや、「おやじ太鼓」の進藤英太郎さんも1899/明治32年生まれなんだよね。
<あの人は戦地のご主人の無事を祈っていたのでしょう>
端野家
いせが帰ってくると、新二の靴が脱ぎ捨てられていた。いせは「新ちゃん」と呼びながら、2階へ上がり、新二の部屋、石田の部屋を見るがいない。どこからか新二の歌声が聞こえてきた。
⚟♪雪も降れ降れ 夜路のはても
いせ「何よ、行儀の悪い」
新二はトイレの中で歌っていた。
⚟♪やがて かがやく あけぼのに
わが世の春は きっと来る
嬉しそうにトイレの戸をたたくいせ。
⚟新二「ごめん、母さん」
♪生きてゆこうよ 希望に燃えて
愛の口笛 高らかに
⚟新二「来年頑張るよ、母さん」
すすり泣くいせ。
まーた、三浦先生、来てる。こういうのがとよ子はイヤなんだと思うけど。
いせ「先生、せっかく教えていただきましたのに相すいませんでした」
三浦「いや、ご期待に沿えず、私のほうこそ…」
いせ「いいえ。熱心にやってくださいましたのに、新二にはもともと高等商船は高望みだったんです」
三浦「いや、もう一息ってとこだったんですが…がっかりしてますか?」
いせ「歌なんか歌ってましたけど…フフフッ、フフッ」
部屋でひとり悔しそうにしている新二。
三浦「実は、とよ子に会ってきました」
いせ「そりゃ、ようございました」
三浦「しばらくこのままにしておこうかと思います。そのほうがとよ子のためにもいいかもしれない。私んとこより多少静かですし、気持ちも落ち着くと思うんです」
新二「先生、母さん。僕、来年もう一度、高等商船に挑戦してみます。いいだろ?」
いせ「まあ…そうね」
新二「先生、これからも教えていただけますか?」
三浦「ああ、そりゃいいとも」
新二「どうしても諦めきれないんだ」
いせ「無理しすぎちゃいけないよ」
新二「受験勉強始めるのが遅かったんだ。今年一年、じっくりやれば…やってみたいんだよ」
三浦「新二君もああ言ってることですし」
いせ「先生にこれ以上、ごやっかいかけては…」
三浦「いや、私は構いませんよ。新二君に勉強を教えながら、私も勉強できるんですから」
いせ「申し訳ございません」
新二「ありがとう」
<旧制の中学校は5年までありましてね、4年のときから上の学校を受験できたのです。4年生で受験に失敗した新二は中学5年生になり、来年の受験を目指して、もう一度、受験勉強に入りましたんですが…>
そうそう、今ではない制度だけど、5年制なんだけど、4年生で合格して飛び級で上の学校にも行けるから、新二は浪人になるわけではない。4年生で合格できる人ってどれだけいたんだろ? いせさんの説明前からこの制度知ってて、何のドラマで見たっけな?と考えたけど、忘れちゃった。しかしまた、とよ子の悩みは尽きないねえ。
<戦局は新しい局面を迎えていたのです。昭和17年6月5日。ミッドウェーの海戦に敗れた日本が大きな打撃を受けていたこと、あとになって私たちは知りました>
新聞記事
ツチハーバーを猛撃
軍と協力諸要點攻略
同時ミツドウエーを
出征兵士を送り出す人々の行進をいせが見ている。一同が歌う。
♪忠勇無双のわが兵は
歓呼の声に送られて
今ぞ 出で立つ父母の国
端野家
男性「ごめんください」
いせ「はい」
玄関には海軍の白い制服を来た男性がいせに敬礼した。「健太郎の兄です。弟がお世話になっとります」
いせ「まあ、あなたが」
石田の兄「健太郎はおりますでしょうか?」
いせ「もう、すぐ戻ると思います。さあ、どうぞ」
石田の兄「はっ。これを」風呂敷に包まれた酒を渡す。
いせ「ありがとうございます」
石田の兄は石田の部屋に入り、窓を開けていると、いせがお茶を運んできた。
いせ「お父様、お母様からお話しは伺ってました」
石田の兄「父や母がこちらに?」
いせ「いえ、私がご郷里に伺ったんです。すっかりお邪魔しましてね、お世話になりました。貴重な食べ物をたくさん頂きまして」
石田の兄「そうでしたか」
いせ「ご両親ともお元気でしたよ」
石田の兄「元気でしたか」
いせ「どうぞごゆっくりなさってください」
階下に降りてきたいせとちょうど帰ってきた石田。「お客さんですか?」
いせ「お兄さん」
石田「兄が?」
いせ「お部屋のほうに」
顔を輝かせて自室まで走る石田。「兄さん!」
石田の兄「健太郎。こいつ、しばらく見ないうちに…」
石田「どうしたの? 急に」
石田の兄「休暇が出たんだ。うちへ帰る前にお前に会いたくてな」
石田「へえ~、兄さん、中尉になったんだね」肩の星?の数を見てるのかな。
<夫に泣かされた私は、お酒のにおいなど嗅ぐのもイヤでしたのに石田さんのお兄さんに頂いたこのにおいは、なんとも懐かしいものでした>
市原悦子さんはなんとも色気のある人なんだなあと思う1シーン。
制服は壁にかけ、着物姿で兄弟で酒を酌み交わす。
石田の兄「お前と飲むのも久しぶりだな」
石田「兄さん、この戦争をどう思う? 無理な戦いに足を突っ込んで引っ込みがつかないというふうに思えるんだ」
石田の兄「健太郎。お前、変な思想にかぶれているんじゃないか?」
石田「違うよ。ただ冷静に戦争の成り行きを見ていると批判的にならざるを得ないじゃないか」
お燗を持って2階へ行ったいせは石田兄弟の会話を立ち聞き。
石田の兄「健太郎…今度、出港したら、お前には二度と会えないかもしれない。急に休暇が出たのは、多分近いうちに出撃命令が出るからだろう」
石田「兄さん…」
石田の兄「あした、親父とおふくろに別れに行ってくる。だがな、これが別れになるかもしれないとは言えないからな。健太郎、親父とおふくろのこと頼むぞ」
階段を上ってきた新二。「あっ、いたの?」
いせ「おかえり。今、石田さんのお兄さんみえたのよ」
新二「あっ、そう」
いせは部屋の外から声をかけ、部屋の中へ。新二とともに入室。石田は兄に新二を紹介する。
石田の兄「やあ、君のことは健太郎の手紙で」
新二「あっ、イヤだな。石田さん、何書いたの?」
石田「ハハハッ」
石田の兄「いろいろね。特に歌がうまいとか」
新二「えっ? ハッ…」照れ照れ
1階で仕立物をしているいせと新二の耳にも石田兄弟の笑い声が聞こえた。
新二「仲がいいんだね」
いせ「そうね」
しかし次の瞬間、食器の落ちる音と石田兄の怒声。「健太郎…貴様!」
石田の部屋
石田の兄「もう一度言ってみろ」
石田「ああ、何度でも言ってやるさ。こんな戦争、一日も早くやめるべきだ」
石田の兄「貴様!」石田をビンタ。
石田「何度でも言ってやる!」
いせ「どうしたの? ちょっと石田さん。お兄さんがどんな気持ちでここに訪ねていらしたか」
石田「おばさん…」
いせ「やめて、ケンカなんか」
石田の兄「いいんです。こいつとこんなふうに…久しぶりです」
石田「兄さん」
ニッコリ笑い合って…もう仲直り?
いせ「おばさん、心配するじゃない」
石田の兄「すいません」
いせは階下へ、新二はそのまま残った。
石田の兄「痛いか?」
石田「軍隊式だからな」
石田の兄「こいつ」
笑い合う石田兄弟。
石田「兄さん、俺は自分の考えは間違ってないと思う。戦争という狂気の渦に巻き込まれた人々からは非国民と言われるかもしれない。でも俺はこの戦争は無謀だと思う」
石田の兄「健太郎」
石田「兄さん、この戦争は勝つ見込みはあるの?」
石田の兄「勝つために戦っている」
石田「兄さん、ホントにそう思ってるの?」
石田の兄「俺たち若い者が戦わなくて誰が戦う? 誰が日本を救う? お前の気持ちも分かる。しかし、俺は行く。戦うために俺は死ぬ気で行くぞ」
やりとりをじっと見ていた新二。
夜、布団に入ってからも隣の石田兄弟の会話が耳に入る新二。
石田の兄「なあ、健太郎。お前とこうしていると戦争のことも忘れてしまいそうだ」
石田「兄さん、死んじゃだめだ。必ず生きて…生きて帰ってきてくれよ」
石田さん、すっごく目がきれいだな~。
翌朝、玄関
石田の兄「ごやっかいになりました」
いせ「なんのお構いもできなくて、お父さん、お母さんにどうぞよろしくおっしゃってください」
石田の兄「はい。おばさん、健太郎のこと、よろしくお願いします」
いせ「ご安心ください。ご無事を祈ってますよ」
石田の兄は敬礼する。
石田「おばさん、兄を駅まで送って僕は学校のほうに」
いせ「いってらっしゃい。お気をつけて」
ビシッと敬礼して去っていく石田の兄。
新二「やっぱりいいなあ、海軍は。どこかあか抜けしてて」敬礼する。
<新二が…>
いせにも敬礼する新二に「嫌い」と言ういせ。
<あのころの男の子がほとんどそうだったように軍人に憧れを抱ていてることを感じて私は不安でした>(つづく)
今回、石田の兄としてキャスティングされた藤堂博さんはヒロシ&キーボーの黒沢博さんにそっくり…というか同一人物じゃないのかな!?
三浦先生パートはこれからも続く…!? もういいって、と思わないでもない。

