公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
元子(原日出子)と正道(鹿賀丈史)が松江に腰を据えて2年、大介(橘慎之介)も5歳になり道子という妹が出来た。電報が来て、宗俊(津川雅彦)やトシ江(宮本信子)が子供たちに会いに松江に来るという。ところが宗俊は急に行くのをやめると言い出す。トシ江とキン(菅井きん)が問いただすと、大介が自分の顔を忘れていたらどうしようというバカバカしい心配だった。プロレスを見に行くと電気屋に逃げる宗俊だったが…。
昭和30年秋
あれから2年目の秋。松江に腰を据えた元子たちに家族がもう一人増えておりました。
赤ちゃんを抱いた元子と正道、大介の家族写真。
物干し場
洗濯物を取り込んでいる元子。赤ちゃんの泣き声が聞こえる。
元子「はいはい、今すぐ行きますよ。ちょっと待ってね。よいしょ」
邦世「元子さん! 元子さん!」
元子「は~い! すいません、ただいま!」
邦世「お尻は、ぬれちょらんみたいだけん、おっぱいの時間ではないかいね?」
元子「どうもすみません」
邦世「代わりますよ」だっこしていた赤ちゃんを元子に抱かせる。
元子「はいはい…」
邦世「いいけん。洗濯物、私が」
元子「どうもすみません。はいはい、いい子、いい子」台所ですぐおっぱいを飲ませる。
2番目の女の子で名前は道子と付けられました。
配達員「電報! 大原さん、電報ですよ!」
電報配達…加世幸一さん。大河も朝ドラもドラマにたくさん出ていた。
元子「は~い!」
邦世「いいわね。私が行くけん」
元子「すいません」
配達員「はい、どうぞ」
泰光「ああ、ご苦労さん」
邦世「ああ、あなた…」
泰光「あ~、東京からだ」
邦世「はい」
泰光「『六ヒ 十ジ ツク ソウシュン』」
邦世「あ~、ほんなら、いよいよ?」
泰光「おお、早(はや)こと元子さんに知らせてやあだわや」
邦世「あっ、はいはい…」廊下を走っていく。
波津「電報は桂木さんからかいの?」
泰光「はい。あさって着くと言ってこられましたですわ」
波津「そげかいねえ。そりゃあ…ほんならあんたが無理したらいけませんで。おいでんなっちょう間中、あんたが横になっちょうやなことでは失礼にあたあますだけんねえ」
泰光「はい。まあ、それにしても東京のお父さん、大介が大きくなっちょって、どげにびっくりなさることかいのう」
泰光「フフフフ…。あっ、電報来たよ」
元子「おばあ様」泰光に会釈。
波津「道子や、東京からおじいさんが見えだで、ようおいでましたねってご挨拶ができいかいね? うん? 道子や。うん? これ…」
元子の松江暮らしに一旦は勘当だと騒いだ宗俊も大原家の事情が分かれば、そこはさっぱりしたものです。雪解けは、すぐに成立していたのですが…。
桂木家茶の間
旅支度をしているトシ江と手伝う巳代子。
宗俊「おい、トシ江」茶の間に入ってくる。
トシ江「はい」
宗俊「俺、やっぱり行くのやめるよ」
トシ江「あんた…」
宗俊「おめえ1人で行ってきな」
巳代子「何言ってるのよ、今更」
宗俊「けどよ…」
キン「大丈夫ですよ。さっきも私があれほど太鼓判押したじゃございませんか」
宗俊「てやんでぇ! おめえの太鼓判なんざ足しになるかい!」
トシ江「どうしたっていうの? 今日になって」
キン「旦那はね、愚にもつかない心配してるんです」
巳代子「ははあ、分かった。箱根から向こうは鬼が住むっていうあれ?」
宗俊「バカ、それはおキンの話だ」
キン「ああ、そうですよ。私はこの年まで西も東も疎開で行った熊谷より遠くへ行ったことないのが、ただ一つの自慢なんでございます」
宗俊「ヘッ、そんな情けねえ自慢がどこにある」
トシ江「一体、何が心配なんですか?」
キン「ですからね、もしも…もしもですよ、大介坊やが顔を覚えてなかったらどうしようかって…」
宗俊「うるせえな! 余計なこと言うんじゃねえ!」
トシ江「ばかばかしい…」
宗俊「何がばかばかしいんだい。それこそこっちは、おめえ、夢ん中まで忘れたことはねえんだい。ところが向こうは子供だぞ。それも2年も別れて暮らしてるんだ」
トシ江「それがどうしたっていうんですか」
宗俊「それこそお前、こっちがそのつもりでもだな、おめえ、『大介!』と声をかけたら、おめえ、向こうがきょとんってな顔しやがって『この人、誰?』なんて言われてみろ。間が悪くて情けなくて、その場で頓死しちまうよ」
巳代子「あきれた。そんなのが中止の理由になるわけないでしょ」
トシ江「本当に意気地がないんだから」
宗俊「するってえと何か? おめえは、その、やつが俺たちのこと絶対覚えてるって自信があんのか?」
トシ江「ええ、ええ、ありますともさ。たとえ会った瞬間、分かんなくてもよ、ギュッて抱いてごらんなさいな。湯に入れてやって、添い寝させた間柄だもん。すぐに思い出すのが血ってもんなんですよ」
巳代子「いいわよ。お父さんが行かなかったら、私がお母さんと一緒に行く。だから、代わりにお父さん、うちの弘美、見ててやって」
宗俊「バカ野郎! 何で俺が留守番と子守、一緒にしなきゃならねえんだい!」
巳代子「だって、同じ孫じゃありませんか」
トシ江「もう、いいかげんにしてちょうだいよ。土産だって、もうチッキで送ってしまったのに」
「チッキ」も「ウナ電」も「マー姉ちゃん」で履修済み。
宗俊「けどよ…」
トシ江「全く」
キン「男なんてね、どだい意気地がないんですよ」
宗俊「うるせえや、このくそばばあ」
キン「あら! まあ、旦那、逃げ出すんですか?」
宗俊「バカ、プロレスの時間だ」
戸が開く音
幸之助「おう、宗ちゃん。早く行かねえとかぶりつき取れねえぞ!」
宗俊「分かってらい! ガタガタ言うんじゃねえやな!」
友男「けどよ、おめえのとこで1台ぐらい買えよ。河内山じゃねえか」
巳代子「駄目です。あんなもの買ったら最後、プロレスのたんびにうちは見物人でどんなことになっちゃうか分からないもの」
キン「お湯屋でしょ? 旦那のとこは?」
友男「おう」
キン「この時間ね、どこの銭湯もガラガラだっていうんだから、旦那のとここそ1台買ったらどうなんです?」
友男「大きなお世話だよ!」
キン「まあ…」
善吉「へい、どうも、お待ち遠さんでございました、へへへ…。」
トシ江「まあ、彦さんも?」
彦造「へへへ…。どうもあの空手チョップを見ねえことには寝つけねえもんで」
巳代子「野蛮なんだから、もう」
宗俊たち吉宗を出て行く。
善吉「今日はね、キングコングでやすからね。キングコングね、体がこんなでかい…」
白黒のテレビ画面を見ている宗俊たち。
いい席といっても電器屋の店先です。相撲や柔道とは違うこの激しいスポーツは草創期のテレビジョンによって中継放送され、日本中の老若男女をあっという間にファンにしてしまいました。
大男の外人レスラーを空手チョップでやっつける力道山の奮闘ぶりが日本のテレビ人口を爆発的に増やしたといえるでしょう。2年前に1台18万円、受信契約866台で発足したテレビジョンも大量生産によって10万円程度になり、契約数も5万台を突破。とはいえ、全国で5万台ですから、プロレスのある夜は電器店の店先は黒山の人で、あまりの熱狂ぶりにショック死した人が出たほどでした。
熱心に声援を送る人々。
吉宗
千鶴子「ごめんくださいませ」
巳代子「はい。はい」
千鶴子「夜分に申し訳ありません。あの、私…」
巳代子「ちょっとお待ちになって。お母さん…お母さん! 正大(まさしろ)あんちゃんの!」
客は、その後、行方知れずだった、あんちゃんの恋人・千鶴子でした。
千鶴子は元子の一つ上だから、30歳かな。ていうか、元子まだ20代か。
トシ江「千鶴子さん…」
千鶴子「ご無沙汰しておりました。お元気でいらっしゃいましたでしょうか?」
トシ江「まあ、それは、あなたの方ですよ。巳代子!」
巳代子「はい…」
トシ江「お父さん、早く呼んどいで!」
巳代子「はい」
トシ江「まあ、まあ…よく訪ねてくださいました。さあさあ、お上がりになってください。さあさあ、早く早く。もうそのままでいいじゃありませんか」
なぜ、今頃になって千鶴子が訪ねてきたのでしょうか。
松江・大原家
元子「それじゃあ、お休みが取れたんですか。あっ、どうもすいません」
正道「ん? 何言ってんだよ。はるばる大介や道子の顔、見に来てくださるのに、あちこちご案内できなかったらどうしようもないじゃないか。なあ」
元子「ええ」
正道「しかし、大介見たら大きくなってるんで、おじいちゃんびっくりなさるんだろうな」
元子「それともう一つ。道子がどっちに似てるかで、またお母さん困らせるに違いありませんよ。フフ」
正道「フフ。しかし、腰の重い宗俊おじいちゃん来させたんだから、道子のお手柄だな。ん?」
元子「来るとなったら私も早く会いたい」
正道「よく頑張ってくれたな」
元子「えっ?」
正道「冬は寒いし、家は堅苦しいし、聞き分けのない子供を抱いて『東京帰る』って言われたらどうしようかと思ってたよ」
元子「へ~え。で、言いだされたらどうなさるおつもりだったんですか?」
正道「ん? 分からん」
元子「ずるいの」
正道「だから、本当によく頑張ってくれたなって思ってるよ」
元子「だって、私は正道さんの妻なんですもの。あなたや子供たちと一緒だったらどんな所へだって根は下ろせますよ」
正道「うん」
汽笛と山の風景。今回は蒸気機関車の映像ではなく、車窓からの風景。正面からだから運転席からの映像かな。
合成丸出しの車内
宗俊が新聞紙に何かを包んで座席の下へ。昭和39年の東京オリンピックを機にゴミ捨てのマナーなどが定着したとか何とか。それまでは列車内もゴミとかそのままだったらしい。
宗俊に手拭いを手渡し、口元についたご飯粒を食べるトシ江。お握りでも食べてたのかな。
宗俊「おい、もう、みかんは、ねえのか?」
トシ江「はいはいはい…。よく食べますねえ」ミカンを手渡す。
宗俊「バカ…」
トシ江「おなか壊しても知りませんよ」
宗俊「お前に食えと言ってるんだよ」
トシ江「ああ、要りませんよ、私なら」
宗俊「要らねえ、要らねえって、おめえ、さっきから何にも食ってねえじゃねえか」
トシ江「だって、何だか胸がいっぱいなんだもん」
宗俊「情けねえ野郎だな。よし、そいじゃな、今、上等にむいてやるからな」←こういうとこ優しいよねえ。
トシ江「千鶴子さんが見えたって言ったら、元子、びっくりするでしょうね」
宗俊「ああ…そうだろうな」
トシ江「やっぱり松江って遠いんですねえ」
宗俊「ああ、そうだよ。はい」ミカンを一房渡す。「ましてや、おめえ、子供なんてのはな、毎日、面白おかしく遊ぶのが商売だ。俺たちのこと覚えてろっていうのは間違いだ。しょうがねえやな」
かくして、宗俊、いじらしい不安とともに松江に到着。
いつも大原家の門の前しか出てなかったけど、反対側の通りと奥が見える。奥が川? 湖? すごいところと合成したな。
正道「お義母(かあ)さん、ここです」
宗俊「おう、そうだ、ここだ、ここだ、このうちだ」
トシ江「まあ、まあ、立派なお屋敷で」
正道「いや、あんまり手入れが行き届いてないんですけども。さあさあ…さあ、どうぞ」
玄関
正道「おい、お着きになったぞ! さあ…さあ、どうぞ」
元子「あっ、いらっしゃい!」
宗俊「お~い!」
邦世「まあ、ようおいでました」
宗俊「ああ、これはこれは。おかあさん、いつ見てもお変わりなく、おきれいで、へへへへ…」
トシ江「おとうさん」
宗俊「え、おめえも2人も子供産んだにしちゃ、ばばあになってねえじゃねえか」
トシ江「おとうさん」
宗俊「ハハハハ…」
トシ江「もう…。あの、初めてお目にかかります。元子の母でございます。この度はお言葉に甘えまして、お邪魔に上がりました」
邦世「いんや、いんや。遠いところ、ようおいでましてございまして、ありがとうございます」
正道「まあ、母さんね、挨拶、それぐらいにして上がっていただきましょう。ね」
邦世「そげだね。どうぞお上がりになってごしなさいませ」
正道「さあさあ、どうぞ」
邦世「どうぞ」
元子「お母さん、荷物」
トシ江「ああ。元子…」
元子「お母さん…」
トシ江「元気そうじゃないか」
元子「うん…」
大介「おじいちゃん!」
宗俊、驚きの表情から喜びの表情へ。「大介!」
大介「おじいちゃん! おじいちゃ~ん!」
宗俊「おい、この野郎! どこ行ってやがった?」
大介「幼稚園!」
宗俊「そうか、幼稚園か!」
大介「走って帰ってきたんだから!」
宗俊「そうかい。走って帰ってきたんかい」
大介「待ってたんだよ、僕!」
宗俊「そうか…待ってたんか…」
大介「道子も待ってたんだ」
宗俊「ああ、道子も待っとったか、ハハハハ…」
大介「みんな待ってたんだから」
宗俊「そうか、そうか。よし、じゃあな、どんだけ重くなったかいっぺんやってみるか。よし、そ~ら、よ~っ! こりゃ重いぞ! こりゃ重くなった!」
泣きだしたいほどにうれしい宗俊でした。
宗俊「わっしょい、わっしょい、わっしょい、わっしょい…」
つづく
明日も
このつづきを
どうぞ……
重くなったとは言ってるけど、藍がめに落ちた3歳の大介と子役の子は変わってないんだけどね。
そういや、宗俊が「大介!」と呼びかけたところで津川雅彦さんの叔父さんが加東大介さんだった…ということを今更思い出した。「河内山宗俊」の映画にも出てる。津川雅彦さん自身は京都生まれだけど、加東大介さんは東京生まれ育ちで江戸っ子なんだね。沢村貞子さんもチャキチャキの江戸っ子っぽい感じだったしね。
ブルーレイに録画残してた加東大介主演「南の島に雪が降る」。ちゃんと観て、感想残しておきたいな。加東さん自身の従軍体験を書いた原作も読んだけど、めちゃくちゃ読みやすかった。文才もあるんだね。