公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
ついに元子(原日出子)の自分史「明るい窓に向かって」が出版された。元子は仏壇の父と兄に手を合わせて報告し、トシ江(宮本信子)は正道(鹿賀丈史)のおかげだと感謝する。のぼる(有安多佳子)や恭子(小島りべか)たちは出版記念パーティを企画し、松江から邦世(磯村みどり)も祝いにやって来る。しかしそこにオイルショックが起こる。石油は供給制限となり売り惜しみと買い溜めで物資がなくなる中、パーティは空中分解する
桂木家茶の間
自分史「明るい窓に向かって」を桂木家の仏壇に供え、手を合わせる元子。「お父さん、あんちゃん…」
トシ江「夢みたいなことばっかり言ってると思ったけど…。正道っつぁん、本当にみんなあなたのおかげです」
正道「いえ…」
トシ江「ありがとう存じました」
正道「元子もね、頑張ったからですよ」
トシ江「けどまあ、こんなに麗々しく元子が本を出すなんてこと…」
キン「いいえ、私は、お嬢のことですからね、きっと何かなさると思ってましたよ。人間、やっぱり長生きするもんですよね」
友男「入(へえ)るよ! おい、やったじゃねえかよ、もっちゃん!」
小芳「こんにちは」
友男「それに大原さんもよ」
元子「まあ」
正道「あ~、どうもありがとうございました」
小芳「うちのなんかね、もらってった本をね、自分の出てるとこだけつまみ読みして私になんかのぞかしてもくれないんですよ、ハハ…」
元子「だったら、もう一冊差し上げますから」
キン「駄目ですよ。商売物をそんなザブザブと、まあ」
トシ江「おキンさん」
小芳「いやぁ、そうですよ。回し読みしますから」
友男「いやぁ、けどよ、俺もまだ拾い読みの口だけどな、ほら、あの…宗俊と一緒に新幹線乗った時のことよ、あれ読んだら涙出ちまったよ」
トシ江「すいませんね、まあ本当に勝手なことばっかり書きまして」
小芳「冗談じゃない。私なんかね、お金出しても書いてもらいたい方なんですよ。ねえ、おキンさん。ハハハ…」
元子「自分でも随分遠回りしたなって思ってるんですけど、でも私、この年になったから書けたって気がしてるんです。やっぱり普通の奥さんでいたってことが私にはとても大事だったんです」
小芳「普通の奥さんだなんて」
友男「いやぁ、いいんだよ。そういうふうに言うところが既に普通の奥さんじゃできねえんだから。なあ」
モンパリ
洋三「ねえねえ、だから会場は規模によって決めればどうですか」
のぼる「ええ、それでね、今、案内文を考えてるところなんですけどね、私たちね、立花室長や同期生全員に声かけたいんですよ。ねっ」
恭子「ええ。仙台のふれちゃんからも既に絶対に出席するからって電話が来ていますし、三井さんなんかいっそ同窓会にしたらなんて言ってきてるんですよ」
巳代子「でも、同窓会になっちゃうと私たち出席できなくなっちゃうわ」
藤井「いやぁ、構うことはないよ。ほら、お祝いなんだからね、みんなで合流して盛大にやった方がいいんだ」
順平「それで提案なんだけど」
洋三「おう、何だい?」
順平「僕は義兄(にい)さんの受賞祝いもそれと一緒にやりたいんだけどね」
藤井「あ~、それもあったね。けど、ちょっと時間がたちすぎてないかい」
恭子「いいえ、お祝い事なんて、昔っから延ばしてもいいって言いますもの」
大介が大学4年になる前みたいだから、昭和47年の年明けから春先くらいかな。今日の回の1年半くらい前。
洋三「そうそう。それにね、正道さん優しいから、もっちゃんの処女出版を待っていたんじゃないのかな、意外と」
のぼる「そうよ、そういうことにしましょうよ」
巳代子「いいじゃないの。夫婦そろってのお祝いなんてめったにあることじゃないんだもの」
順平「きっと義兄さんも喜んでくれるよ」
洋三「うん。じゃ、賛成」
恭子「私も賛成」
藤井「賛成だ」
笑い声
暮れは忙しかろうということでパーティーは11月の末に決まり、松江からは少し早めに邦世も上京してまいりました。
道子と正道が荷物を持って大原家前の路地を歩き、玄関へ。
正道「さあさあ」
玄関
元子「お義母(かあ)様!」
邦世「元子さん…」
元子「まあ、お元気でいらっしゃいましたか」
邦世「ああ…」
正道「あ~、ほらほら積もる話はね、中入ってからですよ。入って入って」
元子「やだわ、私ったら…。さあ、どうぞ。気を付けてください」
邦世「お邪魔します」
ダイニングでお茶を入れる道子。
茶の間
正道「さあさあ…」
邦世「この度は本当におめでとうございました。本家の大伯父様をはじめ、皆さん大喜びでございましたですわ」
正道「本当に長い間、いろいろ心配ばかりかけましたね」
邦世「ハハ…そうに元子さんもとうとう」
元子「お義母様」
邦世「うん…」
正道「あ~、ほら、お母さん座布団敷いてください」
邦世「ああ…。陽子がね、どげしても行ってくうだわと言うもんだけえ、おばあ様のお墓に報告して、私は名代としてね、出てきましたですわ」
元子「はい…。せめて、おばあ様がお元気なうちにこうした日がありましたらと、それだけが心残りで…」
邦世「あっ…あらまあ。そうそう、お土産がああますけんね。その包み、取ってごしなさい」
元子「あっ、はい」
道子「はい、その前にお茶を」
邦世「はあ~あ、すっかりいい娘さんになあなったねえ」
正道「ハハハ…」
ところがです。ちょうどそんなやさき、いわゆる石油ショックが起こるのです。
新聞見出し
中東で再び戦火
イスラエルーエジプト
スエズ・ゴラン
エジプト軍、××
熱砂の街 走る緊張
食料求めケンカ腰
防空ごう、旅行客も
第4次中東戦争勃発。続いて、アラブ石油輸出国機構が原油の生産の5パーセント減を発表。石油全消費量の80パーセントを中東からの輸入に頼っていた日本は一大石油ショックを受け、国中が生活不安に陥りました。
ドラマで流れた映像は後半から。でも、ここのアーカイブ映像よりテレビの映像はきれいになってたな。
そして、元子たちの受賞記念パーティーも空中分解となる運命にありました。
節電で暗くなった東京
女性時代編集部
電話中の福井編集長。「はい、分かってますよ。ええ…はい。それくらい自分の頭で判断して仕事したらどうなんですか。ええ、仕事です、仕事」受話器を置く。
野村「しかし、これから一体どうなるんでしょうか」
福井「別にどうってことありませんよ」
冬木「だって、石油は大幅な値上げの上に供給制限でしょう。銀座は真っ暗だし、紙がなくなれば出版はどうなるか分からないし、まるで戦争中とおんなじじゃないですか」
元子「同じじゃないと思うわ。だって空襲はないんですもの」
冬木「空襲?」
元子「ええ。石油が入ってこなくなったからって昨日まで工場で生産されてたものが急に神隠しみたいに消えてなくなるはずがないでしょう」
冬木「いやに落ち着いてるけど、お宅じゃもうばっちりと買いだめが済んでるわけ?」
元子「そんなことはしませんよ。けど、節約して使えば1か月分ぐらいの日用品には不自由しませんよ」
野村「けど、大原さんはよかったよねえ。早いとこ本を出しちまったしさ」
福井「もめてないで整理しましょうよ、記事の整理を」
冬木「しかしですね、取材をしたところで来月号は出せるんですか?」
福井「たとえ、どういう事態が起こっても記事をそろえていないジャーナリストがどこにいますか。大原さん」
元子「はい」
福井「あなたの言うとおり、一夜にしてものがなくなることはないと思うわ。殊にその売り惜しみと物隠しには戦争を経験した年代の消費者団体が黙っちゃいないと思うわ。これがどういう動きに出るか、あなたこれに迫ってちょうだい」
元子「はい」
冬木や野村は演じてる人は恐らく原日出子さんより年上だろうけど、冬木や野村は元子より下の世代で空襲といってもあまりピンと来ない世代だったのかな。昭和48年なら28歳以上の人は戦争経験者だけどさ。ひと世代違うのかも。
大原家玄関
道子、邦世が大きな紙袋を抱えて帰ってくる。
道子「ただいま」
邦世「はあ、ただいま。よいしょ…。はい、はいはい…」
ダイニングで本を読んでいた正道は本の角を折って本を閉じる。「ああ、お帰りなさい」
邦世「おや、帰っちょなったかね」
正道「ええ…また何をこんないっぱい買ってきたんですか」
道子「パンストとシャンプーと歯磨きと歯ブラシ」
正道「おい、これ全部か」
道子「そうよ。お母さんがトイレットペーパーは買い置きがあるし、けがするといけないから並んじゃいけないって言ってたんだけど、今度は石油製品がなくなるんですってよ」
邦世「道子たちの靴下も石油で出来ちょうげなね」
正道「ええ…まあそりゃナイロンでしょうからね」
道子「でしょう。でも、これだけあれば2年間は使えるかしら」
正道「おいおい」
邦世「本当に私もえらい騒ぎんとこへお邪魔したみたいで申し訳ないと思うちょうけんね」
正道「何言ってんですか。騒ぎは騒ぎでもこの騒ぎ方がちょっと異常なんですよ」
邦世「だけん、えらいことだわね。松江でもやっぱしこぎゃんふうに大変だかいねえ」
正道「いやぁ…」
元子「ただいま」
邦世「ああ、お帰り」
正道「お~、お帰り。今日早かったな」
元子「ええ、六根から取材しようと思ったんですけどね、彼女、買い占め騒ぎを追ってて、私、振られちゃったんです」
邦世「あ~、そりゃ大変だったね、ご苦労さん。今、お茶いれるけんね」
元子「あっ、いえ、私がしますから…。どうしたんですか? これ」
正道「うん…今度はな、石油製品がなくなるって道子がどっかから聞いてきたらしいんだよ」
元子「それにしても誰がこんなに歯を磨くのよ」
道子「文句言わないでよ。おばあちゃんとこれでも命懸けで買ってきたんだから」
邦世「ああ、大変な行列だったわね」
元子「ねえ、本当に生活必需品は戦争中みたいに統制になるんでしょうか」
正道「さあね…。産油国が永久に原油、輸出しないってことはありえないだろうけども、英国辺りじゃガソリンが切符制になったっていうし、値段がべらぼうに上がってることだけは確かだな」
邦世「私は一旦、松江に帰っちょうましょうか?」
元子「いえ、そんなことなさらなくても」
邦世「だども、何もかんも配給制になってしまったら…」
元子「その時はその時ですよ」
正道「それにしてもなあ…」紙袋を見てあきれる。
元子「ええ」
桂木家茶の間
巳代子「だからね、この際、貯金をはたいてでも、とにかく原料だけは確保しておいた方がいいんだって」
藤井「ほら、昔、新円交換直前、お義父(とう)さんがポンと出してくれたお金で白生地を買い込んだことがあるでしょう。あの時と同じですよ。品物がなくなれば値上がりは絶対間違いない。ここで後手を踏んだらバカを見るからね」
順平「けど、また本当に統制になるのかね」
巳代子「そうよ。正直者がバカを見たっていうのは、こないだの戦争の時だけでたくさんじゃないの」
トシ江「でもまあ、みんながあんまり騒ぐから余計、騒ぎが大きくなるんじゃないの?」
巳代子「ん…いいわよ、人(しと)がせっかく心配してあげてるのに。そんなのんきなこと言って取り残されたらどうする気?」
順平「そん時は当分、手染めだけでやっていくさ」
藤井「そういうものはぜいたく品になるんだよ。注文ががた落ちになるのは目に見えてるじゃないか」
順平「けど、おかげさまでね、近頃は機械染めより、やっぱり江戸染吉宗で店の信用が固まってるんだから」
藤井「だけど、日本産の原油は全消費量の2パーセント、たったの2パーセントなんだよ」
トシ江「昔はそれでやってこられたんでしょう。みんなが力を合わせてね、ぜいたくさえしなけりゃ」
巳代子「でも、洗濯機がぜいたくかしら。冷蔵庫だって計画的にものを買うためには絶対に必要品ですよ」
藤井「そうなんですよ。電気はみんな石油でつくってるんですからね」
トシ江「あっ、そうだったの。それじゃ、また灯火管制になるのかしら」
巳代子「もう、何も分かってないんだから」
トシ江「分かってますよ。要するにいざとなれば、また干し場をね、畑にすればいいのよ。まあ私たちはもうギリギリの中で生きてこられたんだもの。慌てふためいてね、けがすることはありませんよ。えぇえぇ」
大原家ダイニング
正道「しかしな、このまま掘り続けると地球上の石油は、あと30年で終わりだそうだよ」
元子「本当?」
正道「うん」
元子「あと30年…」
正道「だからな、戦中派の中年が昔のことを思えばって張り切って済む問題じゃないんだな」
元子「そうですねえ。私もこんなこと考えもしませんでしたもの」
正道「豊かになりすぎたっていうのかな。そのくせその豊かさがいかに底が浅いものか、それが分かっただけでもいいことだよ。これからは積極的に生きるっていう取り組み方も違ってくるだろう」
元子「本当ね。冬彦ちゃんが大人になるまでに地球上の石油が全部なくなってしまうなんてことになるなら少しぐらい肩が凝ってもセーターもう一枚着た方がまだましですよ」
正道「ん? ハハ…年かな」
元子「えっ?」
正道「え、いや、僕はね、君が今まで肩の凝りなんて言うの聞いたことないような気がするからさ」
元子「ええ、私だって昭和の年代と一緒に年を重ねてきてるんですからね」
正道「しかしな、お互いによく頑張ってきたもんだな」
元子「本当に。ねえ、大げさに言えば私たちは昭和史の証人みたいなもんですものね」
正道「ハハハ…ああ。だからな、今の時代をしっかりと見つめてこれからも書き続けることだ」
元子「ええ」
つづく
明日も
このつづきを
どうぞ……
明日で最終回か。パーティーで大団円と思いきや、石油ショックがくるところがこのドラマらしい展開。昔の映像でしか知らないし、経験することもないだろうと思ったのに、計画停電やガソリン不足を東日本大震災で経験し、トイレットペーパー不足をコロナで経験するとは思わなかったなあ。
石油はあと30年でなくなるというのは小学校の社会の時間に習った気がする。冬彦ちゃんは昭和47年生まれで今、51歳過ぎたところだけど、まだ大丈夫。毎年のように油田が見つかり、掘削能力が向上していて、あと100年は大丈夫と知恵袋で見かけたけど、それもまた本当なのかなあ?