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【連続テレビ小説】本日も晴天なり(89)

公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意 

泰光(森塚敏)の病状が悪化した。駆け込んできた陽子(田中美佐子)と平八郎(西岡徳馬)に、元子(原日出子)は病人に気づかれないようにと諭す。正道(鹿賀丈史)や波津(原泉)、邦世(磯村みどり)も皆で回復を願う中、泰光は元子に「だんだん(ありがとう)」と言い残して亡くなる。宗俊(津川雅彦)とトシ江(宮本信子)たちにも訃報が届く。宗俊は、元子たちは女年寄りを残しては東京には帰っては来られないだろうと嘆く。 

松江・大原家玄関

元子「本当にお休みのところ、どうもありがとう存じました」

医者「いえいえ」

元子「それで、あの~…?」

医者「うん、まあ、婚礼なんかがあって少し疲れが出なさったもんでしょう。それとそれまで気が張っちょったもんのつっかえ棒が取れてしまったというかのう」

元子「はい」

医者「まずは安静第一。あとは食欲がないと言われても、なるべく口に合あもんを作って栄養をとらせえことですわね」

元子「はい」

医者「まあ、発作が心配なだけですけん。何かあったら遠慮なく知らせてごしなはい」

元子「よろしくお願いいたします。どうもありがとう存じました」

医者「じゃ、大事にしなはい」

元子「はい、どうも」

 

この時代のお医者さん、プライベートもへったくれもないもんだ。前に「ファミリーヒストリー」で梅宮辰夫さんも父が医者で忙しく飛び回っていて、子供心にとても寂しかったと言ってました。

 

入れ違いに大介と陽子夫妻が入って来た。

陽子「お義姉(ねえ)さん」

元子「大丈夫よ。今、お注射のおかげでやっと落ち着いたところだから」

陽子「よかった…」フラフラ~となって平八郎に支えられる。

平八郎「あ…陽子、しっかりしなさい。大介君、知らせてごいて、ありがとうね」

大介「はい」

 

元子「あの、お願いがあるんですけれど」

平八郎「はい」

元子「ご病人にあんまり私たちがガタガタしてるところを気付かれたくないんです。ですから、今日は日曜日でもあるし、お二人で顔を見せに来たとか…」

平八郎「大丈夫です。気ぃ付けます」

元子「お願いしますわ。ねえ、陽子さん、涙なんか見せないでね。幸せだって、そのことだけ、お話ししてくださいね」

陽子「はい」

 

泰光の部屋

枕元に家族が集う。

陽子「お兄さん…」

正道「大丈夫だ」

陽子「はい。お式に出てごしなさって、お父さん、無理なされたんじゃないかしら」

波津「たとえ、そげだとしても、そぎゃんことくらいで意気地のない」

正道「おばあさん」

波津「順からいってもまだ早い。順からいえば、この親の私が先に行くもんだわね」

陽子「おばあさん」

 

台所

元子・大介「♪『田舎のバスはおんぼろ車 デコボコ道を』」

www.uta-net.com

中村メイコさんの曲なのね。サラッと歌ってるけど、原日出子さん歌うまい。

 

正道「おい元子、何だこんな時にそんな歌なんか歌って」

邦世「いんや、私も子供たちが心配で来たけんね。こげん時だけん、歌でも歌ってやらんと子供たちが不安があだないですか」

元子「すいません。子供がうるさくするといけないと思ったもんですから」

正道「あっ…そうかそうか。すまんな」←すぐ謝れる人、いい!

邦世「大丈夫だわね。大介が…ね、お利口でいてごすと、おじいちゃまも早(はや)こと元気になってごしなさあけんね」

大介「はい」

正道「よし、いい子だ、大介」

大介「はい」

正道「うん」

 

邦世「すんませんねえ、元子さん」

元子「とんでもありませんわ。あっ、今日、シチューにしましたから温まりますし、お義父(とう)様のスープもとれますし」

邦世「あっ、だんだん。ありがとう」

 

しかし、その晩から泰光の様子は目を離せないままに一進一退を繰り返しました。

 

泰光の部屋

泰光の布団の隣に邦世も仮眠している。

泰光「ん…」

元子「何かご用ですか?」

泰光「水を」

元子「はい。お寒くありませんか?」

泰光「ああ。疲れたろう」

元子「いいえ。今日は道子を寝かしつけながら、つい私までお昼寝してしまったんです。困った嫁です」

泰光「道子も大介も元気にしちょうかや」

元子「ええ。うるさすぎるくらいですので遠慮させております。ねえ、お義父様」

泰光「うん?」

元子「ご気分がよろしい時に私、一度、申し上げたいと思ってたんですけれど」

泰光「何のことだや?」

元子「今、よろしいんですか」

泰光「ああ。ちょんぼし眠ったけん」

 

元子「私とのお約束守っていただきたいんです」

泰光「約束?」

元子「まあ、もうお忘れですか」

泰光「う~ん」

元子「ひどい。本来なら文句の一つも申し上げたいところですが、今日のところはこんな時間でもありますので特に勘弁して差し上げます」

泰光「だんだん」

 

元子「では、申し上げます」

泰光「うん」

元子「お義父様はいつぞや春になって元気が出てきたら一度、子供たちを連れて東京へ帰ってこいっておっしゃってくださいました。間もなく春ですよ、お義父様」

泰光「そげだった。本当にすまんことだわ」

邦世も目を覚まし、会話を聞き始める。

 

元子「そうですとも。あれは東京の父と母が来た時でしたわ。元気が出てきたような気がするって、お義父様おっしゃってくださって、私どんなにうれしかったか」

泰光「わしもそぎゃんふうに思って気張ってきただども」

元子「でしたら、もっともっと気張ってくださいな。お義母(かあ)様や陽子さんのためにも」

泰光「元子さん…」

元子「あの時、お義父様、東京の父たちのように元気になって、お義母様と一緒に陽子さんのお子の顔を見に行かれるって約束してくださったんですよ」

泰光「ああ…」

peachredrum.hateblo.jp

元子「幸いというか、あいにくなのか陽子さんの新居はお近くて、はるばる汽車でお尋ねになるっていう楽しみがないのは残念ですけれど、これからは暖かくなってきます。お元気にさえなれば毎日だって娘の嫁ぎ先へおいでになられるんです」

泰光「ああ…」

元子「ええ。毎日だって孫の顔を見に行けるんですよ」

泰光「うん…」

元子「ほら、よく娘の産んだ子は、また格別かわいいっていうじゃありませんか。大介や道子を抱いてくだすったんですもの。陽子さんのお子も元気に抱いてくださるって、もう一つ私とお約束してくださいな。お願いします」

泰光「だんだん。元子さん」

元子「お義父様」

眠ってしまった泰光と涙をこらえる邦世。泰光の寝顔を見ている元子。

 

夜、激しい雨。

吉宗

電報配達夫が扉をノックする。「吉宗さ~ん! 電報です! 吉宗さ~ん! 電報!」

 

トシ江「はい、ただいま。はい」明かりをつけて扉を開ける。「まあまあ、ご苦労さまでございます」

電報配達夫「はい、電報です」

トシ江「どうもありがとう存じます」扉を閉めて電報を読む。「『十四ヒ ヨル チチ シス マサミチ』」

宗俊「おい」電報を読み「なんてこった…。陽子さん、嫁に出したばかりじゃねえか。お父っつぁん、ちいと早すぎたぜ」

トシ江「それでどうします?」

宗俊「とにかく明日の朝一番で悔やみの電報を打つんだ。葬式に出なきゃなるめえ」

トシ江「はい」

 

順平「あ~、うるせえな。何ガタガタやってんだよ、こんな時によ」

宗俊「バカ野郎、松江で不幸があったんだ」

順平「松江で?」

トシ江「正道さんのお父さんがね、お亡くなりになったんだよ」

宗俊「ほら、巳代子たちに声かけてこねえか」

順平「うん、分かった」

 

反抗期真っ盛りかと思いきや、根は変わってない。いや、まあ、反抗期とかいう年じゃないと思うけどね。

 

大原家には忌中の紙が貼られ、出入りの人も多い。こちらも雨。台所は近所の主婦たちが手伝っている。

 

女性「お願いしま~す」

元子「はい。じゃあすいません。どうも」

 

大介が入ってくる。

元子「どうしたの?」

大介「…」

元子「あっ、大介、お手伝いする?」

大介「うん」

元子「じゃあ、ここ座んなさい。これ持って」お酒を注ぐ。

 

列車

向かい合わせで乗ってる宗俊とトシ江。歩いてくる女性の乗客を何となく見るなど津川さんの芝居が細かいね。

宗俊「帰(けえ)っててよかったんだよな」

トシ江「はい?」

宗俊「正道っつぁんがだよ」

トシ江「ええ…」

宗俊「こう急なことじゃ、おめえ、東京にいたんじゃ通夜にも間に合わねえやな」

トシ江「ええ」

宗俊「やっぱり松江は遠いんだよな」

ぼう然とした感じのトシ江。

宗俊「まあしかし、元子のやつも大任は果たしたものの残るは女年寄りだけだ。正道っつぁんもまあ東京へは帰っちゃこられねえだろうな」

 

正道たちの部屋

羽織袴姿の正道が入って来た。元子はシーツをかけたり、枕カバーをかけたり。

正道「皆さん、お帰りになったよ」

元子「どうもすいません」

正道「いや、いいんだよ。君も今日はいろいろと忙しかっただろうし」

元子「おばあ様は?」

正道「うん…」

元子「明日も大変なんですし、おばあ様にはゆっくり休んでいただかないとね」

正道「うん」

元子「今は気も張ってらっしゃるでしょうけど、日がたつにつれて、おばあ様やお義母様、どんなにお寂しいかと思うと私…。あなた…」

 

正道「君が言いだしてくれたおかげで、この2年半、とにかくおやじとは暮らせたけども僕はとうとう不肖の息子でしかありえなかったよ」

元子「そんな…」

正道「いや、今、祭壇の写真見てずっと考えてたんだ。おやじにとって僕はたった一人の息子なのに…ゆっくりと酒を酌み交わした記憶がないんだ。まあ、ああいう時代から中学からすぐに軍人になって終戦でなすすべもなく帰ってきた僕に、おやじはもう一度、男子一生の道を探せって東京へ送り出してくれた」

元子「ええ」

 

正道「にもかかわらず僕は仕事に失敗して、このうちへ帰ってきた。おやじが病気だっていうことで人はそれについて何にも言わなかったけれども、ふがいない息子だって自分でも思ってるよ」

元子「あなた…」

正道「親孝行らしいことは何にもしてやれなかった。全てを許してくれただけに男としてこれっていう仕事を見せてやれなかったのは、つらくてな。今から言っても愚痴だけれども、もう少し元気でいてほしかった。それが心残りで…心残りでたまらないんだよ。けど…ありがとう、元子」

元子「いえ、私は」

正道「本当によくやってくれたよ。君のおかげでおやじに孫の顔も見てもらえたし、僕にはそれが最大の親孝行だったな。おやじによくしてくれて何て言ったらいいか分からないよ。本当にありがとう、元子」

元子「あなた…」正道にもたれかかって泣く。

 

つづく

 

明日も

 このつづきを

  どうぞ……

 

正道さんみたいな人が不肖の息子でもふがいない息子でもあるわけがない! 旧制中学出の軍人で戦争を生き抜いたんだもの、それだけでも立派過ぎるし、感謝を伝え、謝ることもできる。こんな立派な人はいないよ。