公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
宗俊(津川雅彦)とトシ江(宮本信子)は東京に帰っていった。帰路の車中で淋しくなった宗俊は早くもすねてトシ江を困らせる。泰光(森塚敏)は、賑やかな宗俊夫妻を見て自分も元気を取り戻そうと思った、と元子(原日出子)に感謝する。そんなとき、NHKで同期だった三井(星充)が松江の放送局にいることが分かる。早速やってきた三井から、東京で活躍する同期達の話を聞いて、元子は自分が一人取り残されたように感じて…。
3晩泊まって、今日は早くも東京へ帰る宗俊夫婦でした。
大原家玄関
宗俊「あ~、それじゃあ、いろいろとお世話になりました」
波津「いんや、いんや、行き届かんことでして…」
トシ江「それでは、元子のこと、くれぐれもよろしくお願いいたします」
泰光「はい。また、出かけてきてごしなはい」
宗俊「ええ」
邦世「どうぞ、お気を付けんならんて」
トシ江「ありがとう存じました」
玄関を出た宗俊。「ああっ、本当にな、ここで結構だから」
正道「いやいや、お送りしてからちょうど役所には、いい時間ですから」
陽子「私もそれからお稽古に参りますけん」
大介「僕もだよ!」
宗俊「アハハ、そうか。そんじゃ、駅まで一緒に行くかい」
大介「はい!」
宗俊「アハハハハハ…」
トシ江「あっ、元子、お前、小さいのがいるから、ここでいいんだよ」
波津「だども、せめて駅まででも」
トシ江「まあ、どこまで送られても同じことですし、本当にここで結構でございますから」
波津「そげですかいね」
トシ江「体に気ぃ付けてね」
元子「お母さんもね」
トシ江「ああ」
宗俊「おう、それじゃあ、失礼をさせていただきます」
泰光「あっ、そんなら、ここで失礼させてもらいますけん」
宗俊「失礼いたしやした」
門を出た正道。「さあ、大介」
宗俊「ハハハハ…」
元子「ほら、道子、東京のおじいちゃんとおばあちゃんにさよならって」
トシ江「道子、東京のおばあちゃん覚えててよ。まあ、よく寝てることで」
宗俊「おい、何をしてるんだ。おい、早くしないとお前、正道っつぁんを遅刻させたら申し訳ねえじゃねえか」
トシ江「はいはい。そいじゃ…」
邦世「あっ、どうも失礼します」
宗俊「どうも、ごめんなすって」
元子「お母さん、気ぃ付けて帰ってね」
トシ江「ああ」
元子「巳代子にもよろしく」
トシ江「分かったよ。それじゃあ、まあ、よろしくお願いいたします」
邦世「はい」
宗俊「お父さんも気ぃ付けてね」
別れとなれば、やはり遠い東京と松江でした。
列車の車輪のみの映像。もう蒸気機関車の時代じゃなくなってきたということだろうか。
再び合成丸出しの車内
トシ江「お茶、飲みますか?」
宗俊「要らねえ」
トシ江、お茶を飲んで窓枠に置く。陶器のお茶いれ、実際に見たことない。
トシ江「これは? ほら」
宗俊「要らねえっつってんだろ!」
トシ江「何が気に入らないんですか? あんなによくしていただいたのに、さっきからひと言も口きかないじゃないですか」
宗俊「うるせえな! こういうのをな、行きはよいよい帰りは嫌だってんだよ。知らねえのか? てめえ」
トシ江、巻き寿司を頬張る。
大原家
泰光の寝ている部屋
元子「お義父(とう)様、元子です」
泰光「うん」
元子「湯たんぽ、お取り替えいたします」
泰光「だんだん。もう、どの辺まで行かれたかいのう」
元子「ええ…」
泰光「春んなって、わしに元気が出てきたら一度、子供やつを連れて帰ってきたらいいわや」
元子「お義父様…」
泰光「そうには、まず、わしが元気にならんことにはな」
元子「そうですよ。是非よろしくお願いいたします」
泰光「フフフフフ…」
元子「でも、お疲れになったんじゃありませんか? 4日間もあんながさつな人(しと)たちが一緒でしたから」
泰光「いんや、いんや、何か元気が出てきたやな気がすうわや」
元子「本当ですか?」
泰光「ああ。おとうさんとおかあさんを見ちょったらのう、早(はや)こと元気になって陽子を嫁にやり、わしらも邦世と一緒に子供の顔を見に行きたいもんだと思ったわや」
元子「そうですよ。そうですとも。その時は私とおばあ様がしっかりとお留守をいたしますけんね。是非ともそげしてくださいませね」←おぉ~、元子の方言。
泰光「ハハハハハハ…」
昼、書道教室
元子「おばあ様、お仕度に参りました」
波津「ご苦労さんだね。だんだん」
元子「失礼いたします」生徒たちの机を並べる。
波津「折を見て、私が丈夫な間に元子さんに書道の手ほどきをしておこうと思ったども、道子の手が離れんまでは、やっぱり駄目んなあましたね」
元子「はい。でも、正道さんに時間は作るものだと言われました。私もできるだけ教えていただきたいと思います。それに先生と一緒に暮らしていて、お月謝払わなくて済むんですものね。習わなくては損ですわ」
波津「いんや、いんや、私はただでは教えませんで」
元子「えっ…」
波津「人にものを教えてもらうのに、ただだなんて思っちょったら、そぎゃんもんは一向に上達しませんけんね」
元子「はい」
波津「もっとも月謝の方は、大介の肩たたきとおんなじで必ずしもお金とは限りませんけんね」
元子「はい」
陽子「お義姉(ねえ)様! お義姉様!」
元子「は~い!」
波津「何だかいね、陽子も。おなごの子のくせしてはしたないわ。大きな声で…」
陽子「お義姉様!」
元子「は~い! すいません、失礼いたします」
波津「あ~…」
台所
元子「さあ、お弁当箱」
陽子「あっ、すいません。ねえ、お義姉様、三井さんって方、知っちょなさあ?」
元子「三井さん?」
陽子「ええ。戦争中、お義姉様とNHKでご一緒だったとか」
元子「うん…三井さんって、その方、男の方?」
陽子「ええ。三井良男っていわれえよ」
元子「知ってるわよ! 放送員16期生の中のたった一人の男性で私たち同期の桜なんですもの。だけど、どうして?」
陽子「私ね、今日、その三井さんにお会いしましたわね」
元子「どこで!?」
陽子「NHKで」
元子「え~!」
陽子「私、あさってラジオでうちの先生と一緒にお琴の演奏することになってね、そうで打ち合わせのために放送局行ったら、そこでお会いしたんだけれど、今度松江に転勤されてこられたということですよ」
元子「本当!? うわぁ、懐かしいわ」
陽子「でしょう。だけん、義姉(あね)も喜びますでしょうから一度お出かけくださいませって言ってしまったんだけど、いけんだったですか?」
元子「いいえ。まるで夢みたいだわ。あの三井さんが松江にいるなんて」
陽子「このところ、東京づいておおなあね、お義姉様」
元子「本当。フフ…」
邦世「ただいま」
元子「あっ、お帰りなさいませ」
陽子「お帰りなさい」
邦世「はい」買い物かごを渡す。
元子「はい。あら、お仕立物ですか?」
邦世「ええ。お届けに行ったら、また新しく。お正月は晴れ着ばっかしだけん、同じ仕立てでもきれいで楽しいわ」
陽子「うわぁ、後で見せてごしないね」
邦世「はいはい」
大介「ただいま!」
元子「お帰りなさい!」
陽子「お帰り!」
道子の泣き声
元子「すみません、ちょっと…」
同期の桜、三井良男が訪ねてきたのは陽子の筝曲演奏の放送があった夜のことでした。
大原家客間
良男「いやぁ、もう何から話していいか…」
元子「私もよ。陽子さんからあなたのこと聞いて、もう懐かしくて」
正道「すると10年ぶりということですか?」
良男「ええ。卒業と同時に別れたのが19年でしたから足かけ11年ってことになります」
元子「三井さんはね、広島局勤務になられたんだけど、確かひとつき半足らずで出征されたんでしたよね?」
良男「そうです。おかげで原爆には遭わなかったんですが、満州持ってかれて…」
良男「はい。今度はボーンとシベリアに送られました」
正道「それは本当にご苦労さまでした」
元子「私の友達にもいたのよ。樺太の豊原局で終戦を迎え、ハバロフスクへ連れていかれてね、日本向けの放送をやらされていたの。もちろん女性でね」
同期に北海道出身で樺太に配属された石堂幸江さんという人がいたけど、↓この方がモデルかな。
良男「みんなそれぞれ大変だったんですよ」
元子「まあ、10年一昔って言いますけども、我々の10年っていうのは、本当にいろんなことがありましたからね」
良男「私も復員した当初は水戸の家でボケ~っとしてましたが、立花室長に呼び出されて、活入れられ、水戸の局を振り出しに浜松、そして今度は松江の局に参りました」
元子「じゃあ、浜松ではきしめんに会った?」
良男「会った、会った。こんな太っちまってた」
元子「まあ、あのきしめんが!?」
笑い声
名古屋放送局に配属された”きしめん”。本名不明。
陽子「分からせんわ。きしめんとかブルースとか」
良男「あっ、あだ名。フッ…。みんな、あだ名でこの人たちにかかったら僕なんか何て言われてたか分かりませんよ」
元子「いいえ。やっぱり三井さんは黒一点でしたから敬意を表してね、オジサン」
良男「フッ…ほら、やっぱり」
陽子「ひどい」
笑い声
正道「それじゃあ、それ以来、東京には?」
良男「はあ、こちらに来る前に顔出してきましたが本当に我が同期は多士済々です。みんなすごいですよ」
元子「じゃあ、東京ではブルースや六根にも会った?」
良男「ああ。ブルースは婦人の番組から子供番組に変わったけど、六根がすごいよ。こちらはテレビが開局してないから見られないんだけど、彼女、ラジオをやりながらテレビの女性ニュース番組にも時々、顔出してる」
元子「まあ」
良男「し…知らなかった?」
元子「ううん。テレビに出るようになるかもしれないなんて手紙は一度もらったことあるんだけど」
良男「うん。それで君の妹さん、一度、テレビに引っ張り出したって言ってた」
元子「妹って…」
正道「巳代子さんのことかな?」
良男「ええ。えらく料理の好きな人だと言ってましたから」
元子「じゃあ、巳代子だわ。だけど、どうして教えてくれなかったのかしら」
正道「まあ、教えられてもね、松江じゃテレビやってないから」
元子「それにしたってお祝いぐらい言ってあげられたのに」
正道「うん…」
陽子「けど、本当に皆さん、すごいですわね」
良男「陽子さんだってそうじゃありませんか。今日の放送、なかなかよかったですよ」
陽子「うそ! すっかり上がってしまって、もう…」
良男「いや、なかなか落ち着いてましたよ」
陽子「そぎゃんことああません。『テストは素人、本番は日本一』だったですかいね? お義姉さんに教えていただいた放送前の心得。もうおまじないみたいに頭の中で唱えていたけど、あの本番前の『何秒、何秒』って知らされるの、心臓にいいことないわ」
川西さんが「下読みは新人、本番は日本一」と言ってましたね。
正道「まあ、そりゃあ、しかたないさ。何つったって本職じゃないんだからね」
元子「フッ…。でもすばらしかったわよ、今日の演奏」
陽子「本当?」
元子「本当よ。お義父様もお起きになって、しみじみと聴かれていたし、あの厳しいおばあ様だって何のご注意もされなかったでしょう」
陽子「『まあまあだってね』だって」
元子「ほら、ごらんなさい」
2人が話し込んでいると正道が良男にお酒を注ぐ。
良男「そうですよ。この世界では競争相手を駄目にするのは簡単だ。褒めて褒めて褒めたたえればいいって室長から聞いたことがあります。つまり人間、いい気になった時に進歩がなくなるっていうことなんですよ。だから僕は、お世辞では褒めないことにしてるんです」
陽子「アハハ! どうしましょう…」
笑い声
三井さんが女性だらけの同期でもやってこられるのが分かるな~。正道さんも絶対うまくやれる人だろう。
正道たちの部屋
正道は机に向かい、大介は寝ている。
三井良男から聞いた六根たちの活躍のニュースは懐かしさをかきたてると同時に元子に自分が一人、取り残されたような、そんな気持ちのめいりを覚えさせたのでした。
正道「あ~…」
元子が洗濯物を畳んでいるが、落ち込んでいるのが分かる。
正道「おい、元子」
元子「はい?」
正道「うん? ホームシックかな?」
元子「あっ、嫌だわ。私はそんな…」
正道「構わんよ。ホームシックだって別に悪いことじゃなし」
元子「いいえ、そんなんじゃありませんってば」
正道「しかしな…」
元子「はい?」
正道「うん。もし、あの時におやじが倒れなかったら、今頃は六根と一緒にバリバリの民放のアナウンサーになってたかも分からんな」
元子「だからって、しかたがないじゃありませんか」
正道「すまないって思ってるよ」
元子「やめてください。私はただ…」
正道「うん? ただ、何だ?」
元子「巳代子がテレビに出るなんて意外だったし、教えてくれてもいいのにって思って…」
正道「それは巳代子ちゃんの君に対する気兼ねじゃないかな」
元子「気兼ねって?」
正道「うん、つまりな、元子が本職のアナウンサーだったのにっていう遠慮じゃないか」
元子「どうして私にそんな遠慮する必要があるのかしら。それじゃ、まるで私のこと哀れんでるみたいじゃありませんか」
正道「元子」
元子「あっ…。ごめんなさい。私、少し、どうかしてたみたい…」
つづく
明日も
このつづきを
どうぞ……
久々の三井さん!
1944年の3次入局が元子たちが言ってる16期生というやつらしい。ドラマ上は黒一点だけど、数人男の人の名前がある。
三井さんのモデルになったのはこの方かなあ?
テレビの開局って地方によって差があったんだね。私の地元も民放の最初がTBS系で1959(昭和34)年だった(NHKはその前年)。今、ドラマでは昭和30年だもんね~。地域差がつらいね…。