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【連続テレビ小説】本日も晴天なり(5)

公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意 

ついに正大(福田勝洋)の入営の日がやってきた。トシ江(宮本信子)の心づくしの食事に舌つづみを打つ正大。元子(原日出子)の放送局受験のことを何とか父・宗俊(津川雅彦)に話そうとするが、正大はついに言いそびれてしまう。宗俊が精魂をこめて手がけた祝いののぼり旗が吉宗の表を飾り、近所の人たちの歓呼の声に送られて、いよいよ出発の万才三唱の最中、突然、警戒警報のサイレンが鳴り、集まった人たちは散り散りになる。

裏庭

井戸で顔を洗っている正大。手探りで手拭いを探す正大に駆け寄り、手拭いを手渡すトシ江。「はいよ」

正大「あっ、どうも」

トシ江「あたふたしててろくな話もできなかったんだけど、ごめんね」

正大「母さん…」

トシ江「どこ行ってもね、母さん、毎朝ここで手ぇ合わせて、おてんとさん拝んでいるからね」

正大「はい」

トシ江「それから生水には気を付けて。あんた小さい時から夏になると決まって腸

正大「はい」

トシ江「(今にも泣きだしそうになりながら)命を…粗末にしないこと」

正大「はい」

トシ江「何たってさ、たった一つしかないんだからさ」

正大「母さん…」

トシ江「でもまあ本当にこんなに立派になっちゃって…」泣き出す。

正大「はい…」

すすり泣くトシ江。

 

さて、今日はあんちゃんが晴れて入営の昭和19年8月4日。宗俊が精魂込めて作った祝いののぼり旗が吉宗の店先をキリッと飾り立てました。

 

 壮途 桂木正大君

 

 武運長久 桂木正大君

 

いくつかバリエーションがあったのね。

 

のぼり旗をひもで結わえ付けている彦造。

幸之助「いよっ、豪気だねえ。さすが日本橋の吉宗だ。大将の気合いが入(へえ)って染めの色がさえてんじゃねえかな、彦さん」

彦造「…」

幸之助「どうしたい? 彦さんもゆんべは飲み過ぎたかい?」

彦造「わしゃ人の災難をさかなにタダ酒かっ食らう趣味はありませんや」

幸之助「違(ちげ)えねえ。何せ彦さんにとっちゃなあ、若大将は孫同然だもんなあ。けど、何事もパ~ッとやりてえのが大将のこれまでよ。なっ? どうせ送り出すんだ。威勢よく送ってやろうじゃねえかよ、おい」

鼻をすする彦造。

 

元子「彦さん、ごはんにしようって。(幸之助に)どうもご苦労さまでございます」

幸之助「朝から忙しいね、もっちゃんも」

元子「おこわが炊けたとこなんですよ。後でお握りしなきゃいけないし。おじさんも召し上がってくださいな」

幸之助「ありがとよ。でもこれからちょいと段取りがね…。まあ、お祝いだから1つだけもらおうか。1つだけ取っといてくんねえな」

元子「はい。そんじゃ、彦さん。彦さん、あんちゃんも待ってるのよ。みんなそろわないでどうすんのよ」

幸之助「ほれ! さっさと行かねえか。このへそ曲がりじいさんが、もう!」

 

食卓には鯛の尾頭付き。

宗俊「そんじゃ、まあ、おめでとう」

トシ江「元気で帰ってきたら、もっと盛大にやるつもりなんだけど、今日のところはまずおなかいっぱい食べてっておくれ」

正大「はい、ありがとうございます。それでは頂きます」

元子「頂きます」

巳代子「頂きます」

順平「頂きます! すげえな、今日はタイだ」

キン「そうですよ。とにかくお祝いなんだもの」

正大「あんちゃんがまず箸をつけるから、あとはみんなで食おうよ。なあ、順平」

順平「うん!」

トシ江「だけどうれしいじゃないの。今朝早く河岸の魚金さんが届けてきてくれてね。でなかったら、こんな本物のタイ、今どきお目にかかれやしないんだもの。ねえ?」

誰も返事をしない。

 

食事が済む頃から集まってきた女衆は、また大仕事。

 

絹子「あら、そのキュウリ、いい色に漬かってるじゃないの」

百合子「はばかりながらもぎたてよ? うちの路地に作ったんだけど、まだピクピクしてるうちにぬかみそに押し込んどいたんだから」

絹子「はあ…だけどさ、何つったって人形町で生まれて、まさか畑仕事やるようになると思わなかったねえ」

百合子「けど、ここなんかあんな広い干し場があるんだもの。畑にしたら売れるほど野菜が取れるじゃないの? もったいなくてたまんないわ」

キン「大きなお世話ですよ!」

元子「キンさん」

キン「だってさ…」

 

金太郎「ねえ、おかみさんこっち私も手伝うからさ、そろそろ支度をなすった方がいいんじゃない?」

トシ江「でも支度だなんて…」

絹子「あら、駄目よ。何つったって出征兵士のお母上なんだから、ほら、もっちゃんも巳代ちゃんも。ねっ」

巳代子「はい」

 

順平「大原中尉殿が来たよ~!」

トシ江「えっ、本当?」

金太郎「さあさ、代わりましょう」

キン「すいませんね。すいません、もう少しなんですけどねえ」

金太郎「はい」

 

茶の間

朝からコップに酒を注ぐ宗俊。「まあ、グッとやってください、グッと。『駆けつけ三杯』って言うじゃないですか」

正道「ああ、しかし、自分は…」

宗俊「堅いことは言いっこなしだ。ねえ、正大もまたまた面倒見てもらわなきゃなんねえんだし」

正道「はあ…」

正大「『またまた』と言っても中学へ入る時のとは違うんだよ?」

宗俊「それぐらいのことは言われなくても分かってる」

正道「しかし、佐倉に入隊することになれば自分の部隊とも近いですし、何かと連絡は取りやすいと思いますから」

トシ江「ひとつよろしくお願いいたします」

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銚子が舞台の「澪つくし」もヒロイン・かをるの異母弟・英一郎は佐倉の部隊へ。でも昭和12年の出来事だったか…従軍長かったんだな~。英一郎は多分、正大より10歳以上年上だと思う。

 

正道「貴様は中学の時から読書家だったから言っとくが」

正大「はい」

正道「本は読み続けろ。まあ、軍隊だから内容によっては制限されるんだが本が読めないっていうわけじゃないんだ」

正大「はい」

正道「自分の愛読書は寺田寅彦だが、いつも手放さずに持ってる」

元子「わあ~、すてき。やっぱりあんちゃんの先輩ね」

正道「あ~、ガンコさんにも薦めたいな。まあ、腹の足しにはならんが優れた本は心の糧になります」

元子「私は元子」

正道「ああ、失礼しました」

 

絹子「あ…義姉(ねえ)さん。出来上がったお握りどうします?」

トシ江「ここの出発9時だから皆さん集まってきなさるのを見計らって表へ並べといてもらえますか」

絹子「はい、分かりました」

宗俊「よし、そんじゃ俺も」

正大「すいません、その前にちょっと時間を頂けませんか?」

宗俊「(順平に)こら! 軍刀なんかで遊ぶんじゃねえ!」

正大「あ…あの…」

トシ江「ちょいとお前さん」

宗俊「ヤミの酒は駄目だ。頭の芯がズキズキしやがる」席を立ってしまう。

 

絹子「もう、悪い癖だわ。いざって時、いつでもああなんだから」

正道「自分の父もそうでしたが、改まるのが嫌なんじゃないですか?」

絹子「それにしたって…」

 

元子「あのことなら本当にもういいのよ、あんちゃん」

正大「いや~、けど…」

元子「ううん。自分でできないようじゃ結果だって知れてるもの。だからこれは自分でやります」

元子と正大に挟まれて座ってる正道には分からない話。

正大「そうか。それじゃやってみるんだな」

元子「はい」

 

そうこうするうちにも時間は遠慮なく時間どおりに過ぎていくもの。

 

吉宗前でお握りを配る。彦造や友男も人垣の後ろで手伝う。

子供「お握り頂戴!」

金太郎「はいよ」

子供「何だ、お前。さっきも食ってたじゃんか!」

金太郎「もめないんだよ、お祝いだからね。はいよ」

子供「ありがとう」

金太郎「はい。はいよ」

女性「すいません。うちじゃ子供が3人待ってんだけど私の分と4つもらえないかしら?」

幸之助「え~、そらまずいよ。これは送りに来た人へのもんなんだから、こらなあ」

 

元子「いいじゃないの、おじさん。4つね。はい」

女性「そんなら、あの…私、5つ」

元子「はい、4つ」

金太郎「ちょいといいかげんにしておくれよ」

友男「ちょっと待ちなよ。あまり見かけねえ顔だけどな」

女性「ええ、そうですよ。この先で用足ししてたら、ここでお赤飯の大盤振る舞いがあるっていうから大急ぎで飛んできたんですよ」

友男「これだ…」

金太郎「だけどね、ここは配給所じゃないんですよ」

女性「じゃ、何なんですよ!?」

幸之助「見りゃ分かんだろ!? ここの若大将がご入営なんだよ。だからご近所の人たちへだな…。ちょっと…おいおい!」

友男「泥棒!」

元子「やめてよ、もう! お祝いなんだから誰でもいいから配ってください」

東島「お~、なかなか盛大じゃのう。うん。しかし、そろそろ時間じゃなかとか? ん?」←新キャラ! 警官かな。

 

茶の間

正大「それでは、父さん」

長火鉢を前に座る宗俊と隣に座っているトシ江。着替えてる。宗俊は長火鉢の引き出しから何かを取り出す。「これ、持ってけ」

正大「は…?」

宗俊「迷子札だ」

正大「迷子札?」

宗俊「ガキの頃からどこへでもちょこまか行きやがる子だったからな、江戸彫金の名人・辰造に頼んで特に念入りに彫り上げてもらったやつだ。学校上がるまでおめえ、首にぶら下げてたんだから覚えはあるだろう?」

正大「本当だ」

宗俊「なくすなよ」

正大「はい」

トシ江は顔を覆って泣き出す。

宗俊「それさえ持ってりゃあ、おめえ、どこで迷子になったって、ちゃんと帰(けえ)ってこられる」

正大「父さん」

宗俊「ケッ、あん時は捜したぜ、おい。ちんどん屋だか紙芝居だかについていきやがって忘れもしねえ、千住までだ。ええ? 涙とはなでドロドロになりやがって連れて帰ってきてもらったの、おめえ覚えてるか? おい」

正大「覚えてるよ」

 

♪天に代りて不義を討つ

忠勇無双のわが兵は

歓呼の声に送られて

今ぞ いでたつ父母の国

勝たずば生きて還らじと

誓う心の勇ましさ

日本陸軍

日本陸軍

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マー姉ちゃん」でも天海さん出征の折、皆で歌ってました。↑で引用した「澪つくし」の英一郎の時も歌ってました。

 

吉宗の前では正大を中心に家族が立ち、近所の人が「日本陸軍」を歌う。モンパリの叔父さん(上條恒彦さん)の歌声がなかなか聞けないのが残念だなあ。歌い終わり、拍手が起こる。

正大「盛大なるお見送り、ありがとうございました。それでは桂木正大、これより行ってまいります!」

幸之助「桂木正大君、万歳!」

一同「万歳!」

幸之助「万歳!」

一同「万歳!」

両親は深く頭を下げる。

幸之助「万歳!」

一同「万歳!」

 

警戒警報

男性「警戒警報だ…」

芳信「秀美堂さん、あんた警防団長だったろ」

幸之助「(持っていたメガホンで)警戒警報発令! 警戒警報発令!」叫びながら吉宗の前を歩いていく。近所の人たちも帰っていく。

宗俊「チクショー! アメ公の野郎め!」

 

洋三「ガンコちゃん、早くラジオを」

元子「はい」

 

ラジオ「関東地区、関東地区、警戒警報。東部軍管区司令部より関東地区に警戒警報が発令されました」

ラジオを止める宗俊。「誰だ!? ゆんべ悪い遊びをしやがったのは!?」

正道「大丈夫です。自分も隊へ戻らねばなりませんので正大君は自分が途中までしっかりとお送りします」

トシ江「ひとつよろしくお願いいたします」

正道「さあ、正大君」

正大「はい。じゃあ、行ってくるからね」

キン「若旦那…!」手を握る。

絹子「気を付けてね」

正大「はい。叔父さん」

洋三「帰ってきなよ」

正大「彦さん」

彦造「体、大事(でえじ)にね」

正大「あとはよろしくお願いします」

元子「あんちゃん」

正大「力になれなくてすまなかったよ」

元子「ううん。ちゃんと自分でやるから」

トシ江「大丈夫。私が承知してるから」

元子「それよりあんちゃん。あの人は?」

 

宗俊「いつまで何を言ってるんだ。早く行かねえとおめえ、途中でアメ公にやられちまったら何にもなんねえぞ! いいか、さっさと行ってこい! 行って…敵、やっつけてこい!」

正大「ああ、やっつけてくるともさ! じゃあ!」宗俊とがっちり握手。

順平「頑張れよ! あんちゃん!」

正大「おう!」

 

絹子「手紙出すからね」

巳代子「しっかりね!」

正大「お前たちもな!」

順平「頑張れよ~!」

 

このころの東京は昭和17年に初空襲は受けましたが、まだまだ警戒警報も珍しい時でした。宗俊がせっかく染めたのぼり旗だけが不粋な警報で散ってしまった人々に代わっての見送りとなったのです。

 

そして同じ日…。東京初の集団疎開の児童たちが12時50分、上野駅から親元を離れ、何も分からぬ遠足気分で旅立っていきました。

 

資料映像。駅に見送りに来た大勢の人と笑顔の子供たち。列車が走り出すと、子供たちは学帽を振る。

 

ブルーバックのつづくのあとに「明日もこのつづきをどうぞ……」。

 

マー姉ちゃん」と同じ小山内脚本だから序盤からすごいセリフの量!って思ったけど、「マー姉ちゃん」はマリ子とマチ子のやり取りとかちょっとくどく感じたところもあったんだけど、「本日は晴天なり」の方がちゃんとお芝居を見せるシーンもそれなりに多いと思うけどなあ。

 

集団疎開の子供たちが笑顔だったのが悲しかったな…。あの音楽も悲しげだったしな。