公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
元子(原日出子)と正道(鹿賀丈史)の噂はドンドンふくらんだ。間の悪いことに、正道が友人と出版業を始めようと思っている事を元子に相談し、励まされて感激し、思わず元子の肩に手をかけた瞬間を、宗俊(津川雅彦)に目撃される。完全に勘違いした宗俊は、そろって茶の間に座った二人を、結婚の申し込みに来たとさらに勘違いし、例によって布団をかぶって拗ねてしまう。トシ江(宮本信子)まで勘違いし騒ぎはますます広がり…。
夜、吉宗
元子「どうも。またどうぞ。あっ、お帰りなさい」
正道「ただいま戻りました」
元子「あの、玉置さんという方から電話がありまして、お帰りになったら、すぐお電話下さいって」
正道「あ~、そうですか。ちょっとお借りします」
元子「あの、お弁当箱」
正道「あっ…どうも恐縮です」
元子「彦さん」
彦造「へえ」
元子「お父さんは?」
宗俊「チッ」無視して奥へ。
元子「ははぁ、また何かドジやったな」回収した空の弁当箱3個持って奥へ。正道は電話している。
台所
トシ江「そいじゃ、ごはんにしちゃおうか」
元子「そうね。大原さんもおなかすいてるみたいだし」
トシ江「じゃあ、おキンさん」
キン「はいはい。よっこいしょ」
トシ江とキンが夕食を茶の間に運んで元子が一人になると勝手口から彦造が「お嬢」と手招きして呼んだ。
元子「何?」
彦造「大将と大原さん、これ(手でバチバチ)あったんですかい?」
元子「ううん、どうして?」
彦造「何だか知らねえが、大将、大原さんにツンツンツンツンひでえもんだったから」
元子「まあ」
彦造「おまけにむきになって力仕事ばっかりやるし」
元子「それで?」
彦造「へえ、いつもならそういう仕事は大原さんが引き受けて大将にはいい気分で采配振らしてるのに、今日は大将、てんで木で鼻をくくったようなあんばいさね」
元子「まあ、そういや昨日から少し様子が変だったけど、まあ人(しと)に当たるのは悪い癖なんだから」
彦造「まあ、大原さんはあっしと違うんだから折を見て気ぃ付けるように言ってくれませんか。あの人に今いなくなられても困るしね」
元子「分かったわ。どうもありがとう」
彦造「そんじゃ」
彦造が勝手口からいなくなったあと、台所に入ってくる正道。「元子さん」
元子「はい」
正道「ちょっと話があるんですけども食事のあとでも時間があったら聞いてもらえませんか」
元子「ええ。でも何ですか?」
トシ江「元子」
元子「はい!」
トシ江「おしょうゆがないわよ」
元子「は~い! (正道に)すいません」しょうゆを棚から取り出す。
正道「それじゃ、後で」
元子「はい」
秀美堂
吾郎「どうしたんだよ、そのばんそうこう」
幸之助「え? どうもこうもありゃしねえや。河内山め、あんな分からず屋だと思わなかったよ」
小芳「私の方も、おトシさんらしくもない。妙に話の歯切れが悪くてさ」
幸之助「俺の方は切れがよすぎて話にもなりゃしねえよ、もう」
吾郎「何の話だってば」
幸之助「うん?」
小芳「まあ、子供が首突っ込む話じゃないんだよ」
吾郎「分かった。吉宗のねえちゃんと大原のあにきのことだろ? あの2人が結婚して俺の父ちゃんと母ちゃんになってくれたら本当にいいんだけどなぁ」
小芳「何てこと言うんだろうね、この子は!」
幸之助「おいおい、小芳」
吾郎の本音はこれだったのか。なぜか子供のころって若いお父さんお母さんがいいように思ってたけど何でだろう?
吾郎「だって、あの2人、母ちゃんたちみたいにジャラジャラしてないだけで本当に好き合ってるもん」←でも”母ちゃん”って言ってる。
小芳「この減らず口が」
幸之助「けど、俺たちそんなにジャラジャラしてるか?」
吾郎「ああ、専ら近所の評判だ」
小芳「バカ。親同士が仲悪かったらどうやって子供育てられるんだい」
吾郎「…」
話は変なところで変なふうにどんどん膨らむ一方で知らない当の2人は一体どんなものだったのでしょうか。
裏庭
元子「じゃあ、さっきの電話は?」
正道「ええ、出版をやろうって最初に上京の誘いをかけてきた友人です」
元子「出版を?」
正道「はい。みんな読み物にも飢えてたんでしょうね。刷ればどんな本でも飛ぶように売れるそうです」
元子「だったらどうしてやらなかったんですか? 今の仕事より出版の方がはるかに大原さんに向いてるって私、思います」
「マー姉ちゃん」でも出版の話が出たのは昭和21年の秋のことだから、大原さん先見の明があるんだなあ。大原さんというか友達?
正道「ええ、本は確かに売れますが、我々素人が手を出すにしては紙の入手が難しいっていうことで計画を変更しました。しかし、少々、状況が変わってきたらしいんです。友人の話ではルートがつきそうなんです。それで年が明けたら計画を進めようかということになりました。それで元子さんのことなんですが」
元子「はい」
正道「勉強しながら新しい仕事がやりたいって言っておられましたね」
元子「ええ」
正道「もしあなたさえよかったら生活学院へ通いながら、その会社を手伝っていただけないかと思いまして」
元子「大原さんは?」
正道「自分はもう少しバラック建設の方をやります」
元子「どうして?」
正道「いえ、たとえバラックでも人が住む家を造るのはうれしいですし、それに彦さんもお父さんも随分乗っておられますしねえ」
元子「けど、今日の父は何かと機嫌が悪かったそうじゃありませんか」
正道「いえ…人間、誰でもそんな日はあるでしょう。だからこそ自分が一緒の方が仕事もうまくいきますし」
元子「それじゃあ、まるで父に同情してご自分の道を諦めているみたいじゃありませんか」
正道「いや、自分は別に諦めてるつもりはありません」
元子「そんなの変です」
正道「いや、しかしですね…」
ちょうど台所に出てきた宗俊は2人の会話を聞いてしまう。
元子「いいえ、チャンスを逃してはいけないわ。父のことなら私に任せて。大原さんは大原さんの好きにしてほしいの。私、その方がどんなにうれしいか」
正道「元子さん…」
元子「私、あなたを信じています。頑張ってほしいの」
正道「ありがとう元子さん」肩に手を置く。
途中からこんなところだけを見れば宗俊でなくてもあらぬ勘違いが倍増するのも無理はありません。
茶の間に戻ってきた宗俊は元子たちの言葉がリフレインする。
元子「大原さんの好きにしてほしいの。私、その方がどんなにうれしいか。私、あなたを信じています」
正道「ありがとう元子さん」
元子と正道がそろって茶の間に入ってきて、宗俊の前で正座をする。
元子「お父さん、話があるんだけれど」
宗俊「!!」
正道「あの、実は…」
宗俊「話なら明日だ、明日」
トシ江「あんた」
宗俊「うるせえ! 俺ぁ、寝る」
トシ江「逃げるんですか」
宗俊「てやんでぇ、こんな話、いきなり持ち出されたところで俺ぁ認めるわけにはいかねえんだ!」
元子「ちょっ…」
宗俊、出て行く。
元子「大原さんに失礼だわ。まだ何にも言っちゃいないのに!」
トシ江「本当すいませんねえ、大原さん」
正道「いえ、自分は構いませんが」
トシ江「とにかくこの話は私に任せてちょうだい」
元子「お母さん…」
トシ江が出て行く。
元子「あんまりだわ」
正道「もう少し時期を待ちましょう。いずれにしても暮れに向かって新しい仕事は無理です。少しずつ準備するにしても実行は来年ということになりますから」
2階
トシ江「大原さんはそれこそ中学の時から知ってるし、私は願ってもないお相手だと思いますけどね」
布団をかぶって顔が見えない宗俊がアップになるのが何だか面白い。
トシ江「ねえ、あの人のどこが気に入らないんですか? すねたって駄目なんですよ。娘なんてもんはいずれ手放さなきゃならないんですから。よござんす。そんなら私が話を進めてきますから」
宗俊「バカ野郎! そんなことしやがったら離縁だ!」
トシ江「あんた」
宗俊「女が出しゃばるんじゃねえ。モンパリのハイカラ野郎に話を通すから、てめえはすっこんでろぃ」
トシ江「だってあんた洋三さんのことを」
宗俊「好きにゃならねえが事と次第ではしかたがねえだろ、チキショーめ」
中の湯
番台にいる友男。
高級剃刀
オリヂン
のポスターが目立つ。
客「はい、また」
友男「どうも」
幸之助「どうも」
友男「ありがとうございました」
客が出て行ったところを見送る。
友男「そいじゃあ、いよいよ宗俊が?」
キン「出かけてったんですよ、モンパリへ」
友男「けどよ、あそこの洋三さんと宗俊とは全然お派が合わなかったんじゃねえのかい」
幸之助「バカ野郎、そこが親心ってもんじゃねえか」
友男「するってえと、こりゃあ、ひょっとしたらもうおなかん中に?」
キン「めったなこと言わないでおくれよ!」
友男「いや、けどよ」
キン「いくら何でもね、うちのお嬢に限ってそんな…」
幸之助「あれは3か月で気が付くもんだろ。とするとちっと早(はえ)えな」
友男「幸ちゃん」
幸之助「え?」
友男「おめえ、子供いねえくせによく知ってんじゃねえか。なあ」
キン「男のくせにいやらしいよ、本当にもう」
幸之助「けど、宗俊、御自ら出かけたってことはこの話は本物だぞ」
友男「うん…まあ、どっちにしろめでてえやな。いらっしゃい」
幸之助「おっ」
キン「あっ、こんばんは…。まあ、ハナちゃん大きくなって、え。いつ帰ってきたの、ハハハハ…。だからね、私ゃ、この話はまとまるもんならまとまってほしいと思ってんですよ」
幸之助「けど宗俊、よくまあ思い切れたもんだな」
友男「そうよ。もしかしたら大原さん追い出しをモンパリへ頼みに行ったのか分かんねえぞ」
キン「冗談じゃないよ、本当にもう」
そして、その翌日。
正道とモンパリへ行く元子。「こんにちは」
絹子「あっ、いらっしゃい」
洋三「あ~、来た来た。待ってました、お二人さん。さあさあ」
元子「一体何なの?」
洋三「あ~、まあ、いいから掛けなさい、そっち。はい、大原さんも」
正道「はい、失礼します」
絹子「どうぞ」
洋三「あっちへ掛けてください」
正道「はい」
洋三「紅茶がいいんじゃないかな」
絹子「はい」
洋三「うん。全部話は聞いたよ、河内山から」
元子「だから、一体何のことなの?」
洋三「ん? うん…」
元子「ゆうべからひと言も口をきかなかったのに今朝になって急に2人そろって叔父さんところへ行けだなんて、仕事まで休ませて大原さんに失礼だわ」
洋三「だからそういうことは自分の口からは言いにくいんじゃないのかな」
正道「何か気に障るようなことでもあったんでしょうか」
絹子「いいのよ、私たちはあなたたちの味方なんだから」
元子「叔母さん」
洋三「いや~、河内山にしたって、今や大原さんは片腕というよりはさ、むしろ息子みたいな気持ちなんだからさ」
正道「はい…」
洋三「あ~、私たちだってお似合いの2人だと思ってるよ」
元子「ちょっと待ってよ」
洋三「大丈夫だってば。いや、お父っつぁんとしてはだよ、ちゃんとした仲人を立てて、で、大原さんに両手をついて元子さんを頂戴したいというあの例の儀式をやってもらいたいだけなんだよ」
正道「あの分かりましたけども仲人ってのは何ですか?」
洋三「だからまあ、そのことならね私たちでよければ引き受けようと。だからお二人に来ていただいたってわけ」しゃべるたんびにたばこの煙が鼻から口から出てる。
元子「待ってよ!」
絹子「いいのよ、もっちゃん。叔父さんも私も全部知ってるんだから全て任してくれれば、それで」
元子「全部知ってるって一体、何を知ってるんですか?」
洋三「だから、つまりそのほら…あなたたち、もうその…」
絹子「愛し合ってるんでしょ?」
元子「いやっ…」
洋三「おいおい。まさかこの期に及んで結婚は嫌だなんて言うんじゃないだろうね」
絹子「あ…どうなの? はっきりしてくれないと大変なことになるわよ」
正道「はあ…どうも申し訳ありません」
洋三「ハハ…謝って済むっていう話じゃないでしょう」
正道「しかし、あの…結婚する以上、自分はこの人を幸せにしたいと思っています。しかし、まだ自分の将来の道も確保できておりませんし従ってしかるべきお方にお願いして申し込みに伺うには時期尚早かと思って控えておりましたが、元子さんと結婚したいという気持ちは自分には、はっきりとあります」
元子「大原さん…」
洋三「さあ、ガンコちゃん、今度はあなたの番だよ」
元子「私は…私は…」
今や元子は恥ずかしさで真っ赤。
絹子「ほら、しっかりしなさい」
元子「だって急にそんなこと…」
正道「え…遠慮なくはっきり言ってください。元子さん」
元子「好きです。でも…」
正道「でも?」
元子「結婚だなんて、まだ、その…」
洋三「おいおい、それじゃ河内山の火に油を注ぐようなもんだよ」
元子「どうして?」
洋三「どうしてって決まってるじゃないか、え。もっちゃんがそんないいかげんな気持ちで一線を越えたとしたら叔父さんだって驚きだよ」
元子「一線を越えたって…?」
絹子「だからね、あの、あなたたちはもう…」
正道「い…いいえ! そんなことありません、絶対に」
洋三「証拠はそろってるんだよ、証拠は。え。あなたたちが正直に話してくれなくちゃ、こっちだって手の打ちようがないじゃないか」
元子「証拠って何の証拠なんですか?」
洋三「だから…」
絹子「だからさ、あの、お父さんは、あなたたちが抱き合ってるところを見ちゃってるの」
元子「うそ! そ…そんなこと絶対にありません!」
正道「はい、それは自分が保証いたします」
洋三「保証するってあんた、当事者が保証してどうなるの」
元子「不潔だわ! 私、死んでやる!」泣き出す。
洋三「うん?」
絹子「もっちゃん? ねえ、何だか変よ」
洋三「いや、だって…。河内山はともかく義姉(ねえ)さんまでそう言ったんだから」
元子「嫌~っ!」
正道「元子さん」
正道の手を振り払って立ち上がる元子。「出てってよ! 大原さんがうちにいたりするから変に誤解されるのよ。うちから出てってよ!」絹子に抱きついて泣く。
正道「はい、まことに申し訳ありません」
絹子「えらいことだわ、大原さん」
正道「はっ、全くもって…」
絹子「そうじゃないのよ。あの早飲み込みの兄、話の筋さえ通れば近所の手前、明日にでも仮祝言を挙げさせたいって」
洋三「いや~、こりゃどっちにしてもえらいことだな」
正道「はっ…。全く不徳の致すところであります、はい」
さあ、大変なことになってきました。
つづく
明日も
このつづきを
どうぞ…
一線超えても結婚する気もない不誠実な奴もいるけどね。これがヒロインの息子なんだからまたすごい。
仁を演じた山下真司さんは先日、「スクール☆ウォーズ」同窓会をいろんなYouTubeチャンネルで見たけど、滝沢賢治的な誠実な人柄がハマる人なのに、素はいい意味で無邪気な仁っぽいなと思った。嫌な感じはしないんだけど、仁みたいなクズな役がハマるのも分かる気がした。
それにしても今日の展開、元子にとっては恥ずかしすぎる! 不潔よ!なんて台詞も今じゃ聞かないもんね~。だから昭和のドラマはやめられない。