公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
新人作家の権威ある文学賞受賞の知らせが飛び込んだ花岡町子(藤山直美)。受賞の騒ぎで、すっかり忘れているようだったが、健次郎(國村隼)のプロポーズに対してまだ返事をしていない。翌日から町子の生活は一変する。健次郎と会う時間もないまま、町子の多忙な日々が続く。子どものころからの夢だった小説家として本格的に仕事を始めた町子。健次郎への返事は気になりつつも、今はただ、書くことに夢中の毎日だった。
町子「私、小説に専念したいねん。やっぱり小説が書きたい!」
篤田川賞候補として新聞に名前が載る。
健次郎が花岡家を訪ねると、人だかりができていた。
町子「ありがとうございました。どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。はい、はい、どうもすいません。失礼いたします!」
電話を切った町子に尋ねる健次郎「どないしたん? 何があった?」
町子「わた…わた…わた…わた…わた…」
健次郎「何を?」
町子「私…私…私…篤田川賞もろてしもた! もろてしもたんや…」
健次郎「え!?」
ここまでが先週分。回想のようでいてセリフが増えてたりする。
昭和41年7月 花岡町子は歴史ある文学賞 篤田川賞受賞の知らせを受けたのでした。
花岡家を出ていく取材陣。「すいません。失礼します」
テーブルの上には祝電がいっぱい。
町子「はい、ありがとうございます。わざわざ、お電話頂きまして。はい、ほんとに皆さんによろしくお伝えください。はい、ありがとうございます。失礼いたします。どうもすいません」
電話を切った町子は「あ~!」と大きくため息をついてそのまま仰向けになる。
町子「お母ちゃん、おなかすいた~!」
和代「おすし、頼んどいたから。先生もご一緒にどうぞ」
健次郎「あっ、すいません」
町子「えっ? 先生!? 先生、ず~っとそこにおったんですか?」
縁側で体育座りをしていた健次郎。「うん。ずっといましたね」
町子「お母ちゃん、おビール!」
健次郎「それよりも、あの…あの話」
町子「何の話?」
戸が開く音
すし屋「すしです!」
町子「は~い!」
町子、和代、信夫、健次郎で食卓を囲む。
信夫「え? 賞金てそんなに安いの? 米俵とか一斗樽とかついてくんねやろ?」
町子「まさか優勝力士やあるまいし。私のハマチ取らんといて」
信夫「え?」
和代「これから東京行って取材やら授賞式やらパーティーやらある言うてはったね」
健次郎「忙しくなりますな」
町子「私ね、もう今日一日でクタクタやねん」
健次郎「あの…」
和代「あっ、そや! 先生、おいしいぬか漬けがね」
健次郎「はい?」
信夫「あ~、先生、もらいもんのスコッチがありましたわ」
健次郎「ああ」
町子「ああ…」
受賞の騒ぎで町子はじめ家族ぐるみですっかり忘れているようですが…
6話回想
健次郎「結婚しませんか?」
町子「結婚!? 結婚て…あの男と女の結婚のことですか?」
健次郎「ほかにありますか?」
町子「いいえ…」
回想ここまで
町子は健次郎のプロポーズにまだ返事をしていないのです。
健次郎「(ため息)完全に忘れとるな。まっ、今日はええか…。おめでとう。よう頑張ったね」
町子「あ、びっくりした! うん?」
健次郎「うん? ハマチ、ほら、まだあるよ」
町子「私、ハマチ、一番好きやねん」
健次郎「どうぞ」
たくさんの記者が集まった取材
記者「受賞作の『花草子』は何をきっかけに…」
翌日から町子の生活は一変しました。
町子「え~っと強いて…」
記者「ずばり手応えはありましたか?」
町子「あ…手応えってもう必死やったんで何ってこともないんですけれども、私にしたらやっぱり一生懸命…」
飲み物を飲もうとしてシュガーポットを手にしている町子。ベタだけど面白い。
発車のベルが鳴り、駅の階段を駆け上がる町子。「ちょっと待って!」
司会者「では、篤田川賞作家・花岡町子さんにお言葉を頂戴したいと思います」
看板に
第三十回
篤田川賞受賞記念パーティー
とあったけど、新聞記事は第50回でした。
拍手で迎えられ、金屏風の前に立つ町子。
慣れないことの連続です。
ベタだけどお辞儀をしていてマイクに頭をぶつけ、笑われる。
受賞パーティーの写真付きの新聞記事
第五十回篤田川賞授賞式で
花岡町子氏
××の新鮮な風に大きな期待
こっちは第50回になってる。
徳永醫院
待合室で新聞を読む健次郎のもとに来た晴子。「何でやの?」
健次郎「え?」
晴子「何でまた作家やの?」
健次郎「そやな…。何でやろなあ」
wikiがある人なんだねえ。趣味で書いてた人くらいに思ってたけど、直木賞候補になるほどのお人。歳は田辺聖子さんと同じで亡くなったのは30代半ば。
うどんをすする町子。向かいには健次郎が座る。
町子「アツッ!」
健次郎「やけどしなや」
町子「うん。やっぱり東京のうどん、おつゆ、真っ黒けやねん。う~ん、オリンピックで変わるかなと思たけどあかんかったねえ」
健次郎「関係ないがな、そんなもん」
町子「やっぱりこっちで…こっちでおうどん食べたら、私、ほっとする」
健次郎「うん」
町子「うん」
健次郎「今、家のこと、どないしてんの?」
町子「お母ちゃんがお勤めを辞めて、また全部やってくれてはんねん。弟も近所にアパート借りて独立したしね」
健次郎「じゃあ、お母さんがあんたの秘書兼妻やってはんの?」
町子「…って何や知らんけどバタバタバタバタしてるのよ。月末までに『小説太陽』に中編と『月刊あけぼの』の短編、書かなあかんねんで。あっ、そや、週刊誌に連載コラムを書かなあかんかったんや…。あっ、どうしよう、忘れてた。あれ…夕刊紙にも私、約束してたんや。ねえ、私、大丈夫かな。こんないっぺんに全部引き受けてしもうて。ね、ね?」
健次郎「なあ…」
町子「『なあ』って…」
健次郎「一杯飲みな」
町子「もういい」
健次郎「何で?」
町子「ラジオ…ラジオ行かなあかんね、私。だから、もうそろそろ行きます。うん」
健次郎「ほな、僕はもうちょっと飲んでくわ」
町子「ほんと?」
健次郎「うん」
町子「ごちそうさまでした」
健次郎「いいえ」
町子「ほんだら」財布を取り出す。
健次郎「あ~、かまへんかまへん」
町子「えっ?」
健次郎「ええよ」
町子「ええの? ほんまに?」
健次郎「ほんまに」
町子「どうしよう…。ほな、ありがとう。ごちそうさまでございました」
健次郎「どういたしまして」
町子「ほな、行きます」
健次郎「はい。じゃあ行ってらっしゃい」
町子「うん」
店を出る時、振り返って健次郎の背中を見る。
健次郎「結婚しませんか?」
と言われたことを思い出しながらも、店を後にした町子。
花岡家
鈴木「いや~、面白い作品をありがとうございます。早速戻って編集長に読ませます」
町子「あっ、どうもすいません」
和代「あの…これ、新幹線で召し上がってください」
鈴木「いや…」
和代「ここの押しずしおいしいんです」
鈴木「いや~、これはすいません。そうだ。再来週のうちのパーティーにはお越しいただけるんですよね?」
町子「あっ、再来週…」
和代「もう既にお返事差し上げてますので、よろしくお願いいたします」
町子「あ…そやった」
和代「あんたが忘れてどないしますの」
鈴木「では、前日よりお越しいただいて銀座にでも…」
町子・和代「前日は…」
和代「テレビのインタビューがありまして」
鈴木「いや、すばらしい秘書がいらっしゃって管理は万全ですね。それじゃ」
町子「ありがとうございました」
ホテルのロビー
みすず「そら、ええ秘書や」
池内「僕らみたいな独りもん憧れるな。よう気の利く嫁さんがおって、締め切り過ぎて、まだ出来てへん時は、編集者が怒らんように料理でもてなしてくれたり…」
小川「ああ、ほんで出かける時はアイロンがかかったシャツがス~ッと出てきたりして…」
池内「そう! 七転八倒してようやく明け方書き終えた時なんか、ちょうど風呂が沸いてて…」
町子「そんな都合のええ人、世の中にいてませんよ。ねえ、男の作家さんて、みんな奥さんにそんなことさせてるんですか?」
千葉「アホな!」
みすず「千葉先生!」
千葉「そんなこと、嫁はんがしてくれる時は、その男が死ぬ前の日やな。夢のまた夢。元気そやな」
町子「はい。受賞パーティーの節には本当にありがとうございました」
千葉「どうや? 忙しいか?」
町子「毎日、夢中で書いてます」
池内「受賞後の第1作、2作目が勝負ですからね。まあ、花岡さんは純文学だけやのうてエンターテイメントもやろうとしてますから、毎月の作品も面白いもん出していかなあかんしね」
町子「私に書けるかなあて心配なんですけど」
千葉「な~に、小説なんちゅうもんは注文来たら練習さしてくれはる思て書いたらよろし。そのうちだんだんうもなるやろ」
町子「いつまでも下手やったらどないしましょう?」
千葉「あんたは物を書くのが好きなお子や。好きで書いてたら読者がついてきてくれはる」
みすず「並木賞作家・千葉龍太郎先生がそない言うてくれはるんやから間違いあらしません」
池内「なかなか僕のことは褒めてくれへんけどね」
千葉「褒めたらすぐ鼻高うなるやつは褒めへん!」
池内「あかん、聞こえてました」一同笑い
司馬遼太郎さんをモデルにした千葉龍太郎を演じているのが筒井康隆さん。板尾さんが演じている池内幸三のモデルは藤本義一さん…らしい。藤本義一さんというと司会者のイメージがなんとなくあって、作家とは知りませんでした。誰か「大体やねえ…」ってモノマネしてなかったっけと思ったら、それは竹村健一さんらしい…(^-^;
町子の自室
びっしり書かれたスケジュール帳。町子は記入を終えると、小説を書き始めた。時計は深夜12時過ぎ。午前7時になってもまだ書き続けていた。
町子「はい」
編集者「ありがとうございます。お疲れさまでした」
町子「ほな、よろしくお願いします」
編集者「徹夜ですね。これから一眠りですか?」
町子「このまま続けますわ。何か寝てしもたら3年は起きられそうにありませんので」
徳永醫院
健次郎「はい、ア~ンして。もうちょっと大きい開けられるか? はいはい、ありがとう。はい。風邪ですね。あったこうして、よう寝ること。もし食欲があるようでしたら消化のええもんやったら食べさしても…」
母「ああ、そうですか」
子「鍋焼きうどん!」
母「もう、あんたそればっかり!」
健次郎「お薬、出しときますから」
母「はい」
健次郎「うどんはうどん屋さんで出してくれます」
鯛子「はい、もうええよ」
母「すいません。ありがとうございました」
健次郎「はい、お大事に」
健次郎と会う時間もないまま、町子の多忙な日々は続いていました。
花岡家
町子「はい。来週の木曜日。ちょっとお待ちくださいませ。来週…お母さん、来週の木曜日…。何で午前中あいてるやんか。もしもし大丈夫です。はい、よろしくお願いいたします。打ち合わせはまた…。あっ、来ていただけます? すいません、どうも」
和代がスケジュール帳に書き込む。
徳永醫院診察室
住職・一真「作家? ほな、あの橋の上でえらい目に遭うたていう…。結婚申し込んだて、その子やったんか?」
健次郎「タイミング悪いことにね、篤田川賞まで取ってしもうてね」
一真「篤田川賞!?」
健次郎「おじゅっさん、あかんあかんあかん、血圧が…」
一真「ほなほな、新聞に載ってたあの…?」
健次郎「落ち着いて」
一真「ほうほう、ほうほう…。子供らはどない言うてんねん?」
健次郎「子供てうちの子供ら?」
一真「うん」
健次郎「いや、別に何も」
一真「文句なしか?」
健次郎「文句て、まだ言うてませんがな。ちゃんと話はしますけどね」
一真「気になれへんのか?」
健次郎「けど、最初、子供らに相談するようなことやないでしょ」
一真「!?」
健次郎「まずは夫婦がどないするかですわなあ。僕ら夫婦が機嫌よう楽しい暮らして幸せな家庭をつくる。そしたらそこにいる子供らも楽しい暮らせる。家庭ちゅうのは、そういうもんですわな」
一真「はあ。そう言われてみたらなあ」
そういうものなのかねえ…。時代かな。住職の一真は石田太郎さん。「おしん」のお加代様の父、「カーネーション」の神宮寺さん。
花岡家
そうめんをすする町子。
和代「あんたの部屋に電話引くさかい」
町子「そこ、使わへんの?」
和代「ええやないの。大変なんやから」
町子「うん…」
町子は食べながらも原稿を書く。鳴り出す電話。
和代「あ…また。はい、花岡です。あっ、徳永先生」
町子「後からかけ直す」
和代「すいません。今、手が離せませんので後でかけさせます。申し訳ありません」
夕方になっても自室で原稿を書いている町子。ため息をつき、机の上の家族写真に目をやる。
町子「お父ちゃん。私、やっと、夢、つかんだからね」
子供の頃からの夢だった小説家としての仕事を本格的に始めた町子。健次郎への返事は気になりつつも今はただ書くことに夢中の毎日でした。
白黒写真の父・徳一と町子の笑顔のアップ。
ミニ予告
子役の町子「お父ちゃん、大好きや!」
多忙ですれ違いの中、どうするのか!? 健次郎さんには今のうちに子供たちに説明してほしいけどな。