公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
健次郎(國村隼)は日に日に体力が落ちて、口かずも少なくなっていく。入院して4か月目に入るとさらに病状が悪化し、起きている時間も少なくなる。そして、さらに2か月を過ぎたころ、健次郎は病室で静かに息を引き取る。通夜と告別式を前に、亡くなった健次郎といっしょに徳永家に戻った町子(藤山直美)は、喪主のあいさつの内容を考えていると健次郎の声が聞こえる。振り向くと、そこにいつもの健次郎が座って笑っていた…。
自宅で誕生会をしたあと、外泊から戻った健次郎は、日に日に体力も落ち、口数も少なくなっていきました。
病室
町子が健次郎をベッドに寝かせる。
昭一「来週からはもう奄美やからな、そう再々顔出されへん。早うようなって奄美来いよ」
健次郎「ああ。今回は逃げられてへんねんな」
昭一「全く口の減らんやっちゃな、ほんまに…。病気長いことして町子さんに苦労ばっかかけて…」
町子「苦労ねえ。うん。『いささかは 苦労したとは 言いたいが 苦労が聞いたら 怒りよるやろ』や」
昭一「はあ、七五調で、きた」
町子「そう」
昭一「粋なもんやね!」
健次郎も、そっと微笑む。
そして、季節は過ぎ、数か月がたった頃…
仕事部屋
原稿を書いていた町子だが、手が止まりため息。仕事部屋から町子が見た中庭は秋らしくなっていた。
病院の医師から説明を受ける部屋
町子「そんなに悪いんですか!?」
加藤「ええ。お会いになりたい方があれば、今のうちに呼んであげてください」
町子「ゆうべもだいぶ苦しそうでした」
加藤「ああ」
町子「先生、できるだけ痛みとってやってください。お願いいたします!」
加藤「それはできるだけのことをさせていただきます」
町子「ありがとうございます…」
茶の間
黒電話で電話している町子。「うん、そうそう…。うん、大丈夫。あの、由利子ちゃんと清志君にはちゃんと伝えましたから。そやから、登君。隆君にあなたから伝えてもらえます? うん。お願いします。はい、どうも。はい」受話器を置き、ため息。
純子「あの、先生、この日…」
町子「そうやの。週末に1つ対談が入ってたんよね」
純子「先方に話して、なんとかならないか相談してみましょ」
町子「ううん。純子さん、こっちの事情がどうあれ約束はちゃんと果たそうと思てます」
純子「でも…」
町子「健次郎さんもね、きっと同じこと言うと思うんです」
純子、小さくうなずく。
町子「え~っと…これやね」何かメモメモ。
病室
点滴中で病室の天井を見ている健次郎。
町子「ねえ、健次郎さん。私の全集が出ることになったの。デビューからね、今までの著作が全部『花岡町子全集』として出版されることになったのよ」
健次郎「遅すぎます」
町子「えっ?」
健次郎「けど、よかったな」
町子「うん…」
電子書籍ないんだよね~。
目をつぶってしまう健次郎。
町子「健次郎さん、ねえ…ねえケンムンの話、聞かせてよ」
健次郎「もう、し飽きた」
町子「私、聞き飽きてないもん」
健次郎「僕が『し飽きた』て言うねん」
町子「ほんなら、し飽きてないこと言うて。ねえ。『町子、愛してるよ』て…」
健次郎「口に出して言えることと言えんことがあります」
町子、健次郎の手を握りながらニッコリ。目を閉じてしまう健次郎だったが、町子は両手で健次郎の手を包み込む。
健次郎「『かわいそに』」
町子「えっ?」
健次郎「『僕は あんたの味方やで』」
町子「なにも七五調で言わんでええやないの。ねえ、それ、川柳のつもり?」
健次郎「『僕はあんたの味方やで』て言うときたかったん」
町子「味方? フフフ…!」
翌日になって健次郎の状態はさらに悪くなり…
病室
町子のほかに清志、隆もいる。
ノック
町子「はい。あ、由利子ちゃん…」
由利子「亜紀、もうすぐやて」
登「え? もう産まれんの?」
町子「そう」
清志「そうか…」
町子「健次郎さん! 亜紀ちゃんね、もうすぐ赤ちゃんが産まれるって!」
隆「町子おばちゃん」
町子「はい」
隆「ちょっと休んだら? 控え室にベッドあるみたいやから」
町子「大丈夫。おばちゃん、ここにいてるから」
隆「そうか…」
清志「あっ、お前ら、これ動かして」
登「ああ」病室の椅子を並べる。
清志「町子おばちゃん、ちょっと休んだら?」
登「そやで、ここ…」
町子「ありがとう」
ノック
町子「はい」
晴子「遅なってしもて…」
ノック
純子「亜紀ちゃん、産まれましたって! 男の子!」
町子「産まれたって! 男の子!」
清志「よかった」
町子「健次郎さん! 亜紀ちゃんね、男の子産まれたって! 聞こえる? ねえ! 健次郎さん!」
清志「♪こんにちは赤ちゃん」
由利子「♪こんにちは赤ちゃん」
由利子・登「♪あなたの笑顔」
♪こんにちは赤ちゃん あなたの泣き声
その小さな手 つぶらな瞳
はじめまして わたしがママよ
こんにちは赤ちゃん あなたの笑顔
こんにちは赤ちゃん あなたの泣き声
町子と子供たちが出会って、仲良くなったきっかけの曲だからかな。
その数日後、健次郎は静かに息を引き取りました。葬儀を前に健次郎は一旦、家に戻ってきました。
仏壇の前の布団に寝かされている健次郎。由利子がそっと白い布を顔にかぶせる。
そして、子供たちもそれぞれの自宅へと帰った、その夜…
茶の間
町子「ねえ、純子さん」
純子「はい」
町子「健次郎さんの顔ね、すべすべしてたでしょ?」
純子「ええ」
町子「『楽になったでえ。あんたもはよこっち来んかいな』て言うてるみたいでね。けど、私、健次郎さんに言うてますねん。『健次郎さん、もうちょっとね、もうちょっとだけ待っててくださいね』て…」
純子「やっと…帰っていらっしゃいましたね」
たこ芳
貞男「先、逝ってしもたなあ」
俊平「そやな」
貞男「ええ人は先、逝くんやなあ。何でやろな?」
誰も答えない。
貞男「何かしゃべってえな!」
タエ「あんたはうるさいねん! ベラベラと!」
貞男「うるさいて何や!」
タエ「静かにしな。故人を悼むということがでけへんのかいな!」
貞男「思い出話すんのが、お前、供養やろが! なあ、ごえんさん、なっ!」
一真「ああ、そやで…そやけど…」
佐和子「もう…。ごえんさんが泣いてどないすんの!」
俊平「そやで。明日もあさっても本番があんねんから。ごえんさんがしっかりしてくれな…」
一真「分かってるがな、分かってる…。そやけどな…今日は…今は坊主やのうて友達としてな…」
りん「コラコラ! しんみりしたらあかん! 先生はにぎやかなんが好きやったんや。笑て送ったげなあかんやんか! ほんま腹立つわ…。こんな年寄り置いて先に死んでしもて…。最後の最後は粋やあれへんやんか…」
茶の間
町子「これが1つ…。あ、そや、純子さん、私、喪主の挨拶て考えなあかんのんですよね」
純子「そうですねえ」
町子「やっぱりあの健次郎さんの人生観ちゅうのしゃべらなあきませんよね。ず~っと一生懸命生きてきはったんですからね。そやけどほれ、何て言うのかな健次郎さんの同業のお医者さんの先輩方も来はると思いますのでね、『暗なったらあかんわ』て、あんまりおふざけ過ぎましてもね。『物書きってのは、こんなもんかいな』て文芸協会の品位を汚すことになりますから。そやから、その何て言うのかな、暗くなってもあかんし、明るなったって…。そのちょうどそのええ具合ていうの、これ難しいもんなんですよね」
純子「難しいですねえ」
町子「難しいわ~! え~…」
時計の時報が鳴る。
純子「私、ちょっとお母様見てきます」
町子「そうですか」
純子「はい」
町子「お願いいたします」
純子、部屋から出ていく。
町子「はあ…。困った~。どないしたらええんやろ? ねえ、健次郎さん!」
健次郎「ちゃんと笑いとってや」
町子「はっ!?」健次郎が来たー!
健次郎「僕の葬式やで。そんなもん笑てもろてなんぼやろ。ちゃんと笑わせてくれなあかんで」
町子「ようそんな好き勝手言わはりますわ。ちょっと楽になったと思て」
健次郎「フフフ。羨ましかったら早うおいで」
町子「そやから私ね、何べんも『ちょっと待ってくださいね』て言うてますやないの。ねえ、あの歌、覚えてはる?」
健次郎「歌?」
町子「私が前に作って聴いてもろたことありますやないの」
健次郎「え?」
町子「♪いつかは 私も死ぬだろう
だから ケンカはしたくない
あの世で会った その時に
ヤアヤア こんにちは 言うために」
田辺聖子さん曰く「おさななじみ」の節回しで歌うそうです。(「残花亭日暦」より)
健次郎「偽善やな」
町子「偽善?」
健次郎「嫌なやつとあの世まで会いたないがな。あの世行ってまでべんちゃらなんか使いたないで。アホらし!」
町子「そら~、そやね! ハハハハハ! ハハハハハハ…!」
純子「先生…?」戻ってきて廊下から声をかけた。
町子「やっぱり健次郎さんて面白いわ~!」
健次郎との別れの時が近づいていました。
ミニ予告
町子「カモカのおっちゃんのこと、絶対に忘れんといてください」
今日のエピソードのほとんどは先日読み終えた本にありました。
かわいそに
ワシはあんたの
味方やで
明日が最終回…別れがたいです。