公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
健次郎(國村隼)の治療が始まって2週間、コバルト治療のつらさは、健次郎の体力を徐々に奪っていたが、昭一(火野正平)や和代(香川京子)、徳永家の近所のみんなが見舞いに訪れ、健次郎を元気づける。そんなある日、町子(藤山直美)は病院から健次郎の外泊許可を取る。その日は健次郎の誕生日であった。徳永家に子どもたちが集まり、盛大に健次郎の誕生日を祝う。そして久しぶりに夫婦2人だけの時間を自宅で過ごす。
病室
食事をほとんど食べずに箸を置く健次郎。
町子「え? もう食べへんの?」
健次郎「うん。もうおなかいっぱいや」
健次郎が入院して2週間。懸命な治療にもかかわらず、病魔は健次郎の体力を少しずつ奪ってゆきました。
ノック
町子「はい!」
昭一「よっ!」
町子「あら!」
健次郎「ああ」
昭一「あ…偶然下で会うてな」
晴子「私も近くまで来たから」
町子「お仕事?」
晴子「うん。どない?」
健次郎「うん。見てのとおり元気やで」
晴子「これ、リンゴ持ってきたよ。お兄ちゃん好きでしょ?」
健次郎「ありがとう。今な、ちょうどお昼ごはん終わったとこやねん」
町子「あ…ありがとうございます。後から頂きます。うわ~、おいしそやわ。ねえ、そしたら健次郎さん、私、これ返して売店で新聞買うてきますわ。お願いします」病室を出ていく。
咳をする健次郎。「何や、兄貴は手ぶらかいな?」
昭一「何、言うてんね、お前。俺は真心持ってきとるでしょ」
健次郎「兄貴の真心もろてもな…」
昭一「退院したら、なんぼでもお酒ごちそうするがな。健、そや、奄美行ってな、みんな呼んで盛大に宴会しよ」
晴子「そや。みんなで行こ。費用はね、昭一兄ちゃん持ちで」
昭一「何でそうなんねん、お前!」
咳をする健次郎。
昭一「そうしよう」
健次郎「うん」
ノック
看護師「徳永さん。点滴の時間です」
健次郎「はい」自ら左の袖をまくり上げる。
看護師「はい、すいません」
点滴されてる健次郎を見ている昭一と晴子。
看護師「気分が悪くなったらすぐにおっしゃってくださいね」
健次郎「はい」
看護師、病室から出ていく。
晴子「大丈夫?」
健次郎「うん。すまんな、心配かけて」
昭一「絶対ようなるからな。健、諦めたらあかんぞ」
健次郎「諦めてなんかないで。やれることは全部やってる。けど、どうしようもないこともあるやろ。それが人生やがな」
泣き顔の昭一。
健次郎「なんちゅう顔してんねんな。僕は大丈夫やて」
昭一「(涙声)そない言うてもやな、お前…」
晴子「お兄ちゃん!」
昭一「あかん、俺、やっぱ…。すまんな。お前の顔見たら…。ほんまはな、1人でよう来んかて晴子についてきてもろたんや。情けないわ…」
健次郎「そんなことない。大丈夫や。ほれ」タオルを差し出す。
受け取ったタオルで涙を拭く昭一。
健次郎「心配せんでええて。僕にはこうやって兄貴も晴子もついてくれてんねやし」
晴子「お兄ちゃん…」
晴子も涙声になり、昭一はタオルが手放せない。
仕事部屋
原稿を書いている町子。
健次郎の看病の一方で、いつものように仕事にも力を注いでいる町子です。
茶の間
和代「純子さん」
純子「はい?」
和代「あの、ちょっとお願いがあるんですけど」
純子「はい」
病室
ベッドから起き上がり本を読んでいる健次郎。
ノック
健次郎「はい」
純子と和代が入ってきた。
健次郎「お母さん…」
和代「町子が忙しいもんやさかい、純子さんに無理言うて連れてきてもらいました」
健次郎「あの、もう、足はよろしいんですか?」
和代「はい、おかげさんで」
純子「お母様」
和代「あ…すんません」
健次郎「座ってください」咳き込む。「わざわざすいませんね」
和代「あ、いえ…」
純子「あの、私、ちょっと売店に行ってまいります」
和代「ご気分はどないです?」
健次郎「ええ。ここんとこは、もう落ち着いてます」
和代「そう。町子はもう仕事ばっかりで…。健次郎さんをこないして一人でほったらかして…」
健次郎「いやいや、そんなことないですよ。ちゃんと朝晩来てくれてます。それに二人でおると病室やろが、どこやろが、僕がずっとしゃべってるんでね、あんまり体にはようないかもしれないです」
和代「ほんまにようしゃべるご夫婦やもんね。健次郎さん」
健次郎「はい」
和代「頑張って!」健次郎の手を握る。「頑張ってちょうだいね」
健次郎「はい」
和代「ねっ」
それから、数日がたち…
病室
タッパーに入った関東煮き。
健次郎「うわ~、うれしいなあ、これ…」
りん、一真、工藤酒店の夫婦、みゆき館の夫婦が病室を訪れた。
りん「いや、そやけどね、お医者はんに見つかったら怒られるのと違う?」
健次郎「かまへんでしょ、これぐらいは」
一真「そうか」
りん「大丈夫かな」
健次郎「あ、コロも入ってる」
俊平「しかし何やね、おじゅっさんもりんさんもこう洋服着てたら何か違和感あるね」
一真「そうかいな」
りん「似合うてる思うよ」
一真「似合うてる、似合うてる」
健次郎「なあ、俊平はん、いっぺん聞きたかったんやけどな、キランキランのあんたの服、どこで買うの? いつも」
俊平「え? これ?」
貞男「俺もそれな、ずっと聞きたかってんや!」
佐和子「ほら、そやからボチボチ、シックなん着たらええて言うてんのに!」
俊平「おかしいか?」
佐和子「おかしいよ」
健次郎の病状は小康状態を保っていましたが、そんなある日のこと…
仕事部屋
原稿を書いていた町子の手が止まり、ため息。6月のスケジュール帳を見る。1日が日曜日なので1997年。「あぐり」やってる頃だな~。
町子「あっ! ああ…」
病室
健次郎「外泊許可?」
町子「そう。土日」
健次郎「土日?」
町子「フフッ。お誕生日、健次郎さんの」
健次郎「ああ…そうか」
そして…
茶の間
テーブルにはごちそうが並ぶ。
町子「はい、お待たせいたしました。お母ちゃん、これちょっとみんなかぶってもろて。健次郎さん、はいどうぞ」みんなには三角帽子、健次郎には紙のシルクハット。
健次郎「え? 僕もかいな」
純子「もちろんですよ」
健次郎「へえ。これ、わざわざ作ったの? これ」
純子「『シルクハットが似合う男になりたい』っておっしゃったじゃないですか」
健次郎「いや、けど、紙のやつとは言うてませんよ」
シルクハットをかぶる健次郎。「どう?」
町子「よう似合う」
純子「お似合いになります」
町子「よう似合うわ~。ねえ、おじいちゃん、似合うか? 似合う?」
「似合う!」←孫がいた!
一同の笑い声
由利子「は~い、用意できました!」火のついたろうそくの立ったケーキを渡す。
町子「はい、ありがとう! ちょっとここ置かしてもらいます。はい。あっ、ついた…。ないしょ。え~、皆さんよろしいでしょうか」
一同「はい」
一同の席に並んだ感じだと清志の妻の隣に女の子、登夫婦の間にも子供がいる?
町子「はい、それでは、さん、はい!」
一同「♪ハッピー バースデー トゥ ユー
ハッピー バースデー トゥ ユー
ハッピー バースデー ディア お父ちゃん
ハッピー バースデー トゥ ユー」
健次郎「では…」ろうそくの火を一息で消す。
拍手と歓声
町子「おめでとうございます」
健次郎「ありがとう、ありがとう」
健次郎「ほな、食べよか。はい、いただきま~す」
一同「いただきま~す!」
町子「健次郎さん。今日、健次郎さんの大好きな鯨のベーコンがありますから、たくさん食べてね」
健次郎「早速頂こう。いや~、これは懐かしいなあ」
町子「よう噛んでよ。ねえ」
健次郎「うまい! 懐かしいな、これはほんまに」
町子「昔はこういうの貴重品やなかったから、ぎょうさん食べたね」
健次郎「ほんまやな」
町子「うん。よう食べなさい。ねえ。お母ちゃん、ちゃんと見ててあげなあかんよ」
健次郎は、皆の顔を見ている。純子、由利子、亜紀、…の隣は夫?、登夫婦と男の子かな…
町子「亜紀ちゃん、子供の分まで食べんねんよ」
亜紀「うん」
町子「よう噛みなさいよ。よう噛んで食べなあかんねやで」
反対側は和代、清志夫婦と女の子、隆夫婦…ニコニコと眺める健次郎。
町子「健次郎さん、ほんまにおめでとうございます。これ、プレゼント」
健次郎「え?」
町子「プレゼント」
健次郎「ああ…おおきに。あららら」
亜紀「お父ちゃん、はよ開けて」
登「はよ開けて、お父ちゃん」←誰の声か分からないけど、亜紀の近くにいたから登?
健次郎「せかすなや。何やろ? ハハハハハハ…! ほら!」
一同の笑い声
黒い円柱形の箱から出てきたのは本物のシルクハット。
町子「かぶってよ~、はよ。かぶって、かぶって」
健次郎「こうやな。どや?」
町子「似合う! 似合うわ! 似合うよね!」
拍手が起こる。
孫の声「似合う~!」
町子「似合うわ~。二枚目やね、健次郎さん」
蘇州夜曲が流れ、町子と純子が赤い扇子を持って踊る。
♪君がみ胸に 抱かれて聞くは
夢の船歌 鳥の歌
水の蘇州の
見ている皆の顔が映った時、亜紀の隣にいる白いセーターの男性が亜紀の夫かな。パッと見、隆に似ている。
由利子「お父ちゃん」
健次郎「うん?」
由利子「何やの? これ」
健次郎「2人の十八番や。飲んだら必ずこうやって踊らはる」
♪惜しむが 柳がすすり泣く
町子「はっ!」
一同の笑い声
健次郎の笑顔が素敵。
音楽に合わせて踊る町子と純子。純子さんの照れながら踊る感じもいいな~。
町子「あ、それ! はっ!」
一同の笑い声
夜、茶の間
町子「しんどいことありませんか?」
健次郎「うん、まあな…」
町子「うん。そろそろお布団敷いてきますわね」
健次郎「いや、もうちょっとここにおるわ」
町子「あ、そう」
健次郎「町子」
町子「はい?」
健次郎「あれ、持ってきて」
町子「えっ、何?」
健次郎「残っとったやろ、まだ。いつもの」
町子「アホな。お酒なんかあきませんよ」
健次郎「格好だけや」
町子は仕方ないなあという感じで台所へ。健次郎はシルクハットを見ている。いつもの黒じょかセット。
町子「なめるだけにしといてくださいね」
健次郎「うん。ああ…。うまいなあ」
町子は立ち上がり、バーカモカの看板に灯りをともし、健次郎に笑顔を向ける。
健次郎は盃を町子へ。焼酎を注ぐ。
久しぶりの自宅での夫婦二人きりの時間でした。
ミニ予告
町子「『町子、愛してるよ』て…」
おだやかな日…物語の舞台になっていたのが、1997年の初夏だったので、そのころ放送された「あぐり」を思い出していたら田中美里さんの最近のインタビューが見つかりました。
「あぐり」の話の中で”あぐりの両親を演じてくださった里見浩太朗さん、星由里子さんをはじめ、”と書いてあったけど、里見浩太朗さんと星由里子さんはエイスケさんの両親よー! まあ、全編に出てくるし、印象深いけどね。