NHK 1987年7月16日(木)
あらすじ
要(世良公則)が二週間の演奏旅行に出た。蝶子(古村比呂)は加津子を連れお隣の中山音吉(片岡鶴太郎)・はる(曽川留三子)夫妻の家で羽根をのばす。そこへ恩師の神谷容(役所広司)と田所邦子(宮崎萬純)が訪ねてくる。童話だけでは生活が苦しい神谷は、最近日雇いの仕事もしているのだと両手にできたマメを見せる。邦子が生活費の足しに、とそっとお金を差し出すが、神谷は「施しはかえって侮辱だ」と、受け取ろうとしない。
2025.7.24 NHKBS録画
脚本:金子成人
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音楽:坂田晃一
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語り:西田敏行
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岩崎蝶子:古村比呂…字幕黄色
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岩崎要:世良公則
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野々村富子:佐藤オリエ
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中山音吉:片岡鶴太郎
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田所邦子:宮崎萬純
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中山はる:曽川留三子
北山道郎:石田登星
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彦坂安乃:近藤絵麻
早川プロ
劇団いろは
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神谷容(いるる):役所広司
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野々村泰輔:前田吟
<12月になると、いよいよ冬の到来です>
岩崎家
夕食中、蝶子は加津子を膝に乗せ、食べさせている。
要「演奏旅行のことは言ってたよね?」
蝶子「え~と、いつでした?」
要「あさってだよ」
蝶子「あ~、そうそう」
要「何だ、忘れてたのか?」
蝶子「いや、そろそろだなとは…うん…2週間か」
要「うん」
蝶子「長いね」
要「うん」
蝶子「ねっ、加津(かっ)ちゃん食べてみようか?」
要「大丈夫か?」
蝶子「え、何が?」
要「うちのこと、1人でさ」
蝶子「今までだって1人でやってきたもの。加津子なんか夜泣きしても怒る人いないから、うれしいんじゃない?」
要「…」
蝶子「すいません」
ニコッて愛想笑いみたいなのしてるよ、要が。
蝶子「けど…」
要「うん?」
蝶子「そんなに長い旅行なら私も行きたいな。一緒にじゃなく…」
要「じゃ、どこに?」
蝶子「滝川に」
ハッとする要。
蝶子「父さんと母さんに加津子の顔、見せに」
要「家を空けるのか?」
蝶子「だって、要さんいないし」
要「いなくたって…いないからこそ守るべきじゃないのかな」
蝶子「…は~い」
留守番問題は昭和ドラマあるあるだよね~。昭和の後半になっても留守番がいないから出かけられないとかそんなエピソードが多い。そういうドラマを見慣れると、そういや蝶子は家を空ける率が高いかも。
<そして、要さんが演奏旅行に出発する日が来ました>
家から加津子を抱いて出た蝶子はそのままお向かいの家へ。「おはようございます。岩崎です!」
はる「は~い! おはようございます」
蝶子「おはようございます」
音吉「こりゃ、お出かけで?」
要「留守の間、よろしくお願いします」
音吉「ああ、そりゃもう安心してください」
はる「はい」
蝶子「じゃ、駅に見送りに行ってきます」
はる「行ってらっしゃい」
蝶子「行ってきま~す」
はる・音吉「行ってらっしゃい!」
蝶子と要が路地を歩いていく。
柱時計の音が鳴る。4時!?
音吉「いや~、こういうのも悪くないね」
はる「ほんと」
音吉「いっつもいっつも同じ面、前に飯食ってると飽きちゃうからね!」
はる「同じ面で悪かったね!」
音吉「そうだ、旦那が留守の間は、うちに来て飯食うっつうのは?」
蝶子「だって…」
はる「いいねえ!」
音吉「うん」
蝶子「いいけど」
はる「いいわよ!」
蝶子「それじゃ、あまりにもずうずうしいもの」
音吉「そんなこたないよ! なあ! 押しかけてくるわけじゃねえんだから。お招きしてるんだから」
はる「そうそう!」
蝶子「…そうだ! ね、私のうちに来てもらうっていうこともできるのよね?」
音吉「その手もあり」
蝶子「今日はこっち、明日は私のうちとか、ねえ!」
はる「楽しいねえ! 岩崎さん、いつも演奏旅行行ってるといいね!」
蝶子「いつもじゃ困ります」
はる「アハハ、そうだね」
音吉「バカ…ったく」
蝶子「いや、たまには息抜きできていいけどね」
音吉「分かりやす。最近…あっしもね、金づち使う時、結構、気ぃ遣ってるんですよ」
蝶子「すいません」
はる「そんなこと言わなくていいの!」
⚟︎「こんにちは!」
はる「は~い!」
⚟︎「向かいの岩崎さんはお留守なんでしょうか?」
蝶子「は~い!」と返事して玄関へ。「あら~! やっぱり先生だ!」
神谷「やっぱりこっちいたかい」
蝶子「はい、要さんが演奏旅行に出たんで、羽伸ばしてるとこなんです」
神谷「ハハハハハ! 羽伸ばしてるか」
役所広司さんの爆笑、こっちも笑いそうになる豪快な笑い方。
岩崎家
玄関に神谷の靴と蝶子の下駄が並ぶ。靴はだいぶ、くたびれた感じ。
茶の間で編み物をするはると蝶子。
神谷「『行き来する、その道の途中には深い森があり、一度迷い込んだら二度と出られない』と言われていて『その森には決して入ってはいけない』というのが昔からの言い伝えでした」
何となく様子をうかがう蝶子とはる。神谷先生、いい声。
神谷先生が加津子を抱っこしながら物語を話している。「ある日、その少年が森の近くの道を歩いていると森のそばの枯れ草が燃えていました。1か月以上の日照り続きで、まあ、自然発火したわけだわ。少年は、それを見つけると慌てて火を消しにかかりました。しかし、その火の勢いは強く…」
蝶子「先生」
神谷「ん?」
蝶子「加津子には、まだ無理ですよ」
神谷「うん、まあ、そうだろうね」
蝶子「話してても張り合いないでしょ?」
神谷「うん、まあ、そうだね」
蝶子「あ、お茶入りましたので、どうぞ。はい、加津ちゃん! はい、加津ちゃん、加津ちゃん」
神谷「しかし、その火の勢い…ダメだね。はい」加津子を降ろして、茶の間へ。
茶の間にはコタツが出ている。3人でお茶を飲む。
はる「神谷さんは結婚しないんですか?」
神谷「いや、するともしないとも決めてません。第一、童話の収入だけじゃ」
はる「『一人口は食えなくても、二人口は』って言うでしょ?」
神谷「いや、したっけ、私のとこに来るような人は、いないもな」
はる「そんなことはないです。ねえ!」
蝶子「うん、そうですよ!」
神谷「いやいやいや…アハハッ」
⚟︎邦子「チョッちゃん、いる?」
蝶子「邦ちゃんだ。どうぞ! あ、いらっしゃい」
邦子「あら、先生も?」
神谷「よう!」
はる「じゃ、私は」
蝶子「いいのよ」
はる「こっちにばっかりいると『加津子ちゃんと遊んでんだろ』って、うちのがやっかむの。じゃ」
神谷「どうも」
はる「ごちそうさま」
スマートな帰り方だね。この空間に居づらいよね。
蝶子「座って」
邦子「うん」
神谷の向かいに座る邦子。「お久しぶりです」
頭を下げた神谷。「…ああ。仕事、忙しそうだね」
邦子「今日は珍しく休みなんです」
神谷「体には気ぃ付けれや」
邦子「いや~、それより、先生の方が」
蝶子「うん、そうなのよ。疲れてるんじゃないですか?」
神谷「いや!」
蝶子「叔父さんから聞いたけど、先生、日雇いの仕事してるって聞きました」
邦子「本当?」
神谷「いや、腕は焼けるし、首の周りが大して焼けるんだわ。ほれ」後ろを向いてうなじを見せる。
まじまじ見る邦子と蝶子。「あら~」
邦子「童話だけじゃ、やっぱり?」
神谷「ま、覚悟はしていたことだから。うん」
邦子「日雇いしか仕事ないんですか?」
神谷「探せば、あるべさ」
邦子「そしたら、もっと…」
神谷「いや、日雇いの仕事もなかなか面白い。仕事の現場には、いろんな人いるんだ。そういう人としゃべくるのもいいもんだ」
隣の部屋にいた加津子が泣きだす。
蝶子「よし、今夜は先生のために栄養のあるもんば作らなきゃ!」
邦子「私も!」
蝶子「もちろん!」
邦子「ウフフ」
蝶子「要さんは演奏旅行でいないし、泊まってってもいいのよ」隣の部屋へ。
邦子「うん!」
蝶子「料理、何にする?」
邦子「あ、お肉」
蝶子「あ、高い…」
邦子「お金なら出す!」
蝶子「ちょっとごめん」おしめを持って、隣の部屋の襖を閉めた。
邦子「生活費の足しにしてください」小さく折り畳まれたお札を神谷の前に差し出す。
神谷「…いいって」邦子の前に戻す。
邦子「だけど」
神谷「…男一人、何とでもなる。施しは、かえって侮辱だわ」
邦子「そんなつもりでは…」
神谷はニコッと笑って「ほれ」と邦子の手にお札を握らせた。
邦子「先生…手」
神谷「ああ、これか。ツルハシ使ってたら、マメは潰れる、タコは出来るで、もう困ったもんだ。ハハッ」両手を広げて見せた。
隣の部屋から出てきた蝶子にも手を見せる神谷。「タコ!」
蝶子「あら~、痛そう…」
神谷「痛くはない。大丈夫だ」
木枯らしの舞う路地。
岩崎家茶の間
邦子「冬だね」
蝶子「うん」
邦子「何だかこうしていると滝川にいるみたい」
蝶子「私も、今、そう思った」
邦子「うん」
蝶子「冬になると北海道思い出すね」
邦子「…うん」
蝶子「雪、積もってるかな?」
邦子「…うん」
蝶子「邦ちゃんは、この前、いつ帰った?」
邦子「2年前…チョッちゃんは?」
蝶子「5年近く帰ってないんだ」
邦子「そうなる?」
蝶子「…うん」
<ふるさとは何年たっても、いくつになっても忘れられないもののようです>
野々村家
安乃「ごめんください! 安乃です」
茶の間
泰輔「フフフフ」
富子「何だよ、薄気味悪い」
泰輔「お前さ、こういう光景を見てさ、何とも思わないのか?」
道郎、蝶子、安乃がご飯を食べている。
富子「思うよ」
泰輔「どういうふうに?」
富子「幸せだな~って」
せきばらいする泰輔。「なら、いいんだよ!」
笑い声
泰輔「加津子ちゃん、もう寝たのか?」
蝶子「ぐっすり」
泰輔「ああ、じゃ、ずっとだ。チョッちゃん、本当にね、俺たち幸せだよ。な?」
蝶子「どうして?」
泰輔「うん、だってさ、時々こうやって、時間が出来ると忘れずに我が家を訪ねてきてくれる人たちがいるってことがさ」
富子「本当」
道郎「叔父さんと叔母さんの人徳さ」
富子「あら、道郎さん、会社員になったら口、上手になったねえ」
道郎「またまた~」
蝶子「兄ちゃんの言うとおりよ。いくら親類でも叔父でも嫌だったら隣にいたって声もかけないわよ」
泰輔「ハハッ、ありがとう」
笑い声
道郎「そうか。要さん、演奏旅行っていうのもあるのか?」
蝶子「うん、そうなの」
泰輔「旦那がいない時はさ、このうちにいりゃあいいんだよ、なあ!」
蝶子「そんなわけにはいかないわよ」
富子「どうして?」
蝶子「郵便も来るだろうし、どんな連絡来るか分かんないじゃない」
泰輔「そりゃ、そうか」
蝶子「あ! 安乃ちゃん、明日、浅草行こっか?」
安乃「はい」
蝶子「連平さんの芝居見て、おいしいもん食べて。ね!」
泰輔「よし! 叔父さんね、小遣いあげるから、明日は浅草でもどこでも行っといで!」
蝶子「ありがとう!」
富子「そしたらね、私が加津子ちゃん見ててあげる」
蝶子「あ~、助かる!」
富子「『鬼の居ぬ間の洗濯』しといで」
蝶子「鬼って要さん?」
うなずく富子だったが慌てて首を振る。「ああ、言っちゃダメだよ!」
蝶子「言う!」
笑い声
富子「チョッちゃん!」
幸せを絵にかいたような光景だね。
信濃屋
⚟︎汽笛と列車の走行音
店員「いらっしゃいませ」
蝶子「あ、そこ座ろう」座敷席に座る。「お汁粉2つ!」
店員「はい」
安乃「蝶子さん、これ、開けていい?」
蝶子「うん!」
安乃が箱を開けると、くしが入っていた。
蝶子「アハハ…新しいのさしたらいいっしょ」安乃の頭にさしてあったくしを取り、新しいのと付け替えた。「似合う」
安乃「ありがとう、大事にします」
店員「お待たせしました」
⚟︎汽笛と列車の走行音
店員「どうぞごゆっくり」
蝶子「はい。じゃ、食べようか。いただきま~す」
安乃「いただきます」
蝶子「安乃ちゃんは東京に来て何年になるんさ?」
安乃「6年」
蝶子「いっぺんも帰ってないっしょ?」
うなずく安乃。「帰るうちもないし」
蝶子「…帰りたくないかい?」
お汁粉を食べている安乃。
蝶子「うちはなくてもさ、滝川に帰りたいと思わないかい?」
安乃「…」
安乃と並んで陸橋から列車を見ている蝶子。「不思議だね。この線路、滝川まで続いてるんだもんね」
夕方、蒸気が上がり、列車の走行音がする。模型かな!?
安乃は懐から古いくしを投げ落とした。雪の上に落ちるくし。地面じゃなく貨物列車の屋根に落ちた…というか落としたのね。
岩崎家
⚟︎電報です! 岩崎さん、電報です!
<それから、数日後のことです>
蝶子「あ、ご苦労さま!」
配達員「どうも」
蝶子が電報を広げて読む。「『19ヒ カツコ ツレ サッポロコウカイドウニ コラレタシ カナメ』。『19ヒ カツコ ツレ サッポロコウカイドウニ コラレタシ…』」
<一体何事でしょうか>(つづく)
神谷先生と安乃ちゃんが一緒の回はドキッとしちゃうけど、今日は一緒にいる場面はなかった。
10代の6年は長いな…蝶子も学生の頃は気兼ねなく帰省できただろうにね。幼い子供を連れての長旅は大変だ。
