NHK 1987年6月19日(金)
あらすじ
蝶子(古村比呂)は要(世良公則)を伴い、石沢嘉一(レオナルド熊)の牧場を尋ねる。彦坂頼介の弟・公次(中垣克麻)は、姉・安乃からの土産を渡され大喜び。一方、蝶子が滝川にきている、という目撃談が患者たちの口から俊道(佐藤慶)の耳にも届き、蝶子に会うか会わないか、俊道の心は大いに揺れる。だがいよいよ蝶子が帰宅しても、俊道は診察室に閉じこもって蝶子に会おうとしない。
2025.6.6 NHKBS録画
脚本:金子成人
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音楽:坂田晃一
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語り:西田敏行
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北山蝶子:古村比呂…字幕黄色
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岩崎要:世良公則
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北山みさ:由紀さおり
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石沢嘉一:レオナルド熊
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高畑品子:大滝久美
彦坂公次:中垣克麻
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女中:磯部稲子
男:三上剛山
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北山俊道:佐藤慶
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野々村泰輔:前田吟
<滝川滞在最後の日、チョッちゃんは要さんを伴い、石沢牧場に向かいました>
福壽旅館を出る蝶子と要。
浴衣姿の泰輔は「気を付けてな!」と手を振り、2人を送り出し、くしゃみをして旅館に戻った。
石沢家
石沢「いやややや、チョッちゃん、帰ってきとったんか?」
蝶子「元気にしてたかい?」
石沢「チョッちゃん帰ってくるなんて、なんも知らんかったもね!」
蝶子「急だったんだ」
石沢「ふ~ん」
蝶子「うちにも知らせないで来たんだわ」
石沢「あ、そうかい」蝶子の後ろに立っていた要に会釈。
蝶子「あ、おじさん、岩崎要さん」
石沢「石沢です」
要「岩崎です」
石沢「チョッちゃん、ひょっとしたら、チョッちゃんの旦那さんになる人でないかい?」
うなずく蝶子。
石沢「ハハハハハ! チョッちゃんも大した冗談うまくなったもね」
蝶子「なんもだ!」
石沢「え? ホントにかい? いやいやいや、いやいやいや…まあまあまあ、上がって、上がって。座って、座って。どうぞ、どうぞ。いや~」
要「失礼します」
石沢「はいはい、どうぞ、どうぞ。え~? まあまあ、まあまあ、どうも」
蝶子「したけど…父さん、許してくれないんだわ」
石沢「そうかい」
蝶子「手紙で知らしたら『許さん』って返事来たしょ。『会いに行くから』って書いたら『会わん』って返事なんだわ」
石沢「ふ~ん」
蝶子「泰輔叔父さんが間に入るって、しゃべって、一緒に来てくれたんだ」
石沢「泰輔さんも来てんのか?」
蝶子「うん。したっけ、私たちの結婚、許すように、昨日、父さんに会いに行ってくれたんだけどケンカになったんだわ」
石沢「あいやいやいや…」
蝶子「ゆるくないんだわ」
石沢「はあ~。したら、先生には、チョッちゃんが来てることは?」
蝶子「母さんには知れたけど、父さんは知らないんだわ」
石沢「あや~」
蝶子「そういうことだ」
石沢「そうかい」
戸が開く音がする。
石沢「公次だ!」
公次「チョッちゃんねえちゃん!」
蝶子「いやいやいや、元気にしてたかい? 公次君に渡すもんあって来たんだわ。安乃ちゃんと頼介君に頼まれたんだよ」
嬉しそうな表情の公次。
要「頼介君って?」
蝶子「安乃ちゃんの弟なの」風呂敷包みを渡す。
ん? 公次君って?じゃなく頼介君って??
石沢「安乃からは時々、手紙来てるから大体の様子は分かってるんだわ」
蝶子「そうかい」
石沢「うん」
嬉しそうに風呂敷包みを見ている公次。
石沢「頼介は元気かい?」
蝶子「うん、頼介君も元気。安乃ちゃんも元気」
風呂敷包みから飴?を取り出して見せる公次。
蝶子「フフフッ」
石沢「公次、しばらく休んでいいぞ」
公次「はい!」家から出ていく。
石沢「したけど、どうするんだ? チョッちゃん」
蝶子「ん?」
石沢「まあ、先生が一旦ヘソ曲げたら、そら、考えば変えさすのは、ゆるくないわ」
うなずく蝶子。
北山医院
診察室
男「チョッちゃん、どうかしたんかい?」
俊道「ん?」
男「休みでもないのに帰ってるんでないの?」
品子「蝶子さんがかい?」
男「ああ。うちの母ちゃんが見たってしゃべってた」
俊道「いつ?」
男「昨日の昼だわ」
品子「な~に言ってるんさ。蝶子さんは今、東京だ。ねえ、先生」
茶の間に白衣のまま入って来た俊道。
みさ「え? あの…何か?」
俊道「どうも、あれだ。どうも、蝶子が…滝川にいるらしいんだわ。いや、確かにそうだというわけではない。したっけ、川久保のカミさんも見たっていうし、山田屋も見たって、しゃべったんだべさ。いや~、これは…ひょっとすると、これは…」
みさ「…来てるんだ。蝶ちゃん、滝川に来てるんだわ。泰輔も一緒に来てるんだ。蝶ちゃんの例の相手の岩崎要っちゅう人も」
俊道「お前は…!」
みさ「なんも、私、蝶ちゃんが滝川に来るなんて知らなかったんです。昨日、泰輔に会いに行ったら、その旅館に蝶ちゃんもいたんです」
立ち上がる俊道。
みさ「お父さん、蝶ちゃんに会ってもらいたいんだ」
俊道「会わん!」
みさ「岩崎さんちゅう人にも改めて会ってもらいたいんだ」
俊道「誰が! ん? 『改めて』とは、どういうことだ?」
みさ「あ、いや、それは、その…昨日、お父さん、旅行に来たっていう若い男の人ば診察したっしょ?」
俊道「腹痛(はらいた)男かい?」
うなずくみさ。
俊道「ん!?」
みさ「あの人が岩崎要さんだ」
俊道「お前が仕組んだんかい!」
みさ「なんもだ! 私、知らないもね!」
俊道「いや!」
みさ「ホントだ」
俊道「お前は何かっちゅうと蝶子と手ぇ結んで、あれこれ画策するでないか!」
みさ「なんも…」
俊道「音楽学校さ行く時も、そうだったべさ」
みさ「今、そんなこと、しゃべってる時でないでしょ! お父さん…蝶ちゃんと相手の岩崎さん、滝川に来てるんだ。会わなくていいんかい?」
俊道「『会わん』って、しゃべったべや!」
みさ「ほっといて、いいんかい!」
俊道「いい!」
みさ「ちゅうことは、2人の勝手にしていいっちゅうことかい? したら、2人は東京帰って結婚するんでない?」
俊道「何!?」
みさ「ほっとくっちゅうことは、そういうことだ、お父さん!」
旅館に入った俊道。
仲居「何か?」
俊道「あの、こちらに…」
仲居「はい?」
俊道「泊まってる客の中に、その…」
仲居「はい」
俊道「あれかい?」
仲居「ん?」
戸が開き、泰輔が戻ってきた。「ただいま~!」
仲居「お帰り」
俊道に気付いた泰輔は後ずさりし、俊道はせきばらいする。
泰輔「チョッちゃんたちは今…」
俊道「なんも会いに来たわけではないんだ」旅館を出ていった。
診察室
みさ「お父さん! 蝶ちゃんたちが来ました。お父さん、さっき、旅館にわざわざ訪ねたっていうでない?」
俊道「わざわざではない」
みさ「『お父さんが来てくれたから』って、蝶ちゃんたちが来てるんだ」
俊道「私は会わんから」
みさ「なして! お父さん、なして?」
俊道「なしてでも会うつもりはないから」
みさ「なしてよ!」
俊道は、みさを診察室から締め出した。
みさ「お父さん?」ため息をついて、茶の間へ。
泰輔「どうだった?」
みさ「なんとしても会わないって」
蝶子「しかたないっしょ」
みさ「したけど…」
蝶子「旅館に訪ねてきてくれたことば評価して、よしとするしかないっしょ」
泰輔「うん」
みさ「したけど、一つ屋根の下に今、いるんだよ」
要「やっぱり北海道に来てよかったよ。お母さんに会えた。僕を知っていただけた」
みさ「はい」
要「それに…名乗りはしなかったけど、お父さんにも会えたことは会えた」
みさ「あ?」
泰輔「ん?」
みさ「お父さん、岩崎さんのこと知ってるんだわ」
蝶子「なして?」
みさ「『診察に来たのがそうだ』って、しゃべったもね」
蝶子「したら?」
みさ「『私が仕組んだんだべ』って、そうしゃべったわ」
蝶子「そう…父さん、知ったんかい」
要「何?」
蝶子「なんも…」
みさ「明日かい?」
泰輔「うん」
みさ「うち泊まっていけばいいのにね」
泰輔「いや、俺は遠慮する」
要「あ、やっぱり、朝、早いですし、駅の近くの方が…」
みさ「そう…」
蝶子が立ち上がって茶の間を出ようとする。
泰輔「ん?」
蝶子「父さんに会ってくるわ」
診察室の戸を開けようとした蝶子だが、開かない。「父さん!」
医療器具?で戸を閉め切っている。
⚟蝶子「父さん!」
机に向かっている俊道。
⚟蝶子「私たち、明日の朝、滝川をたちます。会ってもらえないかい? 話、できないかい?」戸を開けようとする。
目を潤ませる蝶子。「分かりました…父さん、怒るのも無理はないと思います。だけど、言います。私は岩崎要さんと結婚します。父さん、昨日、会ったっしょ? 腹痛だってしゃべって診察受けに来た人、いたっしょ? あの人が岩崎要さんだよ」
診察室の机の前で蝶子の話を聞いている俊道。
⚟蝶子「話、したっていうでない? おなか触ったっていうでない? 覚えておいてもらいたいんだ」
診察室前の蝶子。「父さん…私は来年の3月、音楽学校ば卒業します。好きなことさせてもらって本当にありがとうございました。それなのに…音楽では、ものにはなりませんでした。声楽の道は諦めます。申し訳ありません。したけど、怒らないでもらいたいんだ…私は、なんも後悔してません。父さん…」
すりガラス越しの蝶子。「今後の私を見ていてください。要さんとのことも、いつかきっと許してくれる日が来ると信じてます」
診察室前で涙を流す蝶子。「したら…帰ります」
ここで出ていかないのが俊道さんだね~。窓の外では雪がちらつき始める。
⚟汽笛
汽車の中で疲れた様子の要、蝶子、泰輔。
<汽車は、もの悲しい秋の夜の中を東京へと向かっています>(つづく)
簡単に行き来できないのに簡単に会わない。切ないねえ~。
