NHK 1987年9月4日(金)
あらすじ
東京へ戻る汽車の中。蝶子(古村比呂)親子と泰輔(前田吟)は、隣席のリンゴ農家の喜作(伊奈かっぺい)と親しくなり、リンゴをもらう。リンゴを送る、という喜作に東京の住所を教え別れる。滝川から三日かけて東京へ戻り、掃除に来ていた富子(佐藤オリエ)に、邦子(宮崎萬純)や安乃(貝ますみ)には伝えた、と言われる。東京本土へ空襲も始まり、12月になったころ、みさ(由紀さおり)が滝川を出て東京へやってくる。
2025.9.12 NHKBS録画
脚本:金子成人
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音楽:坂田晃一
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語り:西田敏行
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岩崎蝶子:古村比呂…字幕黄色
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北山みさ:由紀さおり
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中山音吉:片岡鶴太郎
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大川邦子:宮崎萬純
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中本喜作:伊奈かっぺい
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中山はる:曽川留三子
岩崎加津子:藤重麻奈美
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神谷安乃:貝ますみ
岩崎俊継:服部賢悟
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男:山崎猛
高杉哲平
鳳プロ
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神谷容(いるる):役所広司
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野々村富子:佐藤オリエ
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野々村泰輔:前田吟
<滝川をたったチョッちゃんたちは青函連絡船で津軽海峡を渡り、青森からまた汽車の旅となりました>
混雑する汽車の中
誰かが鼻歌を歌っている。
加津子「さっき止まった駅は?」
蝶子「ん?」
泰輔「ん? うん、浅虫だ」
俊継「『虫』?」
泰輔「温泉がな、あるんだよ」
加津子「ふ~ん」
蝶子は歌声のする隣のボックス席に視線を送る。
男1「いや~、温泉さ、つかって久しぶりにのんびりしたじぁ」
喜作「いやいや、戦地の兵隊さんさ申し訳ねえ気するっきゃ。工藤武市んとこの次男も戦死したっていうべ?」
男1「んだってな」
男2「いやいや、嫁っこもらったばっかりだべ」
男1「いやいや、あの嫁っこぁ、泣ぐに泣げながんべよ」
喜作「涙っこも出ねえべな」
お! 伊奈かっぺいさん! メガネかけてるところしか見たことなかったから、メガネない顔は初めて見た。んで、隣に座ってる男1は「ありがとう」の心の店員・一夫ちゃんじゃないの。または鶴長さんの腹違いの弟の文夫。山崎猛さんって「おしん」や「本日も晴天なり」にも出演してた。
加津子「お母さん」
蝶子「ん?」
加津子「オシッコ」
俊継「僕も」
泰輔「ああ、オシッコか。よしよし、おじさん、連れてってやる」
蝶子「すいません」
泰輔「よっこいしょ!」俊継を持ち上げる。「ちょっとすいません」
加津子「すいません」
泰輔「はい、失礼しま~す」通路を歩いていく。
隣のボックス席の喜作たちがあくびをし、蝶子もうつった。
口を開けていびきをかいて寝ている喜作を見ていた蝶子。
泰輔「ちょっとすいません。通してください。すいませんね、通してください」
加津子「ただいま」
蝶子「お帰り」
窓 泰輔 俊継 蝶子 通路 喜作 男1
加津子 男2
という並びでボックス席に座っていたが、加津子の席に誰かが座っていた。
蝶子「加津(かっ)ちゃん」
加津子「いい。私、立ってる」蝶子の脇に立つ。
泰輔「あ、そうか。立ってるか。うん。じゃ、後でおじさんと替わろう。な! よっこいしょ」自分の座っていた席へ。「よいしょ!」
加津子がスルメを持っていた。
蝶子「どうしたの?」
加津子「向こうでね、知らないおばさんがくれたの」
泰輔「スルメでもしゃぶるか。よしよし」スルメをちぎってわける。「はい、加津ちゃん。はい、俊ちゃん。チョッちゃん」
蝶子「いらない」
泰輔「あ、そうか…」
汽車が揺れて、加津子がよろけて喜作に寄りかかった。
蝶子「すいません、うちの子が…」
加津子「ごめんなさい」
喜作「いや、なんもなんも。おう、黙って寝てれば寝過ごすとこだった…。いや、アハハ。あ~あ、あの、オラ、口開けて寝てたか?」
蝶子「いいえ、大して」
泰輔「そんな、そんな」
喜作「いびきは?」
蝶子「いいえ!」
喜作「ああ」
俊継「してたよ」
喜作「え?」
泰輔が俊継の口を押える。
喜作「あ、アハハハ、そうか! やっぱりいびきしてたか? アハハハ、いやいや、いやいや」
頭を下げる蝶子。
北海道もだけど、東北人もよく「いやいや~」を使う。
再び汽車が揺れ、通路にリンゴが転がってきた。
加津子「リンゴだ! お母さん、ほら」拾ったリンゴを見せる。「リンゴだ!」
女「すいません、すいません」リンゴを拾いながら歩いてきて、加津子が持っていたリンゴを取る。「ありがとう」
加津子が残念そうに女性を見ていると、喜作がリンゴを2個差し出した。「わらしっこに」
蝶子「いいえ!」
喜作「いや、なんも遠慮することねんだ」
蝶子「いや、けど…」
喜作「いや、ほら、うちで取れたリンゴだすけ、誰にも気兼ねしねえで食え!」
加津子「ありがとう!」
喜作「ほら」俊継にもリンゴを差し出す。
俊継「ありがとう!」
蝶子「いただきます」
喜作「いや」
泰輔「いや、どうもすいませんね」
喜作「なんもなんも」
泰輔「よし、じゃ、おじさん割ってやろう。いいか?」素手でリンゴを半分に割った!「おいっと! ハハハ。はい、加津ちゃん」半分を俊継に。
加津子「いただきま~す」
俊継「いただきま~す」
加津子「おいしい!」
俊継「うん」
蝶子「ありがとうございます」
喜作「なんも。どこさ行くのすか?」
蝶子「東京へ」
喜作「ほう」
泰輔「実家が北海道でしてね。これから帰るとこなんですよ」
喜作「東京?」
蝶子「はい」
喜作「いや、いや…。リンゴ好きか?」
加津子「大好き!」
喜作「うん。よし…」手帳を取り出す。「ここさ、東京の住所書いて」
蝶子「え?」
喜作「いや、あとで家にリンゴ送るすけ」
蝶子「いえ、そんな」
喜作「いやいや、遠慮することはねえんだ。おら、この先の諏訪ノ平っていうとこでリンゴ作ってるんだ」
蝶子「したけど…」
喜作「いやいや…リンゴだば腐るほどあるすけ」
泰輔「まあ、そうだな。あんなにおっしゃってるんだから」
喜作「いやいやいや、『袖すり合うも何とか』って言うべ」
蝶子「したら」
喜作「はいはい」
<同じ列車に乗り合わせた、その、中本喜作さんとこのあとも関わることになるとはチョッちゃんも当の喜作さんもこの時は知る由もありませんでした>
喜作の笑顔。はあ~、伊奈かっぺいさん懐かしいなあ。
1980年代はホリプロがマネジメントでタレント活動してたそうで、よくテレビに出てた。印象に残っているのは納豆のCMで(東北ローカル?)納豆のネバネバを茶碗につけないで食べる特技を披露してて、それから、私も今も実践している。
そのCMを確かめたくて検索したら、”納豆のネバネバを茶碗につけずに食べることは親孝行”と言ってたらしく、そこに引っ掛かりを感じる人がいた(自分で洗えばいいじゃん的な?)。私は”親孝行”は、すっぽり抜けてた。…ドラマと関係ない!
<滝川を出て3日目、チョッちゃんは洗足の我が家に帰ってきました>
岩崎家に入ろうとすると、音吉が声をかけてきた。「あ! お帰りなさい」
蝶子「ただいま」
音吉「話は聞きました。この度は御愁傷さまでした」
蝶子「どうもご丁寧に」
泰輔「ありがとよ」
音吉「大変だったな」俊継や加津子の頭をなでる。
蝶子「音吉さん、どうして知ってるの?」
音吉「野々村さんの奥さんが今、掃除しに来てるよ」
泰輔「へえ、あいつ、気が利いてるな」
音吉「うちのも手伝ってまして」
蝶子「すみません」
音吉「いえ」
蝶子「じゃあ」玄関に入る。
泰輔「よし」
岩崎家茶の間
富子「チョッちゃん、この度はホントに御愁傷さまで」手をついて頭を下げる。
はる「お悔やみ申します」手をついて頭を下げる。
蝶子、泰輔も頭を下げる。
蝶子「ここでも何ですからこちらへ」テーブルの前へ。
泰輔「ま、どうぞ」
音吉「すいません」
富子「私も行こうかってね、電話でこの人に言ったんだけど『いいから』って言うもんだから」
蝶子「遠いからいいのよ」
泰輔「来てすぐトンボ返りっていうんじゃなんだと思ってさ」
蝶子「うん」
はる「死に目には、あえたの?」
蝶子「北海道に着いて、翌日だったから」
はる「そう」
蝶子「話もできてね」
泰輔「うん。俺もゆっくり話、できたな」
富子「そう」
泰輔「義兄(にい)さんと2人だけであんなに長い時間、話、したの最初で最後だった」
富子「何、話したの?」
泰輔「ん? まあ、いろいろとさ」
富子「何?」
泰輔「ハハ、言わぬが花だよ」
音吉「おい、はる。ボケっとしてねえで茶でも用意しろ」
はる「あ、そうだね」
蝶子「はるさん、いいのよ」
はる「いいから、いいから」
蝶子「すいません」
今日は
はる
泰輔 音吉
蝶子 富子
という並び。
蝶子「うちには誰か来ました?」
音吉「うん、邦子さんがね。おやじさん、危篤で北海道へ帰ったとは伝えたけど」
うなずく蝶子。
富子「今日、帰るってことは昨日、言っといたから」
うなずく蝶子。
富子「亡くなったって聞いて、安乃ちゃん泣いてさ」
蝶子「そう」
富子「神谷先生、昼間、徴用だから夜にでも一緒に来るって」
うなずく蝶子の目が潤んでいる。
夜、外は風の音がする。
茶の間
神谷「そうかい、お母さん、東京、来るんかい?」
蝶子「母一人、向こうには置いておけないから」
神谷「うん」
安乃「奥さんは、いつ?」
蝶子「来月の半ばぐらいには」
神谷先生は名札のついた国民服、安乃も名札がついている。
神谷「安心したべ?」
安乃「はい」
神谷「奥さんは、どうなるんだって心配してたんだわ」
蝶子「このうちで一緒に暮らすことにしたから」
安乃「はい」
蝶子「ウフフ」
神谷「蝶子君のお父さんとは私は女学校の教師してる時に会っただけだもな」
蝶子「はい」
神谷「滝川で1回、学校で1回」
うなずく蝶子。
冬休みに国木田独歩を巡る旅に出ていた神谷先生。
写真館に写真が飾られたことで退学騒動にまで発展。
神谷「信念ちゅうもんば、ちゃんと持った人だったような気がした」
蝶子「そうでした」
神谷「うん」
蝶子「信念が時々、行き過ぎて、いこじになることもありました」
神谷「うん、そういう気はした」
蝶子「それでよくモメました」
神谷「うん…」
蝶子「対立もしました」
神谷「よ~く分かる」
蝶子「したけど、それがよかったなと今になって思いました。子は親を見て育つと言いますけれども、本当にそうだなと思いました。親がいつも正しいとは限らないけれども、たとえ間違ってても親はドンと構えていたらいいと思いました。子供は、それに反発したり、時には自分を見つめ直したりして、そうやって分かり合うもんだなと」
ニッコリ笑顔の神谷先生。「そうかい」←先生の顔だな~。
うなずく蝶子。
戸が開く音がし、誰か入って来た。
蝶子「誰? は~い」
入ってきたのは邦子。
蝶子「邦ちゃん…」
邦子は安乃、神谷先生に会釈し、蝶子に向き合う。「おじさん、ダメだったって?」
蝶子「うん」
邦子「そう」
蝶子「うん」
邦子「会えたの?」
蝶子「うん」
邦子「よかったね」
蝶子「うん」こらえきれずに泣き出す。
邦子が蝶子の肩をポンポン。「今夜、私、泊めてね!」
蝶子「お願い」邦子に抱きついて泣く。
邦子は安乃と神谷先生の方を向いてうなずき、安乃たちもうなずき返す。
邦子「大丈夫だ」
<11月もあと僅かという日です>
岩崎家に木箱が2つ届いた。
蝶子「あら?」
加津子「今、着いたの」
木札に差出人がかかれていた。
青森縣三戸郡
平良崎村
中本喜作
蝶子「『青森県 中本喜作』」
加津子「お母さん、におう。リンゴのにおい!」
<もしかしたら…とチョッちゃんは思いました>
音吉、はるも呼んで箱を開ける。箱には”紅玉”って書いてるね。木箱の中は新聞紙が敷かれ、おがくずが敷き詰められた中にリンゴが入っていた。
蝶子「あ~!」
加津子「わぁ~! リンゴ、リンゴ、リンゴ!」
蝶子「いや~、ホントに送ってくれたのね」
音吉「リンゴだよ!」
蝶子の手紙「中本喜作さま。本日、リンゴを頂戴いたしました。先日の汽車の中での約束、まさか実現しようとは正直申しまして思ってもおりませんでした。申し訳ありません。『絶対に来ると思ってた』という子供たちに私は叱られてしまいました」
茶の間のテーブルで手紙を書く蝶子。加津子、俊継はリンゴの絵を描いている。
蝶子の手紙「今、東京では、こんなにたくさんのリンゴをめったに見ることはありません。ご近所の方にも差し上げ、喜んでいただきました」
かごに乗ったリンゴに手を出した音吉から取り上げ、テーブルの下に隠し、小さく切ったリンゴを食べる音吉とはる。
蝶子の手紙「一番、喜んでいるのは子供たちです。お礼状やリンゴの絵を描いて送るんだと今、懸命に取り組んでいます。本当にありがとうございました」
<その数日後、中本喜作さんから手紙が届きました>
岩崎家に手紙を届けたのは白い鉢巻を頭に巻いたおさげ姿の若い女性。さりげなく男性が少なくなったことを描いてるね~。
縁側
蝶子「あ、喜作おじさんだよ。『お子さんたちの手紙と絵、拝見しました。そんなに喜んでいただいて大変うれしいです。リンゴはいつでも送ります。なくなったら、また手紙をください。お待ちしてます』」
空襲警報が鳴る。
俊継「空襲だ!」
蝶子「早く!」
⚟︎音吉「敵機来襲! 敵機来襲! 敵機来襲! 敵機来襲!」スピーカー片手に叫んでいる。
蝶子「俊ちゃん」
⚟︎音吉「敵機来襲! 敵機来襲…」
はるが防空頭巾をかぶって家から出てきた。
音吉「奥さん! 奥さん!」
<11月24日。マリアナ基地を飛び立ったアメリカ軍の爆撃機・B29、およそ80機がこの日、東京を空襲したのです>
蝶子たちも防空頭巾をかぶって、音吉たちと走った。
<そして12月。みささんは滝川を去り、チョッちゃんの待つ東京へと向かっています>
一人汽車に乗るみさ。
<チョッちゃんもみささんを迎える準備は、おおかた整ったようです>
みさのための防空頭巾を作り、完成した頭巾をかぶる蝶子。(つづく)
