徒然好きなもの

ドラマの感想など

【ネタバレ】沙羅の花の峠

1955年 日本

 

あらすじ

高名な劇作家・三好十郎の原案を、名優の山村聡が映画化した社会派ドラマ。監督としても評価の高い山村が、鍵を握る医師役で出演も兼ね、無医村の実情を切実に訴える意欲作。沙羅の大木がそびえる峠にキャンプに来た医学生の俊子(南田洋子)ら仲良し6人組は、医師のいない村の少年が激しい腹痛に苦しむ場面に遭遇するが、妙な薬や祈祷に頼ろうとする村人を横目に近隣の医師探しに奔走し、元軍医で大酒飲みの榊原(山村聰)を連れて来る。

2025.5.14 日本映画専門チャンネル録画

 

「蔵出し名画座」評論家・川本三郎さんの解説付き。

 

名優・山村聰は監督も手がけた。小林多喜二原作の「蟹工船」をはじめ、下山事件を追う新聞記者を描いた「黒い潮」など生涯に六本の作品を監督している。

本作は戦前から活躍している「斬られの仙太」で知られる劇作家、三好十郎の原案で、山村が脚本も出演も手がけた社会派ドラマ。

東京から秩父の山に登山に来た学生たちが山奥の村で子供が盲腸で苦しむのに出会う。

この村には医者がいない。

そこで学生たちは近隣の医者(山村聰)を探し出してくる。

手術は無事に終わるが、実はこの医者の正体は…

秩父の栃本の集落でロケ。

山奥での撮影は約二ヶ月に及んだ。

冒頭にSLが出るが秩父鉄道と思われる。駅名の「萱野」は架空の名。仇役になる「八字髭」という精米屋の主人を演じているのは平田未喜三。

蟹工船」で労働者の冷酷な監督役で強烈な印象を残した、山村聰の盟友。

戦後、千葉県鋸南町の町長を長く務めた。気取らない人柄で地下足袋町長と親しまれた。

無医村なので医者のかわりに祈祷に頼る。この婆さんを演じているのが東山千栄子。驚くべきシーンがあるのでお見逃しなく。

 

日活株式会社製作

 

製作:髙木雅行

原案:三好十郎

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音楽:土肥泰

   佐藤松子-民謡-

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榊原軍之進:山村聰…字幕黄色

竹中俊子:南田洋子…字幕水色

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野口三郎:宍戸錠

清二:牧眞介

ナミ:河上敬子

岡本房子:芦川いづみ

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幸助:畑中蓼坡

井上医師:武田正憲

岡野:大森義夫

権三:小笠原章二郎

区長:浜村純

山田晴生

久保春二

八字髭:平田未喜造

内山太助:峰尾滋

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岡本茂:中西清二

林英五郎:田口計

林邦夫:野口一雄

バスの運転手:加原武門

伊丹慶治

坂井一郎

稲窪村の農夫:上原一二

喜三:久松晃

浦和地方検察庁萱野支部の検事補佐官:井東柳晴

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清一郎:河野弘

中野伝吉:黒田剛

萱北自動車萱野営業所の職員:衣笠一夫

山之辺閃

澄川透

庭師:小泉郁之助

北浜久

イシ:利根司郎

幸田宗丸

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柴田のおッカァ:田中筆子

お種:紅澤葉子

川尻村の農婦:戸田春子

伝吉の母:三好久子

眸瑠璃子

田中敬

佐々木けい子

浅沼譽子

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前畑村の住民:山本かほる

キヌ:谷和子

福田とよ

三船明子

志茂明子

眞下治子

滝川まゆみ

加藤温子

津田はる子

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お咲:利根はる恵

浦和地方検察庁萱野支部の検事:清水將夫

おろく婆:東山千栄子

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監督・脚本:山村聰

 

クレジットは平田未喜造となってたけど、平田未喜三らしい。

 

主なクレジットなしの出演者

バスを洗車する萱北自動車萱野営業所の職員:高山千草 

浦和地方検察庁萱野支部の検事の部屋にいる男性:三浜元 

村の住民:峰三平

 

女子大生・竹中俊子、大学生・野口三郎、岡本茂、小学校教官・林英五郎の4人で萱野駅前へ。この駅舎は秩父駅なんだそう。

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「思い橋」に出てくる駅前と同じ?

 

バスの車掌に区長が浦和地方検察庁萱野支部の場所を聞くが、バスの運転手も知らない。黒髪の浜村純さんはレアだな。ヒゲ濃い。

 

野口は、あれはフルサト村の!と区長たちに気付く。俊子たちとは知り合い。区長は2度も警察に呼び出され、今回も呼び出された。俊子たちの前に精米店の店主も訪れ、一緒に行こうと誘う。区長は太助はすっかりよくなったのに弱りましたよ…と、今のところ、イマイチ話が見えない。

 

浦和地方検察庁萱野支部

検事に当時の事情を聞かれる区長たち。検事は「ありがとう」第2シリーズの院長先生だ。「ありがとう」でちゃんと知った感じだけど、いろんな作品で見かける。

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区長と一緒にいた権三は血を見て気絶したと答えた。次に東京大学経済学部3年の岡本茂、カンバラ郡カンバラ小学校教官の林英五郎、大阪工業大学建築科3年の野口三郎、東京三ノ橋病院勤務の竹中俊子が呼ばれて、検事の前へ。

 

 

検事は榊原軍之進を知っているか聞く。

 

7月22日、ハイキングに出かけた4人はキャンプ2日目。検事は結婚前の男女が野営するんですか?と聞くと、野口は独活の沢で岩に詩を書きつけたとキャンプの話を始める。

 

テントなどを片付けて山道を歩く6人。俊子たちのほかに岡本の妹の房子、林の弟の邦夫もいる。6人は沙羅の花を見つけ、峠の下の村の子供たちにヤッホーと呼びかけるが、子供たちは気付かない。

 

6人は勝手にフルサト村、沙羅の花の峠と名付け、輪になって歌い始める。この6人が歌ったんじゃないだろっていうプロの歌声。

 

村の子供たちは神輿のようなものを運んでいたが、倒れ、太助は下敷きになりケガを負った。しかし、子供たちはテンション高く、助けを無視し、神輿を担いでいる。

 

岡本は大学卒業後に俊子に結婚を申し込むつもりでいると林に話した。

 

川にいた俊子に結婚を申し込んだのは野口! 宍戸錠さん、この時代は微妙に棒だな。頬にシリコン?を入れる前。俊子は勉強することがたくさんあって結婚は考えられないと断った。

 

薪を運んでいた房子と邦男は子供たちの様子が変だと気付き、野口に教え、野口が林や岡本を呼んだ。

 

太助は腹が痛いと騒いでおり、村人たちも騒ぎ始める。農作業していた太助の母・お咲も呼ばれ、駆けつける。おお、「別れて生きる時も」の美智の母か!

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若いね~。

 

引きつけで目が白くなったと喜三も呼ばれた。家の中に寝かされた太助に柄杓に汲んだ水を口に含んでぶっかける喜三。太助は目を覚ましたが、それでも痛がる。お咲は集まった近所の人にお茶を配る。

 

また引きつけを起こす太助。塩水を飲ませて吐かせてしまえという近所の女性。

 

林は、お咲にお医者を呼んだ方がいいというが、その間も近所の人が腹をもんだり、勝手なことをする。医者がいないと知り、驚く野口。俊子たちも戸惑う。

 

石の懐炉を太助の腹に乗せたが、太助は苦しがって体勢を変えた。俊子はたまらず太助に下痢をしてないか聞いた。林たちは俊子がインターンだと説明。病院勤務と言ってたから看護師かと思ってた。

 

俊子が太助の腹を触診し、アッペ=盲腸だからすぐ手術しなければならないというが、村の人たちは、すぐ医者は切ると言うし、金もたんまり取ると医者を呼ぶことを渋る。

 

しかし、一刻を争うので、野口は、お咲の弟・清二に案内され、医者の所へ走った。

 

おろくが太助のもとへやってきた。「おやじ太鼓」神尾のおばあちゃん! 

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おろくは仏壇に手を合わせ、読経し始めた。林は家から騒いでいる子供たちを追い出した。

 

太助の前に来たおろくは祈祷を始めた。俊子は、こうして待ってる時間がたまんないと林にもらす。

 

おろくは巽の方角に釘ぶったべと指摘。それさえ取っ払っちまえば大丈夫だという。

 

清二の自転車がパンクし、岡本兄弟が自転車を走らせ、追いついた野口の自転車に乗って清二も走った。

 

うわ! おろくばあさん上半身裸で水飲んでる! 当時65歳か。

 

岡野がお咲に薬を渡して、太助にのまそうとしたので俊子が止めた。女だてらに、出しゃばるように聞こえるかもしれませんが…とへりくだって説明しなきゃなんないんだな。林がいなきゃもっと聞いてくれなかっただろうな。あんたたちはよそ者だと薬をよまそうとするので、俊子が再び止める。

 

権三が柴田のおっかぁに手紙を届けに来た。娘のおツヤからの手紙で区長に見せた。3500円の郵便為替まで入っていた。隣のルビーさんは月に10万も稼いでいる。あそこは、かあさんがいい、あんな店なら…芸者さん? 女郎? パンパン?

 

岡本、清二、野口と邦夫は三手に別れて医者を探す。精米店の店先の自転車をすぐ返すと借りた清二だが、ブレーキが壊れて直す前だったので、すぐ転んだ。

 

太助は苦しみ、お咲は仏壇の清一郎の遺影に助けてくださいと祈る。あの写真の感じだと戦争で死んだんだろうな。清二は、お咲じゃなく清一郎の弟か。

 

こうして待っているよりそっと運ぼうと話し、俊子は林に担架を作ってほしいと頼むが、村人は戸板で運んだ方がいいという。

 

おろくばあさんは五寸釘を抜いたんでもう安心だと帰って行った。

 

村の人に前畑という場所を聞いた野口と邦夫。清二も岡本もそれぞれ自転車を走らせる。

 

太助を戸板に乗せ、家を出た。村人もぞろぞろついて歩く。

 

清二は稲窪の医者について聞く。

 

岡本も医者がいないか聞くが、おばあさんはすぐそこだでとゆっくり歩く。

 

ぞろぞろついて歩く村人たちに喜三と区長はここで帰ってもいいというが、村人たちはこうなったら峠の上までついていくと歩き出す。本家の家だからお振る舞い目当てってのもあるのか。

 

清二がたどり着いた高橋病院だが、高橋は年寄りで3年前に医者はやめてると断った。中風のよいよいだって。

 

岡本がたどり着いた松本先生宅は婚礼に呼ばれて奥さんの里に呼ばれて2~3日戻ってこないと庭仕事をしている男に言われた。

 

野口がたどり着いた家で医者について情報をつかんだ。

 

森の中を歩く太助たち一行。苦しむ太吉のそばで子供たちは遠足のようにはしゃいでいる。田舎の人の描き方が嫌だね、田舎の者として。

 

峠を歩いていると、イシという男が鉄砲を持って歩いていた。今は営林も厳しいんだぞ、お前が鉄砲持ってるから太吉が病気になったんだぞ!と区長まで変なこというんだな。イシはヤベー奴かと思ったら素直に戸板を運ぶのを手伝った。

 

野口と邦夫がようやくたどり着いた中野伝吉の家。奥で料理をしていたおばあさんは耳が遠く、帰ってきた娘のナミは新村から帰ってきたという。しかし、先生は酒に酔ってるかもという。

 

清二は自転車を返しに行き、精米店店主に医者を頼んだ。

 

ここでようやく榊原軍之進が出てきた! たった3票の差で落選しよったと笑っていた。榊原は元軍医で死んだ部下の形見を持って訪ねてきて、酒を飲んで居座り、伝吉の妻までかわいがって、と精米店店主が清二に説明した。

 

店主は榊原のせいで村会議員に落ちたといって榊原を嫌っており、会いとうないと案内を断ったが、合流した岡本と清二で無理やり自転車に乗せた。

 

野口たちが頼んでも榊原が断るので、寝ている榊原をリヤカーに乗せて、無理やり連れだそうとすると、ナミは医療用具の入った箱をリヤカーに積んでくれた。

 

峠で一休みする太助たち。ここで区長にあれこれ頼みごとをする村人たち。

 

それにしても浜村純さんはずっとスリムだな。だから長生きしたんだろうな。昭和の俳優で気になる人を調べると、太ってる人は大体短命だもん。

 

清二と岡本が店主と自転車を走らせると、リヤカーと鉢合わせした。わんこも一緒について走ってる~。自転車に乗りながら、あんぱんをかじる。店主と別れて行こうとしたが、店主もここから歩いて帰れってのかとついて来た。途中で道端の湧水を飲んで休憩していると、榊原を乗せたままのリヤカーが崖から降り爆発!?!?

 

あ、急に戦争の回想シーンに入った。榊原は中野一等兵が亡くなったことを夢を見て、おめえみたいないい奴が死んじまうなんてと何度も繰り返した。

 

峠を歩くうち、お咲は花嫁衣装を着て、馬に乗って嫁入りしたことを思い出す。馬を引くのは夫の清一郎。そのうち、清一郎は出征。村人たちに送り出される。

日本陸軍

日本陸軍

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出征の時といえばこの歌だね。

 

お咲は軽い貧血で倒れていた。お咲まで倒れたので俊子に文句を言い始める村人たち。太助は白目をむいて動かなくなった。俊子が頬をたたいて起こし、馬乗りになり、おなかを下から上にさする。心臓マッサージ的なもの?

 

目を覚ました太助だったが、息は荒い。俊子は暑さと痛みで気を失ったんだと思いますと説明した。まだ文句を言う男たち。区長は峠の上まで行った方がいいと言い、俊子たちが戸板を運ぶ。イシは銃を放ち、助けてくんろ~!と叫ぶ。

 

清二たちも銃声に気付き、猟期でもないのにないのに猟銃ぶっ放すヤツがいると話していた。次にホイッスルを鳴らす林に気付いた岡本と野口。林なら10秒間隔だと時計を見る。登山をやってるから救援信号とか応答信号とか知ってるのか。

 

ようやく山で合流できた。木陰に戸板を置き、グダグダの榊原をリヤカーから降ろした。邦夫は「先生、薬」とナミから預かった焼酎を渡した。おいっ!

 

苦しむ太助に診察する榊原はここで手術することに決めた。湯、沸かせってそんな簡単に! 太助の叔父である喜三は榊原に手術をしてほしくないようなことをいうので、榊原もやめたやめたと酒を飲み始めた。お咲は主人の残した一人息子で助けてくださいと頼んで、榊原もようやくやる気になった。

 

清一郎

清二

喜三が兄弟だろうか?

 

キャンプ用品があったから、飯盒で湯を沸かしたのね。榊原は上半身裸でマスクをし、俊子を助手に手術を始めた。

 

おなかに布はかかっているものの手術を見て倒れる者も…

 

手術が行われたのが沙羅の花の木の下なのね。

 

太助が助かり、村では俊子たちが歓迎され、昼間のことは勘弁してくださいと謝られた。太助が助かったのは最初から分かってたので安心だったけど、昔の邦画は子供が容赦なく死んでしまう展開になるよね~。

 

俊子たちは火を囲んで今日のことを語り合う。元々、キャンプ2日目だから、太助の家に泊まったりしないのね。房子は感動で泣き始め、俊子は母があんなことで簡単に死んでしまったから一日も早く医者になりたい、あと3年、私に気が散るようなことは言っちゃダメとクギをさし、きっと立派な医者になると誓った。

 

ここまでが長い回想だったのね。再び、浦和地方検察庁萱野支部

 

なぜ俊子たちが呼ばれたのか。検事は榊原が獣医であったことを告げ、俊子たちは驚く。榊原は百姓をやっていて医者は辞めている。田舎だから獣医では食えないと語る。

 

医師法第17条に違反した者は2年以下の懲役、または2万円以下の罰金。緊急避難という正当防衛的な法があり、罪とならないともいう検事。今回のことは罪にならないと思うが、これまでも医療行為をしていると告発したのは精米店店主。

 

榊原は、とにかく医者がおらんのが悪いと主張。医者は食えん、営業にならないと言う。

 

検事「医者は営業でなければならんのかね?」

榊原「営業であってはならんのですか?」

検事「いや、私に聞かれても困るがね」

 

長い沈黙の後、沙羅の木が映り、終わり。

 

えっっっ! 禅問答みたいな!? 

 

俊子が病院勤務というので看護師と思い込むのをジェンダーなんとかって言うんだっけ。村の人がのんびりしすぎて腹立った。深刻なのは俊子たち”よそ者”とお咲だけ。区長は俊子たちに文句を言う村人たちに一度も同調せず、俊子たちをかばい続けてるのはよかったけど。榊原までたどり着くのがちょっと長すぎたような。