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【ネタバレ】別れて生きる時も 第三十七章「慟哭の妻」その四

TBS 1978年2月23日

 

あらすじ

美智(松原智恵子)は麻子を連れ、九州の海辺の村にかけつけた。南方へ送られる井波(中野誠也)は死を覚悟し、上官の命を破り妻へのメモを知人に託したのだ。親子三人わずか五時間の再会だった。 一年が過ぎたある日、美智は石山(速水亮)に会った。彼は松本(織本順吉)の軍需工場の担当将校だった。独身の石山に結婚を勧める美智。やがて井波の戦死公報がきた。

愛の花

愛の花

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2024.10.8 BS松竹東急録画。

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原作:田宮虎彦(角川文庫)

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井波美智:松原智恵子…字幕黄色

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松本:織本順吉

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吉岡俊子:姫ゆり子

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吉岡純子:神林由香

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井波麻子:羽田直美

職員:三川雄三

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音楽:土田啓四郎

主題歌:島倉千代子

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脚本:中井多津夫

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監督:八木美津雄

 

このドラマで初めてナレーションのない回。

 

松本製作所

美智が社長室へ。「社長、役所に出す書類です」

松本「ああ、どうもご苦労さん」

美智「あの…すいませんが、今日はこれで」

松本「ああ、いいよ。しかし、吉岡の奥さん。なんだってまたあんな丈夫な人が…」

美智「やっぱり働きに出てから無理をなさったんじゃないでしょうか。一日中、洗濯や掃除やらで休む間もないそうですから」

松本「あの人、お人よしだからね。なんでも引き受けちゃうんだろう」

 

美智「ええ。でも今朝はびっくりしました。純子ちゃん泣いて駆け込んできて、お母ちゃん、朝になっても起き上がれないって。私、急いで行ってみますと、奥さん、39度の熱を出して…」

松本「悪い病気じゃなきゃいいがね」

美智「お医者様は風邪だろうとおっしゃってましたけど」

松本「で、純子ちゃん、今日は学校休んで看病してるのかね?」

美智「そうなんです。ですから、私も早く行って、お夕飯の支度をしてあげたいと思いまして」

松本「私、人に会う約束があるんでね、夜にでもちょっと顔出してみよう」

美智「お願いします。じゃ、お先に」

松本「はい」

 

美智がいなくなって、書類を見るのに指をペロッとなめる松本社長。

 

夜、吉岡家を訪ねた松本。「ごめんよ。あっ、お母さん、病気なんだって?」

純子「うん」

松本「ふ~ん、ちょっとお邪魔するよ」

俊子「どうぞ」布団に横になっていたが、起き上がって1枚羽織った。

松本「あっ、そのままそのまま。起きなくてもいいよ」

俊子「もう大丈夫ですから。ほんとに申し訳ございません。すっかり皆さんにご迷惑かけてしまって」

 

松本「いや、そんなことはいいんだが…それで病気のほうは?」

俊子「はい。お医者様はいろいろ調べてくださったんですけど大して心配はない。風邪だろうって」←字幕は”お医者”になってたけど、ちゃんと”様”つけてたよ。

松本「ふ~ん。急に働きに出るようになったんで、無理がたたったんじゃないのかね」

俊子「ええ。でももう心配はないからって、おっしゃってくださってますから。純子ちゃん、お座布団」

松本「うん? ああ、いいんだ、いいんだ。ねっ。とにかくね、体には気をつけないと、ねえ。大病でもしたら純子ちゃんかわいそうだもん。なっ? ハハハッ。石山中尉にはね、電話でよく頼んどいた。あしたも休ましてもらうように」

 

俊子「いいえ。あしたは大丈夫です。無理さえしなきゃいいんですから」

松本「いいや、ダメダメ。とにかくね、あしたは休みなさい」

俊子「はい」

松本「今、知り合いに寄ってね、卵を譲ってもらってきたんだ。精がつくようにね」

俊子「まあ、そんなことまで…」

 

松本「1つ飲んでみるかい? 元気が出るよ。え~と、お皿は?」純子を見る。

俊子「あっ、私が…」

松本「ああ、立っちゃいかん。寝てなさい。ねっ。純子ちゃん、手伝ってくれるか?」

純子「うん」

俊子「すいません。あの…左の棚の上にありますから」

松本「ああ、あったあった。はい、そっち行ってね。私はね、風邪をひくとね、よくこの卵で卵酒を作って飲むんだ。あっ、純子ちゃん、おしょうゆは?」

しょうゆを取りに行く純子。

松本社長は卵を割って皿に落とした。「純子ちゃんにもあとで飲ましてあげるからね」皿にしょうゆをたらす。「純子ちゃん、お母ちゃんになんかあったらね、すぐ井波のおばちゃんとこに走っていくんだよ」

純子「うん」

松本「ねっ」

 

松本社長、卵酒を作って飲むんだよと話してたけど、俊子には生卵にしょうゆをかけたものをそのまま渡してて面白い。

 

俊子が突然泣き出す。

松本「どうしたんだね? 急に」

俊子「なんだか心細くなってしまって…」

松本「純子ちゃんもいるんだから、ねっ。早く元気を取り戻して頑張らなきゃ」

俊子「はい」

松本「さあ」

俊子「すいません」

 

井波家

麻子は就寝中、美智は編み物をしているところに松本社長が訪ねた。「美智さん、松本だよ」

美智「はい、どうぞ。いらっしゃい」

松本「吉岡さんの所へお見舞いに来たんでね、ちょっと寄ってみた」

美智「さあ、どうぞ。お上がりになって」

松本「ああ、それじゃ麻子ちゃんの顔を見てくかな」

美智「さあ、どうぞ。吉岡さんの奥さん、いかがでした?」

松本「うん。もう平熱に戻ったしね。あした一日休めば大丈夫だろう。あれ? 麻子ちゃん、もうこんな時間に…」

美智「そうなんです。いつ空襲警報があるか分からないから早く寝ないと寝不足になりますでしょ?」

松本「なるほど」

 

美智「私、今、お茶を」

松本「ああ、もうお構いなく。すぐおいとまするからね。へえ、この部屋いつ来ても変わらんね。井波さんのにおいがぷんぷん漂っていて」

美智「そうですか?」

松本「井波さんがいたときとおんなじままだからね。今にもそっからこんばんはって顔を出すんじゃないかって気がするよ」

美智「そうだとほんとにいいんですけど」

 

松本「へえ、今どきウイスキーなんて珍しい物があるね」

家族写真と井波の写真の間にウイスキーが置かれている。

美智「あっ、社長。お忘れですか? そのウイスキー社長に頂いたんです」

松本「私が?」

美智「井波が出征する前の晩、井波に飲んでくださいって。社長が吉岡さんの奥さんに言づてになったんです」

松本「へえ、そんなことがあったかね。それがどうして?」

美智「戦争が終わって無事に帰ってきたとき、ゆっくり飲もうって井波がそう言うもんですから大事に飾ってあるんです」

松本「ああ…」

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何でそんなにすっぱり忘れてるんだよぉ、松本社長。あと、ウイスキーは美智が勧めたけど、井波が欲しくないと言うんで、美智が帰ってくるまでしまっときますと言っただけ。井波さんは必ず帰ってくる的なことは全然自分からは言わなかったよね。

 

松本「井波さん、今頃どこで何をしてるかな。早く無事に帰ってくるといいいんだが…」

 

井波家を男性が訪れ、何度も「ごめんください」と言いながらノックする。

 

吉岡家

繕い物をしていた俊子の元へ男性が訪れた。

職員「あの…役所の者ですが」

俊子「何か?」

職員「お宅、この先の井波さんと大変親しくしていらっしゃるってお伺いしたもので」

俊子「ええ、そうですよ。親戚同士みたいなもんですからね」

職員「井波さんの奥さん、今、どちらに?」

俊子「毎日、働きに出てらっしゃいますから昼間は留守なんですよ」

職員「ああ…」

俊子「なんでもおっしゃってくださいな。私、伺っといて夜分にでも奥さんに伝えておきますから。井波さんとことはどんなことでもツーカーになってるんですよ」

職員「はあ、そうですか。それじゃあ…これ、お渡し願えますか?」カバンから封筒を取り出して差し出す。

 

俊子「なんですか?」

職員「戦死の公報です」

俊子「戦死? 井波さんが?」

職員「それじゃ、お願いします」

 

俊子「あ…あの…」職員はそのまま出ていってしまった。

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無責任な役場職員役の三川雄三さんは「本日も晴天なり」では電報の配達夫でした。

 

松本製作所

美智「麻子! 邪魔しちゃダメよ」

麻子「うん」

美智「お砂遊びしなさい」

麻子「はい!」

 

電話が鳴り、美智が出た。「もしもし、松本製作所ですが…はい、井波です。あら、奥さん、大丈夫ですか? 起き出したりして。何か急用でも? 社長は今、お出かけなんです。何か?」

俊子「ええ、それが…あの…社長さんじゃないと分からないことなの。じゃ、またあとでかけるわ」

美智「あの…よろしかったら私が代わりに伺っときましょうか。奥さん、ご病気のことで?」

俊子「いえ、そういうわけじゃ…あの…じゃあ、社長さんにこう伝えてくださいな。今夜、うちに来てほしいって。必ず来てくださらなくては困りますって。そう伝えてくださいね。お願いします」

 

いつも出てくる公衆電話。戦時中のドラマで一般庶民がしょっちゅう電話でやりとりするシーンが出てきたり、会社のデスクに複数台電話が置いてあってやりとりしてるのって珍しいと思う。

 

社長室に入ってきた松本社長とあとにつづいて入ってきた美智。なぜかイライラしている松本社長。

 

松本「どんな用事があるっていうんだ? 病気がひどくなったならともかく」

美智「病気のことじゃないって言ってました」

松本「そんな急用があるんだったらね、美智さんに話しといてくれたらいいじゃないか。美智さんに話せないような用件があるわけないじゃないか」

美智「必ず来てもらわなきゃ困るって」

 

松本「いや、私はね、あの奥さんから、そんな言い方される覚えはないね。夫婦じゃあるまいし。あんただからいいようなものの人が聞いたら変に思うよ。全く」

美智「特別な事情があるんじゃないでしょうか」

松本「いや、私は行かないからね。美智さん、帰りに寄ってね、どんな用があるかはっきり聞いといてくれないか?」

美智「でもどうしても社長にって…」

松本「いや、私はね、今夜用事があるんだよ」

美智「あの…遅くなっても結構ですから、私からもお願いします」

松本「いや、分からんね、どうか」

 

吉岡家を麻子をおぶった美智が訪れた。「ごめんください。あっ、純子ちゃん。お母ちゃん、加減どう?」

純子「もうすっかり治ったんですって」

美智「そりゃよかったわね。奥さん! 奥さん!」

 

純子「寝てるの」

美智「寝てる?」

純子「グーグー寝てるの」

美智「こんな時間に? 病気のせいじゃないの?」

首を横に振る純子。

美智「ほんと?」

うなずく純子。

美智「そう。純子ちゃん、お夕飯どうするの?」

純子「お母ちゃんがこしらえてくれたの」

美智「あっ、そうなの。じゃあね、おばちゃん、あしたの朝、また来ますから。それから社長さんはね、用事があって遅くなるかもしれないって、お母ちゃんにそう言っといて」

純子「はい」

美智「じゃ、さよなら」

純子「さようなら」

美智たちが出ていった。

 

純子「おばちゃんにどうしてウソを言わないといけないの? おばちゃんとケンカでもしたの?」

俊子「ううん。そうじゃないの。わけがあったの」

純子「私、おばちゃんにウソなんてつくの、もうイヤ」

俊子「ごめんね。さあ、ご飯にしよう。ねっ」

 

井波家

美智「お父ちゃんにただいまって言いましょうね、さあ。ここに座って。あなた、ただいま帰りました。はい」

麻子「ただいま。お父ちゃん、いつ帰ってくるの?」

美智「そうね。麻子がね、いい子にしてたら、お父ちゃん早く帰ってきてくれるわよ。あなた、麻子も待ってますから早く帰ってきてね」

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回想

井波<<美智。僕が出征するときに言った言葉、覚えてるだろ? 僕たちは別れていてもいつも心の中では一緒なんだ>>

美智<<イヤ。心の中だけじゃイヤ>>

井波<<美智、もう時間なんだ>>

美智<<行かないで>>

井波<<点呼に遅れると大変なんだ。麻子を頼むぞ>>

美智<<行かないで>>泣き出す。

回想終わり

 

吉岡家

松本「ごめんよ」

俊子「社長さん」

松本「あんた、私に何か話があるそうだね。いや、私もね、この際はっきりしたほうがいいと思ってね。あんた、誤解されちゃ困るんだよ。私はただね、昔、私の所にいた従業員の吉岡さんの奥さんとしてだね」

俊子「社長さん…」

松本「いや、つまりね、私も1人暮らしだし、変な噂が立ったら困ると思って、それでちょっと言いに来たんだよ」今にも帰りそうな感じ。

 

俊子「ちょっと待ってください、社長さん。そうじゃないんです。井波さんが…戦死したんです」

松本「井波さんが戦死!?」

俊子「はい」封筒を差し出した。

受けとる松本社長。

俊子「奥さんがお留守でしたので、私が…」

 

戦死公報を広げて見る松本社長。「で…美智さんには、まだ?」

うなずく俊子。

松本「どうして! こんな大事なことを…」

俊子「私の口からは、とても…だから社長さんに」

 

井波家を訪れた松本社長。

美智「あっ、いらっしゃい」

松本「やっぱり気になったんでね、吉岡さんの所へ行ってきた」

美智「行ってくださると思ってました。何か変わったことでも?」

松本「いや、別に…あっ、ちょっとお邪魔するよ」

美智「どうぞ」

 

松本「ああ、相変わらず眠ってるね」

美智「はい。私、お茶を」

松本「いや、もう構わんでくれ」

美智「でも…」

松本「美智さん、実は…」

美智「は?」

 

松本「ハァ…いや、今日はね、朝から仕事のほうがうまくいかないし、イライラしどおしで…吉岡さんの奥さんからは呼びつけられるし、できたらね、一杯、グッとやりたいところなんだよ」

美智「じゃあ、社長に頂いたウイスキー開けましょうか」

松本「いや、美智さん…」

美智「社長がお飲みになるんでしたら、井波だって怒りませんから」

松本「美智さん、これはいけないよ。これはやっぱり…ハァ…」

 

美智「社長、何かあったんですね。奥さんとこで何か」

松本「美智さん。こんな役引き受けなきゃよかった」

美智「社長、どうなさったんですか?」

松本「美智さん。私はね、いつまでも…いつまでもあんたの父親のつもりでいるからね。どんなときでも…どんなに苦しいときでも悲しいときでも、自分には父親がいるってことを忘れんでほしい。それは約束してくれるね? それにあんたには麻子ちゃんというかけがえのない子供がいるってことも忘れちゃいけないよ。実はね…実は井波さんが…戦死されたんだ。今日、戦死の公報が入って、美智さんの代わりに吉岡さんの奥さんが受け取ってくれたんだ」

首を横に振る美智。

 

松本社長はテーブルの上に戦死公報を広げた。

美智「ウソ…ウソです。そんなものウソに決まってます。ウソです…ウソです」

松本「そりゃ私だってウソだと思いたいさ。しかし、こうして公報が入った以上、この事実は受け止めなきゃいけないと思うんだ。すぐ吉岡の奥さんに来てもらうからね。美智さん、しっかりするんだよ」出ていく。

 

美智は写真を手にする。「あなた。ウ…ウソでしょ、ねえ、あなた。ウソでしょ? 必ず帰ってくるって約束したんだもん。ねえ、あなた。ウソでしょ、ねっ。あ…あなた、ウソでしょ? ねえ…あ…あなた、ウソ…ウソでしょ、ねえ、あなた!」(つづく)

 

この週は毎回、回想があって歌カットって感じね。あらすじ読んじゃってたのと、石山再登場でなんかちょっと察しちゃう。