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【ネタバレ】別れて生きる時も 第二十六章「信頼の絆」その三

TBS 1978年2月8日

 

あらすじ

井波(中野誠也)と結婚して半年、美智(松原智恵子)は初めて知る幸せをかみしめた。 新聞社の嘱託となった夫を助けるため美智も印刷会社で働いた。二人は愛と尊敬、信頼で固く結ばれ、しつこい小野木(伊藤孝雄)のいやがらせにも揺るがなかった。やがて二人の間に女の子が生まれ麻子と名づけた。昭和十六年十二月の開戦以来、男たちは次々と戦場に送られていた。

愛の花

愛の花

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2024.9.23 BS松竹東急録画。

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原作:田宮虎彦(角川文庫)

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井波美智:松原智恵子…字幕黄色

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吉岡俊子:姫ゆり子

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医師:穂高

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田切:叶年央

ナレーター:渡辺富美子

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井波謙吾:中野誠也

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音楽:土田啓四郎

主題歌:島倉千代子

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脚本:中井多津夫

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監督:八木美津雄

 

井波家

美智「あなた、風呂敷」

井波「うん」美智に風呂敷を渡し「はい、これも」と本を渡す。

美智「はい」本と弁当箱を一緒に包んでいる。

 

井波があくび。

美智「ほら、遅くまで仕事するからよ」

井波「フッ、ハハッ」ネクタイを締めようとする。

美智「あなた、ちょっと待って」

井波「うん?」

美智「そのネクタイ1週間もしてるじゃない」と別のネクタイを渡す。

 

小野木は靴下もはかせるような男だったけど、井波さんは自分で何でもやるね。それが普通なんだろうけど。

 

<美智が井波と結婚して既に半年余りの日々が流れていた。今も2人そろって出勤する毎日だったが、心配していた小野木の姿も現れず、一日一日が愛し合い、尊敬し合う幸せな日々だった>

 

先に家を出た井波は外で大きく伸びをする。美智も出て、玄関に鍵をかけて、その鍵は玄関の脇の窓の桟に置いてる?

 

<しかし、この間にも大東亜戦争は広がる一方で国を挙げての総力戦となっていた。2人の幸せもやがては戦争という魔の手で引き裂かれる運命かもしれなかった>

 

一緒に出勤。しかし、戦中感ないよねえ。井波さん普通のスーツだし、美智も白いブラウスに鮮やかな青のスーツだもん。結婚半年ということは、さすがに昭和16年になり、「岸壁の母」でいうなら新二が旧制中学で小宮君という友達と山登りしたあたり。

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昭和16年の「岸壁の母」はこんな感じの色合い。

 

井波「じゃあ、1時半にね」

美智「遅れちゃイヤよ」

井波「遅れるのは、いつも君じゃないか」

美智「私は遅れません」

井波「フフッ」

美智「いってらっしゃい。あっ、あなた。ゴミがついてる」背中のゴミを払う。

井波「ああ」

 

お寺の前で別れて、それぞれの職場に歩きだす。「将棋道場」の看板が立ってた。

 

井波の働く出版社に井波が出勤。

新聞を読んでいた小田切。「井波さん。日本も強いけど、このドイツってのは、すごい国ですね。いや、これ読んでるとスターリングラードの攻略作戦を始めるのは、もう時間の問題ですよ。いや、ドイツは日本にソビエトを攻撃しろって、けしかけてますけど、日本がどう出るかだな。井波さん、どう思いますか?」

井波「さあね。あっ…今日、女房と映画を見る約束してんだけどね、君も一緒に来ないか?」←戦局にあまり口を出さないのは余計なことを言わないようにかな。

田切「いや、降参ですね。井波さん所は夫婦仲がいいですからね」

井波「フフッ」

田切「僕みたいな独り者(もん)は、そばにいるだけで頭がのぼせちゃいますよ」

井波「フフッ、そんなことないよ。おごるからさ、つきあえよ」

 

田切「いやね、実は今日、実家へ帰ろうと思ってるんですよ」

井波「実家って網代(あじろ)か?」

田切「ええ。どうぞ」従業員たちにお茶を配る。「一月(ひとつき)ばかり帰ってないもんですからね。おふくろがうるさくて。ヘヘッ」

井波「ふ~ん。じゃ、まあ生きのいい魚でもたくさん食べとくんだな」

田切「ええ」

井波「フフッ」

 

田切「そうだ。井波さん、よろしかったら奥さんとご一緒に一度、僕のうちへ遊びにいらっしゃいませんか? 魚だったら、いっくらでもごちそうしますよ」

井波「悪くないね」

田切「土曜の晩から来ていただければ、ゆっくりできますよね?」

井波「じゃ、一度、遊びに行こうか」

田切「ぜひどうぞ。大歓迎です」

井波「ハハッ」

 

茶店

美智「あっ、うれしい。ぜひお邪魔したいわ。私、海が大好きなんです」

田切「ああ…じゃ、もっと早くお誘いすればよかったな。え~とね、今度、僕が帰るのは月末の土曜日なんです。そのとき、いかがですか?」

美智「ぜひ。ねえ、あなた」

井波「うん」

美智「お願いします」

田切「はい。いや、船に乗って磯釣りに出ると楽しいんですよ。船の上で釣った魚を刺身にして食べるんです。出刃包丁でこう、パッと腹を裂いてですね。はらわたをパパパッと出して、海の水でちゃちゃちゃっと洗うんですよ」

美智が口を押えてせき込む?

 

井波「どうしたんだ? 美智」

田切「奥さん、魚お嫌いなんですか?」

美智「いえ、そうじゃないんですけど」

井波「好きだよな?」コップの水を渡す。

田切「じゃ、僕の話が生々しかったのかな」頭をポリポリ。

 

美智「ハァ…失礼しました」

田切「いえ」

井波「どっか具合悪いのか?」

美智「ううん。ここへ来るとき走ってきたから」

田切「いいな。僕のためにも走ってくれるような女性が欲しい。ああ、いけねえ。しゃべってるうちに汽車の時間が来ちゃいました。じゃ、僕、これで失礼します」

井波「ああ」

 

田切「あっ、奥さん。今のうちに旦那さんに映画に連れてってもらうことですよ。いつ戦争に駆り出されちゃうか分かったもんじゃありませんからね。井波さん、コーヒー代ごちそうになりますよ」

井波「ああ、いいよ」

田切「また当てつけられちゃいましたからね。じゃ、また」店を出ていく。

井波「気をつけてね」

田切「はい」

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田切役の叶年央さんは「男たちの旅路」の第1部の1、3話に出演。声優もやってたみたいだけど、出演歴は80年代でパッタリ途切れてる。

 

美智「小田切さんって陽気な方ね」

井波「うん。伊豆の山持ちの一人息子でね、あれでなかなか文学青年なんだよ。さてと…映画、何見ようか?」

美智「私、なんでもいいわ」

井波「なんだよ、頼りない返事だなあ」

美智「映画見るより日比谷公園散歩したほうがよっぽど楽しいわ」

井波「何言ってんだよ。せっかく出てきたのに。顔色悪いけど大丈夫か?」

美智「大丈夫」

井波「そんなに走ったの?」

美智「遅れない約束だったでしょ? 電車の中も走ってきたんですよ」

 

美智って真顔で面白いこと言うタイプ。井波さん大爆笑。

 

すっかり暗くなったころ、帰ってきた2人。

美智「とてもよかったわ」

井波「君、映画を見ながら泣いてたろ?」

美智「あら、見てたの?」

井波「ハハハッ」

美智「つい、もらい泣きしちゃって。ねえ、あなた、今度は喜劇が見たいわ。また連れてって」

 

岸壁の母」ならすかさず当時上映した松竹映画の話題でも出しそうなところ、このドラマって、当時の歌とか流行りものを全く出さないからな。

 

井波「ああ」鍵を開けて家に入る。「ちょっと待って。電気つけてくるから」

美智「はい」

 

井波「腹が減ったな。お茶漬けでも食べようか」

美智「はい。塩ジャケがあったわ」戸棚から鮭を取り出し、流しに立つが、しゃがみ込んでしまう。

 

冷蔵庫のない時代、生魚?も普通に戸棚にしまってある。「おやじ太鼓」の時代(昭和40年代)すら冷蔵庫があっても、おかずを戸棚に入れてたような。

 

井波「美智、どうしたんだ? 美智」

美智「なんだか急に気分が悪くなって…」

美智の額に手を当てる井波。「熱はないようだけど」

美智「心配しなくて大丈夫。じき、よくなるから」

井波「医者に診てもらったほうがいいんじゃないか?」

美智「ううん。もう、よくなったわ」立ち上がってマッチ箱を手にする。

 

井波「大丈夫か?」

美智「ほんとに大丈夫だから、あなた、向こうで休んでて」マッチでガスに火をつける。

 

明かりを消して寝ようとした美智だったが、また気分が悪くなり、台所へ。

 

この時代、まだ灯火管制もしてないから戦時中っぽく見えないのかも? 「岸壁の母」なんて子供新二の時代(昭和8年)に灯火管制エピソードやってもんね。

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”アブラムシ”というのは昔の”ゴ×××”の別の言い方だと知った回。そうか! こういう、昔はこうだったんだよというのが一切ないんだよな、このドラマって。

 

流しで吐いている美智の背中をさする井波。「大丈夫か?」

美智「あなた、ありがとう」

井波「どうしたんだい? 医者、呼んでこようか?」

美智「いえ」

井波「でも、万一のことがあると大変だから」

美智「あっ、待って。病気じゃないの」

井波「だって、美智…さあ、横になれ」

美智「違うの。多分…」

井波「うん?」

美智「赤ちゃんが…」

井波「赤ちゃん?」

美智「あした、病院行って診てもらいます」

井波「赤ちゃんができたのか」

美智「診てもらうまでは、まだなんとも」

井波は美智を抱き寄せた。「美智…美智」

 

産科、婦人科の岩崎醫院

医師「奥さん、何も心配ありませんよ。おめでたです」

美智「じゃあ…」

医師「ちょうど三月(みつき)ですよ」

美智「ありがとうございます」

医師「体に十分、気をつけて。お国のためにいい赤ちゃんを産んでください」

美智「はい」目がキラキラ。

 

井波の働く出版社

着信音が鳴り、井波が出た。「あっ、もしもし。はい、そうです。は? あっ、少々お待ちください。昨日、回ってきた新聞の翻訳、いつできるかって」

田切「今日中にできます」

井波「もしもし、今日中にできます。ええ、承知しました」受話器を置いて、タバコスパスパ。

 

田切「井波さん、今日、朝っから落ち着きませんね。なんかいいことでもあるんですか?」

井波「い…いや、ちょっとね」

 

再び着信音が鳴り、井波が出た。「あっ、もしもし。えっ? あっ、美智か、僕だよ。で、どうだった?」

美智「ねえ、よく聞いて。先生ね、こうおっしゃったの。『いい赤ちゃんを産んでください』って」

井波「そうか、そりゃよかった。いい赤ちゃんを産んでくださいってか」

田切「あっ、できたんですか? 奥さん、おめでとうございます」

井波「よかった。美智、ありがとう」

感動の面持ちで受話器を置く美智。”お国ために”は言わなかったね。

 

薄焼きいわしのCM、出演者が一新され、若返ってる…そんな若い人じゃなくてもいいじゃないと思ってしまう。山瀬まみさんなんて若者だよ!(暴論)

 

夜、ウキウキで帰ってくる井波。「美智、ただいま!」

美智「おかえんなさい」

井波は家に入ってくるなり、美智を抱きしめる。「美智、ありがとう。ほんとに丈夫な子供を産んでくれよな」笑顔でうなずく美智をお姫様抱っこする。

美智「あなた…」

井波「ハハッ、なんだ、こんな軽いんじゃ、ほんとに子供ができたのかな?」

美智「フフフッ」

井波「でもさ、そのうち、おなかもどんどん膨らんで体重ももっと倍ぐらいになるぞ」

美智「ハハッ、あなた。あの…あなた…」

井波「万歳! 万歳~! 万歳!」美智を抱えたままクルクル回る。

 

美智「あなた、奥さんが…」

井波「うん? あっ…どうも」スッと美智をおろす。

 

俊子「万歳はいいけど、そんなことしてて転んだりしたら、おなかの赤ちゃん、一大事になるわよ」

美智「すいません。恥ずかしいところお見せしちゃって」

井波「大丈夫か?」

美智「出産のことで、どんなことに気をつけたらいいか奥さんにお話しを伺ってたの」

俊子「フフッ、いくらお話ししたって、そんなむちゃされるようじゃ、なんのお役にも立ちませんね」

井波「すいません。気をつけます」

 

俊子「じゃ、私これで」

井波「あっ、どうぞ。ごゆっくりなさってってください」

俊子「いえいえ、お邪魔なようですから」

井波「いや、奥さん…どうもすいませんでした」

俊子「あまり仲のいいところを見せつけられると思い出すまいと思っても、つい主人のことを思い出してしまうわ。おやすみなさい」

美智「わざわざすいませんでした。おやすみなさい」

俊子が帰っていく。

 

美智「あなたがあんなことするからよ」

井波「奥さんがいるんならいるって初めから言ってくれりゃよかったんだよ」

美智「だって、あなたったらすぐに…」

井波「ごめん、ごめん」

 

井波さん、女性陣に逆ギレされて、ちょっとかわいそう。それなのに自分から謝っちゃう。

 

井波「さあ、座って。美智、よくやった」

美智「フッ、変な言い方」

向かい合って手を握り合っていた井波が美智の隣に座る。「ああ…ほんとに夢のようだ。フフフフッ」

 

美智「ねえ?」

井波「うん?」

美智「奥さん本気で怒ってたみたい」

井波「そうかなあ」

美智「そうよ。初めは冗談が本気になって…」

井波「じゃ、あとで僕、謝りに行ってこようか」

美智「おかしいわよ。わざわざ謝りに行くなんて。ねえ、小田切さんに頂いたアジの干物があったでしょう。お食事が済んだら、あれを持って奥さんちへ遊びに行かない?」

井波「ああ。あっ、そうだ。純子ちゃんには配給のキャラメル持ってってあげようか」

美智「うん」

 

井波「そりゃそうと、赤ん坊ができたんだからね。勤めのほうは辞めさせてもらったら?」

美智「ええ。あした大垣さんに話してみます」

井波「僕からも電話で話しとくよ。それから、松本さんにも話しとかなきゃね」

美智「はい」

 

井波「フフフッ、ああ…俺もいよいよ親父になるのか。頑張んなきゃな」

美智「でも、あんまり無理しちゃダメよ。あなただって大事な体なんだから」

井波「僕のことより自分のことを心配するんだな。このおなかの中には、かわいいおぼっこがいるんだから」

美智「おぼっこ?」

井波「うん。僕の故郷(くに)ではね、赤ん坊のことを『おぼっこ』っていうんだ」

美智「まあ…フフッ」

井波「フフフフ…」

dictionary.goo.ne.jp

井波さんの故郷は宮城県だけど、ネットだと岩手の方言として出てくる。私は岩手出身ですが、小さい”つ”のない「おぼこ」という言い方は知ってる。井波さんの故郷は岩手寄りの宮城県北なのかもね? そして、おのつかない「ぼっこ」だと「棒」の意味になります。

 

また美智をお姫様抱っこする井波。

美智「あっ、あなた、ダメよ。奥さんに言われたばかりでしょ?」

井波「あっ…ごめん、ごめん。フフフッ」

美智「さあ、あなた、着替えましょう」

井波「うん」

 

後日、吉岡家に行った美智。

俊子「あっ、いらっしゃい」

美智「ちょっとお伺いしたいことがあって」

俊子「ああ、そう? どうぞ」

美智「はい、お邪魔します」

 

俊子「散らかしてるのよ。繕い物してたもんだから。お勤め辞めたら退屈でしょ?」

美智「ええ、毎日、一日が長くて」

俊子「奥さん稼業がどんなに楽か分かるでしょう? 亭主に働かしといて、一日、のんびり留守番してればいいですもんね」

 

いやあ、この時代、洗濯機も掃除機もないのにそんなのんびりしてられないでしょ。普通の夫婦2人の家にも女中がいた時代なんだから。

 

俊子「なあに?」

美智「主人の友達が網代なんですけど、ぜひ遊びに来いって誘われてるの。でも、おなかの赤ちゃんが…」

俊子「伊豆の網代へ?」

美智「ええ。もし赤ちゃんに差し障るようなら、私だけよそうかと思うんですけど」

俊子「そんな遠方じゃないし、気をつければ大丈夫よ」

美智「でも…そうでしょうか?」

俊子「うん。注意するのも大切だけど、あんまり神経質になってもダメよ」振り向いて戸棚を開ける。

 

美智「あっ、どうぞお構いなく」

俊子「ううん。ちょっと喉渇いちゃったから。ねえ、いい空気を吸って、おいしいお魚いっぱい食べてきたら? あっ、そうだわ。網代行ったらアジの干物買ってきていただけないかしら。この間頂いたの、とってもおいしかったから」

美智「はい。じゃ、行ってきます」

 

俊子「あの辺は温泉も近いんだし、ゆっくり温泉につかってくるのもいいもんよ。それに今のうちですよ。旦那さんを兵隊に取られてしまったら私みたいになっちゃうんだから。井波さんだって、いつ召集が来るか分かったもんじゃないでしょ? あしたになるかもしれないし、あさってかもしれないし。旦那さんに甘えられるのも今のうちだって思わなきゃ。あっ…あなたにまだ言ってなかったわね。裏の森川さん、昨日、赤紙が来たんですって」

美智「昨日?」

俊子「うん。だから、井波さんだって、そろそろだっていう気がするの。だって、今まで赤紙が来なかったのが不思議なくらいですもん。奥さんだって、そのうち分かるわよ。旦那さんが兵隊に取られて、一人残されたら、どんなに寂しいか。銃後の妻だ、靖国の母だっていっておだてられたって戦争なんて、やっぱり女の敵よね」

 

俊子さん、基本的に悪い人ではないんだけど、妊婦の美智を不安にさせるようなこと言わなくてもいいのに…

 

井波の働く出版社

田切「じゃ、あした、奥さんとは東京駅で落ち合うことにしますか」

井波「うん。そのほうがいいね」

田切「ああ、あしたの晩、ちょっとぐらい遅くなっても、晩飯、僕んちで食べてくださいね。うまい魚を用意しとくように、今朝、おふくろに電話しといたんですよ」

井波「すまないね」

田切「いえ。美人の奥さんに来ていただくんですからね。うんとおもてなししなきゃ」

 

井波「ハハハハ…ああ、あの辺は温泉が多いんだろ?」

田切「ええ」

井波「あしたは君ん所にやっかいになるとしても、日曜はどっか静かな温泉宿に女房を連れてってやりたいんだがな」

田切「それなら僕に任してくださいよ。知り合いの旅館がありますから」

井波「ああ、じゃ、頼むよ」

田切「ええ」

井波「僕だって、いつ召集が来るかもしれないからね。今のうち、うんと女房孝行しといてやらんとね」

田切「これだもんなあ。参っちゃうよ」

井波「ハハハハッ」

 

着信音が鳴る。井波が出て、小田切に代わる。「あっ、なんだ、母さん。今、ちょうど…えっ? いつ? 分かった。今日、帰るよ」

井波「どうかしたの?」

田切「僕に召集令状が来たんです」

 

田切もまた坊ちゃんなんで実家に電話があるんだろうけど、電話で召集令状来てたことを知るシチュエーション、あんまりこれまで見たことないかも!?

 

傘を持って家を出た美智だったが、井波がずぶ濡れで帰ってきた。「あら…駅まで迎えに行こうと思ってたの。早かったのね」

井波「うん」

美智「急な雨でしょ? 間に合わなくてごめんなさい」家に戻る。

 

玄関

美智「あなた、濡れちゃって…ねえ、あなた。私、あした行くことにします。おなかの赤ちゃんに差し障りがないんですって」

井波「あしたの旅行は中止だ」

美智「どうして?」

井波「小田切君に召集令状が来てね」

驚く美智。

 

井波「君によろしくって言ってたよ」

泣き出す美智。

井波「何泣いてるんだい。僕に召集が来たわけじゃないんだよ」

美智「だって…」井波に抱きつく。

 

あー、ここは! オープニングの!

 

井波「美智」

美智「イヤ…イヤよ。誰が戦争に行っても、あなただけは絶対にイヤ。だって…私のおなかの中には、あなたの赤ちゃんがいるんだもの。それなのに戦争に行くなんてイヤ。絶対にイヤだから」

 

井波にすがりついて泣く美智。(つづく)

 

初回から、この井波さんの横顔だけは出てたんだよね。しかし、オープニングには冒頭に着物で灯台の前を走ったりするシーンとかまだ出てこない場面もあるから、どんだけ先まで撮影してたんだろう。下手したら撮りきって放送みたいな感じだったのかな。「岸壁の母」は11月スタート、「別れて生きる時も」は1月スタートだけど、両方とも最初のころは夏っぽいシーンから始まってるから、夏の間に撮影してしまったのかな。

 

あえてなのか戦時中を現代っぽく見せてるのかなあ。