TBS 1978年2月16日
あらすじ
井波(中野誠也)に召集令状がきた。紙一枚で愛する夫が奪われるのだ。泣く美智(松原智恵子)に井波はいった。たとえ別れて生きていても二人は一つの絆に結ばれている…。二年が過ぎた。麻子を連れ松本(織本順吉)の工場に通う美智に九州の見知らぬ人から手紙がきた。「麻子に会いたい」。満州にいるはずの夫のメモが入っていた。
2024.10.1 BS松竹東急録画。
原作:田宮虎彦(角川文庫)
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井波美智:松原智恵子…字幕黄色
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松本:織本順吉
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吉岡俊子:姫ゆり子
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井波満江:露草千草
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吉岡純子:神林由香
井波麻子:羽田直美
ナレーター:渡辺富美子
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音楽:土田啓四郎
主題歌:島倉千代子
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脚本:中井多津夫
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監督:八木美津雄
<美智の中から小野木という不吉な暗い影が消え去って数日後、夫・井波から待ちに待った便りが着いた>
配達員「郵便!」
美智が手紙を取りに出た。「麻子! 麻子…あら、ねんねしてるの?」ベビーベッドに寝ている麻子に語りかける。「お父ちゃんからね、手紙が来たのよ。『広島にて 井波謙吾』。広島にいたんですって。読んであげるわね。『やっと半日の休暇が出たので急いで一筆する。君と麻子が毎日どんなふうに過ごしてるか、そればかり考えてるよ。麻子は元気に泣いてるだろうか』。ねんねしてるもんね。『君が泣いてては…』泣いてなんかいません。『麻子の母親として強くたくましく生きてほしい』。はい、分かっています。『僕のほうは元気だから心配しないでくれ。最後の日に君に言った言葉を今も自分に言い聞かせている。どんなに遠く別れて生きるときも僕と君はお互いの心の中でいつも一緒だ』。どんなに遠く別れて生きてるときも僕と君はお互いの心の中でいつも一緒だ」
ツッコミを入れながら手紙を読むタイプの美智。タイトル回収ってやつね。
<井波の言葉を胸に刻みながら、やがて時は移り、2年の歳月が流れたが、美智は松本が経営するこの軍需工場で事務員として働いていた>
何年から何年になったんだよー!
有限會社 松本製作所
美智「はい。はい、そうです。10日の支払いになってます。はい、じゃ、よろしくお願いいたします」
それにしてもオフィスの電話があんなに気楽にかけられた時代じゃないと思うが…
国民服姿の松本社長が帰ってきた。
工員「おかえりなさい」
松本「ああ」
<麻子は井波が名づけたとおり、麻のようにすくすくと伸び健やかに成長していた>
工場の隅で一人ボール遊びをしている麻子。
松本「麻子ちゃん」
麻子「うん?」
松本「一人でさみしくないかい?」
麻子「うん」
松本「へえ、お利口だね。おじさんね、お土産、買ってきてあげたよ。折り紙だ。ねっ。はい」包装紙を開けて直接渡す。
麻子「ありがとう」
松本「ハハハハッ。あのね、表へ行って遊んじゃダメだよ。ねっ」
麻子「うん」
松本「危ないからね。ここで遊んでんだよ。ねっ」
麻子「うん」
ショートカットでピンクのスカートの麻子ちゃん。
事務員「あっ、おかえりなさい」
松本「ああ。ただいま」
美智「おかえりなさい。社長!」
松本「うん?」
美智「なかむら鉄鋼の社長さんからお電話がありまして、今晩、お会いしたいそうです」
松本「ああ、そう。あっ、お茶が欲しいね」
美智「はい」
おおっ、美智もようやくモンペになってる。やかんを手に社長室へ。
美智「お疲れでしょう?」
松本「ああ。長野からまっすぐね、横須賀の海軍工場に寄ってきた。あっ、そうだ。麻子ちゃんにね、砂場でも作ってあげようか」
美智「そんな…あしたから純子ちゃんちへ預けてきますから」
松本「いや、とんでもない。私はね、麻子ちゃんの顔を見るのが楽しみなんだ」
美智「でも、ご厚意に甘えすぎてるようで…」
松本「いや、井波さんが出征するときの約束なんだ。君と麻子ちゃんの面倒は私が引き受けた。だから、心配しないでお国のために戦ってきてくれって」
美智「すいません」
松本「それよりね、諏訪湖のほうに2~3候補を絞ってきた」
美智「工場を移転するとなると大変なことですね」
松本「うん、そうなんだけどもね。サイパン島もグアム島もアメリカに取られちゃったから、そのうち東京はね、敵の飛行機が空襲に来て焼け野原になるかもしれないっていうんだよ」←空襲はまだしも、さすがに焼け野原は未来人視点過ぎない?
美智「そんな…」
サイパンもグアムもアメリカに取られたという話から、この話は昭和19年の夏になりかけの辺りってことかな。戦争のことは全体的にフワッと描いてるね。麻子は昭和16年生まれ、美智はまだ25歳ぐらいだと思う。
松本「いや、海軍の人が言うことだから、まるきりデタラメとも思えないんだ。だからね、工場は今のうちに避難しろということらしい」
美智「私、なんだか心配になってきました。井波から1年前、奉天から葉書があったっきり、なんの音信もないし、毎日毎日、兵隊さんが戦死してるって話を聞きますと…」
松本「いや、井波さんは大丈夫だよ。南方じゃ激しい戦争が続いてるが、このところ満州は穏やかだからね」
美智「ずっと満州のほうにいてくれたらいいんですけど」
松本「うん。美智さん、あんたも工場と一緒に諏訪のほうに行かないかね? まあ、ちょっとそこにかけなさい」
ソファにかけた美智。
松本「いつ空襲になるか知れたもんじゃないからね。実はそのつもりでね、上諏訪の農家を当たってみたら離れを貸してもいいっていうんだよ。あそこなら空気もいいし、空襲の心配もない。麻子ちゃんのためを思って。あんたさえその気になってくれたら、あとはなんの心配もしなくてもいいんだ」
美智「ご厚意は、うれしいんですけど、私、やっぱりあのうちを出られないんです。いつ井波が帰ってくるか知れませんし。井波が帰ってきたとき、もし私たちがいなかったら…」
松本「いや、そんなこと言ったってね、戦争は激しくなっていくばかりなんだからね。もし空襲でもあって、あんたや麻子ちゃんに万一のことがあったら、私は井波さんに顔向けができない。まあね、無理にというわけじゃないから、よく考えといてくれないか?」
美智「はい」
俊子の家の2階に住むという話もこの理由で立ち消えしたのか? 別に井波さんがあの家にずっといてほしいと言ったわけじゃないのにね。
吉岡家
満江「ごめんくださいませ」
俊子「はい!」
満江「あの…こちら吉岡さんのお宅で?」
俊子「はい、そうですけど」
満江「私、井波と申しますが…」
俊子「井波さん? 井波さんのお母さんですか?」
満江「はい。謙吾の母親でございます。実は今、井波のうちのほうに行きましたが誰もおりませんで、近所の人に聞きましたら、お宅様へ伺えば様子が分かるだろうとのことでしたので。あの…井波の嫁のほうは今…」
俊子「奥さんは毎日勤めに出てらっしゃいますから、勤めっていっても知り合いの方がやってる工場(こうば)の事務のほうをやってるんですけど」
満江「そうでしたか。何しろちっとも様子が分かりませんもので…でも、子供のほうはどうしてるんでございましょう?」
俊子「毎日、工場に連れてってるんですよ。大変でしょうから、うちで預かってもいいって言ってるんですけど、ちょっとでも離れてるのが心配らしくて…」
満江「はあ。でしたら夜分には戻ってまいりますんでしょうか?」
俊子「ええ、大体6時ごろには」
満江「でしたら、そのころまた出直してまいりますから、大変お邪魔をいたしました」
俊子「あっ、ちょっとお待ちください。私、電話で連絡してあげますから」
満江「ああ…」
俊子はポケットを探りながら外へ。
電話ボックスでもあるってのかい!?って小野木もよく公衆電話らしきところから電話してたな…。そんな身近な時代じゃないだろー?
松本製作所
着信音が鳴る。
美智「もしもし、松本製作所でございます。奥さん? 何か? えっ? 井波の母が? ええ。あっ、はい、分かりました。じゃあ、なるべく早く帰るようにしますから」
俊子「ええ、分かったわ。じゃあ、中にお通ししときます。鍵はいつものとこでしょ?」
美智「はい。あの…よろしくお願いします」
井波家
俊子と満江が家に入った。
俊子「さあ、どうぞ」
満江「はい」
俊子「あ~ら、奥さん、きれい好きだから、いつもきれいにお掃除して…さあさあ、どうぞ」座布団を勧める。
満江「どうも」
俊子「お疲れになったでしょう? すぐお茶入れますから」
満江「奥さん、どうぞお構いなく」
俊子「はい」
満江は部屋の奥へ行き、井波、美智、麻子の家族写真を見ていた。
俊子「その写真、井波さんが出征される前の日に撮ったんですって。奥さん、毎日陰膳して」
美智は麻子と一緒に吉岡家へ「あっ、純子ちゃん、お母ちゃんは?」
純子「おばちゃんちに行ったわよ」
美智「まだ帰ってこないの?」
純子「うん」
美智「そう。どうもありがとう。麻子、早くおばあちゃんに会いましょうね」
純子ちゃんもお留守番が多いね。
井波家
満江「じゃあ、美智さんは、お宅の2階に?」
俊子「ええ、そうなんですよ。あの…今もお世話になってる松本さんとおっしゃる、そのころは印刷工場をしてらしたんですけどね。その方のご紹介でうちの2階に初めは住んでらしたんですよ。どうぞ」満江にお茶を出す。「たまたま井波さんの下宿もすぐ近くでしたでしょ。ですから、すっかり気が合ってしまって。でも、井波さんも純情な方なんですね。美智さんのこと好きでもなかなか言いだせなくって、はたから見ていて、私なんかハラハラしたもんですよ。でも、初めから結ばれるようになってたんですよね、ここのご夫婦は。あんまり仲がいいんで、私なんかなんべん当てられたか知れやしないんですよ」←まあ、ペラペラと
満江「あの…小野木という人も初めからお宅様の2階に住んでらしたんで?」
俊子「いいえ。全然そうじゃないんです。自分じゃ美智さんの亭主だとかなんとか言い触らしてたそうですけどね、デタラメもいいとこなんですよ。京都にいた時分から、さんざんひどい目に遭ってきたんですって。それで美智さん、その男から逃げて東京に出てらしたんですのよ、ねえ…あら、お帰りになったみたい。ちょっと失礼。おかえんなさい」
美智「ただいま。すいません、お手数かけて」
俊子「ううん。お義母(かあ)さんいらしてるわ」
美智「ご無沙汰しております」
頭を下げる満江。
俊子「じゃ、私はこれで」
満江「すっかりお世話になりまして。いいえ。麻子ちゃん、おばあちゃんよ、よかったわね。じゃあね」
美智「ほんとにありがとうございました」
俊子「失礼します」
俊子を見送った美智が戻ってきた。「さあ、麻子」
満江「麻子ちゃん、お父さんによく似てるわよ。目なんかそっくりじゃないの。さあ、おばあちゃんとこいらっしゃい。フフッ、いくつ?」
満江の膝に乗り、指を3本出す麻子。
満江「そう、3つなの」
麻子「うん」
満江「フフッ」
美智「麻子、おばあちゃんにこんにちはのご挨拶は?」
麻子「こんにちは」
満江「お利口ね。麻子ちゃんにお土産があるよ。さあさあ。よいしょ」大きな風呂敷包みを持っている。
美智「今日は遠い所、ようこそおいでくださいました」
満江「いいえ。私のほうこそ突然お邪魔してしまって。麻子ちゃん、これはね、おばあちゃんの田舎のおこしよ」
麻子「ありがとう」
満江「いい子」
美智「よかったわね、麻子」
満江「これはお米」
美智「あっ、どうもすいません」
満江「それからお餅。お皿を1つ貸してください」
美智「はい」
満江「大きめなのをね」
美智「はい」
満江「これもね、おばあちゃんのうちでとれた物よ」美智が持ってきた皿に果物を乗せる。「はい、さあ。麻子ちゃん、お父さんの所へね」麻子の手を引き、家族写真の飾っている文机まで移動。「謙吾は、この梨と柿が大好きでね。無事に帰ってくれるといいけど…あなたのことは謙吾が応召したときから気にはなっていたんです。あのとき、謙吾が手紙をくれて、あなたと麻子ちゃんのことをくれぐれも頼みますって。もし、自分の身に万一のことがあったら、あなたと麻子のことをよろしく頼みます、そのことだけが気がかりだって。謙吾は小さいときから気持ちの優しい子でしたからね。あなたがどうしていらっしゃるか、一度、様子を見に来たいとは思ってたんです」
美智は軽く頭を下げる。
満江「その節はわざわざ来ていただいたのに、あなたには大変つらい思いをさせてしまいましたけど」
美智「いえ」
満江「でも、お国のために戦っている謙吾の気がかりをなくしてあげなきゃと思ってね」美智の前に移動。「どうか、これからは井波のうちの嫁だって、そう考えてくださっていいですから。謙吾の父親も同じように考えておりますので」
美智「ありがとうございます」目を潤ませる。
夜、布団で寝ている麻子。
満江「私とよく遊んだせいか、すぐ寝ついちゃって」
美智「お義母さん、梨、そちらにお持ちしましょうか?」
満江「ありがとう」
美智「はい、どうぞ」むいた梨を持っていく。
満江「でも、麻子ちゃん。ほんとに謙吾によく似てること」
美智「謙吾さんもよくそう言ってました」
満江「そうなの? 今夜は麻子ちゃんと一緒に寝かせてね」
美智「どうぞ。お義母さん、もしよろしかったら、あした東京見物にご案内しましょうか?」
満江「私はあした帰らなきゃならないの」
美智「あした?」
満江「ええ。謙吾の妹の主人が水戸の連隊に入隊してるものだから、ちょうど面会日だっていうんで娘と一緒に出てきたの。あしたの朝、上野駅で落ち合うことに」
美智「妹さん、お子さんは?」
満江「それがどうしてか子宝に恵まれなくて…麻子ちゃんが私の初孫ね。麻子ちゃんを見たら主人もどんなに喜ぶことか。実は今日、あなたにお会いするにあたっては、ちょっと相談したいこともあったの」
美智「なんでしょうか?」
満江「主人があなたと麻子ちゃんをうちに引き取ったほうがいいだろうって言いだしてるものですから」
美智「引き取る?」
満江「あなただって、麻子ちゃんを連れて、毎日工場通いじゃ大変だろうし、麻子ちゃんだってかわいそうでしょう」
美智「でも…」
満江「いっそのこと、このうちを引き払って、田舎のほうへ来ていただけたらなと思うの。そのほうが謙吾だってきっと安心だろうと思うし」
美智「でも、私が留守を守ってませんと、いつ謙吾さんが帰ってくるか知れませんし、もし帰ってきたとき、私と麻子がいなかったら…」
満江「だって、考えてごらんなさい。これからは食糧事情も悪くなる一方だし、もし、アメリカの爆撃でもあったら大変だから。もし、あなたがどうしても都合が悪いっていうんなら、せめて麻子ちゃんだけでも私と一緒に…」
美智「そんな…困ります」
満江「誰のためでもない、あなたのため、麻子ちゃんのためですからね」
美智「すいません、それだけは…」
美智が井波の実家で暮らしたくないのは分かるけど、それをこの家にいないと井波が困るという言い訳に使うのはどうかな? 井波自身は実家を頼ってほしいと考えてるくらいだし。
松本製作所
松本「お義母さんの気持ちが分からないわけではないがね。このまま東京にいたら危ないことは確かなんだから」
美智「でも、私の所は外れのほうですから」
松本「しかしね、井波さんのお父さんやお母さんがせっかくそう言ってくださるんだったら田舎に行くのも悪くないと思うがね。麻子ちゃん。麻子ちゃんは、おばあちゃんが好きか?」
麻子「うん」
美智「でも、私、井波の留守の間にあのうちを出たくないんです。思い出が染み込んだうちですから。麻子、お母ちゃんと一緒にお父ちゃんの帰ってくるのを待ってましょうね」
麻子「うん、待ってるよ」
<その日、仕事から帰った美智は一通の封書を受け取った>
差出人
長崎縣西彼杵郡大字野…
野村久枝
<差出人の野村久枝という人が全く未知の人だっただけに意外な気持ちにとらわれたのも無理はなかった>
鍵を開けて家に入り、明かりをつけて封書を開けた美智。「なんのお手紙でしょうね」
便せんには
「麻子に逢ひたい。」
とだけ書かれていた。
<一瞬、あっけにとられたものの、それは間違いなく夫・井波の筆跡であった>(つづく)
偽名の手紙は満州にいた新二もやってた!
時々出てくるかたくなな美智。
満江が梨や柿をお土産にしてきたってことはもう昭和19年の秋? 米だって新米かもしれないし。このまま東京(…というか横浜だよね)に残るのかな?