TBS 1977年12月6日
あらすじ
学徒出陣に次いで徴兵年齢引き下げが決定し、いせ(市原悦子)は迫り来る新二(大和田獏)の徴兵に怯えていた。学友たちの志願を見送っていた新二は自分だけが残っていることに苛立ち始める。
2024.7.23 BS松竹東急録画。
冒頭はお決まりのシーン。青白画像。船が港に帰ってくる。
いせ「石頭(せきとう)教育、13981(いちさんきゅうはちいち)部隊、荒木連隊、第1大隊、第6中隊の端野新二(はしのしんじ)を知りませんか? 端野新二知りませんか? 端野新二を知りませんか? 端野…新二~!」
端野いせ:市原悦子…字幕黄色。
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端野新二:大和田獏…字幕緑。
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石田健太郎:長澄修
石田の母:宮内順子
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水野のぶ子:小畑あや
脱走兵:上田俊二
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大刀隆三
菅原健
高杉和宏
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三浦文雄:山本耕一
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音楽:木下忠司
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脚本:高岡尚平
秋田佐知子
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監督:高橋繁男
<ウソだったんですね。あのお弁当箱についていた海苔とご飯は>
端野家
新二がのぶ子に書いた手紙
先日お話した
智恵子抄です。
讀み終(おわっ)たら
感想をきかせて
下さい。
をくしゃくしゃに丸めて捨てるいせ。
<ウソといえば必ず帰って孝行すると言っといて、戦争が終わって30年以上たつのにまだ…あの子はホントにウソつきです>
いせは仕立物の作業をする。
新二「だましたのは悪かったよ。また心配すると思ったから。本の貸し借りぐらいいいじゃないか。それ以上のつきあいじゃないよ。母さん」
いせ「痛っ…」針を指にさす。「あのお父さんになんて言われた? 娘を誘惑したって言われたんだよ。腹は立たないの?」
新二「そりゃ立つさ」
いせ「その娘さん、いくつなの?」
新二「今年の3月に女学校を出たって」
いせ「じゃ、お前と同い年じゃないか」
新二「うん」
いせ「同い年だったら女のほうが大人だよ。どっちが誘惑してっか分かったもんじゃない」
新二「母さん」
いせ「深入りしてないって言ってたけどホントだろうね?」
新二「当たり前だよ」
いせ「好きなんだろう?」
新二「そりゃあ、嫌いじゃない」
いせ「お前は、まだ学生じゃないか。好きになったからって、どうなることでもないだろう。変なことにならないうちに忘れたほうがいい」火鉢をかき回してる新二の手を止める。「今度こそ約束しておくれ。二度とあの娘さんと会わないって」
新二「分かったよ」立ち上がって部屋を出ようとする。
いせ「ホントに分かったの?」
新二「母さんがそんなに言うならそうするよ」2階へ。
いせ「ホントに分かったんだね?」
⚟ふすまが閉まる音
いせ「ハァ…」とため息をつく。
工場
のぶ子が呼び出されて外へ。
いせ「すみません。お仕事中、呼び出したりして」
のぶ子「いいえ。お宅へ父がお伺いしたそうですけど、きっと失礼なことを…すいませんでした」
いせ「のぶ子さんとおっしゃいましたね」
のぶ子「はい」
いせ「今後、新二とつきあわないって、私に約束してくれませんか?」
のぶ子「はい、お約束します。端野さんが悪いんじゃありません。私がいけなかったんです」
あまりの即答にいせが戸惑っている。
いせ「いや、そんなことありません」
のぶ子「いいえ。おばさん、私たち同い年なんです。だから、女の私のほうがしっかりしなくちゃいけなかったんです。端野さんって、いい方だから、お友達になりたかったんです。でも、おばさんや父にこんなに心配かけてしまってごめんなさい。もう心配かけるようなことしませんから、ご安心ください。それじゃ、私、仕事がありますから失礼します」走り去りながらも振り向いて会釈する。
のぶ子のしっかりした感じに好感を持ったらしい、いせはにこやかに見送る。
年上だけじゃなく同い年でさえ、女のほうが大人でしっかりしてると言われるんじゃ、「あしたからの恋」でトシ子が修一のことで二の足を踏んでいるのに納得がいく。周りもそういう目で見るし。
ただ、トシ子と修一は同級生で、修一が早生まれという話だったのに、修一が25歳、途中からトシ子は秋に27歳になるとなってて、ん? 年上?ってなった。でも、これまでの話っぷりから同学年なんだろう。
端野家
ラジオから流れる歌
♪太平洋の波、波、波に
海の男だ…
土日返上で働こうって、すごい日本的な歌だね。
新二がお茶を入れ、いせに出した。
いせ「何? これ」
新二「お茶だろ」
いせ「お前が母さんにお茶入れてくれるなんて気味悪い」
新二「僕の大事な大事な母さんですから」
いせ「うわ…やめて、やめて、気持ち悪い」
ラジオの音声
♪度胸ひとつに 火のような…
いせは新二に「あの人どうしてる?」とのぶ子の様子を聞く。
新二「うん、朝と帰りがけに受付の所でガラス越しに見かけるけど元気みたいだよ」
いせ「ああ、そう」
ラジオの音声
♪海の男の艦隊勤務
こうして歌詞が字幕として出てくることもあれば、昨日みたいに全然出てこないこともあって、どういうこと!?
日曜の昼?
寝転がって新聞を読む新二。「ハァ~、退屈だなあ、休みは。石田さんはいないし。三浦先生んとこでも行ってこようかな」
いせ「今日は、やめなさい。母さん、ぜんざい作ってるんだから」
新二「ホント? 小豆あったの? 砂糖も?」
いせ「あちこち頼んどいたからね」
新二「へえ~、すごいじゃないか」台所へ走っていく。
いせ「蓋、取っちゃダメ」
⚟のぶ子「ごめんください」
玄関のガラス窓にのぶ子の顔が見えて、新二は小声で「バカ。帰れ、帰れよ」とシッシッと手を振る。
いせ「いらっしゃい。お入んなさい」
のぶ子「はい」
いせ「さあ、どうぞ」
のぶ子「失礼します」
のぶ子はクリーム色のシャツとサーモンピンクのオーバーオール風モンペ姿。
いせ「(新二に)何、突っ立ってるの?」
のぶ子「昨日、お母さんから工場(こうば)に電話もらったのよ。今日、遊びに来なさいって」
いせ「いけなかった?」
新二「いや、そんなことないけど…」
いせ「新二には黙ってたけど、この前、のぶ子さんに会いに行ったの」
新二「驚いたな」
のぶ子「少しなんですけど…」箱を渡す。
いせ「あら、こんなことして。今度来るときは手ぶらで来てちょうだいよ」
のぶ子「はい」
いせ「あんたが今日、来るっていうんで、ぜんざい作ったんだけど、好き?」
のぶ子「大好きです」
いせ「まあ、よかった。ちょっと待っててね。ありがとう」手土産の箱を持って台所へ。
新二「お父さん、よく許したね」
のぶ子「内緒」
新二「やっぱり」
新二みたいなタイプは、のぶ子みたいなしっかり者のほうがよさそう。小宮君の妹にドギマギしてた新二はどこへ。
のぶ子は台所に行き、「何かお手伝いしましょうか?」といせに聞く。
いせ「そう? じゃ、戸棚から、お椀出してちょうだい」
のぶ子「はい」
いせは台所から新二の顔を見て、イーッと顔をしかめる。
いせ「ちょっとお砂糖が足りないんだけど、味見てくれる?」
のぶ子「はい」
ぜんざいをお椀に盛る。
いせ「はい、どうぞ。新二、お箸」
新二「はい」のぶ子に箸を渡す。
まだ、いせがよそってる最中なのに「いただきます」と食べ出すのぶ子と新二。
のぶ子「甘い」
いせ「新二、のぶ子さん。2人のおつきあいは私が認めるからね。いい? 人様に指をさされるようなことだけはしないでちょうだい」
うなずく2人。
いせ「お代わりしてよ、どんどん」
のぶ子「はい、ありがとうございます」
新二「のぶ子さんのお父さんのほう、大丈夫かな?」
いせ「あんたのお父さん、すごい分からず屋だからね」
のぶ子「ホント。すごいガミガミ親父」
いせ「ハハハハッ。『向島界隈では…』」
いせが言っていたのは、前回、のぶ子の父が端野家に来たときに言った「向島界隈じゃな、ちっとは名前の通った乾物屋の一人娘が、こんな小せがれにだまされやがって!」のことかな。
新二「でも、もし…」
いせ「知れたら、そのときはそのとき母さんが責任持つから。何よ、男のくせに。母さん、のぶ子さんが好きになっちゃった。あんたにだって生きてたら妹がいたのよ。なんなの? そんなむつかしい顔して。大体あんたハキハキしないのよ。見なさい、のぶ子さんなんか」
新二「母さんには参るな、食べなよ」
ぜんざいを口にし、「おいしいじゃない」と感想を漏らすいせ。
新二「ハッ、ハハハハッ。なんだ、びっくりするじゃないか」
のぶ子「ホント。ハハッ」
いせはぜんざいを食べながら笑っている新二とのぶ子をチラ見。
石田さんの分、残してるだろうなあ?
生きてたら妹がいたということだけど、wikiを読むと、実際のいせさんは、夫と娘を亡くし、裕福な家の新二を養子にしたらしい。だから、いせの長男なのに”新二”なんだろうねえ。だけど、よく当時、夫と娘を相次いで亡くして、独身女性になった人に子供を託したよなあと思う。どういうシチュエーション?
いせは仕立物を持って家路を歩いていた。
大きく描かれたアリのポスター
蓄貯
億十二百
力の亜興
省蔵大
国防婦人会の集団のすれ違う。
端野家前で新二と鉢合わせ。
いせ「今日、早かったね」
新二「うん、午後から学校へ回ったから。あっ、持とうか?」
いせ「いいよ」
新二「いいよ」
いせ「ありがとう」
新二は掲示板のポスターを見ている。
いせ「新ちゃん、何見てんの?」
鍵を開けて家へ入り、荷物を置く。
新二「はい」
いせ「なあに? これ」
新二「勤労動員の手当」
いせ「はあ~」封筒からお金を取りだす。「12円55銭。はあ~」
新二「変なもんだよね。学生が授業料払わないで工場へ通って手当もらうなんて」
いせ「ありがとう。助かるけど、いつまで戦争続くやら。母さん、悲しい思いをするのだけはイヤだからね」
普通の会社員よりは安価で、でも1日働かせてこれじゃ、安すぎるのかも!?
元子は日本放送協会から辞令を受けて給月棒55円。
マリ子が請け負った野戦食糧植物編の仕事を5か月かかるものを3か月で仕上げ、1000円もらって疎開の資金にした…どっちの家も戦時中にしては裕福すぎて比べられないね。マチ子も新聞社の月給は80円でいいとか自分で言って、編集長にあきれられてるし。
石田が帰宅した。どことなく元気がなく、2階へ上がりかけたが、いせに声をかけた。「決まりましたよ」
いせ「何が?」
石田「学徒出陣。文科系の学生の兵役徴収延期が打ち切りになったんです」
新二「経済とか文学部の学生はみんな駆り出されるんだ」
いせ「はあ…」
石田「今月の21日。神宮競技場で壮行会が行われることになりました。僕は戦争に行きます。いよいよ日本も来る所まで来ているようです」
出陣学徒壮行会が行われたのは1943/昭和18年10月21日(木)先勝
ドラマで映し出されたおなじみの学徒出陣の映像はものすごく青白だった。しかし、この映像いつ見てもすごい。最初は学生たちが行進する全体像を映し、雨の降る足元を映し、水たまりに映る学生たちが映り…
<東京、神奈川、埼玉、千葉で77校の出陣学徒と在校生で5万人。その人たちで神宮競技場をうずめました。でも、そのほとんどの人たちは帰らなかったそうでございます>
観客席で熱狂的に学生帽を手にして振り続ける新二とじっと見ているいせ。
端野家
仕立物をしているいせとそれぞれ新聞を読んでいる石田と新二。
⚟物音
⚟犬の吠え声
⚟物音
⚟犬の吠え声
いせは、そっと縁側へ近づく。
新二「何? どうしたの?」
カーテンを開けたいせは人影を確認し、新二たちを手招きする。
新二「どうしたの?」
いせ「誰かいるよ」
石田「えっ?」
いせ「ポンプの陰」窓を開ける。「誰!?」
庭に出た石田と新二。
新二「誰だ?」
石田「出てきたまえ」
いせ「あら、兵隊さん」
兵士「すいません、水飲ましてください」
いせ「どうぞ」外へ出てポンプを押そうとして兵士が左肩から出血していることに気付いた。「あら…ひどい傷。新二、救急箱持っといでよ」
救急箱…というより袋から瓶を取り出すいせ。「兵隊さん、どうしたの?」
兵士「逃げてきたんです」
ハッとする一同。
いせ「赤チンで消毒してあげるからおいでなさい」
新二「母さん」
しかし、憲兵の腕章をした男2人が土足で端野家に上がり込み、脱走兵を殴った。
憲兵A「立て!」
倒れた脱走兵は帽子と眼鏡をかけ、直立不動したところを憲兵Bが殴る。
石田「待ってください、その人はケガを」
憲兵A「何!? こいつは脱走兵だぞ。犬畜生にも劣る非国民だ!」
石田「しかし…」
憲兵B「なんだ、貴様。その顔は同類なのか?」
下を向く石田。
憲兵A「来い!」
いせ「憲兵さん。挨拶はないんですか?」
憲兵A「挨拶?」
いせ「あなた方が土足で立ってるのは私んちの座敷なのよ」
憲兵B「貴様、我々をなんだと思ってるんだ」いせのほうに向かおうとする。
憲兵A「よせ」
畳の上は泥のついた足跡だらけ。いせは、ゆれる電球をおさえ、雑巾で畳を拭き始めた。こういう勝ち気ないせさんは好きだな~。
石田「あの人たちは、もう人間の感情をなくしてるんだ。同盟国のイタリアは無条件降伏するし日本もダメかもしれない」
新二「戦争に負けるっていうんですか? そんなの敗北思想だ。石田さんのお兄さんも言ってたじゃないですか。勝つために戦うんだって。俺たち若者が投げ出したら、おしまいだ。戦ってる以上、勝たなきゃ」
石田「日本中の人たちがどんな苦しみを味わってるか分かるだろ?」
新二「戦争だから、しかたないですよ。小さな日本が大国を敵に回して戦ってるんだ」
石田「精神力、精神力といったって、大和魂だけで勝てると思うかね? それだけじゃ限界があるんだ。これ以上、犠牲者を出しちゃいけないんだよ」
新二「石田さん、学徒出陣が決まって気が弱くなってるんじゃないですか?」
石田「君、もういっぺん言ってみろ」
新二「そうじゃないですか」
いせ「やめなさい。あんたたちまでケンカすることないでしょ」
<仲良しなのに戦争のことになると2人はケンカしてました。まるで男が国をしょって立ってるような口ぶりで。でも、どちらがいいのか分かりませんが、とにかく真剣でしたね>
石田さんに贈る日の丸の旗
久長運武祈
日の丸の周りに人々が名前を書く。三浦先生も書いてるー。
アメリカ人が死んだ日本兵が持っていたと旗と日本刀を家族に見せてた。
でも、この映画で衝撃だったのはアメリカ人でもこの戦争は間違い、アメリカが邪魔しなければドイツや日本が勝ってたと言う人がいたこと。
新二「母さんも早く書けば? のぶ子さんも」
いせ「あとで書かせてもらう。あっ、布巾、布巾」
すぐに手渡すのぶ子。
新二「そう、じゃ」三浦先生と旗を移動させる。
いせ「(のぶ子に)あっ、すいません。あんたが来てくれて大助かり」
旗を鴨居にかけ、その前に石田が座る。
いせ「お待たせしちゃって」のぶ子とともに料理を運ぶ。
石田の母「お世話かけます」
いせ「こんなときでなんにもないんですけど。のぶ子さん、お願い」
のぶ子「はい」
いせ「さあ、どうぞ」
のぶ子は石田、三浦先生にお酌し、いせは石田の母、新二にお酌した。すっかりのぶ子を嫁扱いしてるな~。
いせ「三浦先生、お願いします」
三浦「石田君、私たちは、今、私たちの力ではどうしようもない渦の中にいる。君たち若い者が出征していくのはさみしい。こんな席で、こんなことを言うのは不謹慎と思われるかもしらんが生きることだよ。死なんで帰ってきてください。君のご両親のためにも無事を祈ってます。僭越ですが…乾杯」
いせ・新二「乾杯」
三浦先生は、いせ以外のことは結構まとも!? 新二より石田さんのほうが話が合いそう。
石田「今日は僕のためにこうして集まっていただいて、ありがとうございます。おばさん、三浦先生、新二君、のぶ子さん、母さん、どうかお元気で」
いせ「石田さん、ご無事の凱旋を。必ず帰ってきてくださいね」
♪湯島通れば 思い出す
お蔦 主税(ちから)の心意気
知るや白梅 玉垣に
のこる二人の 影法師
新二が「湯島の白梅」を歌い、石田がギターで伴奏する。
いせはあとになって旗に名前を書き込む。
<石田さんは、あの翌日、お母さんと一旦、郷里の栃木へ帰り、そこから原隊に入隊することになっておりました>
石田の部屋にたたんだ旗を持っていったいせ。
石田「ありがとうございます」
いせ「(石田の母に)お手伝いしましょう。おっきい荷物はあとでお送りしますから」
荷造りをする石田。
「露営の歌」を歌いながら行進する人々。
「露営の歌」1937年9月発売。元々は「進軍の歌」のB面曲だった。
♪勝ってくるぞと勇ましく~は耳に残りやすいのかも。
いせ、新二、石田、石田の母はその一行を見ていた。(つづく)
石田さんがぁ~! また三浦先生絡みの話にならないだろうね!?