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【ネタバレ】岸壁の母 第二十九章「生きて帰って!」その四

TBS 1977年12月15日

 

あらすじ

新二(大和田獏)はいせ(市原悦子)の知らぬ間に満州の軍需工場で働く手続きをとっていた。昭和十九年のサイパン島陥落後は空襲がいっそう激しくなり、いせの生きがいは新二の手紙だけとなる。

岸壁の母

岸壁の母

2024.8.1 BS松竹東急録画。

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冒頭はお決まりのシーン。青白画像。船が港に帰ってくる。

いせ「石頭(せきとう)教育、13981(いちさんきゅうはちいち)部隊、荒木連隊、第1大隊、第6中隊の端野新二(はしのしんじ)を知りませんか? 端野新二知りませんか? 端野新二を知りませんか? 端野…新二~!」

 

端野いせ:市原悦子…字幕黄色。

*

端野新二:大和田獏…字幕緑。

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水野のぶ子:小畑あや

のぶ子の父:菅貫太郎

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上等兵:土方弘

柴田信

大月ゆう子

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鈴木誠一

藤原進

唐仁原健

永井正

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三浦文雄:山本耕一

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音楽:木下忠司

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脚本:高岡尚平

   秋田佐知子

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監督:高橋繁男

 

今日はまたいつもより多い。

 

前回の続きから。葉書が届いていてウキウキしながら家に入ってきたいせ。

 

<昭和19年7月7日、サイパン島玉砕。あの日、新二から入隊することになったと知らせてきました>

 

新二が書いていた手紙を何も言わずに取り上げる上等兵。「誰だ? 相手は」

新二「母であります」

上等兵「なんだ、つまらない」手紙を返す。「おい、端野」

新二「はっ」

上等兵「面会人だ」

直立不動のままの新二。

上等兵「どうした? 早く行け。うれしくないのか?」

新二「いえ。あの…自分に会いに来る者は…」

上等兵「行ってみろ」

新二「はっ」手紙をしまって、軍帽をかぶり、部屋を出る。

 

新二は部屋の隅の銃置き場の前で手紙を書いていて、後ろには休憩中の兵士たちがいる。

 

兵士「うまい物(もん)うんともらってこいよ」

 

上等兵役は土方弘さん。名前に見覚えあると思ったら「赤い運命」にも出ていた。

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信人が島崎のために探した仕事先の建設会社の社長ね。

 

面会室

新二「端野二等兵、入ります」

⚟男性「どうぞ」

 

新二「先生!」

三浦「しばらくだな」

新二「先生も満州だったんですか」

三浦「うん。近いうち南方へ移ることになってる。その前に君に会いたいと思ってな」

新二「どうして自分のことが?」

三浦「ここの中隊から転属になったヤツがいて、偶然、君の話が出たんだ。まあ、かけろ」

 

新二「失礼します。ハッ…夢じゃないだろうな」自分の頬をつねる。「痛っ」

笑う2人。

新二「まさか先生に満州で会えるとは思いませんでした。先生」

三浦「うん?」

新二「具合が悪いんじゃ…」

三浦「いや、年だからな。こたえるよ、軍隊生活は。やっぱり君は志願したんだな」

新二「はい」

 

いや~、42歳で20代の若者と同じことするのは、そりゃこたえるよ。

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「3人家族」の耕作さんは1969年に定年退職したので終戦時は31歳かあ~、結構年いってるねと思ってたけど、三浦先生はそれより約10歳上だもんね。

 

三浦「お母さん、よく承知してくだすったね」

新二「自分が強引に…じっとしていられなかったもんですから」

三浦「お母さん、元気かね」

新二「はい。今もおふくろに手紙を書いていたところです」

三浦「そうか。お母さんも寂しくなったことだろう。サイパンが落ちたのを知ってるか?」

新二「はい」

三浦「大変だぞ、内地もこれから。満州ソ連が参戦しないかぎり安全だろうが…」

 

新二「先生、南方って、どこに?」

三浦「分からん。南方は次々にやられてるからな。君ともこれで会えないかもしれないぞ」

新二「先生…」

三浦「こういう時代に生まれた者の運命だな」

新二「先生。先生からもらった鉢植え、自分がこっちへ来るときに花が咲きました」

三浦「そうか。夢に見るんだよ、時々。君の小さかったころのこと。君のお母さんのこと。私は君たち親子に会えて本当によかったと思ってる」

新二「自分もであります」

三浦「いいよ。いつもの調子で」←やっぱり気になってたか。

新二「あっ…」

 

三浦「今日は会いに来てホントによかった。元気で必ず生きて帰るんだぞ。お母さんのために」

新二「先生…先生も」

三浦「君はもう戻らないと」

新二「ご無事をお祈りしております」

三浦「ありがとう。君も」

 

廊下を歩いて行く三浦先生を呼び止め、新二が敬礼をした。三浦先生も敬礼で返す。

新二「日本で会いましょう」

 

<新二から三浦先生にお会いしたという手紙が来ました。三浦先生がどこにいらっしゃるか心配しておりましたのに…それも広い満州で新二と三浦先生が会うなんて、なんのおぼし召しでしょう>

 

なんとなく三浦先生が出てきて、ホッ。

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そういや、「本日も晴天なり」の幸之助も42歳で召集されたことを急に思い出した。この人の場合、内地で松の根っこを掘る作業をしていて、終戦後、すぐ戻ってきた。

 

いせが道を歩いていると、父を亡くした少年が骨壺を抱いて歩いていた。一行が通り過ぎるまで頭を下げる。

 

端野家に戻ったいせは玄関でけつまずいて倒れた。やっと立ち上がり、フラフラで茶の間へ倒れ込む。夜、一人布団で眠るいせの額には汗が浮かんでいた。「新二…」

 

兵舎?で夜中に起きた新二は眠れない夜を過ごす。

 

いせは新二からもらった手紙の束を抱いている。

 

のぶ子が端野家を訪れた。声を掛けても返事がない。「こんにちは。のぶ子ですけど」

⚟いせ「上がってちょうだい」

 

のぶ子は玄関の戸を閉めて、中へ。「おばさん、どうしたんですか?」

いせ「胸が急に苦しくなったの」

のぶ子「お医者さんは?」

いせ「もう大丈夫。さて、もう起きなくちゃ」うまく起き上がれない。

のぶ子「あっ…おばさん、休んでたほうがいいわ」

いせ「そうね」

 

のぶ子「いつからですか?」

いせ「昨日、出かけたのよ。お日様、カンカン照りだったから、きっとそのせいよ」

のぶ子「こんなこと初めてでしょ?」

いせ「鬼の霍乱」

のぶ子「新二さんの留守に、おばさんにもしものことがあったら…今度、具合が悪くなったら、お電話くださいね。会社でもうちでもかまいませんから。父や母に気兼ねしないでください」

いせ「はい、ありがとう」

 

のぶ子「今日はね、卵が手に入ったから持ってきたの。ほら」卵2個を見せる。

いせ「まあ、ありがとう」

のぶ子「卵のおかゆ、食べます?」

うなずくいせ。

 

剣道の胴着を着用した上等兵。「よし、突け!」

兵士「ヤーッ!」

 

棒で突く練習。今、こんなことやってるようでは…

 

上等兵「よし、次!」

新二はボーッと立ち尽くしていて、上等兵に突かれてしりもちをついた。「何をぼんやりしている? 前に出ろ! 気合入れてやる。股開け。歯を食いしばれ」左頬を連続5発ビンタ! やめてくれ~。

 

棒かと思ったら、銃みたいな形したもので突き合い。

 

端野家

体を起こし、おかゆを食べているいせ。

のぶ子「私、これから毎日帰りに寄ってみます。心配だから」

いせ「そんなことしたら、お父さんやお母さんに…」

のぶ子「いいんです。いつか分かることですし。分かったときは分かったときです」

いせ「ありがとう。もう心配しないで」

 

端野家に郵便物が届き、のぶ子が取りに行った。

いせ「読んで」

 

のぶ子が新二の手紙を読む。

 

前略 母さん元気ですか? 病気をしてるんじゃありませんか? 先日、母さんが病気で苦しんでいる夢を見ました。気になっています。僕は元気に訓練に励んでいますから他事ながらご安心ください。

 

<親子というのは不思議なものですねえ。遠く離れていても互いのことが分かるものなのでしょうか。「虫の知らせ」なんて言いますが、そんなことのないように今でも祈り続けております>

 

いせは道端に立ち、同じように息子が出征している人などに千人針を頼む。

 

兵舎

それぞれが休息する中、新二は届いた千人針を大事にしまっていた。

 

新二の手紙

母さん、千人針ありがとう。母さんが元気だと分かって安心しました。これからは訓練が忙しくなりますので、しばらく手紙は書けないと思います。心配しないでください。新二は元気ですから。

 

道を歩いていたいせは、急に空襲警報のサイレンが聞こえ、建物の陰に隠れた。上空を飛ぶ飛行機。

 

<サイパンが落ちてから数か月後、時々、敵の飛行機が飛んでくるようになりました。あとで分かったんですが、空から東京の写真を撮ってたんだそうですよ。そして、19年の11月24日>

 

当時のB29が爆弾を落とす映像。

 

端野家の前の路地を歩く男性たち。

男性A「軍需工場ばっかり専門に狙われるなあ」

男性B「いよいよ敵さんの襲来か」

男性A「ナカジマ重工の工場(こうば)が空襲に遭ったんだってさ。全滅だってよ」

いせ「あの…すいません、ちょっと」

 

男性A「えっ?」

いせ「ナカジマ重工が空襲されたとか」

男性A「ああ、そりゃひどいもんだってさ。死人もだいぶ出てるって話だよ」

いせ「えっ? どうもすいませんでした」

 

玄関先に出ていたいせはいそいで靴下を履いて出かける準備をした。逃げる人と逆行してナカジマ重工へ入って行く。「あっ、すいません。水野のぶ子さん、知りませんか?」

男性「分からんねえ、このありさまだ。逃げて死んだ者がだいぶいるからね」

いせ「事務員の水野のぶ子さんです」

男性「負傷者はテントの中だ。見てみたら? テントの中、テントの中」

 

いせは、のぶ子の父を見かけて背中をバンバン叩く。

のぶ子の父「ありゃ、あんた。来てくれたんですか」

いせ「ここが空襲に遭ったって聞いて、私、じっとしていられなくて」

のぶ子の父「いや…のぶ子の野郎。どこに行きやがったんだ?」

 

担架で運ばれてきた女性の顔を確認するいせ。「ちょっと…違う」

 

のぶ子の父「あの…と…とにかく、あの…他の所、捜して」

 

あちこち歩き回るのぶ子の父。「どこ行きやがったんだ?」

いせ「あっという間にここ、空襲受けたってことですから」

のぶ子の父「逃げられなかった者も大勢いたって…のぶ子のヤツもやられたか」

いせ「そんなことありませんよ。そんなことがあってたまるもんですか」

のぶ子の父「端野さん、あんた、そんなにのぶ子のことを…」

いせ「当たり前ですよ。あの子にもしものことがあったら…何見てるんですか? そんなことより早く捜しましょうよ」

のぶ子の父「ああ」

 

⚟女性「お父さん!」

 

振り向いたのぶ子の父だったが、のぶ子ではなかった。しかし、のぶ子の父の肩をたたいた者がいた。

 

のぶ子の父「のぶ子!」

いせ「のぶ子さん」

のぶ子の父「バカ…バカ野郎」

いせ「よかった。ケガしたの?」

のぶ子「少し。おばさんも来てくれたんですか」左腕を吊ってる。

 

いせ「心配したわよ」

のぶ子の父「バカ野郎。さんざん心配かけやがって。どこをほっつき歩いてたんだ。バカ野郎…」泣きだす。

のぶ子「お父さん、泣かないでよ」

のぶ子の父「泣いちゃいねえや、バカ野郎。心配かけやがって」

 

いせ「ホントに傷、大丈夫なの?」

のぶ子「ええ、すいません。ご心配かけて。同じ課の人が重体で病院のほうに行ってたもんですから」

いせ「そうだったの。こんなに頻繁に空襲があるようじゃ、日本はこれから先どうなるのかねえ」

のぶ子の父「なあに、心配いらねえ。今にきっと巻き返す、日本が。負けるわけがねえ、第一。ヘヘッ」

 

いせ「なあに? この顔は。フフフッ」手ぬぐいを出し、のぶ子の顔を拭く。

のぶ子「すいません、大丈夫です」

いせ「大変だったね。よかった、でも」

のぶ子「ありがとうございます。すいません」

 

いせ「ホントによかった。それじゃ、私はこれで」水野親子と別れて歩き出す。

のぶ子「ありがとうございました」

のぶ子の父「どうも。気をつけて」

いせ「はい」

 

のぶ子の父「そうじゃねえかとうすうす。なんだ、ほら、あの…新二って若(わけ)えの。なかなか性根が据わってるじゃねえか。俺はまたこの非常時だってのに女とデレデレしてるようなヤツかと思ってた」

のぶ子「失礼よ」

のぶ子の父「好きなんだな? のぶ子」

のぶ子「立派な人よ。新二さんって」

のぶ子の父「分かった、分かった。てめえから進んで兵隊に行くってんだから。なかなかのもんだ。見直したぜ」

のぶ子「お父さん。お母さんに黙っててくれる?」

のぶ子の父「ハハー。あのヒスには、かなわねえからな」

のぶ子「あっ…ありがとう」

のぶ子の父「お前、惚れてるんだな。あの男に」

コクンとうなずくのぶ子。

のぶ子の父「おいおい」

 

<サイパンから飛び立った敵の飛行機は日本各地のいろんな軍需工場を集中爆撃したのでございます>

 

当時のB29の映像。

 

警防団員「空襲警報~!」メガホンで叫びまわる。

 

<昭和20年に入ると軍需工場だけでなく、我々、一般の住宅にも焼夷弾を雨のように降らせました>

 

防空壕に入ろうとしたいせだが、警防団員に「ここはいっぱいだ」と断られ、別の防空壕へ。

警防団員「何やってるんだ」

いせ「入れてください」

警防団員「あんた、いつも遅いね」

いせ「すいません。ありがとうございます」

警防団員「いいかね? 伏せるときには両方の手のひらを目に当てて親指を耳に突っ込んで、こう伏せる。分かったね?」戦闘機が飛び去るまで目を押さえる。

 

サイレンの音

⚟警防団員「空襲警報、解除~!」何度も繰り返す。

 

端野家に戻ってきたいせ。外で砂埃を払い、中へ。荷物をおろしてラジオをつける。

 

ラジオ「東部軍管区情報。東部軍管区情報。駿河湾上空より侵入せる敵、B29、10機は川崎、蒲田方面を爆撃し、鹿島灘より東方洋上に遁走せり。我がほうの被害は極めて軽微のもようなり。繰り返します…」

 

<あちこちで空襲のために大きな被害を受けていると聞いていましたが、いっつもラジオから流れるニュースは「我がほうの被害は極めて軽微のもよう」あればっかりでした。私たち国民はホントのことは何も知らされなかったのでございますね。戦地の兵隊さんだけでなく、銃後の国民だって空襲では随分亡くなったんです。あのころ、もう満州の新二からも便りは全く来なくなり、毎日毎日がつろうございました>

 

ラジオを聞きながら水を飲むいせ。(つづく)

 

こんなときにたった一人で暮らすってしんどかっただろうな。昔は人情があったとはいえだよ。

 

今までの木下恵介アワーにはなかった出演者インタビュー。ほかに「熱中時代」の水谷豊さんのインタビューもあり。