公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
11月20日。元子(原日出子)たち放送員16期生はついに卒業の日を迎えた。北はカラフトから南は鹿児島まで全国の放送局へ散っていく仲間たち。モンパリでの送別会に金太郎(木の実ナナ)も別れを惜しんでやって来た。洋三(上條恒彦)は皆のためにシャンペンを抜き、テーブルには鶏の丸焼き。叔母の絹子(茅島成美)が着物を売って作ったごちそうだ。夢のようなディナーののち、元子たちは肩を組み「同期の桜」を歌うのだった
11月20日、今日はいよいよ日本放送協会放送員第16期生の卒業式です。
ベランダから空を見て、部屋に戻って鏡台に向かって口紅をひく元子。
トシ江「元子ぉ~!」
元子「は~い! あっ」呼ばれて振りむいたので口紅がずれた。
トシ江「元子…何やってんのよ!」
元子「だって、いきなり大きい声で呼ぶんだもの」
トシ江「呼んだからってさ」
元子「だって、今日は卒業式なんだし非常時でもちょっぴり大人っぽく化粧ぐらいしたっていいと思ったから」
トシ江「どっちでも好きにしたらいいでしょ。それよりトモ子さんが見えてるわよ」
元子「ふれちゃんが?」
トシ江「お化粧も結構。だけど、あんまり人を待たせないようにしなさいよ」
トシ江が部屋を出ていき、鏡に語りかける元子。「今日は卒業式なのよ。母親なんだからもうちょっと何とか言ってくれてもいいじゃないの」
ともかく卒業式です。
沢野「では、ただいまより第16期生、卒業式を行います。卒業証書授与」
良男が前に出る。
立花「卒業証書 三井良男。大正13年10月5日生まれ。ここに放送員養成の全課程を修了したことを証する。昭和19年11月20日。社団法人 日本放送協会 放送員室長 立花国明。以下同文。右総代 三井良男」
良夫「はい」
沢野「立花放送員室長 挨拶」
立花「え~、第16期生の皆さん、卒業おめでとうございます。研修期間の後半、数度の警戒警報などにより、授業の中断を見たものの、よく1か月半という短期間に放送員養成の全課程を終えられました。私は心から諸君らの敢闘精神に敬意を表するとともに、明日から日本全国各地の放送局に勤務し、ただちに戦力として活躍する諸君らの健闘を祈ります。以上」
沢野「卒業生答辞 浅岡喜美代」
喜美代「はい」
前に出て一礼する喜美代。「答辞 卒業生を代表いたしまして、ひと言、ご挨拶申し上げます。立花先生、本多先生、桑原先生はじめご指導承りました諸先生方に16期生32名は心から感謝の念を抱き、今、巣立ってまいります。放送現場においては今日までご薫陶いただきました全てを全力をもって発揮し、お国のため、放送協会のために働くつもりでおります。本当にありがとうございました。16期生代表、浅岡喜美代」
答辞がのぼるや恭子じゃないのが意外。東京出身の子だね。
社團法人 日本放送協會
事務員 桂木元子
書記ヲ命ス
給月棒五十五圓
東京中央放送局放送員室勤務ヲ命ス
昭和十九年十一月二十日
社團法人日本放送協會
沢野「日本放送協会、辞令交付」
カメラマン「いきますよ、はい」
シャッター音 記念撮影
元子のモデルになった近藤富枝さんのインタビュー記事にこの時の写真が載っています。ドラマでは着物姿の女性がちらほらいるけど、実際はスーツ姿の女性ばかり。
研修室
卒業式用の服からいつもの地味な服に着替え。
のぼる「嫌だわぁ。いつももんぺばかりだから一生懸命おしゃれしたのに足がスース―して頼りないの」
光子「うちもよ」
元子「あ~あ、なけなしの絹のストッキングよ。これでまた、しばし、たんすの中か」
研修室前の廊下
良男「あっ、すいません、今、ちょっと」
沢野「え?」
良男「すいません、今、ちょっと困るんです。あっ…何か用事でしたら僕が」
沢野「スタジオへの忘れ物だ」
良男「はい、どうもすいませんでした」
研修室
元子「えっ、それじゃあ、もう今夜の夜行でたつの?」
幸江「そうするつもり」
トモ子「どうして」
幸江「だって遠いもの」
のぼる「石堂さん…」
幸江「頑張ってね、みんな」
光子「カラフトは寒いんでしょう。肺炎なんかにならんようにね」
幸江「住めば都よ。みんなこそ空襲警報なんかにへこたれないでね」
石堂幸江さんは北海道出身というだけでカラフトになったんだね。
元子「また会えるわよね、石堂さん」
幸江「会いましょうよ、きっと」
のぼる「そうよ、戦争に勝ったら盛大に同窓会やりましょうよ。その時はガラちゃん、あなたが幹事よ」
悦子「うん、任しといて!」五十嵐だからガラちゃんね。
恭子「いけない! 三井さん出しっぱなしじゃなかったの?」
元子「あっ、本当だ! 皆さん、もういいですか」
一同「は~い」
ドアを開ける元子。「どうもすいませんでしたぁ」
良男「これ、スタジオへ忘れた人?」
光子「あっ、うちや。すんません」
悦子「そそっかしいんだから、もう。このまま忘れたらどうやって鹿児島から取りに来るんですか」
トモ子「薩摩焼酎は卒業する気なかったんじゃないの」
光子「うん…」
元子「光子」
光子「遠かもん。鹿児島とカラフトじゃ、もう二度と石堂さんにも会えんかもしれんし」
トモ子「そんなこと言わないで!」
泣きだす研修生たち。
光子もまた熊本出身だけど、赴任地は鹿児島なのね。ただ、九州の人が北海道に行くとかそういう感じではなく、一応、出身地に近い放送局に赴任されるのかな。
良男「やめろよ、泣くのは」←と言いつつ手にハンカチ持ってる!?
悦子「分かってるわよ…」
良男「女学校の卒業式じゃないだろ。元気でさえいればみんな必ず会えるんだから」
別れを惜しむのも無理はありません。彼女らの職場は文字どおりカラフトから鹿児島まで。32名のまた会う日が果たしてあるのでしょうか。
良男も黒板に向かって一人泣いている。
茶の間
正大の写真に頭を下げる元子。「あんちゃん、ありがとう」
戸が開く音
宗俊「おい、帰(けえ)ったぞ」
元子・トシ江「お帰りなさ~い」
トシ江「それじゃ、ちゃんと挨拶するんだよ」
元子「はい」
宗俊「やれやれ、バカに日暮れが早くなってきやがったな」
トシ江「本当ですねえ。今、お茶いれますよ」
宗俊「おう…」いつも定位置の長火鉢の前へ。
元子「お父さん」きちんと手をつく。
宗俊「何だ何だ、おい。えれぇ芝居がかりやがって、何をねだろうってんだい」
元子「長いこと、いろいろありがとうございました」
宗俊「おい!」
元子「おかげで無事、研修も終わり、放送員になることができました。これが辞令でこっちが職員手帳です」
宗俊「脅かすんじゃねえや、このぉ!」
トシ江「あんた」
宗俊「バカ野郎! 昔っからな、娘が親に両手をついて長いことお世話になりましたってのはな、嫁に行く時の決まり文句だ。とぼけやがって、え? 親に隠れて、おめえ、どこで大それたこと考えやがったかと、こっちゃあ胃袋が縮まったぜ」
元子「だって、最後までわがまま通させてもらったんだもの。ほんとうにありがとうございました」
宗俊「くすぐってぇ文句、並べんな」
トシ江「そんなこと言ってないでね、ほら、ちょいと見てやってくださいよ。立派なんですよ、ほら」
宗俊「あ? 『書記を命ず』か。『給月俸55円』。お~、なかなかの給料取りじゃねえか、おい。『東京中央放送局放送員室勤務を命ず』。なるほど」
トシ江「こっちがあの手帳ですから」
宗俊「せかせるんじゃねえや、テッ! しみじみと見てやろうってんじゃねえか」
トシ江「いえね、お別れ会があるっていうもんだから」
宗俊「お別れ会?」
元子「そうなの。今日限りで明日はもう会えない人(しと)もいるから」
トシ江「ほら、絹子さんの所で下宿させてもらってたお嬢さん、あの人がね、明日の朝一番で仙台へたつんだってさ」
宗俊「ふ~ん」
元子「お願いします。私ももう放送協会の職員だし、お父さんに心配かけるようなことはしませんし、帰りもそんなに遅くなりませんから、だから…」
宗俊「そんなことは当たりめえじゃねえか」
元子「えっ」
宗俊「つまりは、おめえはもう学生でもねえし、子供でもねえんだ。行ってくりゃいいじゃねえか。行って、しっかりと別れを惜しんでこい」
元子「お父さん!」
外から見ると真っ暗なモンパリ。元子が扉を開けようとしたが閉まっている。
ノック
元子「こんばんは、元子です。こんばんは」
良男がすぐに動いて扉を開ける。
元子「うわぁ、きれい!」
良男「いいから、早く入りたまえよ」
元子「うん。あら、金太郎ねえさん」
金太郎「邪魔が入るといけないからね、鍵をしとこうって、マスターが言ったもんだからさ、ごめんよ」
洋三「よく出てこられたな、え。お父っつぁん、何て言ってた?」
金太郎「大丈夫ですよ。あれでそれほど分からず屋じゃないんだもんね」
元子「何しろ私の父親ですから」
洋三「そうですか」
金太郎「そのとおり」
洋三「はいはいはい、それじゃ、そっち入んな」
金太郎「はい、座って」
悦子「ねえねえ、これ全部おばさまが飾りつけしてくださったんですって」
元子「え~」
絹子「そうよ。ふれちゃんの門出ですものね」
元子「ありがとう。まるで昔に戻ったみたいだわ」
絹子「そう? うれしいわ」
トモ子「うれしいのは私の方です」
光子「私も。あの鹿児島に行ったら必ずお礼状出しますけん」
金太郎「それじゃあ、私はこの辺で」
絹子「あら、いいじゃありませんか、せっかく」
金太郎「ううん、こういうことは潮時が大事だし、私ね、愁嘆場っての、どうも好きじゃないのよ。それじゃ皆さん、お達者で。ご活躍祈ってますよ。じゃ、さようなら」
のぼる「どうもありがとうございました」
洋三「どうも本当にありがとうございました」
金太郎「鍵、お願いしますよ」
洋三「はい」
トモ子「どうもお気を付けて」
金太郎「どうもどうも、はいはい、開けますよ。じゃあね」
絹子「どうもありがとうございました。気を付けてね。どうも」
洋三「はあ~、みんな遠くへ行っちゃうんだね」
光子「あ…あっ、でも三井さんは広島だし、いくらか近いから、それだけ心強いです」
絹子「まあ、三井さんが広(しろ)島へ?」
良男「はい」
絹子「でも、お宅は確か水戸とかおっしゃってなかった?」
良男「はい、僕は男ですし。それに広島局へは榊原三重子さんも一緒に行きますから、別に心配はしてません」←男だと出身地関係なしということかな。
絹子「でも、ふれちゃんは?」
トモ子「あっ、私はお里帰りみたいなもんですから」
洋三「おいおい、すると六根清浄は満州だなんて、まさか言うんじゃないでしょうね」
のぼる「いえ、私は恭子やガンコちゃん、それにガラと一緒に東京組です」
悦子「ですから、これからもどうぞよろしくお願いします」
洋三「うん、そりゃもちろんだけど…そう、三井さんが広島で…それから薩摩焼酎は薩摩の国か」←なぜ熊本出身なのにいつの間にか薩摩焼酎になったのか。
光子「ああ…あんまりしみじみ言わんでください。また泣きとうなってしまいますけん」
洋三「ああ、ごめんごめん…」
絹子「それじゃあ、そろそろ始めましょうか」
元子「うん。私、手伝います」
絹子「それじゃあね、このシャンペングラスを、はい」
トモ子「えっ、シャンペンですって!?」
絹子「そうですよ。それこそ、おじさんの掛値なしの取っときよ」
トモ子「駄目よ、そんなの!」
洋三「どうして?」
トモ子「だって、私たちのためにいけないわ、そんな大事なものを」
洋三「いやいやいや、あなたたちだからこそ、このシャンペンはふさわしいんだよ。さあ、それじゃあ、いくよ。よっ、いくかな…」緊張の一瞬。
栓が抜ける音に歓声が上がる。
洋三「さあさあ、さあさあ…」シャンペンを注ぐ。
恭子、のぼる、悦子が顔を見合わせ笑う。洋三の隣の良男、光子も嬉しそう。トモ子、元子もワクワクして見つめる。
洋三「さあ、乾杯しましょう」
それぞれグラスを持つ。
洋三「それじゃあ、皆さんたちの青春を祝って」
良男「ありがとうございます」
洋三「乾杯!」
一同「乾杯!」
絹子「はい、どうぞ」鶏の丸焼きを出す。
悦子「うわぁ! もう夢の中にいるみたい」
絹子「これはね、金太郎さんに相談したらあちこち走り回って調達してくれたのよ」
元子「そうだったんですか…」
絹子「今夜だけは、このドアの外のことは忘れて楽しくやりましょう。ね」
トモ子「ありがとう。本当にありがとう。私が今日まで頑張れたのは六根清浄やみんなのおかげだし、おじさん、おばさん、それに何より、ガンコ、あなたのおかげです」
元子「ふれちゃん…」
トモ子、下を向いて泣きだす。
洋三「しょうがないな、え。初めに泣かないっていう約束だったじゃないか」
光子「だって…」泣き出す。
元子「ねえ、歌でも歌いましょうよ、みんなで」
洋三「そうしよう、そうしよう、うん。さあ、それじゃあ、こいつを」ジャケットを脱ぎ、アコーディオンを担ぐ。
のぼる「わぁ、本格的!」
洋三「ハハ、何がいいかな」
のぼるが悦子や恭子と相談。そういや、恭子だけあだ名らしきものがないな。
のぼる「あっ、そうね」
恭子「じゃあ、あの『同期の桜』お願いします」
洋三「はい、『同期の桜』ね。じゃあ、いくよ」伴奏を始める。
夢のようなこのディナーに絹子の着物が何枚か消えたことでしょう。
毎度おなじみぶっこみナレーション!
♪お前と俺とは同期の桜
良男は光子と元子の間で肩を組む。おぉ! こういうの金八の謝恩会思い出す。
♪同じ放送局の庭に咲く
咲いた花なら散るのは覚悟
見事散りましょう国のため
つづく
ひきつづき第18回を放送
明日も
このつづきを
どうぞ……
さて、今日はもう1話見れるぞ!