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【ネタバレ】岸壁の母 第十六章「たのもしき わが子」その一

TBS 1977年11月28日

 

あらすじ

昭和十六年十二月、太平洋戦争が始まる。いせ(市原悦子)はいくら国のためとはいえ、新二(大和田獏)を戦争に送り出したくないと考えていたが、戦争は激しさを増し、男たちは続々と出征していた。

岸壁の母

岸壁の母

2024.7.15 BS松竹東急録画。

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冒頭はお決まりのシーン。青白画像。船が港に帰ってくる。

いせ「石頭(せきとう)教育、13981(いちさんきゅうはちいち)部隊、荒木連隊、第1大隊、第6中隊の端野新二(はしのしんじ)を知りませんか? 端野新二知りませんか? 端野新二を知りませんか? 端野…新二~!」

 

端野いせ:市原悦子…字幕黄色。

*

端野新二:大和田獏…字幕緑。

*

三浦とよ子:生田くみ子

*

石田:長澄修

*

医師:木崎晩生

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三浦文雄:山本耕一

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音楽:木下忠司

*

脚本:高岡尚平

   秋田佐知子

*

監督:菱田義雄

 

前回の続きから

新二「母さん、どこ行くんだよ」

 

<新二は一緒に登った山で小宮さんに死なれ、自分だけが助かったことにひどく苦しんでました。すっかりふさぎ込んでしまって勉強も手がつかなくなって、傷つきやすい年頃ですから無理もありませんが、私や三浦先生がどんなに慰め、励ましても沈んでいく一方です。このままでは新二がダメになってしまう。いいえ、この子は自殺さえしかねない。なんとか新二を立ち直らせなければと思いました>

 

踏切を渡り、どんどん歩いて行くいせ。

 

いせ「早くおいで」新二の手を引っ張る。階段を下りて水門へ。「覚えてる? 新二」

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回想シーン

いせ<<新ちゃん、お母ちゃんの行く所、一緒に行ってくれる?>>

新二<<うん>>

いせ<<どんなとこでも?>>

新二<<うん。お母ちゃんと一緒ならどこにでも行く>>

いせ<<もし、お母ちゃんが一緒に死のうって言ったら?>>

新二<<死ぬ>>

軒下から出て、岸壁に足を踏み出すいせ。草履が流れる。

回想終わり

 

<あのときはホントに死ぬ気でした>

 

いせ「お前を連れて、函館の田舎を飛び出して東京へ出てきたんだけど、頼れる人もなく、探しても探しても仕事が見つからず、お前に食べさせるご飯も事欠くような毎日が続いて、その上、お部屋を借りてる大家さんに出ていけって言われて、もう死ぬよりほかないと思った。お前は7つだった。1年生だった。母さんがなんでここへ連れてきたか分かる? 母さん死なずに生きてきた。今、こうしていられるのは、あのときお前が母さんに教えてくれたからだよ。僕、どこも痛くない。死ぬのはイヤだって。母さん、お前に感謝してるよ。生きててホントによかったと思ってる。母さんのために強くなって。そうじゃなかったら、この10年間、なんのために我慢してたのか、一生懸命、努力してきたのか分からなくなるよ。母さんには、お前一人なのよ」

 

新二「母さん…」

いせ「お前が立ち直ってくれなかったら、いっそあのとき死んでしまったほうがよかったよ」

新二「分かったよ、母さん。心配かけて悪かった」

いせ「ホントに? 新二」

うなずく新二。

いせ「小宮さんのことでつらい思いをしてるのは、よく分かるよ。でもそのためにあんたがくじけちゃダメよ」

新二「大丈夫だよ」くしゃみをする。

いせ「汗かいて…風邪ひくよ」手ぬぐいで新二の顔を拭く。

新二「だって、母さんすごい勢いで引っ張ってくんだもん。怖い顔して」

いせ「心配ばっかりかけて」

 

水門で仕事している人たちが来たので、いせたちは帰った。

 

<それから新二は気持ちが立ち直ったようで三浦先生のお宅へも伺うようになりましたし、熱心に勉強するようになったのです。わたくしもホッといたしました>

 

美談に仕上がってるけど、これじゃ、もう辛さや悲しさを誰にも言えなくなっちゃうね。荒療治すぎる。

 

新二の部屋

勉強が一段落した新二は伸びをして窓辺へ座り、歌い始める。

 

♪泣くな 妹よ

妹よ 泣くな

泣けば おさない二人して

故郷をすてたかいがない

人生の並木路

人生の並木路

  • provided courtesy of iTunes

ディック・ミネ「人生の並木路」1937年発売

 

いせも1階で仕立物をしながら聞いている。そこへ石田、帰宅。久しぶり~。

 

いせ「おかえんなさい」

石田「ただいま」

いせ「早かったじゃない」

石田「はい」

 

新二の歌は続く。

♪日暮の路で

泣いて しかった…

 

石田「あれ? 誰ですか?」

いせ「新二よ」

石田「新二君か」

いせ「やっと歌が出るようになって。石田さんがいるときは歌わないのよ。恥ずかしいのね」

石田「いい声だなあ」

いせ「石田さんが行ったらやめちゃうわよ。フフフッ」

 

♪雪よ 降れ降れ

夜路のはても

やがて かがやく…

 

石田がそっと階段を上がり、襖を開けると新二は頭ポリポリ(昭和の照れリアクション)。

 

石田「うまいじゃないか」

新二「ハハッ」

石田「『人生の並木路』だろ? 聴かせてくれよ」

新二「あれ? 石田さん、流行歌なんか知ってるの?」

石田「なぜ?」

新二「いや、クラシックばっかりかと思ってた」

 

石田「ハハッ。クラシックもいいけど流行歌も好きだよ」

新二「ホント? よかった」

石田「えっ?」

新二「いや、バカにされるんじゃないかと思って」

石田「どうして? そんなことないよ。音楽ならなんだって好きだよ。よし」自室に行き、ギターを持ってきた。

 

新二「あれ? ギターを持ってたの?」

石田「うん。指が動くかな? 伴奏するから歌ってみてくれる?」

新二「えっ?」

 

石田の演奏で再び歌い始める新二。いい声。

 

♪泣くな 妹よ

妹よ 泣くな

泣けば おさない二人して

故郷をすてたかいがない

遠い さびしい日暮の路で

泣いて しかった兄さんの

涙の声をわすれたか

雪も降れ降れ

夜路のはても

 

階下で仕立物をしていたいせも一緒に歌いだす。

 

♪やがて かがやく あけぼのに

わが世の春は きっと来る

 

<あとは新二が高等商船に合格してくれればいいがとそれだけが心配でした。新二は三浦先生のお宅に熱心に通って数学を教わってます。あのころ、奥様は妊娠して4か月。三浦先生も奥様もホントに親身になって新二の勉強を助けてくださいました>

 

三浦家で勉強し、夕食をごちそうになる新二。「ごちそうさまでした」

とよ子「今夜は冷えるから風邪をひかないようにしてね」

新二「はい」

とよ子「お母さんに申し訳ないから。フフフ」

 

三浦先生が七輪に火を起こしながら、新二の勉強を見る。「うん? ここはちょっと違うんじゃないかな。ここ」

新二「あれ?」

 

食器が落ちる音がし、とよ子が苦しそうな声で三浦先生を呼ぶ。「ああ…あなた…」

三浦「おい、どうしたんだ? 苦しいのか? おい! とよ子。しっかりして、さあ」

とよ子「ああ…」

三浦「大丈夫か? 新二君、すまんが医者を呼んできてくれないか? 中通りマツダ病院だ」

新二「はい」

 

端野家

茶の間で新聞を読んでいる石田。

いせ「どうかしたの?」

石田「あ…あっ、いえ」

いせ「石田さん、あちこちでね、アメリカと戦争が始まるんじゃないかって噂してるけど、ホントかしら?」

石田「さあ…でも、雲行きがおかしいのは事実です。けどね、まさか…おばさん、大丈夫ですよ。はい」お茶を入れて、いせの前に持ってきた。

 

いせ「まあまあ、すいません」

石田「アメリカを敵に回すのは大変なことですからね。いくら軍部だって、そんなむちゃな戦争は避けると思いますよ」

 

新二帰宅。

いせ「早かったじゃない、今夜は」

新二「おばさん、大変だったんだよ」

いせ「どうしたの?」

新二「急におなかが痛くなって、お医者さん呼んだり大騒ぎしたんだ」

いせ「それで?」

新二「お医者さんは、まだいるけど、先生、君は帰ったほうがいいって言うから」

 

いせは指ぬきやマフラー、前掛けを外していく。

新二「母さん…」

いせ「ちょっと母さん出かけてくる」

新二「でも、もう遅いから」

いせ「何かお手伝いできることがあるかもしれないから。ちょっと前掛け取って。はい、どうもありがとう。じゃ、石田さん、失礼」

 

名前が縫い付けてある出かける用の羽織があるのね。

 

三浦家

とよ子は布団に寝かされ、医師と看護師がまだ診察中。

 

⚟いせ「ごめんください」

 

三浦「端野さん」

いせ「いかがですか? 奥様」

三浦「ええ、今、お医者さんが…」

いせ「何か手伝わせてください」

三浦「すいません。さあ、どうぞ」

 

医師「これで多分大丈夫でしょう」

三浦「はあ」

医師「今夜が大事ですから、また痛がったり苦しんだりしたら、すぐ呼びに来てください」

三浦「ありがとうございます」

 

医師たちが帰っていき、いせが枕元へ。

とよ子「端野さん…」

いせ「どうですか?」

とよ子「私、流産するんじゃないかしら?」

いせ「大丈夫。大丈夫ですよ、奥さんは。分かりますわ。私も新二を産むまでは、いろいろ心配でしたもの」

とよ子「端野さん…」

いせ「こういうときは、なんにも考えずにただのんびりと安静になさってたほうがよろしいですよ」

うなずくとよ子。

 

三浦「どうだ?」

とよ子「痛みは止まったけど…」

いせ「先生、湯たんぽ出してください」

三浦「湯たんぽ?」

いせ「こういうとき冷えると一番いけないんです」

三浦「ああ…どうも男はそういうことに気がつかなくて」

とよ子「すいません」

いせ「いいえ」

 

青いやかんでお湯を沸かし、湯たんぽにお湯を入れるいせ。

 

<少しでもお役に立てればと、これまでのお二人のご親切に、こんなときこそ報いようと思いましてね>

 

三浦「どうもすいません」

いせ「先生も奥様もどうぞ気になさらないでください」湯たんぽを布団に入れる。

とよ子「ああ、あったかい」

いせ「奥様、腹帯は?」

とよ子「まだ」

 

いせ「ちょっと早いかもしれませんけど、やっといたほうがいいと思うんですよ」

とよ子「さらしだけは買ってあるんだけど」

いせ「出していいですか?」

とよ子「ええ。あなた」

三浦「うん?」

とよ子「2番目の引き出しに」

三浦「ああ」

 

とよ子「端野さん、腹帯を締めるのは5か月に入った戌の日がいいとか」

いせ「そう。赤ちゃんがあんまり大きくならないように締めるんですけど冷えないように早めにしといたほうがいいと思うんです。赤ちゃん、大事ですから」

三浦「これでいいですか?」

いせ「はいはい」てきぱきとさらしをととのえる。

 

三浦「端野さん、あんまり遅くなると…」←距離近すぎ。

いせ「お医者様も今夜が大事だって。私にお手伝いさせてください」

三浦「はあ、しかし…」

いせ「私のことはどうぞご心配なく」

 

とよ子「ああ…」また苦しそう。

三浦「どうした?」

とよ子「おなかが…」

三浦「えっ?」

いせ「大丈夫ですよ、奥様」

とよ子「端野さん…」

いせ「今夜、おそばにいますからね。なんにも心配なさらないでください」

 

三浦「新二君に泊まるとは言ってらっしゃらなかったんでしょ?」

いせ「ええ」

三浦「心配するといけないから、僕が行ってきましょう」

とよ子「そうして、あなた」

いせ「すみません」

三浦「うん」

 

腹帯を締めたとよ子。「なんだかとってもいいみたい。腹帯したのとしないのとでは、こんなに違うのかしら」

いせ「そうでしょう? さあ、お休みになって」

 

翌朝、とよ子が寝ている枕元で芋を切ってるいせ。三浦先生はとよ子の足元のたんすにもたれかかって寝ている。

 

端野家

蒸かし芋を頬張っていた新二は階下に降りてきた石田に気付き「おはよう」と声をかけて、蒸かし芋を渡した。

 

石田「三浦先生の奥さん、どうだったんだろう?」

新二「うん…おふくろついてるから」

石田「ああ」

 

三浦家

朝食の準備をするいせ。

三浦「どうもお世話かけましたね」

いせ「いいえ。奥様もう大丈夫ですわ」

三浦「はあ。いや、あなたがいてくだすって助かった。どうも男ってのは、ああいうとき役に立たなくて」

いせ「まあ、大体そうですわ」←本音炸裂

 

おかゆセットを持って寝室に行こうとしたいせだったが、とよ子が起きてきた。「あ…私もこちらで頂くわ」

三浦「大丈夫かい? とよ子」

とよ子「すいません」

 

三浦先生がラジオをつけた。

 

ラジオ「臨時ニュースを申し上げます。臨時ニュースを申し上げます。大本営陸海軍部12月8日午前6時発表。帝国陸海軍は今8日未明、西太平洋においてアメリカ・イギリス軍と戦闘状態に入れり」

www2.nhk.or.jp

朝ドラでは割と聞いてきた臨時ニュース。

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結構「澪つくし」の戦争描写も激しかったけど、終盤2週間ぐらいだったんだよね。

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↑このドラマは舞台裏という感じかな。

 

とよ子「とうとう戦争が始まったのね」

三浦「うん」

とよ子「どうなるのかしら?」

三浦「うん…」

 

<昭和16年12月8日。太平洋戦争の始まりを告げる臨時ニュースは7時に放送されました>

 

端野家

ラジオ「戦闘状態に入れり。今朝、大本営陸海軍部からこのように発表されました」

軍艦マーチ

軍艦マーチ

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新二「いやあ、やったな。どうだったんだろう? 戦況は」

ぼんやりしている石田。

新二「どうしたの?」

石田「あっ、いや…」

新二「しかし、思い切ったことやるよなあ。アメリカやイギリスを相手にして」

 

無邪気に芋を食べる新二とは対照的に沈んだ表情の石田。

 

三浦家

三浦先生が真面目に見ているのは出産についての本!?

 

とよ子「すいません、いろいろ。学校まで休んで」

いせ「心配なんですよ」

とよ子「私、もう大丈夫よね?」

いせ「もうしばらくは、ご無理をなさらないほうがよろしいですよ」

とよ子「ありがとう。あなたがいてくださったおかげね」

いせ「いいえ」

とよ子「これからもいろいろ教えてくださいね」

いせ「いつでも伺いますから。お夕食の用意もしてありますから」

とよ子「すいません、ホントに」

いせ「お大事に」

 

三浦家

新二がラジオをつける。ラジオから歌が流れる。

ましろき富士の…

真白き富士の根

真白き富士の根

  • provided courtesy of iTunes

ミス・コロンビア「真白き富士の根」1910年発売。

www.shochiku.co.jp

これも松竹映画の主題歌なのね。うまく絡めるね~。それにしても、ある一定の時期まで日本では悲惨な事故が起こったりすると歌作ったり映像化したりするのなんなんだろ?って不思議。この歌も実際に起こった転覆事故の歌だし。

 

新二「さすが母さんだな。母さんは僕を産んだ経験者だもんね」

いせ「お前を産むときは大変だったよ。三日三晩苦しんで、お産婆さん随分手を焼かせたよ」

新二「ふ~ん」

 

石田「おかえんなさい」

いせ「あっ、留守してすいませんでした」

石田「いいえ」

 

再びラジオからチャイムが流れる。「ニュースを申し上げます」

 

いせは石田にお茶を出す。「どうぞ」

 

ラジオ「大本営陸海軍部発表。今8日未明、西太平洋において米英軍と戦闘状態に入りたる我が皇軍の敵に与えたる損害、次の如し。撃沈、戦艦5隻、巡洋艦2隻、給油艦1隻。大破、戦艦3隻、乙級巡洋艦2隻…」

新二「やった、やった、やった、やった! 勝った、勝った、バンザーイ! ハハハッ、おっ! フゥー!」立ち上がって鴨居にぶら下がる。

いせ「ダメダメダメ」

新二「すごいね。アメリカを敵に回して、ここまでやれるとは思わなかったよ」

いせ「ホント」

 

再びラジオから流れる「軍艦マーチ」

軍艦マーチ

軍艦マーチ

  • provided courtesy of iTunes

新二「やった、やった! ハハハッ」

 

いせはにこやか、石田は浮かれた様子なし。

 

<これが間違いの始まりだったんです。あのとき、私は4年後の、あの惨めな敗戦など思いもよらず、ただただ勝利に酔っていたのですから>

 

いせの笑顔のアップ。(つづく)

 

今週も2番の歌詞。

 

昨日の「あしたからの恋」を見ていたら、間に「岸壁の母」のCMが流れた。今後のシーンらしきものばかりで、三浦先生はこれからも出るんだなあ。いせととよ子の関係性は不思議だね。とよ子もいせに嫉妬はしてるけど心配もしてる感じだし、新二に優しいのも本当だし。

 

それと、「あしたからの恋」はやっぱり面白い! ヒロインにちゃんと普通にただおしゃべりするような女友達がいるのがいい。楠田芳子さん脚本の木下恵介アワーはもう1本くらいあってもよかったな。和枝は対直也以外ならすごくいい子なの。