NHK 1987年9月3日(木)
あらすじ
病院を三代治(山本亘)に譲り東京に行く、と嘉市(レオナルド熊)に話すみさ(由紀さおり)。嘉市は反対し、みさ一人面倒見るくらい、滝川の者が付いてるからどうにでもなる、と言うが、蝶子(古村比呂)は、みんなが帰ったら一人になる、実の娘が面倒を見ると譲らない。外は初雪。蝶子は生まれ育った滝川の家に別れを告げ、加津子(藤重麻奈美)と俊継(服部賢悟)に、自分の部屋や診察室をよく見ておくようにと案内する。
2025.9.11 NHKBS録画
脚本:金子成人
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音楽:坂田晃一
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語り:西田敏行
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岩崎蝶子:古村比呂…字幕黄色
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北山みさ:由紀さおり
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石沢嘉一:レオナルド熊
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国分三代治:山本亘
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たみ:立原ちえみ
品子:大滝久美
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岩崎加津子:藤重麻奈美
岩崎俊継:服部賢悟
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野々村泰輔:前田吟
前回と全く変わらない出演者って実は珍しい。
<主(あるじ)のいなくなった北山医院は、この後、俊道さんの甥の国分三代治さんが継ぐことに、ゆうべ、決まりました>
北山医院前
三代治の見送りに出たみさや蝶子たち。
みさ「したら、三代治さん」
三代治「仙台へ戻ったら、すぐ準備を始めます。じゃ、皆さん」
泰輔「あとは、よろしく」
蝶子「気を付けて」
三代治「では」去っていった。
泰輔「なかなかいい人物だよ」
蝶子「うん」
みさ「そう思うかい?」
蝶子「三代治さんなら滝川の人とうまくやれるんでない?」
みさ「そうだね」
蝶子「父さんが見込んだだけの人だ」
泰輔「ハハッ、専門は何だい?」
みさ「たしか外科だとか」
泰輔「ふ~ん。よいしょ、よいしょ」家の中へ。
みさ「ん?」
蝶子が”北山醫院”の看板を見つめる。「北山医院も終わりだね」
みさ「…外さないとね」
泰輔「名前さ、このままにしとくわけにいかないのか?」
みさ「そりゃ、三代治さんに悪い。三代治さんは三代治さんの名前で新しくやってもらった方がいいんだ」
蝶子「そうだね」
泰輔「うん」
”北山醫院”の看板に手を触れて、家の中に入る蝶子。
茶の間
みさ「実は私、滝川ば離れようと思って」
驚く石沢、品子、たみ。
上座 たみ 品子 石沢
下座 泰輔 蝶子 みさ
みさ「東京へね、行こうかって」
石沢「東京!?」
うなずく泰輔、蝶子。
石沢「なして?」
蝶子「私がそう勧めたんだ」
泰輔「私もね」
石沢「なしてだ!?」
品子「このうちは、どうなるんですか?」
みさ「お父さんの甥にあたる人が住むことに」
たみ「なして!?」
みさ「したけど」
蝶子「その人ね、父さんの姉さんの子供でお医者さんなんだ。外科でね、今、仙台にいるんだけど、父さんの後継いで、この場所で開業してくれるってしゃべってくれたんさ」
石沢「奥さん、滝川離れることないっしょ?」
品子「そうです」
みさ「したけど、私一人だもねえ。収入もなくなる」
石沢「そんなことは、どうでもなる!」
蝶子「おじさん」
石沢「ここをどこだと思ってるんさ! 滝川だ! 先生の世話になった人がなんぼいると思うのさ! 10人20人でない! 100、200だ!」
たみ「私もだ!」
品子「私も!」
石沢「ほれ、奥さん一人ぐらいの面倒はどうにでもなる」
うなずく品子とたみ。
石沢「なんとしても滝川を離れるちゅうことになったら、反対運動起きるんでないかい? え! 汽車に乗ったら線路外して行かさんようにする人間も出てくるんでないか?」
たみ「そうだ!」
品子「木島寅夫さんは何するか分からんもね!」
たみ「空知川の鉄橋、落とすんでない!?」
みさ「私のこと、そんなふうに思ってもらえて大したうれしいわ。したけど、好意に甘えるわけにいかないもねえ」
石沢「かたく考えることない」
みさ「したけど、私は、お父さんの甥に甘えて、ここにいる考えもないんだ」
石沢「いや、だから、ワシが…」
蝶子「気持ちはうれしいけど、おじさん、ほかに誰も身寄りがいないっちゅうならあれだけど、私っていう実の娘が東京にはいるっしょ!」
泰輔「実の弟もいますんでね」
蝶子「したから、別々に暮らすことはないと思うんだわ」
石沢「したら、チョッちゃんたち戻ってきて一緒に暮らせばいいべさ! あんな東京なんか、あんた、空襲もあるって、うわさだべし、そんな危ないとこへ連れてくことないべさ!」
蝶子「危ないから一緒にいたいんだ!」
みさ「離れてると、余計、心配だもね」
蝶子「したから、母さん一人にはしておけないもね」
石沢「一人でない。ワシや品子ちゃんやたみちゃんもおる!」
たみ「そうだ。私、毎日でもここ、来るもね!」
うなずく品子。
石沢「ほれ!」
蝶子「したけど…。やっぱり一人なんだわ」
みさは嘉市の空の湯飲みを受け取り台所へ。
蝶子「みんなの親切は、よ~く分かるんだ。みんな、母さんのこと、いつもいつも気にかけて話し相手に来てくれるとは思うんだわ。したけど、みんな、帰っていくしょ? 夕方になると自分のうちに帰っていくしょ。みんな帰ったら…やっぱり母さん一人になるもね」
台所でおぼつかない手つきでお茶をいれようとしているみさ。
蝶子「そういう時、一人になった時、母さん一人でどうするんだって考えるんだ。誰かが作ってくれた晩ごはんば一人でモソモソと食べ、風呂に入って出てきても話し相手もいないっしょ? しかたないから布団に入る。眠くないから、なかなか寝つけない。そしたら、いろいろ考えるしょ。満州で死んだ道郎兄さんのこと。戦地に行ってる俊介のこと…。眠ったと思ったら、風の音か何かで目、覚まし、思い出すことといえば父さんのこと思い出して布団の中で泣いたりもするっしょ?」
台所で涙を拭きながら蝶子の話を聞いているみさ。
蝶子「一人っちゅうんは、そういうことでない? そうだとしたら、私は母さん一人にはしておけないもね」
泣いている石沢、品子、たみ。
蝶子「したから、母さんは私のそばに来てもらうから」
みさがお茶を運んできて石沢に出した。「そういうことだわ」
泣きながらうなずく石沢。
みさ「いやいや、みんなのおかげで、ここの暮らしは大した楽しかった。大して助けてもらった」
石沢「なんもだ!」
みさ「品子さん、たみちゃん…ね! 結婚したあとまでここ来てくれて無理ばさしたんじゃないかって心苦しく思ってたんだ」
首を横に振るたみ。
品子「そんなことはない!」
品子とたみが声をあげて泣く。
石沢「で、奥さんは、いつたつんさ?」
みさ「12月に入ってから」
石沢「チョッちゃんたちは、それまでいるのかい?」
蝶子「いや、私たちは明日たつことに」
泰輔「ですから石沢さん」座り直す。「もう一度、私ら、姉ちゃん迎えに来ることができないんです。そこで石沢さんに後のことお願いしたいんです」
蝶子「お願いします」
うなずく石沢。「分かった。心配するな」
みさ「はあ、どうも」
泰輔、蝶子は手をついて頭を下げた。
⚟︎戸が開く音
⚟︎加津子「雪だ、雪だ!」
茶の間に入ってきた俊継。「お母さん、雪だよ、雪!」
蝶子「うん?」
俊継「早く、早く!」蝶子の手を取って廊下へ。
⚟︎加津子「お母さん! 早くおいでよ!」
北山医院前
加津子「雪が降ってるよ!」
⚟︎汽笛
<この日、滝川は初雪が舞いました>
⚟︎汽笛
雪のうっすら積もった翌朝、外では鳥の鳴き声がする。
蝶子は自身の使っていた部屋へ。壁に貼ってあるポスター?を見、ちいさなタンスから本を取り出した。
和紙、たんすと検索すると、和ダンス、貼り箱、華タンスとたくさん名前が出てくるけど、Amazonで検索しても出てこない。普通に”和紙、たんす”で出てきた。
蝶子が高女時代作っていた同人誌を懐かしそうに読む。
「風よ 吹け
風よ すべてを凍らせて
雪の ひとつひとつの結晶を
永遠に凍らせて
雪が わたしの希望だから…」
加津子「何してるの?」
蝶子「うん?」振り向くと加津子と俊継が立っていた。「ここはね、お母さんの勉強部屋だったのよ」
加津子「ふ~ん」
蝶子「泣いたり、笑ったり、歌ったり…勉強もね。いろんな思い出が詰まってるのよ」
うなずいた加津子が蝶子が使っていた文机の前に座る。
診察室に加津子と俊継を連れていった蝶子。「じいちゃんのね、仕事場だったのよ」いつも俊道が座っていた机の上に置かれた聴診器、額帯鏡(がくたいきょう)を見つめる。
声に出さずに”さようなら”という蝶子。音消しされたわけじゃあるまい。
みさ「ここにいたんかい。…嘉市さんが来てくれた」
蝶子「そうか。加津(かっ)ちゃんたち支度して」
診察室の棚を見ていた加津子たちが出ていく。
蝶子「このうちにお別れしてたんだ。母さん、東京に来たら、こっちには肉親いなくなるっしょ。そしたら帰ることないかもしれないもねえ。こっちに来ても、もう帰るとこでなく、立ち寄るってことになるもねえ」
うなずくみさ。
哀しい感じのメロディは、どこか「おしん」と似てる。
玄関を出た泰輔。「ハア~、よいしょ!」一般の人もゲートル巻くんだな。
蝶子、加津子、俊継も荷物を抱えて家を出た。
蝶子「私も母さん、迎えに来れないと思うから。品子さん、たみさんとも今日で。2人には何てお礼言っていいか」
品子「お礼なんか!」
たみ「蝶子さん、これが最後みたいなこと言わないでや!」
蝶子「そうだね」
品子「最後なんかではない!」
うなずく泰輔。「このうちのために長い間、ありがとう!」
蝶子「ありがとう!」
品子とたみが泣き出す。
石沢「行くかい?」
蝶子「したら」
みさ「うん」
泰輔「行こう。うん、さあ!」歩き出す。
品子「さようなら!」
品子の声に振り向く泰輔たち。
加津子「さようなら!」
俊継「さようなら」
泰輔「元気でね!」
品子「はい!」
蝶子「さいなら! さいなら!」
北山医院前で石沢、みさ、品子、たみが手を振る。雪がちらつき始めた。
<これがチョッちゃんの住み慣れた我が家との決別の日でした>(つづく)
創作ならここで蝶子たちも北海道で暮らすという選択肢もあっただろうな。現実はいつ戦争が終わるかなんて庶民は知らないでいたんだもんねえ。


