NHK 1987年4月13日(月)
あらすじ
岩見沢にいる神谷先生(役所広司)が、なぜ滝川に来たのかと不思議に思う蝶子(古村比呂)だが、神谷先生は、国木田独歩が滝川に来たことがあると聞いて興味がわいた、ということだった。ちょっと上がって俊道(佐藤慶)とみさ(由紀さおり)に挨拶することになった神谷先生は、蝶子の成績についての話をしながら、蝶子が音楽の道に進みたい、と相談しているという話をしてしまう。初めて聞いた俊道は診察室にこもってしまい…。
2025.3.31 NHKBS録画
脚本:金子成人
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音楽:坂田晃一
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語り:西田敏行
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演奏:新室内楽協会
テーマ演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
指揮:円光寺雅彦
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考証:小野一成
医事指導:白石幸治郎
タイトル画:安野光雅
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方言指導:曽川留三子
協力:北海道滝川市
北海道開拓の村
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北山蝶子:古村比呂…字幕黄色
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神谷容(いるる):役所広司
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北山みさ:由紀さおり
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彦坂頼介:杉本哲太
石坂嘉一:レオナルド熊
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北山道郎:石田登星
北山俊介:伊藤環
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山本たみ:立原ちえみ
高畑品子:大滝久美
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北山俊道:佐藤慶
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野々村泰輔:川谷拓三
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制作:小林猛
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演出:富沢正幸
レオナルド熊さんの役名、石坂だっけ?と思ったら、初登場時は石沢だった。
北山家
神谷「いや、もう、すぐ失礼するから」
蝶子「父と母に知らせますんで」
神谷「北山君、そんな大げさなもんでないんだから」
蝶子「お待ちください!」
<チョッちゃんの空知高女の担任・神谷容先生です>
みさ「あ、蝶ちゃん、ちょうどよかった。あんたに合いそうなもんがないかと思って…」着物をたくさん広げて見ている。
蝶子「母さん!」
みさ「え?」
蝶子「あれ、ほれ、あれ…早く来て!」
玄関で待っている神谷にたみが話しかけた。「来診の受付は、ここですよ」
品子「そう、ここですよ」小窓から顔を出す。
神谷「あ~、いやいやいや、違うんだわ」
蝶子「神谷先生!」
みさ「え?」
蝶子「…母です」
「神谷です!」と頭を下げる。
みさ「あの…」
蝶子「神谷先生さ! 空知高女の私の担任の…」
みさ「ああ!」
神谷「どうも」
たみ「失礼しました!」品子も小窓を閉める。
みさ「どうぞ、お上がりください」
神谷「いや、あの…」
みさ「主人もおりますから」
蝶子「是非!」
みさ「どうぞ、どうぞ」
神谷「じゃ、ちょっと…」
みさ・蝶子「はい」
お茶っ葉の缶がなかなか開けられないたみ。
品子を手招きして呼ぶ蝶子。「父さんに『高女の担任の先生が見えた』って伝えてや」
品子「分かりました」
石沢「おやっ、チョッちゃん!」
蝶子「おじさん、明けましておめでとう」
石沢「おめでとう」
蝶子「じゃ!」
石沢「チョッちゃん、今年でなんぼになった?」
蝶子「17。じゃ!」
石沢「ああっ、あ!」
蝶子「え?」
石沢「うちの羊、近々、子供産みそうなんだわ。見に来ればいいしょ」
蝶子「考えとくわ」
石沢「あんたいるうちに間に合うと思うよ」
蝶子「うん。じゃ!」
石沢「何だって、そっけないべさ」蝶子を引き止める。
蝶子「お客さん、見えてんだ」
石沢「誰さ?」
蝶子「誰さって…」
石沢「ほれた男でも来てんのかい?」
蝶子「ヤダ~!」力いっぱい突き飛ばす。
茶の間
たみがお茶を出す。「どうぞ」
神谷「どうも」
蝶子が入ってきて、みさに耳打ち。「父さん、診察中」
みさ「あ、そうかい」
蝶子「品子さんに先生いらしたこと言っといたから」
みさ「うん」
神谷「え? 私ならいいんです。なにも父兄にお会いするために、こちらに来たわけではないんですから」
蝶子「したら、あの…」
みさ「蝶子のことでなく」
神谷「違うんですわ」
みさ「ああ…あ、お茶、どうぞ」
神谷「はい」お茶を飲み「あ~。」とひと言。「いや、国木田独歩がこの滝川に来たと知ってね。(みさに)国木田独歩っていう文士がいるんですわ」
蝶子「ああ、あれ?」
みさ「ああ、その方にお会いに?」
神谷「いや、お母さん、独歩が滝川に来たのは明治28年のことで、もう30年以上も前のことですわ」
みさ「ああ…」
蝶子「先生、国語の先生だから」
みさ「ああ!」
神谷「冬休み、札幌に帰って独歩の本を読んだんです。したら『空知川の岸辺』っていう本にこの滝川や、この周辺のことがいろいろ書いてありましてね」
蝶子「はい」
神谷「滝川からは、北山君や田所君なんか何人も高女に来てるし、ま、一度どういう所か見ておこうかと、はい」
蝶子「はい!」
みさ「で、その、ド、ド…ドッポっていうお方は、どちらの方から、この滝川に?」
神谷「東京です」
みさ「いやいや、東京ね!」
神谷「それが面白いんですよ、お母さん。独歩は北海道に来る前、実は愛人と塩原っちゅう所に逃避行に及んでるんです」
みさ「『愛人』?」
蝶子「『逃避行』?」
神谷「うん、独歩は、その愛人との新天地を見つけるために、一人、塩原から北海道に来たらしいんです」
2人「はあ~」
神谷「したっけ、病弱な独歩には北国の自然は、あまりにも厳しく過酷に映ったようです。ま、2日ぐらいこっちにいて東京に引き揚げたんですわ」
2人「はあ~」
みさ「いや、よくご存じですねえ」
神谷「いやいや…独歩が立ち寄ったっていう華月旅館に行きましてね、そのころの話を聞いたんですよ」
2人「はあ~」
神谷「あ、それに、もう一つ。明治40年には小樽日報社から釧路新聞社に転職する途上の石川啄木が、この滝川を通過してるんですねえ!」
蝶子「啄木が!」
神谷「うん、その時に空知川を見て詠んだ歌があるんだわ」
蝶子「はい!」
神谷「『空知川 雪に埋(うも)れて鳥も見えず 岸辺の林に人ひとりいき』。いい歌でしょう?」
みさ「いや~、ホントに。ねえ、蝶ちゃん」
蝶子「うん」
みさと一緒に啄木の歌を暗唱しだす。
廊下にいた俊道が咳払いをして、入って来て、神谷の向かいに座る。
蝶子「父です」
神谷「空知高女の神谷容と申します」
俊道「北山です」
神谷「今日は突然お邪魔して何とも申し訳なく」
みさが奥へ行き、お茶の準備をし、蝶子もついてきた。
俊道「娘のことで何か?」
神谷「いや。あの…」
みさに促されて戻ってきた蝶子。「違うの」
俊道「しかし、わざわざお越しというのは」
神谷「わざわざと言いますか、私自身の用で」
蝶子「うちには、ついでなの」
神谷「そうなんです」
俊道「2学期の通信簿、拝見いたしました」
神谷「はい」
俊道「成績、下がっておりました」
神谷「ええ」
俊道「先生は通信欄にこの子は『やる気さえ出せば成績は上がる』というようなことを書かれていましたが…」
神谷「はい。蝶子さんは本当はできる子だと思います。ただ、まあ、ちょっと成績が上がると、すぐ安心する癖がありまして。前回下がったものに対しては努力して、よい成績を出すんですが、半面、前回よかったものに対しては安心しすぎて、まあ、手ぇ抜くわけです。それでまあ、成績にムラがあるんです」
俊道「なるほど」
お茶を一気飲みする神谷。みさも戻ってきて、俊道にお茶を出す。
俊道「したけど、よい折りでしたわ。娘のことで先生には、ご迷惑をおかけしてるようでおわび申します」
神谷「迷惑と申しますと?」
俊道「つまり、これの…」
神谷「北山君が何か?」
俊道「校長先生より手紙を頂き、娘の学校においての行状をいろいろ。つまり、スカートを短くしたとか、町なかで焼き芋のたぐいを買い求めたとか」
神谷「校長がそんな手紙をですか?」
俊道「はい。『奔放で行動的だ』と。言葉は柔らかくはありますが」
隣の部屋に引っ込む蝶子。
神谷「気にすることありませんよ」
俊道「したけど…」
神谷「校長の悪いとこです。『行動的』いいことでないですか。『奔放』いいでないですか。『活発』ということ『自由』ということですわ。私は北山君を伸び伸びと育ったいい娘さんだと思います」
俊道「したけど、校長先生は…」
神谷「いや、もちろん人間としての規律を重んじることはい必要です。したけど、校長の言う規律は私には少し違うように思います。教育とは規則で縛ることではないと思います。何にでも興味を抱き、そして、挑戦する。そんなおおらかな精神を見つけ育む場が教育の場でないでしょうか。本来、人間の精神というものは自由です。何者にも束縛されるものでないんです」
俊道「じゃあ、先生は…」
神谷「はい?」
俊道「自分勝手でいいと?」
神谷「いやいやいや。今も申しましたように人としての規律、例えば、思いやりとかいたわりとか人を傷つけないとか裏切らないとか。そういうもんさえ、きちんとあったら、あとは、あれこれ言うことはないんではと…」
俊道「う~ん…」
神谷「スカート短くして、なしていけないんでしょう? 焼き芋、町なかで買って、なしていけないんでしょう?」
このドラマが放送された1987年はバブルで華やかな時代というのもあるけど、一方でメチャクチャ校則が厳しかった時代でもあったんじゃないかな…というおぼろげな記憶。
俊道「先生は、じゃあ、娘が不良と呼ばれてもかまわんとおっしゃいますか?」
神谷「したから私は、そういうことをしても不良だとは思わないんです」
隣の部屋で大きくうなずく蝶子。
俊道「したけど…いや~、したけど、ケジメっちゅうもんが…」
神谷「ケジメって何でしょう?」
俊道「だから、それは…」
神谷は空の湯飲みを持ち、みさに目で合図。「すいません」
俊道「女っちゅうもんは、いずれ家を出ていくもんです」
神谷「はい」
俊道「他人の家に入ります。その家にはその家の家風というものがあります。そんな時、自分の勝手気ままなわがままを押し通しては、嫁として、妻としては立ちゆかないと思いますが」
神谷「うん…お父上は『自由』というものを曲解していらっしゃいます。それに私の方針は家のための教育ではありません。妻となるための教育でも母となるための教育でもなく、この、人間一人一人の精神の豊かさ、これをですね、いかに発見でき、つまり…」
なかなか開けられない茶葉の缶の蓋が開け、声を出してしまった蝶子とみさ。
蝶子「缶が開いちゃったんです…」
神谷「大丈夫かい?」
蝶子「失礼しました!」
みさ「すいません」
神谷「いえいえ」俊道に向き直る。「あ、何か1人でベラベラしゃべり過ぎました。申し訳ありません」
俊道「それと…娘の今後のことですけど」
神谷「私は大丈夫だと思います。音楽の先生も太鼓判押してるぐらいですし、北山君なら音楽の道に進んでも…」
蝶子「先生!」
みさ「あの、音楽っていいますと?」
神谷「音楽の方に進むんでなかった?」
蝶子「はい。あの…」
神谷「今年、卒業して…」両親の顔を見る。「え?」
俊道「音楽っていうと?」
立ち聞きしている道郎。
品子が茶の間に来て「先生」と呼ぶ。
思わず返事しちゃう神谷先生。「はい。いえ、すいません」
俊道「何?」
品子「国枝さんが見えましたけど」
俊道「すぐ行く」部屋を出ていった。
神谷「北山君」
蝶子「音楽のこと、まだ誰にもしゃべってませんでした」
みさ「初めて聞きました」
神谷「ああ…そうですか」
<こんなこともあるよ。チョッちゃん>
俊介と泰輔が笑いながら帰ってきた。
俊介「ただいま!」
泰輔「あ…お客様?」
みさ「おかえり」
蝶子「高女の私の担任の先生」
神谷「神谷です」
蝶子「叔父なんです。東京にいるんですけど、今、こっちに来ていて」
泰輔「叔父です」凧を抱えている。
神谷「いや、お邪魔をしまして…」
泰輔「いえいえ、そんな…」
神谷「叔父さんっていいますと?」
みさ「私の弟で」
泰輔「姉なんです」
神谷「ああ」
泰輔「蝶子がいつも世話に」
神谷「いえ、とんでもありません。うわ、タコ揚げですか?」
泰輔「私、こういうの好きでしてね。子供のころは名人だと言われてました。ね?」
みさ「え?」
泰輔「そうだったんだよ。杉山のタカ坊とか吉松の市ちゃんに、そう言われてたの」
神谷「実は僕もタコ揚げは名人でした」
みさ「あら!」
泰輔「やっぱり! いや、そういう感じしましたよ」
神谷「そうですか?」
泰輔「いかにもタコを揚げるぞっていう、そういう感じしますよ。ね?」
みさ「ええ、ハハハハ」
泰輔「いや~、小学校の時の先生があなたのような先生だったら、俺、学校好きになってたな。勉強も好きになってたな」
神谷「いや…お褒めにあずかりまして」
泰輔「いや、ホントに。ハハハ。義兄(にい)さんは?」
みさ「診察室」
蝶子「先生、お急ぎなんでないかい?」
神谷「いや、したけど…」
みさ「まだ、話、途中だったしょ?」
蝶子「したけど、先生、いつまでもお待たせするわけにいかないべさ」
みさ「ああ、そうだね」
神谷「じゃ、僕が挨拶して」
蝶子「私が見てきます」
泰輔「先生、最近はタコ揚げは?」
神谷「いやいやいや」
蝶子は一旦廊下に出たが、そのまま戻った。「まだ、あれだ。当分、手ぇ離せないみたいだわ」
みさ「あ、そうかい」
蝶子「したから、先生。今日のところは」
神谷「うん、そうだね。じゃあ、僕は」
みさ「あ、どうも、何か…」
玄関
神谷「したら、ご主人には声かけずに失礼しますが」
みさ「はい」
神谷「では、私は」
みさ「どうぞ、お気をつけて」
泰輔「ご苦労さま」
神谷「はい、どうも」玄関の戸を閉め、出ていった。
泰輔「けど、岩見沢の先生がまた何でわざわざ?」
みさ「う~ん」
蝶子「やっぱし私、先生、送ってくるわ!」
雪道を歩く神谷。
蝶子「先生! 送りま~す!」2回もこけながら先生に近づく。
神谷「大丈夫か!」
蝶子「はい、大丈夫です!」
神谷「走るんでない!」
蝶子「はい!」
<何しろチョッちゃんの敬愛してやまない先生だもの>(つづく)
どうでもいいけど、BSだと時刻表示が出ているけど、4Kは出てないことに気づいた。
そういえば、去年再放送していた「茂七の事件簿 ふしぎ草紙」は脚本・金子成人、音楽・坂田晃一って「チョッちゃん」と同じ布陣だったんだね。そして、糸吉役の仁科貴さんは川谷拓三さんの息子。
神谷先生が出てきて、話が面白くなってきた。見た目通りのいい先生!
ん? そういや今回、頼介の名前が出てたけど、出てなかったよね!?

