NHK 1987年7月1日(水)
あらすじ
蝶子(古村比呂)が質屋通いをしていることは、たちまち知人たちの耳に入る。国松連平(春風亭小朝)は要(世良公則)を銀座のカフェに呼び出し、仕事を選んでいる場合なのかと問い詰めるが、要は聞く耳を持たない。だが、野々村泰輔(前田吟)から蝶子が質屋に出入りしていることを教えられ、出産を間近に控えた妊婦に心の不安を強いることは良くないと知った要は、今まで断っていた仕事を引き受けることにする。
2025.6.18 NHKBS録画
脚本:金子成人
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音楽:坂田晃一
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語り:西田敏行
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岩崎蝶子:古村比呂…字幕黄色
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岩崎要:世良公則
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北山みさ:由紀さおり
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国松連平:春風亭小朝
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河本:梅津栄
北山道郎:石田登星
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宮内:藤田啓而
郵便配達:米郁男
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鳳プロ
劇団いろは
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野々村泰輔:前田吟
ラジオ「皆様、おはようございます」
蝶子「おはようございます」
ラジオ「体操を始めます! 最初は…手を腰! 足の運動から、用意、始め! 1、2、3、4、5、6、7、8!」
蝶子がやってるのは、↑これかな?
蝶子「あ、起こした?」
要「ん? いや。動いてていいのか?」
蝶子「ん? 体はね、動かした方がいいんだって」
要「ふ~ん。ごはんは?」
蝶子「ゆうべの残り」
要「うん」
蝶子「仕事は?」
要「ない!」蝶子と並んで一緒にラジオ体操をする。
蝶子「そう」
要「あ、昼ごろね、連平に会う」
蝶子「そう」
要「何か俺に話があるらしいんだ」
蝶子「へえ」
♬~(ラジオ体操)
2人でラジオ体操をする。
カフェ泉
河本が蓄音機をかける。
要「何が言いたい?」
連平「要さんは、のんきすぎるよ。金に無頓着でいいのは一人の時。うちを預かるチョッちゃん、どうしたらいいのよ?」
要「蝶子が何かブーブー言ってるのか?」
連平「言わないよ。そんなこと愚痴るようなチョッちゃんじゃないでしょ? だから、あたしが代わりにね」
要「余計なことだよ」
連平「かもしれないけど」
要「お前がね、うちのことに口を出すことはないんだ」
連平「そうだけど…」
要「そうだよ」
河本をチラ見する連平。「チョッちゃんのこともそうだけど…あたし、要さんに腹立ててんだ」
要「何だい?」
連平「仕事の依頼が来てるのにえり好みしてるってこと」
要「えり好みじゃねえよ」
連平「いや」
要「俺はね…やりたい仕事だけをしたいだけ」
連平「それはね、それは立派にえり好みだよ!」
要「連平、お前、俺に意見するのか!」
連平「先方から仕事の依頼が来てるのに、えり好みするなんて、ぜいたくだよ!」
要「連平!」
連平「あたしはね、仕事がしたくたって仕事がないんだよ、要さん! どうだい、ざまぁ見ろ!」
要「だって、それは、ほら、お前のさ…」
連平「何だい?」
要「いや…」
連平「お言いよ!」
要「何でもない」
連平「あたしのバイオリンのせいだって言いたいんだろ?」
要「忘れろ!」
会話が途切れたのを確認して、河本が要たちの席へ。「岩崎さん。蝶子さん、お元気ですか?」
要「はい、おかげさまで」
河本「あの…甘いものですが蝶子さんに」箱をテーブルの上に置く。
要「これは、すみません」
河本「赤ちゃんが産まれたら店にもまた是非にって」
要「はい」
連平「そういえば、野々村社長も要さんに会いたがってたよ」
岩崎家
シワシワの壱圓札を3枚、テーブルの上に置く道郎。
大正時代から流通していた武内宿禰(たけしうちのすくね/たけうちのすくね/たけのうちのすくね)の一円札。「古事記」や「日本書紀」に登場する伝説の人物。
蝶子「何よ」
道郎「やるよ。使え」
蝶子「兄ちゃん」
道郎「質屋通いしてること知ってるんだわ。叔父さんも叔母さんも知ってる」
蝶子「邦ちゃん、話したのね」
道郎「そんなに困ってるとは知らんかった」
蝶子「なんとかなってるから、いいのよ」
道郎「今は普通の体じゃないんだ。無理するな」
蝶子「うん。お金はいいわよ」
道郎「無理するな!」
蝶子「兄ちゃんだって、あり余ってるわけじゃないでしょ?」
道郎「校正の仕事もしてるし、収入がないわけじゃない。どうしようもない時は、俺は独り者だ、いつでも叔父さんに甘えられる」
蝶子「けど…」
道郎「一旦出したもの引っ込められるか!」
蝶子「要さんに分かったら叱られるもの」
道郎「黙ってりゃいい」
蝶子「お金ないって言ってるのに、あると疑うんじゃない?」
道郎「拾ったと言やいい」
蝶子「その手は一度使ったから」
道郎「そうか」
うなずく蝶子。
道郎「ヘソクリしてたことにしろ」
蝶子「その手があった! ヘソクリか! ありがとう!」
思考が似ている兄妹。なんだかんだ優しい兄だ。
野々村商會
泰明座事務所
要「あ、どうも。野々村さんは?」
宮内「社長!」
泰輔は新聞紙を顔にかけて寝ていた。
要「野々村さん!」
泰輔「おっ、ああ…」
要「どうも。連平から野々村さんが僕に会いたいって言ってらっしゃったって聞いたもんですから」
泰輔「あ、わざわざ?」
要「いえいえ、今まで銀座で連平と会ってまして」
泰輔「ああ、そう。まあ、どうぞ。宮内さん、お茶頼んでいいかな?」
宮内「はい」
要「お構いなく」
泰輔「どうぞ、どうぞ」
要「すいません。で、僕に何か?」
泰輔「エヘヘ、お話があります」
要「はあ」
泰輔「私ね、要さんのうちの事情を知ってまして」
要「はあ」
泰輔「明劇(めいげき)やめたあと仕事らしい仕事やなんかもしてないってことやなんか知ってまして。お金に不自由してるってことなんかも…」
要「あの、それは…」
泰輔「いやいや、チョッちゃんは、そういうこと私どもには、ひと言だって言いやしません」
要「連平ですか?」
泰輔「邦子ちゃんから聞きました。いやいや、チョッちゃん、邦子ちゃんに愚痴を言ったわけではなくて、邦子ちゃん、質屋から出てくるチョッちゃん見て、つまり、この問い詰めたらしいんだな」
要「質屋ですか?」
泰輔「うん。質屋、ご存じなかった?」
要「ええ」
泰輔「邦子ちゃんの話だとね、チョッちゃん、質屋の常連らしいんだな。いや、まあ、要さんの音楽に対する純粋な気持ちってのは、よ~く分かります。気に染まない仕事をしたくないって気持ちもよく分かります。ただ、生活のこともちょっと考えてもらいたいと思いましてねえ」
要「生活ですか?」
泰輔「はい」
要「僕はだけど、生活のためにバイオリンは…」
泰輔「要さん」
要「野々村さん!」
泰輔「まあまあ、聞いてください。聞いてください。チョッちゃん、そろそろ子供が産まれるわけでしょ? 聞くところによると出産を控えた女性ってのは大層、不安になるらしい。そういう大事な時期にチョッちゃん、お金のことで四苦八苦してるっていう。そういうことやなんかは要さん、考えてるのかなと思いましてね。こういう状態で子供が産めるんですかねえ? 栄養不足とか精神がまいってしまって死産だったってこともあるらしい。母親も出産で力を使い果たして死んでしまったっていう話もよく聞く」
要「野々村さん!」
泰輔「いやいや、まあ、これはチョッちゃんがそうだっていうことじゃなくて、世の中には、そういう話がいっぱいあるっていうことを言ってんだ」
うなずく要。席を外す宮内。
泰輔「要さん」
要「はい?」
泰輔「産み月近いチョッちゃん、質屋通いさせて平気ですか? 生活のために仕事はしたくない、我慢しろって言いますか? 要さんの音楽って、そんなに偉いんですか!? 甘えすぎちゃいませんかね?」
河本にもらった箱を持ってアパートに帰った要。玄関の戸は閉まっていた。「蝶子!」鍵を開けて部屋に入り、もう一度「蝶子!」と呼びかける。奥の部屋のタンスを見ると、着物が何着もなくなっていた。
質屋から出た蝶子がそば屋の配達員とすれ違う。昭和あるあるの高く重ねてあるやつ。
蝶子が風呂敷包みを抱えてアパートに戻るった。テーブルの上には箱。「要さん?」
ノックの音
蝶子「はい!」
⚟郵便配達員「岩崎さん、小包です!」
蝶子「はい!」ドアを開ける。「ご苦労さま」
配達員は蝶子をチラ見して、手渡しせず、玄関に荷物を置いた。「それじゃ」
蝶子「はい」
<差出人は父親の俊道さんの名前にはなっていましたが、チョッちゃんは、その字が母親のみささんが書いた字であることは分かっていました>
玄関にはさみを持って来て、その場で開けると手紙とお札が出てきた。
みさの手紙「蝶ちゃん。体の方はどうですか? この前、お父さんに『妊婦の心得』を聞きました。この時期、無理な動き以外は、よく動いた方がいいそうです。出産の時は体力が要るので規則正しい生活をするように。そして、栄養のあるものを食べるように。とり急ぎ」
箱の中身は昆布や魚?
蝶子「うわぁ~!」と喜んで膝立ちになり、おなかをさする。
夜、魚を焼く蝶子。
要「ただいま!」
蝶子「お帰りなさい!」
要「どうしたんだ? おい、火事みたいだなあ」
蝶子「ウフフ」
要「おっ、何だ? これ」
蝶子「滝川からいろんなもの送ってきたの」
要「ほう」
蝶子「久しぶりの大ごちそう! フフッ!」
フッと笑う要。
台所
蝶子「手洗って」
要「うん」
蝶子「あ、そのケーキ何よ」
要「ん? ああ、泉のマスターがね、君にってさ」
蝶子「へえ、じゃ、一度帰ってきたの?」
要「うん」
蝶子「どこ行ってたのよ?」
要「うん、まあね」
蝶子「さあ、食べよう!」
要「よ~し」
魚の乗った皿を運んできた蝶子に手を伸ばす要。「よっ、あ~。はいはい、はいはい」
蝶子「はい、ありがと」皿を渡す。
要「はい。じゃ、いただきます」
蝶子「いただきま~す」
要「はい、ごはん」空の茶碗を差し出す。
蝶子「あれ?」
要「どうしたの?」
蝶子「ごはん炊くの忘れてた」
要「バカ! おっちょこちょい!」
蝶子「すいません」
要「どうしようもないな、全く」
蝶子「送ってきたもの使うことばかり考えてたら…」
<ホントにもうしょうがないんだから>
蝶子「すいません」
要「ハハッ…まあ、食べよう。おい」
蝶子「ん?」
要「…今日な、仕事を2つ引き受けてきた」
蝶子「お金のためなら、よしてくださいね」
要「違う」
蝶子「ホント?」
要「ああ。前から依頼が来ててね、迷ってたやつなんだ。今日、向こうと話し合いをして納得した。ま、弾いてみたいと思ったんだよ」
蝶子「そういう仕事なら…」
要「うん」
蝶子「そうじゃないなら、無理すること、ないんだから。私は何とでもするんだから」
要が蝶子を見る。
蝶子「え?」
要「魚が塩辛い」
蝶子「あ、水ね」
要「いい! 俺の方が速い」立ち上がって台所へ。
蝶子「すいません。あ、私にも、水!」
要「しょうがないな、全く」(つづく)
要に洗脳されて、蝶子まで生活のためにバイオリン弾くことないって考えになってる…いや、夫婦2人だけならまだしも子供より夫を優先してほしくないよ。今は特に。
